オレオレ宴会の受益者たちの責任の取り方とその先にある被害救済と予防の道
先月、吉本興業に所属する芸人の方々が、特殊詐欺(振り込め詐欺・オレオレ詐欺)により違法に巨利を得ていた集団(反社会的勢力)の宴会に参加していた問題が発覚し、ご本人達が無期限謹慎に追い込まれるなど、今も社会問題として盛んに報道されています。
先日も、報酬を得た方々が、修正申告(による納税)を行うと共に、受益額を超える額について消費者被害の救済を行っている団体に寄付を行ったという趣旨の報道がなされていました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190713-00000350-oric-ent
ただ、この事件を巡る報道によれば、芸人さん達の関わりが発覚する以前に詐欺集団(犯行グループ)の摘発がなされたとのことですので、犯人らにより現に詐欺被害に遭った方々も、全員とまでは言えないにせよ、相当の人数が特定できていると思われます。
ですので、原資がどこから来たのかという観点(被害者救済)からすれば、彼ら(芸人さん)達が得た利益を道義的見地などにより放出するというのであれば、その放出先は、当該事件の被害者への支給を目的とした基金に組み入れて、被害弁償(配当)の原資とするのが最も望ましいはずです。
この点、仮に、本件詐欺集団が摘発された際、連中が稼いでいた収益(犯罪収益)として相応の金額の差押ができていれば、その金額(現預金など)について摘発時の権利者(犯罪集団の関係者)の形式的な権利を剥奪し、警察等が被害者らに債権届を申し出るよう促した後、預金保険機構を通じて配当を実施するという制度(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配の支払等に関する法律。通称・振り込め詐欺等救済法)に基づき、被害者らへの分配(配当原資の限度での被害回復)が可能になっています。
ですので、もし本件でその手続がなされているのであれば、芸人さん達は、その手続に基づく配当原資(基金的なもの)にこそ寄付して自身が受益した事件の被害者の救済こそ実現すべきだと思いますし、そうした形で被害回復に貢献するのであれば、延々と強い非難を向け続けるのも酷ではないか(関与への非難はさておき、けじめをつけたものとして所属企業=供給サイドからの活動再開を認めた上で、今後の出演や人気等の持続可能性はご本人の今後の活動の内容も踏まえたTV局その他の利用者サイドや社会の評価に委ねるべき)と思われます。
本件を巡る報道では、この点(犯行グループの摘発時に犯罪収益の凍結などがされ被害回復の手続が図られているのか等)についての報道がなく、そこは残念に感じています。
なお、私の知る限り、現行の被害回復分配金の制度は、摘発時に犯罪収益の確保(差押)ができた場合にのみ運用されているかもしれないのですが、本件のように、犯人から何らかの形で受益した者が、その利益を放棄し分配金の原資として提供することが認められて良いはずで、仮に、その点について制度の不備があるのであれば、早急に改めていただきたいところです。
また、この事件では被害者への分配金に用いるのが困難だという事情があるのなら、同種又は各種の犯罪被害について被害回復が困難な状況にある方を対象に一定の被害填補(給付)を行うことを目的とした基金を設けて、その基金に寄付し、最終的に本件又は同種事件の被害者の救済につなげるというのが、望ましいことだと思われます。
なお、そのような形で受領額(売上)をすべて放棄するのであれば、税務上も課税しないなどの措置が必要と言うべきでしょう。
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その上で、さらに「その先の話」として、以下のことも考えていただきたいところです。
今回は、社会内でも一定の影響力がある著名なお笑い芸人の方が、オレオレ宴会に参加し報酬を受け取るなどの事情を理由に、犯罪集団に便宜を図ったものとして強い非難を向けられ報酬も吐き出す(寄付する)ことを余儀なくされたわけですが、このように「違法に収益を得た経済犯罪の犯人が、違法収益を原資として、本来であれば利用できない経済的便益(商品購入、サービス利用)をするケース」は幾らでもあるわけで、今回の件にしても、犯行グループが宴会場として利用した会場(ホテル?)は会場費や飲食費などの収益を得ているはずです。
言い換えれば「犯罪者と何らかの商取引を行い、違法収益を原資として受益した」という点では、今回の芸人さん達だけが、他の取引先企業などと比べて特に異常なことをしたわけではありません。
敢えて違いがあるとすれば、今回の方々は頻繁にテレビ(公共電波)に出演するなどして一定の社会的影響力がある(それに先立ち犯罪などに無縁な存在として自身をプロデュースしてきた)という点になるのでしょうが、今回の件で彼らを非難する根拠を「犯罪者の違法収益から受益したこと」と捉えるのであれば、TV出演などしている有名人であるかどうかは本質的なことではないと言えます。
その点では、芸人さん達にこれだけバッシング報道が出るのであれば、本件で会場を提供したホテルにも抗議電話などが殺到してもおかしくないのではと思いますが、そのような報道を聞いたことがありません。
また、その会場(運営企業)が社会的に非難されて営業自粛を余儀なくされたとか、売上などを寄付したなどという話も聞きません(ネットで検索すると、会場だと名指しされる著名ホテルが出てきますが、そのホテルにそのような話が出ているなどという報道を聞きません)。
言うまでもなく、会場を提供したホテルも、社会的責任(CSR)の担い手という点では「お笑い芸人さん」達と異なるところはなく、芸人さんばかりが攻撃されてホテルなどは何のお咎めもなしというのは、かなりの違和感があるというか、恣意的なリンチのような気持ち悪さがあります(もちろん、会場となったホテルを大衆が攻撃せよと言いたいわけではありませんが)。
また、一般論として、この種の詐欺事件の犯人集団の構成員が自身が得た利益(犯罪収益による報酬)で過大な浪費をしたりギャンブルなどに明け暮れるという話は、この仕事をしていると相応に聞きますし、報道でも時々目にするのではと思います(悪銭身につかずを地で行くような光景と言えます)。
しかし、それらの浪費先(支出先)に対し、犯罪収益により不当に受益しているのだから受益額を吐き出して被害弁償に向けるべき、などという議論(立法提案)がなされているのを聞いたことがありません。
とりわけギャンブルに関しては、犯罪収益であれ借金の類であれ問題のある原資を用いる人が相当数いたり、ギャンブルの失敗で周囲に迷惑をかける人も珍しくないと言われているのに、元締め(運営企業)が獲得した利益を被害者救済に用いるなどという話がどこからも出てこないのは、残念なことだと思っています。
ですので、芸人さん達に限ることなく、会場(ホテル)であれギャンブル等であれ、犯罪行為(とりわけ組織犯罪)に基づく収益を原資としてサービス等の提供を行った者(企業)は、拠出者(購入者、サービス利用者)が犯罪収益を原資とすることに故意過失がある場合はもちろん、無過失であっても、受益(売上など)の程度が特に著しい(過大だ)と認められる場合には、一定の限度で収益を剥奪し被害弁償の原資(配当基金)とすることができる制度を設けるべきではないかと、昔から思っています。
もとより、その「債権回収と配当」の主たる担い手となるべきは弁護士ですが、制度を整備して争いの余地を少なくしたり捜査機関が適切な協力をすることで弁護士の労力を軽減し、その代わり、さほど苦労しない事案では報酬も抑えて被害弁償の原資の極大化を図る、といった工夫がなされるべきだと思います。
そして、企業側(サービスの供給者)が「この人に便宜を図ると、後で収益を剥奪されるかもしれないから、申出には応じない(違法に贅沢はさせない)」との毅然とした対応をとることができれば、最終的には「悪いことをしても割に合わない」という形で犯罪予防につながる面も出てくるのではと思われます。
そうした取組がなく「有名人叩き」ばかりが目に付く光景は、被害者保護が主眼ではなく「バッシング(石投げ)のネタが見つかった有名人を攻撃し溜飲を下げたいだけ」という世間の嫉妬の構造らしきものが見え隠れして、残念に感じてしまいます。
単なる有名人叩きで終わるのではなく、被害者救済であれ受益者の責任であれ予防的なことであれ、真に取り組むべきことに繋げる姿勢が、もっと社会内に醸成されてくれればと願うほかありません。
いっそ、「オレオレ集団を騙して巨額の金銭を一味から奪い取り、それを被害者救済原資として提供する凄腕芸人」でも出現してくれればと思わないでもありませんが、それこそ有名人まかせの浅ましい考えということになりそうです。