巨額財産被害を巡る日米の刑事裁判の違いと被害回復を巡る保険制度の責任

大谷翔平選手の元通訳の水原氏の裁判で、刑事罰(禁固刑)と共に、被害者(大谷氏)への26億円の賠償を求める求刑がなされたとの報道が出ていました。
「ギャンブル依存症ではなく金銭欲」水原一平元通訳に禁錮4年9カ月と大谷翔平選手への賠償金約26億円を求刑 (FNNプライムオンライン(フジテレビ系)) – Yahoo!ニュース

ただ、それがどのような制度や手続のもとに行われたのか(被害者から申立があったのか等)までの説明はなく、弁護士としては興味をそそられます。

日本の刑事訴訟には検察官が「賠償を求刑」する制度はなく、代わりに、10年ほど前に新設された、刑事訴訟の係属中に被害者が申し立てることで賠償命令を行うことができる制度はあります。

が、私の知る限り、実際の利用はごく低調で、私自身は全く経験したことがないことはもちろん、報道等でもほとんど見たことがありません。

それこそ、先日、ウィルス禍に伴う高額な補助金詐欺の関係者への実刑判決(盛岡地裁)の報道が出ていましたが(私は一切関与なし)、賠償命令等の報道は出ていないはずです。

この点は、コメントで引用する現行制度の解説によれば、日本で対象になるのは、殺人・傷害等と性犯罪、誘拐などに限られる(財産犯や事故など過失犯は無理)とのことで、冒頭の報道のような「求刑」は、今の日本では無理ということになりそうです。
引用の第一東京弁護士会の解説記事などを参照)

冒頭=米国(水原氏事件)の制度も、これと似たようなものなのか(被害者の申立により検察官が賠償額を計算し申出?)、申立がなくとも独自に裁判所に要請できる制度なのか(刑ではないので「求刑」は変だと思いますが)、実際の利用状況や実効性などの実情はどうなのか(罰金のように労役場留置制度があるのか?)等、興味深く感じました。

ちなみに、日本で賠償命令制度がほとんど用いられていないのは、犯罪被害の大半では本人に支払能力がないこと(これは水原氏も同様でしょうが)や、申立作業等は弁護士の支援がないと容易でないことが挙げられると思います。

これに対し、もし、保険会社が「深刻かつ突発的な犯罪被害の人身損害の填補と弁護士費用を目的とする保険商品(交通事故の人傷保険等に類似するもの)」を開発・販売すれば、被害者が被害の填補として相応の保険金を受領できるはずです。

給付額を適正に定めるなどの見地から、一定の場合に賠償命令や判決等を取得することを保険給付の条件とするのであれば、賠償命令制度の利用も劇的に増えるかもしれません。

保険が機能すれば、それこそ、深刻な犯罪被害に対し、現在の被害者給付制度を遙かに上回る被害填補を税金に依存することなく実現できるはずですし、保険に協賛する基金を募って寄付を受けるなどの方法で保険料の軽減も期待できるのではと考えます。

こうした保険を、国民に広く普及する生命保険などの付帯商品として開発・販売し国民にとって当たり前のものにしていただければと、保険会社その他の尽力を願ってやみません。

被害者への同情だけなら猿でもできるわけですし。

ちょうど、保険会社は販売店への便宜供与ばかりしていて商品開発の努力が足りない、と述べる記事もみかけました。
金融庁監督局長が指摘する保険業界の深刻な病巣、「悪しき慣習から脱し商品の差別化で競い合え」(東洋経済オンライン) – Yahoo!ニュース

こうした投稿も保険業界の方に見ていただければなぁとか、弁護士業界(弁政連など)はそうしたことにこそ取り組むべきでは、と感じつつ、友達の少ない(いない?)非力の身を嘆くばかりです。