報酬の算定をめぐって弁護士がクヨクヨするとき、しないとき
先日、交渉段階で大きな成果を勝ち取り示談で終了した賠償請求事件で、依頼主に当方が希望する成果報酬をお伝えしたところ無事に快諾いただきましたが、依頼主からは「その3、4倍の額を請求されると思ってました」と、当方がお願いした額が想像よりも大幅に安かったので驚いたというコメントをいただきました。
その件は弁護士会の基本的な報酬会規をもとにした計算(獲得利益ベース。但し、回収額ではなく受任前提示額との差額に基づく)を前提に、短期間で成果をあげて完了したことや、依頼主と顧問契約をしており割引もした上で計算したため通例の報酬基準よりも相当に低い額になったのですが、さすがに、「3、4倍の額を請求され支払うものだと思っていた」などと言われると、もっと高額なお支払をお願いすればよかったなどとトホホ的な軽口を思い浮かべないでもありません。
私には良くも悪くもその場で瞬時に「言い間違えました。本当の請求額はこれです!」などと言いくるめるような聡明さ?は微塵もありませんので、口頭やメールで算定根拠の補足説明をして、その件は終了とさせていただきました。
恥ずかしながら、数年前までの「殺人的なスケジュールと引き換えに経済的には恵まれた時代」と違い、現在は運転資金に喘ぎつつどうにか経営している有様ですので、たまには利益率の大きい仕事(報酬)をいただかないと事務所が保たないという気持ちもあり、どうしようかと迷いつつ、結局、僅かな時間で成果をあげた事案では割引しないと罰が当たるとの強迫観念から逃げられなかった小心者というのが率直な実情なのかもしれません。
記憶の限りでは、幸い、私はこれまで依頼主と報酬を巡り揉めた記憶がなく、少なくとも成果報酬については、一旦提示した額を依頼主の対応を見て増額するなどということはもちろん、減額した(要求された)こともなかったと思います。
ただ、最近は法テラスの立替事案や交通事故の弁護士費用特約に基づくタイムチャージ事案など、当方に実質的な金額算定権のない受任事案が多いため、昔のことを思い出せないだけかもしれません。
ただ、弁護士費用特約に基づく受任事案に関しては、数年前に保険者たる某大手損保に請求したところ不当拒絶?されたので、その件では、会規よりも減額した請求をしており、それにもかかわらず拒否するなら訴訟も辞さずという通知をしたところ了解いただいたという経験が1度だけあります。
その際は、改めて、この損保さん(相手方として対峙することが多い)は何でも値切らないと気が済まないのだろうかと感じたものでした。
着手金については相談当初では幅のある数字で示すことも多いので、結果として依頼主の反応を見て修正することもあるかもしれませんが、やはり揉めたという記憶がなく、結局のところ、私と揉めるようなタイプの方とは最初から信頼関係を築くことができず、相談段階で終了になることが多いように思います。
もちろん、町弁の宿命として事案の性質上やむを得ない(ご本人の負担としてはこの程度に止めざるを得ない)受任費用に比して膨大すぎる作業量になる超不採算案件の受任も、法テラスでないものも含めて幾つかあり、中には相手方というより依頼主の個性に起因すると感じるものもないわけではありませんが、これも修行と思って腹をくくる方が精神衛生のためだと割り切るようにしています。
近年、刑事弁護に関して同業者の目からすれば異様とも取れるような高額な費用設定を堂々と掲げる事務所とか、同業者はおろか社会一般からも顰蹙を買うような宣伝を行う事務所などが話題になっており、最近では業界では過払等で急成長したことで著名な事務所が消費者庁から広告に関し景品等表示法違反で処分を受けたという報道もありました。
そうした事務所が多数の弁護士を擁し派手な宣伝を行い自らの規模を誇っている様子を見ると、一定のあざとさ、悪どさがないと、今後の弁護士業界では生き残れないのだろうかと悲しくなることもないではありません。
しかし、報酬の適正は業務の適正と並んで業界の命綱であり、誠実さと正直が最も大事という点は、少なくとも15年前から弁護士をしている私の世代では業界の常識でしたし、今後もそうした常識が生き続ける業界であるために、自身の持ち場でできるだけの最善を尽くしていきたいと思っています。