倒産実務の低迷と相続財産管理業務の勃興?
盛岡地裁では、毎年10月下旬に「管財人協議会」という名称で県内で活動する多くの弁護士を招集し破産管財人の業務に関する論点などを話し合う場を設けており、私も、平成17年以後、毎年のように参加しています。
ただ、建設系を中心に多くの企業倒産があり裁判所に多くの破産管財事件が係属していた平成20年前後と異なり、震災後は企業倒産が大幅に減少した上、多重債務問題の収束もあって個人の破産申立事件も大幅に減少し、他方で、若手弁護士の激増で受任希望者は増える一方ということで、約5年前と現在とでは「一人あたりの配点件数」は、大きく減っています。
私に関しては、岩手に戻った直後(平成16~17年)は、新参者には配点しないという方針でもあるのか、ほとんど配点がなかったのですが、平成18年にベテランの先生が申し立てた事件で管財人に推薦していただくことが何度かあり、それで一生懸命働いたのが評価されたのかは分かりませんが、平成19年頃から裁判所から直に連絡が来ることが増え、平成22年頃までは10件前後(関連企業や代表者等の同時申立などを個別にカウントすれば、十数件)の配点をいただいていました。
当時、管財人業務の実務上の論点を網羅的に解説した書籍の刊行が相次いだこともあり、机に管財業務の解説書を幾つか並べて、毎日のように様々な論点と格闘しながら処理に追われていたのが懐かしい思い出です。
ところが、震災後は管財事件の受任は極端に減り、現時点では法人管財が1件、個人の管財事件が3件程度という有様になっています。法人の破産申立のご依頼も滅多に無く、企業倒産に関わる機会は、数年前に比べて非常に少なくなってしまいました。
私の認識する限り、仕事上大きなミスをやらかして裁判所から出入り禁止になったということもないはずですし、以前の管財人協議会など他のベテランの先生からも倒産事件の受任の減少を嘆く声を耳にしていますので、若手の激増によるパイの奪い合いという問題のほか、世情言われるように、社会的な倒産減少の影響が、「不幸産業」としての弁護士業界には不景気という形で働いているというほかないのかと思います。
そのせいか、数年前は、配当のあり方を具体的な実務上の論点について盛岡地裁の解釈(取扱方針)を示し参加者の了解を得るようなやりとりもあったのですが、ここ数年は「換価困難な資産に関する工夫例を報告せよ」とか「税務申告のあり方」など、抽象的な議題が出題され、エース級の先生方が一般的なあるべき仕事の仕方を若手向けに説明するといったやりとりはあるものの、それ以上の盛り上がりに欠ける、シャンシャン会議の様相を呈している印象は否めません。
それでも、他の先生方の業務姿勢などを拝聴する貴重な機会でもありますので、今後も参加し続けたいとは思っているのですが、どうせ県内の裁判官と弁護士が多数集まる会合でもありますので、具体的な実務上の問題について、主要文献には書いていない論点の解釈や取り扱い、ノウハウなどの意見交換が盛り上げるための工夫があってもよいのではと感じています。
ところで、下火になる一方の企業倒産とは逆に、最近、関わる機会が増えている業務が幾つかあり、その代表格として、相続財産管理人の仕事を挙げることができます。
相続財産管理人は、相続に関し、法定相続人が存在しない場合や相続人全員が放棄した場合に、相続人に代わって財産管理をするのが業務ですが、多数・多額の債権者がいる事案では、相続財産を換価して相続債権者に配当することが業務の中心になるという意味で、管財事件に類する面があります。
以前には、借金問題を抱えたまま亡くなった方について、管理人に選任され換価配当を行ったことも何度かありましたが、最近では、借金問題がなくとも、法定相続人が存在しないため管理人の選任を要する方や、多額の資産があるのに特殊な事情から家族全員が相続放棄したという例にも接しており、そのような場合には、換価配当とは異なった形で関わることになります。
管財人とは異なり、相続財産管理人に関する業務は、相続人不存在の場合であれ限定承認や遺産管理人の場合であれ、法の整備も実務ノウハウの蓄積や公表等も十分ではないように感じており、いっそ、裁判所の管財人協議会も、それらの業務や成年後見人なども含む、「裁判所が弁護士に委託する財産管理、配当などに関する業務に関する協議会」などと銘打って、それぞれの時代において需要が多く議論が整備されていない業務類型に関する論点などを積極的に取り扱ってもよいのではと考えることもあります。