ここ1、2年に読んだ本③~様々な法分野・実務など~
前回の投稿に引き続くプチ書評シリーズの第3回です。
【税務・税法系】
盛岡市内の税理士の方が、平成27年1月からの相続税法の改正を踏まえて、生前贈与など相続税の節税対策や生命保険による相続税確保、さらには遺言など紛争予防策も含め、税理士さんの立場で相続について留意すべき基本的な事柄を幅広く取り上げ、分かりやすく説明した一冊です。
著者の楢山先生とは面識がありませんが、市内でも規模の大きい税理士事務所を経営されているほか、ロータリークラブのガバナー(1年交代で任命される岩手・宮城地区の各クラブの責任者)を経験されていることなどから、ご挨拶できる機会があればと思っています。
本書については、税理士の方が従事されている分野、事柄については、様々な制度や論点などが取り上げられていると感じる反面、審判や訴訟などを見据えた様々な紛争予防や紛争対策などの問題、言い換えれば、弁護士が取り扱う領域に関する制度や論点については、あまり触れられていないとも思いました。
そんなわけで、もし、先生が改訂版を執筆される際には、ぜひ共著のお声を掛けていただければと、安直な期待を抱かずにはいられないところですが、自分の研鑽を深めるのが先だとお叱りを受けてしまいそうです。
もと国税調査官の方(女性の第1期生だそうです)の著作で、税務署や調査官が調査対象(事業者など)をどのように定め、事前調査を行うか、面談の際にはどのようなことに関心をもって質問しているか、さらには、もと調査官の視点での税理士(OBと試験組)の見方(付き合い方)などが述べられています。
不正な行為、やましい営みに対する基本的な調査の仕方を勉強する(特に、カネの流れの調査という観点から)ことはもちろん、事実関係の調査や立証に関する資料収集など弁護士業務への応用という点でも、大いに参考になる本だと思います。
と同時に、徴税部門の現場の方々が公平の旗印のもと必死の思いで集めてきた税金が、非常に残念な形で浪費されることがあるという現実もあるわけで、それだけに、税金の使われ方や使用に関する意思決定のプロセスについて、国民の関心、関与を含む改善の必要性を感じずにはいられません。
それこそが、この本の隠れたメッセージではないかと感じています。
【環境法・環境保護実務など】
国際影響評価学会の会長などを歴任され、アセスの実務では恐らく我が国の第一人者と思われる工学系の先生による著作で、アセスの意義や歴史、今後の制度のあるべき姿について、詳細に述べられています。
「アセスのあるべき姿」については、対象・規模の拡大(幅広い事業での簡易アセスの早期実施)などの喫緊の課題のほか、科学技術的な観点からの自然や住居環境などへの影響(環境基準の適合性の調査に代表されるような、工学系の専門家の仕事)だけでなく、対象地域の文化、社会、歴史の過去・現在・将来のあるべき姿など(文系の専門家の仕事)も視野に入れた分析や提言、反映がアセスを通じて行われるべきとの主張が強く述べられており、大いに共感できるものとなっています。
アセスの本質はコミュニケーション(ひいては、その前提として、対象事業が行われる地域やそれを前提とした社会全体のあるべき姿について、個々が思索を深めるべきこと)という原則論の大切さを感じさせてくれる一冊で、岩手で問題となっているILCをはじめ、大規模事業と何らかの形で関わりを持つことを余儀なくされる方など、環境アセスメントについて勉強したいと考える方は、読んでおくべき一冊だと思います。