参院岩手補欠選挙を巡る報道への疑問と漂流する無党派層

連休を潰した起案がようやく一段落ついたので、1週間溜まった岩手日報に目を通したのですが、選挙報道に関し、これでいいのだろうか?と強く疑問を感じた点があります。

衆院選=総選挙については、開票翌日(先週月曜)の裏一面の見開きで、ほぼ全政党のご本人又は事務所の写真を大々的に掲載し各関係者の弁が取り上げられています。

が、同日に実施された参院選については、当選者たる木戸口英司氏の写真と記事のみが掲載され、落選した他の候補の方々の記事(ご本人コメントや写真、事務所の様子その他)が一切取り上げられていません。

翌日(火曜)の記事には、投票結果や若干の続報(5万弱の無効票記事)が載っていましたが、落選者の記事が一切無かったのは同様でした。

もちろん、紙幅の都合云々は理解するところではありますが、参院の投票結果は、木戸口氏33万5000票弱に対し、無所属の田中亜弓氏が11万票弱、参政党の吉田利也氏も5万票弱を取っています。
岩手県選挙区 – Wikipedia

これに対し、岩手1区に立候補した吉田恭子氏(共産)は、1万5000票しか得ていないのに、写真付きの敗戦の弁が(他の候補より狭いとはいえ)掲載されています。

選挙区(対象人口)の違いを考慮するにせよ、最低でも田中氏、できれば吉田利也氏も、敗戦の弁を(写真は要らないので)掲載しないと記事として不公平というか、これら御仁に投票した多数の県民を蔑ろにするものでは?と感じてしまうのです。

さすがに、日報の担当者が自身の支持政党に偏った紙面作りをしたわけではないのでしょうが、少なくとも「既存政党に偏重した紙面作り≒無党派層を軽んじた記事」になってしまっているのではとの印象は否めません。

***

この点、田中亜弓氏の11万票(得票率21.65%)という得票は、同氏が自公の公認はおろか、およそ自公関係者の支援を得ていたわけでもないであろう(報道や同氏サイトを見る限り)ことを踏まえれば、ある意味、異様とも言える得票率です(ご本人の来歴等に照らしても、失礼ながら?自公などの組織的支援が得られるとは思えません)。

過去の参院選では、都会からやってきた自民系落下傘候補が何人か出馬され、小沢氏候補に大差で敗れているわけですが、平成19年の千田勝一郎氏(その後、鎌倉市副市長)は得票率25%強(17万票)、平成25年の田中真一氏(その後、自民議員秘書)は26%(16万票)となっています。

今回の参院選では、4万7000票の無効票が報道されており、その多くは「自民系候補が出ないから誰にも投票したくない」という自民党支持者でしょうから、仮に、田中氏が自公の公認等を得て白票の多くを吸収できていれば、千田氏や田中真一氏と大差ない得票を得た可能性が十分あります。
47904票が無効 2割近くに及ぶ村も 参院補選、行き場失う民意 [自民] [岩手県]:朝日新聞デジタル

11万という田中氏への投票も、同様の理由で自公の支持者の人々の主たる受皿となったと考えるのが素直でしょう(自民系でも、より右派色の強い主張を好む方は参政党候補に投票したのでしょう)。

**

でも、思い出して下さい。今回、自民党が候補者を出せなかった最大の理由は、広瀬議員事件という「あまりにも酷い不祥事」があったからですよね。

総選挙では、いわゆる裏金問題などへの批判・抗議から、自民党に長年投票してきた人の多くが離反し大量落選に繋がったと全国的には盛んに報道されていました。

そうであれば、立憲党の候補たる木戸口氏が、もっと圧倒的な得票を得ていいはずですが、木戸口氏の得票率66%は、平成19年に当時は小沢氏系だった平野達男氏が自民系の千田勝一郎氏を破った際の得票率62.6%とさほど差がありません。

それでも、野党系候補としては過去トップの得票率ではありますが、同じエリアを対象とする岩手県知事選では、達増知事は自民候補を相手に72%の得票を得た年もあり(令和元年)、自民候補が出ておらず、全国・県内の双方で反自民感情が炸裂したはずの今回の選挙では、木戸口氏はこれに匹敵する得票を得てもいいはずです(自公支持者でも不祥事等を理由に野党候補に投票する人は今回の岩手にも相応にいたはずですし)。

結局、木戸口氏がこの程度の得票に止まったことは、「自民党には辟易だが、さりとて小沢氏・達増知事傘下の候補に敢えて投票したいとまでは思わない」と考えた無党派層が相当程度いたことを示すもので、木戸口氏の支援母体たる達増知事・小沢氏勢力にとっても、決して手放しで喜べるものではないでしょう。

**

田中氏の選挙運動に特筆すべきものがあったとも感じてませんので、言い過ぎというべきでしょうが、今回の田中氏の異様?とも言える得票率は、都知事選で世間の注目を一手に集めた石丸伸二氏の光景に、近いものを感じないこともありません。

結論として、様々な要素が混ざり合っているにせよ、田中氏の得票(や白票の多さ)は、既存政党の候補とは一線を画した政治勢力の登場を期待する、無党派層の抗議行動としての意味合いも含まれているのではないか、それなのに、こうした現象への分析はおろか、敗戦の弁すら報道することなく存在を無視する態度を(既存政党の候補らの記事ばかりの掲載を通じて)強く示した岩手日報の姿勢は、無党派層そのものを無視しているような異様さを感じたというのが、一連の日報紙面に対する私の感想でした。

それこそ、自公系は言うに及ばず、このような大チャンスでも必ずしも躍進できない野党勢力などと同様、既存の政治勢力の報道さえしていれば十分だと言わんばかりの岩手日報もまた、いずれは県民の支持を失う日が来るのかもしれません。

ともあれ、次の参院選は「選挙のときだけ世間に出てくるよくわからない人々」ではなく、ぜひ国政に送り出したいと感じる良質な候補者が多数立候補し、凌ぎを削る光景が出現することを強く願いたいものです。