消費税の課税標準の判断を巡る裁判

田舎の町弁をしていると、税務に関する法的紛争(申告等の解釈等を巡る税務署との争いなど)の相談、依頼を受けることはほとんどないと言ってよいのですが、東京時代に重加算税処分を争う訴訟を手掛けたこともあり、判例雑誌の勉強くらいはやっておこうということで、多少は勉強するようにしています。

といっても、判例時報などで時折取り上げられる「海外のタックスヘイブンを絡めた巨額の節税対策を巡る紛争(所得税法絡み)」は、田舎の町弁に縁のある紛争とはとても思えず、真面目に読んで勉強するのは、我が業界が対象となった「破産管財人の源泉徴収義務」に関する最高裁の判例など、一部に留まっているのが実情です。

この点、判例地方自治(雑誌)では、固定資産税の評価などを巡る訴訟が多く取り上げられているのですが、消費税は滅多に出番がないと思っていたところ、平成18年に、課税標準(消費税の算定の基礎となる課税資産の譲渡等の対価の額=対価として収受する(すべき)経済的利益の額)の算定を巡る裁判例があったのを見つけました。

具体的には、静岡県川根町の第三セクターが経営する温泉運営企業が、平成12~15年に、入湯客数や入湯税の対象者数を毎日集計し、営業日報に記載する方法で入湯税額を毎日算出して町に申告納税することにより、消費税は課税標準額に入湯税相当額を含めずに税務署に申告していた件で、税務署長が、当該申告方法(消費税の課税標準額からの除外)を認めずに更正・過少申告加算税賦課処分をしたため、企業側が処分取消請求をしたところ認容された例です。(東京地判H18.10.27判タ1264-195

裁判所は、上記の経理作業のほか、顧客への周知などから取引価額と入湯税を区別していたとして、入湯税部分が課税標準額の対象外となることを認めています。

ところで、このような「消費税と他の税金の二重課税」の問題は、温泉税に限らず、酒税など幾つかの商品・サービスで問題になりうるのではないかと思い、そうした紛争や制度上の手当の有無はどうなっているのかと少しだけ検索してみました。

すると、ある税理士さんのサイトで、「たばこ税・酒税等はメーカーが納税義務者となって負担する税金で、その販売価額の一部を構成しているので消費税の課税標準に含まれる。軽油引取税、ゴルフ場利用税、入湯税等は利用者(消費者)が負担する税金なので、原則として消費税の課税標準から除外される」とあり、そうであれば、残念ながら街の酒屋さんなどが、上記の温泉企業のような工夫をして消費税を節税することは難しい(他方、ゴルフ場などは、工夫次第で可能であり、税務署の処分を争うこともありうる)ということになるのかもしれません(もちろん、両者を区別することについての制度論としての当否の問題はかなりあるとは思いますが)。

ところで、上記の裁判例を手掛けたのは我が国の税務訴訟の第一人者と目されている鳥飼重和先生の事務所で、判決文の代理人一覧には面識のある方も含まれているのですが、税務訴訟のすべてが「第一人者が担うべき、多様で総合的な税法の知識、理解を要する訴訟」であるわけではなく、中には、事実認定が主たる争点であるとか、法律論としてはさほど複雑ではない案件もありますので、訴訟外の交渉なども含め、田舎の町弁にもお役に立てる機会をもっと持てればと思っています。