田舎の町弁のリンカーン物語

弁護士時代のリンカーンの有名な逸話で、「敵対証人が、その日は月夜の晩で犯人の顔がよく見えたと主張したのに対し、その日は実際は曇りで月が見えなかったと述べて、その証言は信用できないと弾劾した」という物語は、多くの方がご存知だと思います。

この種の「気象ネタによる絵に描いたような弾劾」は、滅多にあるものではありませんが、先日、それに類する経験をする機会に恵まれました。

ある交通事故の事件で、過失割合(の評価の前提となる事故態様)に関し、当事者間に大きな争いがあり、当方が当日の路面状況などを主張したところ、相手方から、それとは全く異なる事実の主張がありました。

少し具体的に述べると、相手方は「前日からの悪天候で路面に積雪が多く、凍結もあり、雪のせいで道幅が非常に狭かった」と主張してきました。

これに対し、当方(依頼主)は「前夜を含め当日に降雪はなく、路面に積雪はなく、かなり前の雪に基づく除雪の山で道路脇に積雪があるものの、道幅を狭めるほどではなかった」と主張していました。

その事故では、実況見分調書が作成されておらず当日の現場写真もないなど、事故当日の路面状況を正しく記載した記録がありませんでした。

そのため、どうしようかと考えあぐねていたのですが、気象庁のHPを調べたところ、自治体ごとの気象情報が詳細に乗っており、それを見る限りでは、当方依頼主の言い分に即した気象経過であることが判明しました。

そこで、それらの資料をDLして提出したところ、裁判官から、路面状況については当方の主張どおりとする旨の心証が示されました。

過失割合については、事故態様を巡る他の論点や全体の評価などから、必ずしも当方の勝利というわけではなかったものの、言い分を尽くした上で相応の和解案が示されたため、依頼主もやむなしということで、和解成立で終了しました。

新人時代、弁護士会で配布された模擬裁判の資料にも、この種の「気象ネタによる反対尋問」のシナリオが付されていましたが、そのシナリオでは、当日の気象状態については弁護士法23条照会で気象庁に確認したという設定になっていました。それに比べると、インターネットでこの種の情報が無償・容易に入手できるようになったという点で、時代の流れを感じさせるものがあります。

ともあれ、気象ネタに限らず、事実関係を巡って当事者双方の主張事実が相反した場合には、各人の主張を基礎付ける証拠の有無や内容を丹念に検討、調査する作業が必要であることは間違いありません。

鮮やかに弾劾できることは滅多にありませんが、確たる根拠のない相手方の主張に一定の疑問符を付す程度なら、知恵と努力次第で一定の成果を挙げることは珍しくありませんので、今後も研鑽に努めていきたいと思います。