東北油化の倒産と周辺環境の原状回復
先月頃から、奥州市江刺区にある東北油化という家畜の死骸処理を行う会社が周辺に悪臭等を生じさせたとして行政処分を受け、程なく自己破産申立をしたとの報道がなされています。
http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20141012_3
私自身は(少なくとも現時点で)この事件には全く関わっていませんので、報道されている以上の事実関係は知りませんが、岩手県から水濁法や条例に基づき汚水や悪臭の是正措置を命じられていた中で破産申立がなされたということは、一般論としては、法令に適合する是正措置を講ずるだけの資力がないのではと危惧されます。
当然、破産したからといって会社に是正措置を講ずべき義務が無くなるわけではありませんし、会社施設の原状回復(特に、周辺環境に著しい悪影響を生じさせるような有害物質等の除去)は、破産手続=管財人の業務上も優先性の高い事務とされています。
ただ、破産手続は、換価・回収可能な会社財産(破産財団)の範囲内で会社の財産の管理や配当を行う手続ですので、もし、同社が当該措置(水質などの原状回復工事)を行うに足る金融資産等を有するのなら、管財人が早急に当該措置に着手するでしょうが、それを賄うに足る資産がない場合は、管財人としては手の施しようがありません。
この場合、有害性の強い物質が拡散するなど周辺環境への悪影響が看過できないもので、税金を投入してでも原状回復をすべきだと判断されるときは、岩手県知事は、行政代執行により一定の除去工事を行う可能性があります(廃棄物処理法19条の8)。
仮に、上記の事情が認められるのに県が代執行を行わない場合には、住民は、豊島事件のように公害調停を申し立てることで、県に代執行を行うよう働きかけることが、方法としては考えられます(行政代執行の義務づけ訴訟という手段も考え得るかもしれませんが、ハードルはかなり高いと思われます)。
ただ、岩手県庁(環境部局)は、県境不法投棄で全量撤去を早期決定するなどの前例がありますので、現在の制度上、代執行の必要性が高い案件であれば、そのような手続を経ずとも、率先して一定の除去工事を行うことは期待できるのではないかと思われます。
なお、管財人(破産財団)が自ら実施できるにせよ、税金を投入(代執行)せざるを得ないにせよ、債権者や納税者の犠牲のもとに高額な原状回復工事を余儀なくされる場合には、そうした事態を招いた会社役員など主要関係者の個人責任を厳しく追及すべきではないかという問題があるかと思います。
水濁法は仕事上関わったことがないため詳しくは存じませんが、事案次第では、廃棄物処理法を含め、何らかの刑事罰の適用がありうるかもしれません。また、刑事罰に至らなくとも、会社等に対する民事上の賠償責任(特に会社法に基づく役員の賠償責任)は十分にありうるところです。
この事件が、そうしたスケールの大きい事件なのか、さほど除去工事に費用を要せず管財人が簡単に実施できるレベルなのか分かりませんが、周辺環境に禍根を残すような形にはならないよう、住民や報道関係者などは、今後も成り行きを注視していただければと思います。
また、報道によれば、同社は県内で牛の死骸の処理ができる唯一の施設で、県内の畜産農家への影響が懸念されるとのことですが、そのような企業であれば、経営破綻になる前に、行政が経営の健全性を何らかの形で調査したり、経営困難な事情が生じた場合には、破綻になる前に事業譲渡など混乱回避の措置を講じる仕組みづくりが必要ではないかと思われます。
そうしたことも含めて、一連の経過を検証し今後に繋げるような取り組みがなされることを期待しています。