平成28年の取扱実績①全体、中小企業法務、債務整理・倒産
当事務所では、数年前から毎年1回、前年の業務実績の概要をブログで公表しています。例年、1月か2月頃に業務実績を顧問先にお送りして、その後にブログに掲載することとしていますが、諸事に追われブログへの掲載の方がかなり遅くなりました。
今回も当事務所WEBサイトの「取扱業務」に基づいて分類し、3回に分けて掲載します。依頼先の選定などの参考としていただければ幸いです。
(1) 全体的な傾向など
平成28年も、①交通事故などの各種事故(主に被害者側からの賠償請求)、②離婚や相続など家族・親族間の紛争や各種法律問題、③企業倒産や個人の債務整理、④企業の取引や内部紛争、⑤個人の方に関する各種の民事上の法律問題などについて、様々な分野の紛争解決や法的処理のご依頼をいただきました。
全般的には、①②は件数も多く論点も様々で、③④⑤は件数こそ多くないものの作業量や問題となる点が多い大型案件の解決に力を注いだ1年になりました。
(2) 企業・団体の業務や経営上の法的問題に関する支援
①旧所有者による廃棄物の不法投棄に伴う撤去費用を請求した事件
A氏が建物の建築目的で岩手県内の某土地を不動産業者Bから購入しC社に建築工事を発注したものの、着工後まもなく土地の地下にコンクリートガラや廃材などの廃棄物が埋設されているのが発覚したのでC社が調査したところ、10年以上前に同土地でD社がコンクリート製の建物を建築して営業しており建物解体の際に不法投棄された疑いが濃厚だとして、D社の責任を求めたいという相談を、C社(A氏から相談を受けて被害解決の窓口役を担当)から受けたという事件があります。
直接の被害者はA氏ですが、瑕疵担保責任などの事情からA氏に土地を売却したB社にも被害が生じ、最終的にC社にも様々な損失が生じるおそれがあった事案で、実質的にはB・C社vsD社側の様相を呈しました。
様々な検討の結果、D社側に賠償責任を問うべき案件として請求したところ、D社は「残置物は自分達の建物の解体物ではなく埋設もしていない」などと全面的に争ってきたため、D社側を相手に賠償請求しました。
D社側が全面対決の姿勢を示し「埋設された物はどこから来たのか、どうしてその土地の地下にあるのか、個別の埋設物とD社建物との結びつきはどうか」などの様々な問題について広範な主張立証を余儀なくされたほか、撤去費用の相当性なども争点になり、2年以上を経てようやく裁判所から和解勧告が出て、完全な満足ではないものの埋設物がD社建物から生じたものであるとの前提でD社側が相当の費用(解決金)を支払うという当方の主張を十分に酌んだ内容の勧告をいただき、協議がまとまりました。
膨大な労力を投入せざるを得ず、消耗の大きい事件でもありましたが、不法投棄問題に関しては日弁連の活動を通じ廃棄物処理法のルールを多少は存じており、その知見を活かすこともできたので、その点は何よりでした。
②業務委託契約で途中で問題が発覚し頓挫した後、報酬や損害の負担が争われた例
A社がB社から受注した業務の委託料などを請求する訴訟をA社代理人として対応し、当方の請求を認める判決をいただき無事に回収して終了したものがあります。
受注した事業に関する行政手続上の不備(Aが事業のため用意した設備に関するもの)で事業が途中で頓挫したため、Bは「契約時のAの説明に問題があった」と主張して支払義務を争い、Aに賠償請求しましたが、契約の締結から事業の破綻までにいたる事実経過を丹念に説明し、双方の尋問結果も踏まえ、Aの対応に特段の問題はなかったとして、Bの主張が退けられました。
ただ、A側も事業の準備のため多額の経費を投じたものの経費を賄うだけの売上を得られたわけではなく、両社痛み分けに終わった面もないわけではありません(A側にも見通しの甘さなどの反省点はあったと思います)。
この件のように受発注の対象となった事業の継続性に何らかのリスクが内在する場合は、リスクの発現時に責任の所在を巡り泥沼的な紛争が生じることが非常に多くあります。
事前にリスクを予め検討して明確化すると共に、そのリスクが現実化した場合の負担を誰がどのような形で負うのかを予め契約書などで明示しておくことで、裁判等による紛争の長期化、高負担化を避けることができます。
契約前にそれらのリスクや不安を具体的に弁護士に説明いただければ、それに見合った文言などを整備し紛争に備えると共に、問題が生じる可能性や生じた場合の帰結を互いに意識しておくことで、リスク発生を防ぐよう互いに努力する契機とすることもできますので、事業者の方々におかれては、「ご自身が従事する事業に内在するリスクの確認と対処(弁護士への相談を含め)のあり方」を強く留意いたきたいところです。
③その他の紛争としては、「Bビルに入居していたA社が短期間でCビルに転居した際に、Bビルの入居時に差し入れた敷金の返還(破損部分の修繕を除いた残金)を求めたところ、AB間の契約書に壁紙やカーペットなども全面的に取り替える趣旨の特約(通常損耗負担特約)が含まれていたため、Bがそれらの交換費用等を理由に敷金全部の返還を拒否し、Aが納得できないとして返還請求した訴訟」をA代理人として対応しています。
事業者間の紛争であるため消費者契約法が適用されないものの、敷金に関し過去に積み上げられた議論や最高裁判決の趣旨などを踏まえ、本件では通常損耗を借主に負担させる合意は成立していないと主張し、それを前提とした勝訴的な和解勧告をいただき解決しています。
他に、中小企業庁が行う「下請かけこみ寺」事業に基づき小規模な受注業者の方から発注者の不当対応についてご相談を受けることもありました。
(3) 債務整理と再建支援
倒産件数が激減している社会情勢に伴い、自己破産、個人再生、任意整理とも受任件数は数年前に比べて僅かなものとなっていますが、近時は、「総債務額が極端に大きな額ではない(100~200万円未満)ものの、僅かな収入しかない又は無収入ゆえ自己破産をせざるを得ない方(生活保護の方を含め)」からの依頼が増えており、社会で広く言われている格差や貧困の問題を実感させるものとなっています。
企業倒産(破産申立)に関しては、約10年前に民事再生の手続の依頼を受けていた会社さんが様々な事情から法律上の問題が顕在化し、それらの整理・解決のため本年になって自己破産の申立を余儀なくされたという事案があります。
企業に関する破産管財業務では、平成27年に管財人に就任した製造業を営む会社に関し、訴訟や原発ADR、原状回復作業などの事務処理や法的手続が必要となり、本年に受任した建設関係の会社についても多数の不動産の任意売却や賃借関係の処理、労働債権の対応など様々な法的対応に負われました。
また、金融機関に巨額の債務がある一方で、それ以外にほとんど負債がない事業者(金融債務の連帯保証をしている方)から廃業支援の依頼を受けて、金融機関に一定の弁済を行うとの前提で、破産手続で認められた額(99万円)よりも多い個人資産を手元に残した状態で破産せずに債務免除を受けることができる手続(経営者保証ガイドライン)による解決を実現すべく、現在も交渉している案件があります。
他に、個人の方の破産管財人を受任した事案で、破産手続前に親族への無償譲渡行為があり、否認権を行使すると共に、債権者への配当原資の確保のため様々な工夫を行ったケースなどがあります。
(以下、次号)