秋田県・小坂町の「千葉の高濃度焼却灰の搬入埋立問題」に関する日弁連調査②地域住民が執り得る法的手段に関する一考察
前回の投稿の続きです。
秋田県庁で解散した帰路で「このままでは単なるやられっぱなしで納得できない、何か一矢報いたい」という住民団体(米代川流域連絡会)の方の言葉を思い返し、現在、或いは発覚当時、彼らが何をできたのか(すべきだったのか)について少し考えていました。
で、現時点で認容されるかどうかはさておき、本件で地域住民の主要な関心事につき取り得る(取り得た)手段としては、「行政は現場でボーリング調査をすべき(グリーンフィル小坂にさせるべき)」という義務づけ訴訟(行政事件訴訟法)を軸とした手続ということになるのではと思いました。
以下、基礎となる事情や制度を踏まえつつ、想定される訴訟のあり方などを少し検討しましたので、何かの参考になれば幸いです(手控えレベルの文章ですのでさほど正確性の検証をしていないことはご了解ください)。
まず、本件では、1万ベクレル超の焼却灰が発覚した際、行政(小坂町ないし秋田県)が処理業者側に事情説明を求めていますが、そのことは法律上の権限という観点から見れば、廃棄物処理法18条(報告徴収)に関わることだと思います。
その上で、同条に基づく権限行使のあり方としては、
①秋田県庁は、本件一般廃棄物(一廃)処分場の許可権者として、一廃処分場の設置者(たるGF)に対し、法違反となる「放射性物質に汚染された焼却灰の埋立(後日に制定された特措法の基準値も超過しており、発覚時は言うに及ばず、事後的に見ても、埋立時には管理型処分場への埋立が許されない違法な焼却灰)」により施設の維持管理(法8条の3)に関する基準に反する事態が生じた(そのおそれがある)として、適正管理ができるのか報告を求める
②鹿角広域行政組合(管理者・鹿角市長)は、GF小坂の一廃処理業の許可権者として、最終処分業者たるGFに対し、法違反となる焼却灰の処分がなされた経緯や事後防止措置について説明を求める(地方自治法291条の2?広域連合について勉強したことがないので正確には分かりません)
という構図になるのではないかと思います(広域連合が許可権者となる場合、構成団体たる小坂町は当該権限を行使できる立場にないということになるのでしょうか。そうだとすれば、小坂町長によるGFへの関わりは組合の副管理者の立場からということになるのでしょうか。その点は不勉強のため分かりません)。
そうした前提で、次の2つの条件、すなわち
①現地に埋め立てられた焼却灰が、仮に、現在でも1万ベクレルを大きく上回る(ので、かなり先まで8000Bqを下回らない)のであれば、そのような埋立は、汚染対処特措法(事後法)によっても正当化されない=当該焼却灰(の管理型処分場への埋立)」は、生活環境の保全上の支障がある(又はその恐れがある)
②現時点までにGFが行った措置(コンクリートを被せる等)はその支障の除去に不十分である(重大な損害のおそれあり)
の2点を証明できれば、鹿角組合はGFに対し、撤去措置命令(法19条の4)をすべき義務がある(義務づけ訴訟が認容される。或いは、重大な損害のおそれ要件は満たさなくとも、措置命令の要件は満たす)ことになります。
そこで、地域住民としては、鹿角組合はその点を明らかにするために、立入調査権(法19条)の一貫として、ボーリング調査をすべきだとして、調査権発動の義務づけ訴訟の提起と仮の義務付けの申立を行うということになるのかもしれません(住民が原告、組合が被告)。
また、秋田県庁も、措置命令の主体ではないと思われますが(一廃処分業の許可権者ではないから?)、維持管理に関する改善命令(法9条の2)やその前提としての立入調査(法19条)を行う権限(責務)があると言えます。
そこで、住民は県に対しても、上記調査権(裁量)の一貫としてボーリング調査をすべきだとして、義務付けの訴訟提起等をするということができるかもしれません。
その上で、②については、組合や県(GFも補助参加するかもしれません)は、本件で現に行われたコンクリート敷設等の措置につき、「秋田県が、環境省から上記方法での現地封じ込めOKとの回答を得て?(或いは、H23.8.31環廃産発110831001通知2~4頁に基づく適法な処理のあり方として判断をして)、それをGFに伝えて行わせたものである。よって、生活環境上の支障除去の措置としては十分(現時点で撤去命令の必要も義務もない)」と主張するのでしょうから、裁判では、その判断の当否(環境省通知の解釈・当てはめの問題)が問われるのではないかと思います。
この点については、私自身がまだ十分に勉強、検討できているわけではありませんが、上記の環境省通知をざっと見る限りでは、本件事案を前提にコンクリートを被せればよいとは書いていないように見えますが、隔離層を設置する方法での対処に関する記載があるので、県はこれに基づきコンクリートを被せる等すれば十分と判断したものと思われます。
よって、それがダメだというのであれば、最終的には環境省通知そのものを敵に回して「こんなやり方はダメだ」という「放射性物質汚染焼却灰の処分のあり方に関する科学技術論争」が必要になるのかもしれず、そうなれば苦心惨憺の大訴訟を覚悟しなければならないかもしれません。
ただ、上記はあくまで撤去の要否に関する論点のように思われますので、住民団体の方々が最も切望している「現在の埋設物の線量調査(8000ベクレルを下回っているのか、実は数万もあるのか等)」自体の義務づけについては、もっと別な観点から緩やかな基準で認められてもよいのではと思わないでもありません。
あと、その種の訴訟の宿命として、原告適格の有無なども争点となるのかもしれません。
他にも考えられるのは、鹿角組合や秋田県庁に何らかの権限不行使等の違法があり、それにより組合・県が違法に損害を被ったとして、その賠償を責任者に求める住民訴訟かもしれませんが、住民側にしてみれば、小坂町(鹿角組合)も秋田県も共に「被害者仲間」なわけで、仲間内で賠償の訴訟をするのは本意ではないでしょう。
同様に、住民がGFを相手に訴訟することも考えられないわけではないものの、「高濃度焼却灰の搬入(による環境汚染)を知りながら意図的に埋め立てた」などという異常な事実が存在する(立証できる)のでもない限り、現実的には厳しいのではと思われます。
或いは、一部住民の本意としては、「千葉から焼却灰が搬入されること(都会のゴミを埋め立てること)自体を止めさせたい」という思いがあるかもしれませんが、これも現時点では立法論と言わざるを得ない(現行法令そのものから逸脱した処理がなされているなどの特段の事情がない限り訴訟としては成り立たない)と思われます(この点は、次回で少し触れます)。
また、以上は「現時点」での手段(の当否)ということになり、それゆえに様々な点で(特に、すでに覆土が進んでいる点で?)ハードルの高さを感じざるを得ないところがありますが、仮に、発覚時たる平成23年7月=環境省通知の前(せめて直後)に上記訴訟と仮の義務付けの申立を行っていれば、まだ違う展開があり得たのかもしれないとも思われます。
住民による「不作為(発覚時にGFにボーリング調査をさせなかったこと)の違法確認請求」といったものもできないのだろうかと思いましたが、行政事件訴訟法には不作為の違法確認訴訟制度があるものの、処分(調査命令)の申請権のない地域住民が過去の調査の当否を問題とするようなことまでは認められていませんので(法3条4項、37条等)、その点は、立法論でしかない(日弁連が意見書を出すかどうかはさておき)と思います。
そういえば、廃棄物問題に関する日弁連の平成16年意見書や平成22年人権大会決議(これらは、私が作成に大きく関わっているものです)では、住民による行政への権限発動の申立権云々という意見もしていました。(決議理由第4の2)。
とりあえず、「措置命令の当否を明らかにするための調査権発動」という観点から考えてみましたので、間違っている点などがありましたら、ご教示いただければ幸いです。