ハラスメントに関する法対策と5W1Hとバランス感覚

先日、労働上のハラスメントに関する法的問題を対象とする東北弁連主催の講習会があり、勉強のため参加してきました。

私は労働紛争を多く受任するタイプ(いわゆる労働事件専門)の弁護士ではありませんが、パワハラ絡みのトラブルを理由とする賠償等の問題について、労働者、使用者それぞれの立場で相談や労働審判の依頼などを受けたことがあるなど、多少は手掛けています。基礎的な勉強はしているつもりですが、ハラスメント問題に限らず、労働事件は今後も多く手がけていきたい類型であり、知見を深めることができればと考え参加した次第です。

講習会は、ハラスメント問題では東北の第一人者とされる仙台の先生の講義がメインとなっており、ここで詳細は述べませんが、例えば、セクハラ事案は、密室で行為や言動がなされるため、行為の事実の存否が争われることが多いのに対し、パワハラ事案は、ほとんどの行為や言動は衆人環視の職場内で行われ、他の従業員等の放置を含めた様々な事実の総合的評価が問題となるので、個々の周辺的事実の存否はあまり争われない(評価ないしそれを基礎付ける決定的な事実などが争われやすい)などという説明がありました。

また、その上で、パワハラを理由とする賠償訴訟で、裁判所が、事実の総合評価という手法に安易に頼らずに、個々の事実に関し賠償請求を基礎付ける違法有責な行為があったかを細かく審理した例があるとの説明もありました。

そのことを聞いて、パワハラ問題は、岩手に戻ったばかりの10年近く前に2回ほど手がけた先物取引被害の賠償問題に、似た面があるのかもしれないと思いました。

先物取引被害は、要するに、先物取引という特殊な取引に対する高度な知見又は独自の勘がなければおよそ手がけることができない、ハイリスク・ハイリターンな取引を手がけるのに相応しくない方(その種の経験のない定年後の高齢者など)が、先物会社の従業員の勧誘に安易に応じて多額の証拠金を預けることから始まり、最初は多少の利益が出たりするのですが、程なく、支払済みの証拠金では補填できない額の損失(いわゆる「追い証」状態)が生じ、損を取り返そうとして、担当者が進めるがまま延々かつ頻繁に取引を繰り返し、半年~1年ほどで巨額の損失が生じて終了となるというパターンを取ることが多いとされています(私が関わった事案は、必ずこのパターンでした)。

このような経過のため、個々の行為(勧誘、契約時の説明、証拠金の授受、個別の先物取引(買建、売建や決済)の勧奨、追い証発生時の説明など)については、それ自体のみをもって裁判所が不法行為性を認定させるのが容易でなく、勧誘から取引終了時までの様々な事実経過を詳細に説明し、被害者の取引適性のなさや取引内容の異常性(過度に取引を繰り返し、顧客の損失が増大する一方で、先物会社の手数料収入ばかりが増えていることなど)を説明し、総合的に見て顧客の犠牲のもとで先物会社の利益を図っている不法行為であると評価すべきだと主張するのが通例で、そのような判断をする例も多くあります。

ただ、私が手がけた訴訟では、主張等を尽くした後で行われた和解協議の中で、裁判官から「個々の建玉の取引について、その取引自体の不法行為性を主張立証できなければ、賠償責任ないし賠償額の判断が厳しくなるかもしれない」と言われたことがあり、文献や多数の裁判例の考え方と違うじゃないかと驚き、対処に悩んだことがあります。

幸い?その件では事案に照らし相場の範囲と言える和解金の提示(回答)が先物会社側からなされたので、ご本人が了解し和解で終了となりましたが、裁判官が求める観点から主張を構成するためには、どのように取引を分析したり個々の取引の経過等を調査すべきか、参考となる裁判例等がほとんど見つからなかった上、依頼主が高齢者であるなど細かい事実の確認が困難と思われる方であったため、悩んだことをよく覚えています。

ともあれ、不法行為責任をどのような法的構成で認めうるかという問題は措くとしても、先物のようなハイリスク取引のトラブルであれパワハラであれ、長期間の様々な行為(人間関係等)に起因する問題、出来事の総合的な違法評価を理由とする賠償請求をするには、違法の評価に結びつく要素にあたる事情について、事実関係(いわば、5W1H)を詳細に主張立証しなければなりませんので、その種の問題を弁護士に相談なさる際には、ぜひ、時系列表を作成するなどして、事実関係の適切な整理と把握を通じ、第三者(弁護士)への適切な伝達ができるよう、賢明な準備をお願いしたいところです。

ところで、セクハラは話になりませんが、パワハラ紛争については、「労働者の適切な権利行使を妨害する言動」の類は話にならないものの、労働者が、その企業が想定している基本的な業務を適切に遂行することができない状態が続く場合に、指導・叱責が昂じて過激な言動に及ぶという例も見られるところで、このようなケース(相性的なものも含め)では、人材のミスマッチという面が否めず、使用者(上司)側を一方的に悪者にすることもできない例も見られるのだと思います(中には、労働者=部下の側に不誠実な行動が見られる例もあるでしょう)。

そのような例では、組合せの不幸(端的に言えば、離婚のように、離れた方がよい)の問題があり、相応の規模の職場であれば、配転等により解決すべきでしょうが、小規模な職場であれば、なるべく小康状態(引き延ばし?)を図りつつも、いずれはどちらかの離職等を視野に入れた解決を考えざるを得ないと思われます。

そうした意味では、(殊更に経済界が推進する解雇規制緩和に賛同するものではありませんが)健全な意味で、ミスマッチを克服し難い職場があれば、自分に合う企業を求めて短期間で適切な転職ができるよう、失業率が低く人材流動性(意識面を含む)の高い社会の構築(個人の起業促進なども含め)も求められているのではないかと思います。

余談ながら、レジュメで「ハラスメント判例一覧」が添付されていましたが、私が判例雑誌をもとに作成している判例データベースに入力したセクハラ等に関する裁判例(セクハラ被害に関する企業の調査内容(被害者の申告)の信用性を認め、加害従業員からの解雇無効請求を棄却し、さらに不当訴訟を理由とする企業から加害従業員への賠償請求も認容した例など)が挙げられていなかったので、その点は少し残念というか、「これも追加して下さい」と余計なことを言いたくなる衝動にかられました。