ご近所の「倒壊寸前で飛散リスクのある危険な家」への現行法での対処と法整備の必要性
先日、モーニングショーで「八王子駅前にある、倒壊寸前で飛散危険が濃厚なのに頑なな高齢?姉妹が居住し悪臭被害などを生じさせている家」を特集しており、空き家ではないので現行法では対処が困難だ、近隣住民への迷惑行為を理由に逮捕しても解決にはならないよね、とまとめていました。
https://www.j-cast.com/tv/2021/03/23407797.html?p=all
理屈の上では、現行法でも、社会通念上、通常ありうる程度の風水害(数年に1回程度の台風とか?)で建物が飛散し我が家に突き刺さる(人に当たる)程度の危険があることを立証できれば、その危険に晒される方(近隣住民)は、物権的妨害予防請求権等を根拠に、その危険を除去するため必要相当な工事(撤去も?)を民事訴訟で求めることは可能なはずです。
具体的な立証手段としては、上記内容を説明した建築ないし風水害の専門家の意見書などということになるのではと思います(具体的に見たことがあるわけではないので、抽象的な説明でご容赦ください)。
ただ、そのような前例があるかと言われると、ちょっと聞いたことはなく、この種の一般条項の適用に関する訴訟となると、世間の強力な後押しなどがないと裁判所が非常に慎重な姿勢を示すことも、容易に予想されるところです(この事案でも、弁護士に相談し同種の説明を受けた方が現におられるかもしれません)。
その上で、常識的に見て、そのような高度な負担を近隣住民(たまたま近くに居住等しているに過ぎない人)に強いることが適切とは思われませんし、駅前の歩行者など膨大な利害関係者がいるのですから、行政が動くべき事案であることも、誰もが感じるところではと思われます。
結論として、建築基準法などを改正し、「通常の風水害でも倒壊・飛散などの危険がある水準の構築物(一定程度以上の安全性すら満たさない構築物)は、自治体が支障除去の改善・措置命令を下すことができ、それに従わない場合は代執行も可」という法律(具体的な基準は構築物の内容・性状等に応じた専門家の適切な知見に基づく)を作る必要があると思われます。
番組で取り上げられた八王子の事案は時価7000万円相当の土地とのことで(事案の内容からも恐らく無担保でしょう)、それだけの価値があれば代執行費用を担保とした仮差押など?を通じて費用回収は容易でしょうし、売得金などで費用を回収することを前提に、本人に一定の補償を行い、行政が物件自体を収用することも検討されてよいかもしれません。
条例で定めてもよいのではと思われますが、憲法訴訟を覚悟の上での制定となるでしょう。
ともあれ、この種の報道をご覧になる方は、「話し合いで解決すべき問題」で終わらせるのではなく、「立法の不備」の問題と理解いただき、話し合いでの解決を促すためにも武器としての適切な法律が設けられるべきだ、と政治家その他の方々に働きかけていただければと思っています。
私は現在、盛岡市内にある数十年放置された「台風で飛散等の危険のあるバラック(の敷地)」を相続で取得した方の依頼で、そのバラックを法律上の理由なく占有し延々放置している方(先方は、被相続人からの贈与や時効を主張)に明渡請求訴訟を行っており、先般、概ね認容の判決を受けたものの、先方が控訴したため、第二ラウンドに移行したという案件を扱っています。
依頼主は周辺への被害防止のためにも勝訴後は直ちに撤去等を実施したいと希望しており、そのためにも迅速な解決を目指して闘っているところです。
震災の際にも、津波ではなく内陸(一関など)で「隣の壁が倒壊するなどして被害を受けた」と何度か相談を受けたことがあるほか、雪国では「隣の雪で被害を受けた」云々の相談を受けることが頻繁にあります。
これらも基本的に上記と同じ問題と理解しており、すべて法律等を適切に整備すれば大幅に改善できることだ(反面、その整備がなされていない現状では、弁護士の力だけで希望を実現するのは困難)と感じています。
関係者及び国民全体の奮起と現代の感覚に即した公私の調整を行う土地法制の再構築の議論が盛んになることを願うばかりです。