地方の弁護士の横領事件に関する弁護士会の後始末と残された課題②
A氏事件(平成24年に発覚した盛岡市の某弁護士の横領事件)に関する投稿の第2回です。
2 事件の検証と民事上の責任に関する問題
(1) 検証について
前回、「A氏事件(平成24年に発覚した盛岡市の某弁護士の横領事件)に関する岩手弁護士会の事後処理」について、私が関与した限りでの事情を書きました。
ただ、私の知る限り、岩手弁護士会が、A氏事件の概要を調査して一般向けに公表したとか、それを踏まえた弁護士会の対応などを検証したとかいう話は聞いたことがなく、恐らく、そのような作業はなされていないと思われます。
この点、岡山県でも平成24年に弁護士が多数の依頼者から巨額の預かり金を横領して逮捕等された事件が起きているのですが、その事件では、岡山弁護士会は「事件の概要を調査し、弁護士会の対応に問題がなかったかを検証し、弁護士会としての再発防止の手段を検討した報告書」を作成し、公表(概要版だそうですが)しています。
www.okaben.or.jp/images/topics/1367305574/1367305574_4.pdf
なお、弁護士の横領事件は、私の知っている範囲でも4カ所以上の都府県で発覚していますが、検証報告書が存在する(ネット上で公開されている)のは岡山の事件のみです。他の事件でご存知という方は、お知らせいただければ幸いです。
岡山事件の報告書は私もざっと目を通しましたが、報告書の内容自体の評価(痒いところに手が届いているのか)はさておき、こうした作業が行われたこと自体は、肯定的に捉えた方がよいのではないかと思います。
今や、行政の対応で様々な問題が生じたとき(主に、巨額の税金が不良債権化した場合)には、「第三者検証」が行われるのが通例になっていますので、弁護士会も、他人の活動にあれこれ文句(意見書等)を書く暇があるのなら、まずは身内の不祥事に対するケジメとして、横領事件の概要調査や検証等に関する報告書くらいは出すべきなのでは(そうでなければ、弁護士自治などと標榜しても笑われるのでは)と思わないでもありません。
ただ、そうは言っても、弁護士会は実質的には一個の企業ではなく同業者の集まりでしかありませんので、岩手会のような小規模会でボランティア必至で膨大な検証等の作業を行えというのは、自身の事務所の運転資金の確保という問題に直面していない(そうしたことを気にせずに会務等に専心できる)一部の恵まれた?方々を別とすれば、引き受けるのは相当に勇気のいる事柄と言わざるを得ないところがあります。
そこで、例えば、日弁連の嘱託弁護士(日弁連の特定の事務等のため短期間、日弁連に採用され給与の支払を受けている弁護士)が、横領等の不祥事の調査検証に限らず、小規模弁護士会の様々な問題について取り扱うという仕組みがあってもよいのかもしれません。
この点は、「弁護士自治」ならぬ「各県の弁護士会(単位会)の日弁連からの自治(地方自治風に言えば、単位会の日弁連からの団体自治)」という問題と密接に関わる話ですので、軽々に物を言うべきではないかもしれません(要するに、単位会内部の問題を、上部団体たる日弁連に依存することを積み重ねれば、単位会の弁護士会としての意思決定権が、徐々に日弁連に奪われていくことになるのではないかという話です)。
脱線しますが、私自身は、こうした問題を通じて、単位会ないしその会員マジョリティは、徐々に「単位会の自治」を捨てる(捨てたい)方向に進むのではないかなどと感じずにはいられないところがあります。
こうした議論(問題意識)は、小林正啓先生が、アディーレ法律事務所が単位会を提訴した件について触れた投稿(H26.5.9)で示唆されており、関心のある方は、そちらもご覧いただければと思います(花水木法律事務所ブログ。引用が上手くいかないので、ご自身で検索願います)。
(2) 民事上の責任について(債権者からの破産申立)
ところで、ここまで「第三者検証」の話ばかり書きましたが、「弁護士の横領事件」では、より直裁に当該弁護士の責任を問い、併せて事実を極力明らかにする、もう一つの手段があるはずです。
言うまでもなく、当該弁護士(A氏)の破産手続(による管財人のA氏に対する資産、負債その他の関連事項の調査)です。
この点、A氏自身が破産手続を申し立て、適切な予納金(管財人の報酬原資)を裁判所に入金してくれればよいのですが、事件発覚時に無資力となっていれば、そのようなことは期待できず、現に、今回の件でもA氏(の代理人)は自己破産の申立をしていません。
このような場合に、債権者(ないしその関係者)がA氏の資産や負債の状況や倒産に至る経緯などを詳細に調べて欲しいと欲するのであれば、債権者が自らA氏の破産を申し立てる方法(債権者破産)が考えられます。
ただ、債権者破産(の申立)は、裁判所から、自己破産よりも遙かに高額な予納金を求められるのが昔からの通例となっています。債権者にとっては申立代理人費用に加えてさらにそのような費用の負担を求められるのでは、ただでさえ酷い目にあっているのに、さらに二重被害を被るようなもので、本件のような場合には、非常に使い勝手の悪い制度と言わざるを得ないところがあります。
そこで、例えば、「弁護士の横領事件」については、弁護士会(地元単位会)が落とし前をつけるということで、弁護士有志が債権者(被害者)の協力を得て無報酬で申立をし、管財人も、相当の回収金があれば適切な報酬を支払うが、財団形成ができなければ無報酬も辞さないという方で、かつ、事案の解明と情報を含めた配当を実現するため徹底した努力を行う人材を弁護士会が推薦し、裁判所が選任することができればよいのではと思います。このような慣行ができれば、債権者破産が実現しやすくなることは確かです。
なお、管財人が無報酬を余儀なくされた事案では、弁護士会が何らかの形で若干の「ご苦労さん賃」を支払う(当該事件の調査費等の名目で)ことも考えるべきではないかと思います。
少なくとも、無報酬を美徳とするような考えが蔓延すると、自営業者集団の組織として存続できるわけがなく、そのような考えを過度に強調すべきではありません。
破産手続が開始されれば、管財人は、破産者(対象債務者)の財産や負債等を可能な限り調査し、これを債権者集会で報告しますので、何もしない状態が続くよりは、この手続を活かす道を考えてよいのではと思います。
(以下、次号)