弁護士の「融資支援」の現実と理想
前回の「中小企業支援」に関する投稿の続きです。
先日行われた日弁連主催の中小企業支援に関するキャンペーン会合の際には、日弁連作成の15分ほどの宣伝ビデオが上映されていたのですが、普通の町弁の立場から見ると、首を傾げたくなる部分が幾つかありました。
ビデオは、飲食店を開店した方が、銀行融資や取引先との交渉や信用調査、社内問題、事業の一部閉鎖や事業承継などの論点が生じる都度、特定の弁護士に相談して書面作成や交渉などのサービスを受けて会社規模を拡大・発展させていったというもので、要するに「裁判以外でも弁護士は色々な仕事ができるので、頼んで下さい」とPRする内容でした。
例えば、冒頭あたりに、社長さんから「銀行から融資を断られたので支援して欲しい」という相談がされ、弁護士が、事業計画書(その事業の収益性=返済能力をアピールするための書面)を作成としそれを前提に融資を銀行に了解させたという話が取り上げられたのですが、現時点でこれ(融資支援)を典型として取り上げるのは止めた方がよいのではと思いました。
というのは、一般の方でもイメージし易いと思いますが、銀行への融資依頼(交渉)などという業務を実際に(特に、日常的に)手がけている弁護士は企業再建で有名な村松謙一先生のような限られた方に止まり、私を含む大半の弁護士にとっては日常的に行っているものでなければ研鑽を積みノウハウを得る機会が与えられたこともなく、それを依頼する方(との出会い)も、まずないといってよいと思います。
企業経営者の立場で考えても、収益性=企業のカネに関わる話の依頼先として想定し易いのは、その事業に知見のあるコンサルタントであるとか、経営コンサル絡みの仕事もしている税理士さんなどではないかと思います。
そのため、「弁護士が融資支援が出来る」というのであれば、具体的な手法や実施状況などを明らかにするなどして「弁護士が現実に融資支援ができること」を認知を高める必要があるのだと思います。
当然、そのためには、受任する弁護士がその種の業務を現実にこなすことができるだけの一定の能力の担保(常に実現できるわけではないでしょうが、専門家として一般的に求められる業務の質の確保)が図られなければならず、そのためには、研修的なものだけでなく、一定の頻度で現実にその業務に携わることができる機会を確保させなければならないと思います。
債務整理との比較で言えば、私が弁護士になった平成12年当時、すでに東京弁護士会などが多くの論点に対処するための内容を書いた書籍を刊行すると共に、新人でも直ちに多くの事件を受任し研鑽を積めるだけの現実に膨大な需要及び依頼者とのマッチングの場(弁護士会のクレサラ相談センター)がありましたので、それらの条件を全く満たしていない「融資支援」とでは、あまりにも大きな違いがあります。
そもそも、(ごく一部の著名専門家を除き)弁護士が融資支援に従事する実務文化がないという現実は否定し難いと思いますので、まずは、日弁連等が金融庁や銀行協会など?に働きかけて、「弁護士が●●のような関わり方(支援業務)をすれば、融資を受けやすくなる」といった制度ないし仕組みを作り、「経営コンサル等だけに任せるのではなく、この場面(論点)がある融資事案では弁護士に頼んだ(弁護士も絡めた)方がよい」という文化を、上からの主導で創り上げていくのが賢明ではないかと考えます。
この点、弁護士の多くは、融資の対象事業の収益性などを判定・強化する能力等を兼ね備えているわけではないと思いますが、「特定の課題に関わる様々な事情を拾い上げて総合的な事実説明のストーリーを構築し、文章化する」ことには、訴訟業務を通じて相応に能力、ノウハウを持っています。
そこで、「事業の収益力を高めるための事業の方法などに関するアドバイス」は業界向けのコンサルタントなどにお任せするとして、それをより文章などで分かりやすく伝えるとか、融資対象たる事業や企業それ自体に法的な問題、論点が絡んでいる場合の対処法などをフォローするなどの形で、弁護士らしい(弁護士だからこそ他の業種にはできない良質なサービスができる)仕事ができるのではと思います。また、そのようなワンポイント的なフォローに止まるなら、低額のタイムチャージとすることなどにより、依頼費用も相応に抑えることができるでしょう。
これは、事業承継支援など各種士業が連携して仕事をするのが望ましい分野に広くあてはまる話のはずで、そうしたことも視野に入れて、「ワンストップサービスの文化」が広がりをもってくれればと思います。
就業規則なども話題に出ていましたが、社労士さんが単独で済ませて十分なタイプの仕事もあれば、作成段階から弁護士が関与すべき類型もあるはずですので、「弁護士も就業規則が作れる」などと、社労士さんと競合するような宣伝の仕方ではなく、「このような事案(このような論点を抱えている企業)では、企業自身のため、弁護士も関与させるべき」といったPR(及び需要の創出と供給の誘導)を考えていただければと思います。
何にせよ、受任者側にあまり態勢が整っていない事柄(業務類型)を大々的にPRして、「弁護士に相談すれば大丈夫!気軽に相談を!」などと宣伝するのは、誇大広告の類との誹りを免れませんし、個々の町弁にとっても、司法試験とは関係がない分野で、仕事がいつあるのか(本当にあるのか)わからないのに勉強だけはやっておけというのは些か無理な話ですので、融資支援であれ何であれ、現代の町弁に相応しいサポートのあり方についての議論を弁護士会などの主導で関係先と詰めていただき、需要側・供給側双方にとって有意義な業務のカタチを構築できるように尽力いただければと思っています。
余談ながら、「融資支援」に関しては、東京のイソ弁時代に「X社が新規事業のため融資を必要としている件で、自称コンサルY社から巨額の融資を仲介してやると勧誘され多額の着手金を支払ったが、さしたる仕事もしないまま仲介業務が立ち消えになったため、Yに賠償等を請求した訴訟」を担当したことがあります。そのため、弁護士の手に余る事柄ではないかと感じつつ、弁護士が関与することで業務一般の適正を担保させるべきではないかとも感じており、そのような面も含めて、企業融資に携わる方々に、弁護士の関与の意義やあり方について、検討を深めていただければと感じています。