「お一人介護」家庭の孤立死と見守り契約

岩手県奥州市で、60代男性が90代の母親を自宅で介護していたところ、男性が病気で急死し、母親も介護者が存在しなくなった影響で、誰にも介護等を受けることができないまま、ほどなく低体温症で死亡してしまったというニュースが報道されていました。
http://mainichi.jp/select/news/20150208k0000e040128000c.html

同じような境遇にある方(高齢の母の介護を同居の熟年の子が一人で担っており、他にも子がいるものの、遠方に居住し日常的には連絡を取り合っていない家族)は、全国に幾らでもあるでしょうから、こうした残念な出来事は、現在ないし今後、全国で多数生じている(生じてくる)のではないかと危惧されます。

また、「介護者が、周囲のインフラに恵まれない状態で、たった一人だけで要介護者の面倒を見ている」という話は、高齢者だけでなく乳幼児や障害者などでも多く生じているでしょうから、そうしたご家族でも、潜在的リスクを大きく抱えている例は多くあると思います。

この点、法律業界(ないし介護業界?)では、何年も前から「見守り契約」という制度(サービス)が提唱されているのですが、私の知る限り、ほとんど普及していないと思われます。

先日、任意後見に関するご相談をお受けする機会があり、任意後見に関する現在の代表的?な実務書を読み返したところ、関連する制度(財産管理契約など)についても概説があり、その中で、見守り契約についても解説がありました。
http://www.sn-hoki.co.jp/shop/product/book/detail_50607_11_0.html?hb=1

敢えて弁護士に「見守り」を依頼したいと希望される方は多くはないと思いますが、「要介護者を実質的に一人で介護している家庭」については、介護者に不慮の事態があれば、要介護者も含めて生存の危険に晒されるわけですから、そうした「生活(介護)インフラの弱い家庭」については、社会福祉協議会や地域に根付いた介護業者など信頼のおける事業者と、数日ないし1週間おきに電話や面談などで実情把握をするなどの制度を構築した方がよいのではないかと思います。

もちろん、その上で、当事者の権利関係などに法的な処理が必要になった場合には、必要な範囲で我々にも出番を与えていただければと思います。

冒頭のケースでは、介護者たる長男の方は地域内では知人等も多数いらしたようですが、そうした方でも、日常的・定期的な地域内での交流がない限り、このような事態に陥ってしまうわけで、そうしたインフォーマルなインフラに過度に依存するのではなく、「当事者の安否に直結する緩やかなフォーマルのインフラ(簡易な見守り制度)」を確保しつつ、それを、インフォーマルなインフラ(地域や遠方に居住する親族などの人的つながり)の構築・強化に繋げていくような営みが必要ではないかと思います。

現在も何件かお引き受けしている法定後見はともかく、任意後見など、「裁判所に申立がなされる以前の段階にある方々」からご相談等を受けたり支援が必要な方と接点を持つ機会には滅多に恵まれていません。

こうした報道も踏まえて、弁護士に限らず、様々なインフラの構築のあり方や賢明な利用の仕方などを、多くの方に考えていただければと思っています。