公務員が危険な作業を民間人に代行させた際に生じた事故と責任
北海道のある牧場に国が設置した施設内で生じた民間人の死亡事故で、担当公務員の事故防止措置義務違反を理由とする遺族からの国家賠償請求が認められた例について若干勉強しました。
具体的には、AB夫妻が経営している帯広地方の甲牧場内に国が設置・管理した「肥培かんがい施設」(牛などの家畜糞尿の処理施設)を管理を担当する国の機関の職員Cが施設の状況の調査中に、施設の一部である糞尿の貯留槽の蓋を誤って落下させてしまったところ、AB夫妻がCに対し、後日回収しておくと申し出たため、CもABに委ねました。そして、ABが貯留槽内で回収作業をしていた際、急性硫化水素中毒と見られる症状が生じて死亡するという事故が生じたものです。
そこで、夫妻の遺族Xが「CにはABに蓋の回収を委ねる際に、作業の危険性を警告する等の事故防止措置を講ずべき義務の違反などがあった」と主張して国に賠償請求したところ、裁判所(釧路地裁帯広支判H26.4.21判時2234-87)は、Xの主張(担当職員の義務違反)を認め、国に数千万円の賠償を命じています(但し、AB夫妻にも4割の過失があったと認定)。
そもそも、公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失により違法に他人に損害を加えたときは、国又は地方公共団体が賠償責任を負います(国家賠償法1条1項)。
国賠請求を巡る紛争は公務の種類や態様に応じて多岐に亘りますが、「公務員が自ら行うべき作業を申出により民間人に委ねた際に事故が発生した場合に、作業に内在する危険性を警告しなかったことを理由に被害者が賠償請求した例」というのは滅多に聞いたことがなく、同様の性質を持つ事故の賠償問題を考える際に、参考になると思われます。
また、「業務として危険な作業に従事する者が、その作業の一部を好意で代替を申し出た他者に委ねた際に、その者への説明不足に起因して死傷の結果が生する例」というのは、民間企業などでも十分ありうることでしょうから、そうした事故の賠償責任を検討する際にも参考価値があると思われます。
裏を返せば、公務員に限らず、危険性を伴う作業に従事する方が、業務の際に関係者と接する際における事故防止のための措置(接する者への説明等)のあり方という点でも参考になると思われ、研修のための素材として活用できる裁判例というべきかもしれません。