広告業界に関する契約慣行と契約書なき下請受注のリスク
今週末に、デザイン(広義の商業広告)の仕事に携わる方々によるイベントが盛岡市内で行われるそうです。
http://morioka.keizai.biz/headline/1736/
私は、岩手に戻ってからはこの種のお仕事をされている方と関わる機会に恵まれていませんが、東京時代(10年以上前)には、一度だけですが、大手広告代理店から受注した商品カタログ等の制作に関する代金支払を巡る、厄介な紛争に関与したことがあります。
あまり具体的なことは書けませんが、かつて一世を風靡した某有名CMも制作したという広告デザイナーの方が、勤務先をリタイアした後に手がけた仕事で、ある分野では著名なメーカーから某大手広告代理店を通じて商品カタログの制作を受注し、仕事自体は問題なく完了したものの、代金の支払を巡って関係がこじれたという案件でした。
そして、その方が、制作に参加した関係者(孫請側)からは未払代金を請求される一方、元請側(広告代理店)からは契約関係を否定するなどして支払拒否されるという事態になり、元請側、孫請側それぞれと裁判をしなければならなくなり、その訴訟を受任した事務所の担当者として、2年ほど悪戦苦闘を続けたという次第です。
その方は、センスのある広告を仕上げる力量はある方なのですが(その方が抜けた後に作られた同じ企業のカタログを見せられ、素人でも品質の差が分かりました)、制作畑のご出身のためか、「お金(の範囲や流れ)」の話に詰めが甘いところがあり、それが紛争の主たる原因となり、「契約当事者(元請からの受注者)が誰なのか」など、難しい論点に直面して立証に難儀したのをよく覚えています。
その裁判で、ジャグダというデザイナーの方々の団体や、「クリエイティブディレクター」という職業がこの世に存在することを初めて知りましたが、その後、クリエイティブディレクターの第一人者というべき佐藤可士和氏の活躍をテレビなどで拝見したり、この記事のように広告絡みの話題に接する都度、その事件のことを思い出さずにはいられない面があります。
その事件では、大手広告代理店の代理人も、「この事件のように、広告業界では(一千万以上の金額が動く案件でも)契約書を作らないのが実情だ」と述べており、それが本当にそうなのか、そうだとして現在も続いているのか、存じませんが、合意の内容が曖昧だと、紛糾した際に、制作(下請)側の方ほど割を食う面が生じやすいことは間違いないと思います。
そうした意味では、少なくとも、大きい金額が動くなど潜在リスクが相応に存する案件では、弁護士に事業スキームを説明いただき、幾つかの事態を想定して適正なリスク分配を行う趣旨の契約書や合意書などを取り交わすことを励行していただきたいものですし、そのことは、広告業界に限らず、下請受注一般に言えることではないかと思います。
併せて、岩手県でデザイン業界に従事する方々から、現在、そうした事柄がどのように取り扱われているのか、お聞きする機会があればと思っています。