担保権抹消登記訴訟の光景と裁判所のIT執務環境のいま
今回は、裁判官と仕事のことで互いに愚痴を交わした話です。
近年、マチ弁にご依頼がある仕事の類型の一つに「自分の所有地(相続含む)に昔々に設定された担保権登記を抹消して欲しい」というものがあります。
売買の必要から依頼される方が多いですが、ご自身の代で解決しておきたいと仰る方も珍しくありません。
担保権自体は、完済の証明などができなくとも被担保債権などの消滅時効により抹消の請求が認められることが通例で、それだけを見れば、弁護士にとっては楽な仕事のように見えます。
ただ、数十年前に設定された登記名義人が現在も存在しているのかという問題があり、その点で余計な作業や経費が色々と生じる(ので、複雑な実務知識・理解も問われる)のが通常です。
概ね、①担保権者が個人で、相続問題が生じた=相続人を調査し全員を被告とする訴訟、②相続人調査が不能で、その旨を証明し公示送達、③法人だか遙か昔に代表者が死亡済み=特別代理人の選任が必要、のいずれかが多いかと思います。
が、先般、聞いたこともないA農協を抵当権者とする登記(昭和50年設定)の抹消の依頼があり、法人登記事項を調べたところ、A農協が平成4年に解散し、当時10人近くいた理事の全員が清算人となり、代表清算人の定めがないことが分かりました。
そこで、農協って代表理事の定めがあるはずでは(その人の生死だけ調べればよいのでは)?と思って調べたところ、手持ちの書籍に、当時の農業協同組合法が代表理事の定めがなく、平成4年(だったか)に代表理事制度が導入された(施行は後年)ので、平成4年に解散したA農協は理事全員が清算人となり、全員が代表権を有する=全員の生死を調べなければならないことが分かりました。
結局、2名の方が存命だったので、年若のB氏(90歳位)を被告代表者に表示して訴状を書き、併せて、訴状送達の際にB氏のご自宅にも「これは当方の登記のためだけの訴訟なので、無視しても大丈夫(何の不利益もない)です」と説明の手紙を出すことにしました。
すると、訴状提出後、裁判所(担当書記官)から、「当時の農業協同組合法に代表理事制度がないことなどを証明せよ」との連絡がありました。
私としては、「法令調査って裁判所の職責じゃないのか」と疑問に感じましたが、ともあれ、本にこう書いてありました、だけでは実務家失格なので、仕方なく、当時の農協法の定めを書いたものがないか、調べることにしました。
・・・が、これ(改正前の昔々の法令調査)が案外大変で、結局、深夜にWebをかなり彷徨った挙げ句、日本法令索引なる著名サイトであれこれ検索し、農業協同組合法の制定時の条文と平成4年改正(代表理事導入時)の条文を見つけて、裁判所に報告しました。
深夜の作業で心が荒んだせいか、報告書には、
「なお、法令調査は裁判所の職責である(外国法や条例、慣習法などはともかく法令は証明の対象とはされておらず、この点は改正前の法令も同様である)との認識ですが、改正前の法令の存在につき当事者に立証責任があるとの文献等があるのでしたら、ご教示いただければ幸いです。」
と、余計な一言を添えるのを忘れませんでした。
すると、裁判官から電話があり、
ご指摘はもとより承知していますが、裁判所は今もWebの利用に制限が大きくて、このサイトを調べたり改正前の法令調査を行うのが大変で、すぐ分かるようなら教えていただければと思ってお願いした次第なんです。
と、丁重なご連絡をいただきました。もちろん、当方提出書面でOKとのことで、その後はサクサクと進み、無事に完了しました。
昨年頃から、裁判手続のIT化などと称して多額のカネと手間を掛けている割に電話会議がTV会議になっただけではと感じる程度のやりとりを拝見して残念に感じていますが、裁判官や書記官などの執務環境のIT整備(や昔から散々言われているエアコン問題の解決)の方が先決なのでは?と思わないでもありません。
結局のところ、他省庁に比べ政治力のない(司法官僚さん達もその種の作業に関心が無い?)司法部門の残念な現実というほかないのかもしれません。