不在者財産管理人に関する予想外の展開と顛末
昨年、不動産の相続手続が数十年も滞った結果、当事者(相続人)が多数生じた状態で処理を余儀なくされた相続事件(遺産分割)で、当事者の中に所在不明の方がいるため、やむなく不在者財産管理人(民法25条)の申立を行ったことがありました。
そもそも、遺産分割は、相続分の譲渡等の方法で相続権を喪失(遺産分割の手続から離脱)した方を除き、法定相続人の全員が手続に参加しなければ、調停や審判を行うことができないため、所在不明の方がいれば、裁判所が、その方に代わって相続人としての権利行使等を担当する者(財産管理人)を選任して遺産分割を行うべきこととされています。
その事件では、対象不在者たるA氏の住所地(住民票で表示された場所)に手紙を送付しても一向に届かず、A氏のご家族に事情聴取しても所在不明との回答しか得られなかったため、当方が受任している遺産分割を行うために必要な限度で管理人を選任していただきたいという趣旨で、当方から申立を行ったものです。
すると、申立後、かなりしばらくして申立先の裁判所から「A氏が、法務省に照会したところ、法務省の管轄する施設に収容されていることが分かった。所在が判明したので不在者とは言えないから取り下げて欲しい」との連絡がありました。
もちろん、初耳の話でしたが、裁判所の調査である以上、やむを得ず申立は取り下げ、収容先を送達場所として遺産分割の調停を申し立て、最終的に、調停に代わる審判(家事事件手続法284条)により、A氏の出頭等を要しない形で審判を終えることができました。
なお、調停に代わる審判の形となったのは、膨大な数の相続人が生じていた関係で、A氏の具体的な相続権(評価額)もごく僅かなものであったことが影響しており(また、裁判所も審判前にA氏に手紙を送付しています)、施設収容者であれば常にそのような形になるとは言えませんので、その点はご留意下さい。
ところで、不在者財産管理人の選任の申立は、申立書の起案や添付資料の準備のほか、候補者の選定や報酬等を巡る調整、交渉など、色々と煩瑣な作業を伴いますので、無駄骨を折らされた身としては、正直、申立前に何らかの形で簡易に調査、照会できるシステムがあればと思わずにはいられませんでしたが、センシティブ情報という性質上、なかなか難しいだろうと思います。
もちろん、A氏のご家族がそのことを教えていただければ、弁護士法23条照会の利用もあり得たのだろうと思いますが、ご家族もご存知なかったのか、本当は知っていて教えていただけなかったのか、その点は今も分かりません。
ともあれ、「遺産分割が数十年も遅延し、多数の相続人(当初の相続人からの数次相続人)が生じるケース」では、関係者の方からご協力が得られず苦慮する場合のほか、関係者に様々な特異な事情があることが判明し、それに応じた特別な対応を余儀なくされることがあります。
そうした場合には、狭義の相続法とは別に、法律家としての総合的な実力を試されているような気持ちにさせられ、しんどさもありますが、ある意味、町弁としてのやり甲斐や面白さを感じることも多いように思われます。