サケ刺網訴訟で岩手の海へのアイを叫んだバカモノ

5~7年ほど前(平成30年~令和2年頃)に、岩手県庁(農林水産部)のご依頼で、大規模な漁業紛争を決着させた「サケ刺網訴訟事件」を担当したことは、このブログでも何度か触れたことがあります。

まあ、大赤字仕事を余儀なくされたことへの愚痴ばかりですが・・。
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この事件は、適正な資源管理や漁業調整の見地から不適当とみられる要求を繰り返していた一部の漁業者グループ(少数派)と県庁側(主流派・多数派)との数十年間に亘る紛争を最終決着させたもので、当方が要した立証活動もかなり大規模・本格的なもので、法律上の論点も相応に複雑でした。

最終的には裁量論(県庁の政策的判断が法律上許容されるものであること)に帰着する話でしたので、私も色々と勉強したことをもとに政策論的な事柄も含めて自説を主張していました。

が、法律論はさておき、政策論となれば、ある程度、自由奔放に論ずるのを好む私の流儀は、県庁の方々にはあまり歓迎されなかった?ようで、時折、ご担当から文章の割愛を求められることもなかったわけではありません。

下記の文章は、訴訟の最後の頃に、当方の主張の一環として書いた一文ですが、丸ごとカットして欲しいと言われ、泣く泣く?割愛したものです。

さほどおかしなことを述べているとは思えないのですが、県庁の公式見解とは相容れない何かがあったのかもしれません(或いは、知見が十分確立していない点について書きすぎだと思われたのかもしれませんが)。

ただ、下記の内容が特段誤っているとも思えない上、あれから5年以上経て、近時のサーモン養殖などをはじめ、岩手の漁業は大筋でここに書いたとおりの取組みがなされてきたように思います。

というわけで、訴訟の終了からかなり期間が経ちましたし、内容的にも守秘義務等が問題となる話でもありませんので、当時を懐かしんで、微修正の上、掲載することにしました(原文よりも文言を整理・修正してますが)。

***

当時の岩手日報で長期掲載された特集「サケの乱」などでも言及されているが、近年のサケ漁獲(回帰量)の激減は、稚魚の回遊ルートの海水温の上昇が主たる原因だと言われている。

すなわち、孵化場から海洋に進出したサケの稚魚が北洋海域に向かう途中、従前に比べ海水温が著しく上昇しているため、その環境に適応できず目的地たる北洋海域に到達するまでに死滅してしまうことが、激減の主因というのである。

他にも、稚魚が向かう北洋海域にロシアなどが放流した稚魚も向かうので、海域で過密状態が生じ、到達までに衰弱した岩手由来の稚魚が、ストレスに晒されず進出したロシア等由来の稚魚に海域内の生存競争で負けているのではないか、という仮説も指摘されている。

海水温の変動により北日本で漁獲されていた魚介類が姿を消しているという問題は、サケのみならずイカ、サンマなどでも指摘されていることは、多数の報道などが指摘するとおりである。

また、繰り返し襲来し孵化放流施設に被害を及ぼしている台風禍についても、地球温暖化による世界的な気候変動の影響が大きいと多くの研究者により指摘されているところである。

このように、ここ10年ないし20年ほどの岩手のサケ産業は、増殖(孵化場や親魚採捕)から漁獲(回帰=外洋環境)に至るまで、地球温暖化による世界的な気候変動に翻弄される状態が続いており、このような苦難(産業としての条件の悪さ)が直ちに解決・解消できるかも覚束ない状況にある。

言い換えれば、現在のサケ産業は県当局や県民がコントロールできるレベルを超えた問題が立ちふさがっていると言わざるを得ない面が強い。

反面、海洋環境の変動により、これまで南方の海域に回遊・漁獲されていた魚種が岩手県の沿岸・沖合で漁獲されるようになったとの報道もあり、それらの事象や人口減少など様々な社会的事象を見据えた「岩手県としての漁業のあり方」が問われている状況にある。

言い換えれば、漁業について、官民とも新たな知恵を絞り工夫を重ねるべき時代が到来しているとも言える。

或いは、だからこそ、原告らも本件訴訟という形で運動の決着を図らざるを得なかったのかもしれない。

しかし、以上に述べたことのほか、本件訴訟で詳細に説明したとおり、原告らが求める「固定式刺網によるサケ漁獲」という「(限られた)従事者に短期的に巨利を生じさせ、その後はサケがいなくなる漁業」が認められないことには議論の余地がない。

それは、漁業調整上の混乱(我先にという争奪)を招くと共に、サケ資源を取り尽くし壊滅させてしまう危険を強く抱え、関係道県の利害と衝突し世界的に見ても到底容認されないものだからである。

原告らの請求が退けられるべきことは当然として、それと共に、原告らも、今後は現在のサケ及び様々な魚種・漁業が置かれた環境などを考慮し、他の関係者の利益にも配慮しつつ自身らの漁利を適切に図ることができる、持続可能な漁業を再検討し実践いただくよう、県民のとして願うばかりである。

***

原告たる漁業者の方々は言うに及ばず、県庁の当時のご担当の方々とも訴訟終了後は全く接点がなくなってしまったので、当時と今とで岩手のサケ漁業や漁船漁業者の方々の実情がどのように変化したのか等、お話を伺う機会に全く恵まれておらず、残念に感じています。

当時の準備書面で「岩手のサケ業界全体が困難な状況に晒されている中で、こんな訴訟にエネルギーを費やしている場合ではない(互いに、もっとやるべきことがあるはずだ)」などと書いたような記憶もありますが、改めて、当事者の方々にそれぞれの実情や展望などを伺う機会があればと思う面はあります。

まあ、当方は、

大規模訴訟で頑張っても 
儲からないからバカだと言われ
褒められもせず 故郷のために闘った末、
相も変わらず忌み嫌われる
さういふものに、私はなりたい

などと憎まれ口ばかり叩いているので、いつまで経ってもそうした機会に恵まれないのかもしれませんが・・