同じ人物を取り上げた書籍で類似表現が使われた場合の著作権侵害の有無が問われた例
ノンフィクション文学作品に関する創作性の有無が争われた例(知財高判H22.7.14判タ1395-323)について、少し勉強しました。
X作品の著者であるXが、Y作品に対し、X作品の模倣・複製による著作権侵害を主張し、YがX作品に創作性がなく著作物でないと反論し、その当否が争われたというものです。
概要は以下のとおり。
当時、神奈川県知事であったXが「破天荒力」というノンフィクション作品(箱根富士屋ホテルの創業家などを取り上げた作品)を執筆して発表したところ、同じ人物を取り上げていた「箱根富士屋ホテル物語」という作品の著者Yが、Y作品に対する著作権侵害を主張するようになった。
そのため、XがYに差止請求権不存在確認請求訴訟を提起したところ、YがXに対し、X作品の差止や損害賠償請求の反訴を提起(本訴は取下)。
1審は、X作品のうち一箇所(「Aが結婚したのは最初から妻でなくホテルだったかもしれない」と書かれた部分)について、Y作品の複製権等に対する侵害を認め、Xに対し、Yに12万円の賠償と当該部分の削除を印刷等の条件する趣旨の判決をした。双方とも控訴。
二審判決(知財高裁)は、一審取消、Y請求を棄却(Y全部敗訴)。
判決は、問題となった上記の部分(比喩的表現)が、それ自体慣用的でありふれたものであり、元になった当事者に関する実際の事実の経過から、執筆者が上記の感想を抱くことはごく自然なもので、表現それ自体でない部分又はせいぜい表現上の創作性のない部分において同一性を有するに過ぎず、著作権法上の複製権等の侵害にあたらないとした。
ノンフィクション作品に関する著作権侵害の是非(対象作品に関する創作性=著作物性の有無)が問われた例としては、平成13年に最高裁判決(江差追分事件。ノンフィクション書籍(X作品)の記述をテレビ番組のナレーションが「翻案」したか否かが争われた例)があるとのことで、本件でも同判決の基準をもとに創作性の当否を判断しています。
解説では、言語の表現物の著作物性が問題となった事案に関する前例などを多数紹介しており、その種の紛争では参考になりそうです。