交通事故による若年重度後遺障害者の将来介護費等に関する定期金賠償
2歳7ヶ月の幼児が交通事故で重傷を負い、両下肢完全麻痺等の重篤な後遺障害を負い、等級1級1号が認定された件で、介護費等に関する将来発生分について、一時金ではなく定期金(毎月又は毎年など、一定期間ごとに支払う方法)による賠償が命じられた例について、少々勉強しました(福岡地判H25.7.4判時2229-41)。
日本の裁判所は、将来、確実に発生すると見込まれる損害についても、一時金=判決時(遅延損害金の起算点は事故時)の一括払を命じるのが原則ですが、逸失利益など将来発生する損害には中間利息(ライプニッツ係数による計算が大原則)の控除を行うため、実際に要する費用よりも少ない金員しか受け取れないことになってしまう(中間利息控除による減額は、決して小さなものではありません)として、15年ほど前から定期金請求の当否が裁判上争われるようになっています。
で、逸失利益などについては、一時金とする(定期金請求を認めない)運用がほぼ確立したと思われますが、介護費など実損的なものについては、定期金請求を認める例も多く、事故以外の事情で長期の生存に疑問符が付く方が被害者となった場合などは、加害者側が支払の抑制のため(実際に短期間で死亡した場合などを想定すれば一時金賠償だと割高の支払になる)定期金での賠償を求める例もあります。
上記の例では、裁判所は、被害者の年齢(長期の介護等を要する)や両親の希望等を重視して介護費等に関する定期金請求を認め、介護費につき月額45万円強、車椅子等につき年額150万円弱等、車両等につき数年おき100万円等の定期金賠償を命じています。
なお、一時金については、慰謝料(多額のリハビリ費用が訴訟上請求されていないことを理由に、本人分だけで3000万円を認めています)や逸失利益等について7600万円強、それとは別にご両親の慰謝料として各440万円を認容しています。
他にも、2歳児をジュニアシートに座らせたことで過失相殺になるか、常時介護か随時介護か、労働能力喪失率(100%か否か)なども争点になりましたが、いずれも被害者側の主張が容れられています。
私も、平成15年頃(東京時代)に、1級の後遺障害を負った方の賠償請求に関する訴訟に携わったことがあり、介護費や自宅改造費など様々な将来損害の請求を行い、ご自宅や勤務先を訪問し伺った内容を陳述書にまとめるなど、色々と主張立証を検討、準備したことを覚えています(その事件は、途中で岩手に戻ることになったので、兄弁が引き継ぎ、穏当な内容の和解で決着したと聞いています)。
余談ながら、その事件では、被害者の方が、最初に依頼していた弁護士の方の仕事ぶりに不信感を抱き、交渉(裁判外調停)が決裂し訴訟になるという時点で私の勤務先に依頼されてきたという事案で、前代理人(調停手続で提示された内容を前提に成功報酬を請求していました)との関係解消のための処理も余儀なくされました。
前代理人の方は、請求内容などの整理については特に問題のない仕事をしていましたが、依頼主に対する態度ないし説得姿勢などに問題があったそうで、互いに言い分のある話なのかもしれませんが、重大な被害を理不尽に負わされた方々(なお、被害者に過失がない事故でした)との接し方という点で、色々と考えさせられるところはありました。
重篤な後遺障害事案などでは、介護等の関係で様々な損害が発生し、それらを整理して請求することが求められるほか、一時金か定期金かという論点をはじめ、介護費の金額等を巡り様々な議論が必要になるなど、一定の熟練を要する面がある上、上記の例に見られるように、被害者の様々な心情に配慮した代理人活動を必要とすることもあり、弁護士なら誰でもできるような類の仕事ではないことは確かです。
万が一、そのような深刻な被害を受けてしまった方々におかれては、加害者への賠償請求や弁護士の相談・選択等の段階でも、十分な調査・検討を行っていただき、一種の二重被害に陥るようなことだけはないように、留意いただければと思いますし、当方も、そうした事案に適切にお応えできるだけの研鑽を今後も重ねていきたいと思います。