損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編①
「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第3回です。
弁護士費用保険が普及すれば、弁護士業界が大きく変容していくのではないか(弁護士側も、それを必要とせざるを得ないのではないか)という趣旨のことを述べた投稿の3回目(ここからが本題部分)です。
4 弁護士費用保険の普及と「弁護士の品質確保と選別・監督機能」
ところで、現在の弁護士費用保険(前回に述べたとおり、私はプリベント社の保険の実情を存じませんので、損保各社が展開している自動車保険の特約を前提に述べます)は、基本的には、契約者(利用者)自身が依頼する弁護士の費用を保険契約の範囲で補填するという定めをしているに止まり、弁護士の斡旋等を当然に含んでいるわけではありません。
もちろん、多くの損保社では、それぞれの地域に、顧問ないし特約店である弁護士(加害者側でその損保社の保険給付の必要が生じた場合に、損保社が加害者代理人として対応を依頼する弁護士)を抱えていますので、契約者ご本人のご希望があれば(或いは、保険商品の販売代理店から相談があれば)、その弁護士を被害者代理人として紹介するという例が多いのではないかと思います。かくいう私も、仕事でお世話になっている損保会社さんがあります。
ただ、利用者の立場で「弁護士のサービスを受ける保険」を突き詰めれば、それ(費用補填)だけで十分というのではなく様々なニースがあることは、優に想像できることです。
なんと言っても、利用者としては、弁護士の費用負担を免れれば(保険が払ってくれるのなら)それでよいというものではなく、依頼する弁護士が、利用者(依頼者)の依頼の趣旨に合致する仕事を適切に行ってくれること=そのような弁護士を斡旋すること(品質保証)も含めて、その保険商品に機能して欲しいと希望していると思います。
もちろん、10年ないし数年前までは「依頼する弁護士の質」というのが問題とされることは、町弁業界では滅多に無かったと思います。弁護士費用保険の有無などもさることながら、弁護士の絶対数や情報流通などの問題から、顕在化しなかったという面があるのではと思われます。
これに対し、現在では、町弁の絶対数の増加に伴い、供給者側の問題(研鑽の度合いなどに関する一定のばらつき)はもちろん、利用者側も弁護士を選択、選別できる権利ないし利益があるという意識が高まっていることは確かだと思います。また、レアケースとはいえ、近時は不祥事などで突然死(事業停止)する弁護士も出現していますので、そうした理由で、依頼先の弁護士(法律事務所)の健全性に対する関心も生じていると思います。
言い換えれば、現在の弁護士費用保険制度は、「弁護士を原則として無料(保険料のみ)で利用できる」という低コスト利用の要請については概ね満たしていると思われますが、品質保証(保険を利用して依頼する弁護士が、対象となる業務を、実務水準や顧客の資質・個性などに照らし適正に遂行できること、ひいては、そのような弁護士を紹介・斡旋すること)という面では、十分に機能しているとは言えないと思います。
まして、保険を利用して依頼する個々の弁護士の業務に対する監視・監督や、上記の業務停止等によるトラブルの防止策(経営状況の監視・監督)や被害補填などという点では、およそ機能していないと言ってもよいのではないでしょうか。この点は、加害者側であれば、保険会社が自ら賠償金の支払をする関係で、方針の策定段階から全面的に保険会社が主導し、誤解を恐れずに言えば、弁護士は「損保の意向を忖度して行動する手足」として仕事をするに過ぎない(その意味で、依頼者から弁護士への業務監督機能が貫徹されている)ことや、継続的な委嘱等を通じて、委嘱先の弁護士への情報収集などが行われている(のでしょう)ことと、大きく異なっていると言えます。
また、利用者サイドの事情だけでなく、供給者(弁護士)側の状況も、かつてとは大きく異なっています。端的に言えば、事務所(弁護士としての自分)の存続のため、弁護士費用保険を利用した事件の受任を必要とする弁護士が、かつてなく増えていることは確かだと思います。
その上、町弁の仕事・研鑽は大半がOJTという性格が強いことから、町弁の多くが、弁護士費用保険を通じた事件受任に依存する面が強まれば、そのことは、研鑽等の機会も保険に依存する面が強くなるということになりますし、何らかの形で損保会社から業務上ひいては経営上の監視・監督を求められることも受け入れていかざるを得なくなるのではと思います(この点は、法テラスも同様ですが)。
要するに、弁護士費用保険の課題ないし未来像として、低コスト利用機能のほか、品質保証などの機能も果たすことが期待・要請され、これを果たそうとすれば、利用者サイドのニーズに応える形で、保険会社が町弁の業務への関与・干渉を深める方向に舵を切っていくことが予測されるということです。
5 弁護士の格付けや依頼者のニーズに即した斡旋を行う企業
ただ、弁護士費用保険を販売する損保各社が、近いうちにそうした機能を果たすことができるかと言われれば、少なくとも現時点ではそのような能力も意欲もない(今のところは、最近話題の不正・過大請求を抑止し、トータルで黒字事業を営むことができれば十分と考えている)と感じます。
一般論としても、損保各社が弁護士の各種能力や経営その他に関する詳細なデータを集めて、それをもとに保険契約者に弁護士を斡旋等するというのも、現実的ではないと思われます(ただ、保険利用にあたり会社の同意を求めるという約款を用いて、各社の地域拠点ごとに存在する顧問などの弁護士に事実上、集約させていくという手法を採用する会社は生じてくるかもしれません。その社は日弁連LACには加入しないのでしょうし、それがその損保会社にとって賢明な選択と言えるのかどうかまでは分かりませんが)。
そこで、保険会社に代わって、弁護士の各種能力に関する情報を収集、集積し、利用者のニーズ(簡易案件か困難案件かなどの判断も含む)や個性などに応じて、そのニーズに適合するような弁護士を抽出して紹介・マッチングするような、一種の「弁護士の格付け・斡旋企業」が求められてくるのではないかと考えます。
また、その企業が、不正・過大請求をするような弁護士を排除して良質な業務を低コストで提供する弁護士を中心に紹介等するのであれば、利用者サイドだけでなく、保険会社側にも必要・有益な存在として歓迎されるでしょうし(約款の定め方などにも影響しそうです)、そのような斡旋等のサービスが弁護士費用保険の対象外の事案でも利用できるのであれば、その役割(町弁業界におけるプレゼンス)は、著しく向上するのだろうと思います。
もちろん、そのような「格付け・斡旋企業」なるものが、一朝一夕にできるわけもなく、現時点では夢想の域を出ないかもしれませんが(法規制の問題もありますし)、仮に、我が国で、そのようなサービスが本格的に生じうるとすれば、現在のところ、元榮太一郎氏が率いる「弁護士ドットコム」が、その最右翼と言えるのではないかと思います。
(以下、次号)