因果なドン・ファンより最高裁のドンパン節
先月に不審死を遂げた和歌山県田辺市の実業家の方については、他殺が強く疑われる一方で犯人の特定・立件が困難ではとの報道もあり、ワイドショーの格好のネタとして世間の注目を集めています。私は、さほどこのニュースに関心はなく、
紀州のドン・ファンより秋田のドンパン
富豪のカサノバより肴町のモリノバ
美女へのバラマキより花巻バラ園
そして、迷走の年の差婚より名将・島左近
といった感じではありますが、誰が逮捕等されるにせよ、否認事件になる可能性は強いでしょうから、殺害行為と直接に結びつく証拠が見つからず情況証拠のみで立件せざるを得なくなった場合、平成22年の最高裁判決の要件にあてはまる事実(証拠)を突き止めることができるかで結論が決まるのかなと思って眺めています。
この判決は、情況証拠のみで犯人だと認定するためには、「Aが犯人でないとしたら、合理的に説明できない(少なくとも説明が極めて困難な)事実関係が含まれていることを要する」と述べているのですが、否定の否定が肯定の要件という感じで、何度読んでも分かりにくく、混乱しやすい文章だなぁと思ってしまいます。
「Aが犯人だと考えないと説明のつかない事実が含まれていることを要する」と書いてくれた方がよほど分かりやすいと思うのですが、要件的に何がどう違うのでしょうね。
それで結論が決まるような難事件が配点されることがあれば、判決の解説文などを読んで双方の違いを考えたりしなければならないのでしょうが、零細事務所の経営者としては、そんな日が来ないことを願うばかりです。
現在は、ドン氏の愛犬が掘り出されて死因の調査がなされているとのことで、本件で「犬が服薬死と判明し投与者も特定された」場合、殺犬だ→殺犬犯が殺人犯じゃないかと感じる人が益々増えるとは思います。
ただ、それだけでは最高裁判決が示す「決め手の事実」にはならないと評価されそうな気もしますので、検察は色々と事実を積み上げて「Aが犯人でないとしたら合理的に説明できない事実が(総合的に)存在している」と主張することになるのかもしれません。
報道などによれば、ドン氏はこの犬を法定相続人より優先する受益者とする信託契約などをしていたか判明していないとのことですが、本件では、犯人がドン氏の愛犬を先に殺したいと考えるだけの明確な事情であるとか、犯人と被害者の関係破綻などの(明確な)事実がなくとも、何らかの思い込みや衝動などで犯行に突き進んだのでは、というストーリーを、全国の皆さんが推測しているのかもしれません。
私がこの事件にあまり関心を持てないのも、そうした「軽率・短絡の匂い」がプンプンして、被害者を含めた登場人物に、人の心の深淵や善悪の彼岸に迫る深みのある世界を感じ取れないから、という点にあるのかもしれません。
誰が犯人かはともかく、過ぎたるは及ばざるが如しの連鎖という印象の否めない事件であり、子供向けの昔話の素材にでもなりそうな気もしますが、ともあれ、真相究明に向けて、関係者のご尽力を期待したいところです。
余談ながら、某先生によれば、銭形平次シリーズにも、これと似たような話(先に犬が殺されるもの)があるのだそうで、「素人の粗探しより紫波のあらえびす」といったところかもしれません。
(R03.04追記)
急展開の逮捕報道を機に、気の利いたフレーズを追加できればとも思い、以下のものを考えてみましたが、島左近を超えるネタが思いつかず、残念です。事件自体の私の見立ては既出の文章のとおりですので、これに即した事実が今後明らかになるのか、注視したいと思います。
見慣れぬクズより南方熊楠
不審な大豪邸よりgoto家族と安普請
遺骸の覚醒剤より隠せない意外な事実
神棚に飾る妻より神隠しに遭わぬ人生
ともあれ、折角なので、すべて繋げてお笑い芸人の方などが弾き語りソングなどを披露されてもよいのでは・・などと、余計なことを考えてしまいます。