大人も楽しむワンピース世界とホンモノ志向のちぐはぐ感
年末に、妻の実家への帰省に伴い、妻の提案で、東京タワーで行われている漫画「ワンピース」のテーマパーク(東京ワンピースタワー)に行きました。
私自身は大学の頃に少年ジャンプは卒業しておりワンピースは全く見ていなかったのですが、1年ほど前、家族に見せようかと思ってアニメ(ドレスローザ編のSOP作戦決行直前)を録画して見ていたところ、ドフラミンゴの悪辣ぶりが妙に気になり、少年時代に起きた社会の最上層からの転落と矜持や怨念という人物像に逆説的な人間らしさを感じる部分もあって、以来、恥ずかしながら、番組を録画して毎週深夜に見ています。
もともと、同作が、ジャンプの黄金時代が過ぎ去った後、「努力、友情、勝利」という旗印を背負ってきた作品だという話は聞いており、だからこそ、(のめり込まないよう)意識的に避けていたのですが、世界観の壮大さや個々の人物造詣の緻密さ、現実社会にも通じる論点を取り上げて閉塞感を吹き飛ばす爽快さなど、売れるのもよく分かるというか、大人も相応に楽しめる作品だと感心する面は強いです。
また、弁護士の仕事も、「本人の努力、依頼主との友情(共同作業と信頼関係)、事件での勝利」が求められるという点で、ジャンプの価値観そのものと言えなくもない性質があり、次から次へと敵(対処すべき仕事と厄介な論点ないし当事者)と相対しなければならないという点でも、ともすると、子供時代以上にジャンプ作品の当事者にシンパシーを感じてしまう部分はあります。
そんな訳で、そこそこ事前知識のある中で「タワー」に行ってみると、大人の鑑賞に耐えうるホンモノ志向が強く表れているものもあれば、そうでないものもあって、ある意味、ちぐはぐ感が否めないところはありました。
良いと感じた点は何と言っても「ライブショー」で、麦わらの一味が、ある洞窟内で得体の知れない何かと闘うという設定になっているのですが、演じる役者さんの格好や人相などはもちろん、踊りの際の様々な仕草や手足の動かし方が、本物を彷彿とさせる面が多く、司会役の女性のアドリブの巧妙さなども含め、ショービジネスに本格的に携わっている方々が作り込んでいるのだろうと強く感じました。
折角ということで、メインである「麦わらの一味のショー」のほか、「ボン・クレーのニューカマーショー」も見てきたのですが、本物と見紛うほどの御仁が登場し、大人も子供も楽しませる工夫が随所に見られる一方で、その種のショー(いわゆる夜?の大人向けのもの)にありがちな痛々しさ(尊厳が損なわれている印象)はなく、そうしたことも含めて感心しました。
参加者も大いに盛り上がっており、例えば、前者のショーでは、多くの若い?女性から「サンジー!」などと黄色い声が盛んに飛び交っていました。
他方、昼食はビュッフェ形式の「サンジのレストラン」を利用したのですが、様々なメニューに作品の登場人物の名前などが付けられているものの、食事自体は値段相応の「テーマパークのありふれたバイキングそのもの」といった感じで、少なくとも大人の「ワンピースファン」が満足できるほどのものではありませんでした。
あまりマイナスなことを書くのは差し控えたいのですが、例えば、普通のポタージュやミネストローネを、いくら黄色や赤色だからといって、「黄猿の~」「赤犬の~」などと命名するのは、かえって興醒めというか、こじつけ感が丸出し過ぎて本物への冒涜ではと思わないでもありません。
せっかく、サンジが作品中は著名なレストランの大物シェフの片腕を務めていたという設定があるのですから、上記のような「子供(ご家族)向け」のバイキングとは別に、作品で出てくるレストラン(バラティエ)を模すなどした本格的な料理を提供する店舗も考えて良いのではと思いました。
とりわけ、上記の「黄色い声を上げている女性陣」は、恐らくはディズニーにも湯水の如くお金を使うような購買力が高い(その種のものに出費を厭わない)層なのでしょうし、いっそ、ショーに対抗して、サンジに似た風貌の人を集めて髪もカツラ等で対応し質の高い料理をテーブルに給仕するサービスなども提供すれば、一人あたり単価で数千円以上の値段でも世界中から殺到する層が十分いるのではと思われます(それこそ、ナミやロビンの格好をして入店したいという層すらいそうな気がします)。
さほど作品世界を知っているわけでないので、作品中で、その「高級レストラン」に相応しいメニューが取り上げられているのか知らないのですが、そうであるなら、いっそ、名だたる若手シェフ(それこそ、作品のファンのような方々)に作品世界をイメージしたメニュー開発を依頼して、東京タワーの近くの本物のレストランに協力依頼して特別メニューを出すといった試みもあってよいのではと思いました。デザートも、相応のパティシエに依頼して、皿に作品の絵柄を表現するような一品を出せば、より好評を博するのではないでしょうか。
あと、物産店舗(ショップ)についても、ローの帽子とか海軍大将衣裳などと称するモノが売っていたのですが、これも、本物志向の強い人からすれば、買わないだろうなぁという印象は受けました。
決して安い帽子ではなかったのですが、その「(普通の)子ども向け商品」とは別に、その5倍から10倍かけて、高級ブランド店でも取り扱うようなものを敢えて加えた方が、「なりきりたい大人」には受けるのではと思いました。
ちょうど、ショーで前に座っていた女性が、エースの帽子とそっくりなものを被っており、てっきり売店で購入したのかと思ったのですが、それらしいものが見あたらなかったので、手作りなのか似たものを他で入手したのか、単なる私の勘違いかは分かりませんが、子供以上に大人(外国人を含む)の集客を多く見かけたこともあり、出費を惜しまない本物志向のニーズは相応にあるのではと感じました。
ワンピース自体は、ディズニーに負けない強力なコンテンツとして世界で勝負できるように思われるだけに、本物志向でレベルの高いショーと、それと反対方向の印象が否めないレストランやショップの落差のようなものを感じ、後者のグレードを軽視しない(ように見える)ディズニーに見習った方がよいのでは?(それこそが「花の都・大東京」の役割と責任なのでは?)というのが、とりあえずの感想といったところです。
アニメの方は、ようやくルフィーとドフラミンゴの対決が決着するところまで来ましたが、ワンピースの世界の様々な問題や矛盾に伴う負の部分を一手に引き受けて「暴力による非人道的な解決の万能性」を主張する存在であるドフラミンゴを見ていると、現実世界の「イスラム国(IS)」などに重なる面が大きいように思われます。
それだけに、混沌をもたらした世界の矛盾の象徴というべき西欧列強による爆撃などでは本当の解決が実現するはずもなく、非人道性の核にある矛盾を根元から洗い流すような営みが広まって欲しいですし、そのことに貢献することこそが、中東などに迷惑をかけた過去がなく、他方で圧倒的な強者達に挑んだ経歴がある「地味でイケてないルフィー」というべき日本の役割として、求められているのだろうと思います。