管財人口座を巡る膨大な資源と手間の無駄遣いの改善を求めて
前回、破産に伴う管財事件とりわけ個人を対象に短期間での終了を予定している少額管財事件について書きましたが、少額管財に関しては、長年に亘り実務で非常に残念な慣行(決まり)があります。
管財事件では、破産者の換価対象財産が、破産者から切り離され「破産財団」なる法人を構成するものとされており、破産財団に属する財産を管理・換価(現金集約)するため管財人が銀行口座を開設すべきものとされています。
これは少額管財でも代わりがないのですが、多数・多様な財産の管理換価が伴う企業管財(通常管財)と異なり、個人の免責調査とか所定の財産の自由財産拡張(非換価処理)の手続のみを目的とした少額管財では、商品や売掛金のような破産者の財産を処分・回収して専用口座に入金させる手続がありません。
そのため、管財人報酬として予定された予納金(20万円前後)の入金と報酬決定後の払戻という「たった2行の取引」のためだけに、毎回、銀行口座を開設しては解約するという作業が繰り返されることになります。
管財事件は、Web上でも確認できる統計データでは毎年三千件ほどですので、概算で年間二千件以上の「2行の履歴のためだけの通帳」が生じては消えていく光景が繰り返されていることになります。
私は、10年以上前は少額管財事件(通常管財も)を多数受任していましたが、予納金の入出金だけで通帳廃棄を繰り返すのが資源の無駄として余りに酷いと嫌気がさし、5~10年ほど前、裁判所に
「①少額管財は通常の預かり金口座で予納金を受け入れて良いのでは、②少額管財事件だけでも、使い回し可能な管財人口座(破産者名義を付さないもの?)を開設して再利用したい、③せめて通帳発行が不要なWeb口座を開設する方法でもダメか」
と何度か申し入れたことがあります。が、全く相手にされず、最後の照会時に
「仙台高裁にも照会したが、管内に認めた例がなかった」
との理由で却下され、今は4~5年ほど管財事件にご縁がなく、口座開設に関する現在の実情は存じておりません(その照会で裁判所に嫌われたのか、若手激増の影響か、他の理由で切られたのか、あまりにも管財事件が減ったのか、原因は分かりません)。
近年、管財人口座の開設に1万円などの手数料を求める銀行が発生・増加しているのだそうで、弁護士向けのFBグループ内で、不満等が述べられているのを見たことがあります。
私自身は、銀行側のニーズとして、口座開設の有料化自体は(上記のような資源と労力の浪費が繰り返されてきたことに照らしても)相応の理由があるのだろうと思っており、それだけに、これを機に、全国の同業の方々が口座開設等を巡る業務の合理化・無用な手間や経費の節減について裁判所に働きかけていただければと思っています。
先日、少し手が空いた際に上記の内容をそのFBグループに書いて投稿したところ、東京地裁では、③=web通帳が認められているとのコメントを頂戴しました。
そこで、折角なのでと思って、盛岡地裁の担当書記官に問い合わせたところ、盛岡は今も紙のみ(Web口座は不可)とのことで、東京を見習えないか、内部で検討いただきたいとお伝えしました。
また、某県の先生からは、次のようなコメントもいただきました。
「自分は②=破産者名義を付さない『管財人○○』名義の通帳を開設し、事件ごとに入金・払戻を繰り返している。裁判所に事前照会=公式見解を求めれば、どうせ不可だと言われると思い、何も聞かず敢えてそのようにした。(管財実務の通例で)通帳のコピーを提出した際も裁判所からクレームは受けておらず、黙認されていると認識している。なお、その県の個人再生の実務(再生委員)ではそのような扱いが問題なく認められており、それとの均衡に照らしても、②の方法が認められるべきだ」
①=通常預かり金口座での受け入れについては、冒頭に記載した「破産財団は独自の法人格があるので予納金は独立口座で受け入れるべきだ」との理由から、その先生を含め、実務では困難だろうとコメントされている方が多くありました。
私は、それ(財団帰属財産を当然に管財人個人の資産に混入させられない)を前提とするにせよ、少なくとも、管財人報酬以外に財団形成の見込みがない事案(少額管財など)では、口座開設を不可欠とする必要はなく、「破産財団が、管財人個人に対し、予納金を預けている」ものとして、管財人の預かり金口座で受領し管理することを認めること=①の方法も可能(法人格が別だ云々の法律論と両立する)と考えます。
この場合も、報酬決定までは破産財団が管財人個人に対し予納金(預託金)の返還請求権=債権を有していることに代わりませんし、巨額の配当原資ならともかく、短期間で終了する少額管財等の管財人報酬の予定額だけなら、管財人が事前に預かっておくことに問題があるとは思えません(本当に横領等する輩なら、管財人口座だって払い戻すでしょうし・・)。
裁判所自身が、家事事件などで膨大な事件の予納金(相続財産管理人の報酬予定額など)を自ら受領し管理しているのに、弁護士には罷りならんというのも違和感があります。
今流行りの「生産性」の見地からも、最も簡便であり、資源・労力いずれの無駄のない、①=通常預かり金の受入が望ましいはずです。
口座有料化の動きを機に、これまでの資源や労力の無駄遣いを直視し反省して、無用な口座開設をさせない(弊害防止の措置を講じた上で簡略に済ませる)方向で、議論が進むことを願っています。