アイスバケツとALS関連訴訟
最近、アイス・バケツ・チャレンジなる運動(イベント?)が盛り上がっており、本来の趣旨は、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の研究を支援するための寄附を募る運動なのだそうです。
氷水をかぶること自体には、あまり意義を感じませんが、難病支援の運動であれば、盛んにやっていただいてよいのではと思います。
ところで、ALSが裁判のテーマとして取り扱われることはほとんど聞いたことがありませんが、先般、同症の罹患者への介護給付費の算定方法が問題となった裁判例が公刊されており、せっかく、アイスバケツを機にALSに関心を持ったという方がおられれば、こうした話題にも目を向けていただければと思います。
事案と判旨の概要は以下のとおり(和歌山地判H24.4.25)。
昭和11生まれの男性Xは、身体障害者1級を認定され、障害者自立支援法・介護保険法に基づく介護認定を受けている筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者であり、平成19年3月頃からは、Y(和歌山)市内の自宅で妻Aと2名の訪問介護員による24時間介護を受けている。
Y福祉事務所長は重度訪問介護の支給量を1月268時間(1日8時間+緊急対応20時間)とする介護給付費支給決定(H22・H23決定)をした。
Xは、24時間の公的介護を要し1月651時間(1日21時間)を下回らない決定をしないことが裁量の逸脱・濫用だと主張して、Yに対し、本件各決定の取消しと当該義務付けを求め提訴。
裁判所は、結論として、X(筋萎縮性側索硬化症の患者)に関する介護給付費で「1月支給量が542.5時間を下回らない決定をしないこと」が裁量逸脱・濫用とし、決定の一部を取消し、上記時間の限度で、介護給付費支給決定の命令(義務づけ判決。行訴法37の3)を行いました。
判例タイムズの解説によれば、本件は、障害者自立支援法に基づく介護給付費につき、支給決定を義務付けた初めての事例とのことです。
Xは、本件訴訟の提起時に仮の義務付け命令を申し立て、支給量を1月511.5時間とする決定の仮の義務付け命令を得ており、Xの代理人をされている方は障害者支援の分野では著名な先生で、福祉関係者とも連携し、緻密な主張立証をなさったものと思われます。
福祉分野に関しては、私も本格的な紛争の相談を受けることは滅多にありませんが、以前、母子手当に関し行政から納得のいかない判断を示されたというご相談を受けたことがあります。
その際には、市側の対応が筋の通らないものと判断しましたので、ご本人の主張を書面に要約して市役所に提出して下さいとお渡ししたところ、後日、市役所から希望どおり手当を受給できることになったとのお話をいただきました。
福祉関連は、弁護士にとっては超不採算仕事になるのが通例で、経営者にとっては「業務」として受任できるか悩ましさが伴い、いわゆる市民団体等の支援が得られない普通の弁護士にとっては、持続可能性等の関係で受任してよいのか悩む面はあると思います。
ただ、行政が明らかに筋の通らない対応をしていると確信できる案件などに巡り会った際には、そうしたものを糾すのも町弁の職責と腹を括って、できる限りのことをしていきたいとは思っています。