ここ1、2年に読んだ本①~法律学・裁判実務系~
前回の投稿に引き続き、ここ1、2年に読んで学ぶところが多かった(ように感じる)本のうち何点かについて、紹介を兼ねて投稿します。プチ書評を入れてはいますが、中身を忘れてしまったものも多く、ある程度雑になっているのはご容赦下さい。
長くなったので、6回ほどに分けて投稿します。
【法律学・裁判実務系】
現在も議論ないし制定作業が進行中(大詰め?)となっている、民法(債権法・契約法分野)の改正の必要性や改正案の概要などを、我が国の民法学の第一人者と目されている方(の一人)が説明した本です。
著者は、平成6年頃から大学の法学部生向けの民法学の教科書を刊行され、私に限らず、当時の司法試験受験生にとっては、かつての我妻栄先生の本に匹敵するといって過言ではないほどの必読の本という位置づけになっていました(現在も、その状況は変わっていないのだろうと思います)。
個人的な経験でも、司法試験の論文試験に合格した前後の時期(平成9年9月頃)に、内田先生の民法で「複合契約(或いは、契約対象たる事業の特性に基づく本体的な給付義務に付随する特則的な債務)」が書かれた部分を読んで、頭に残っていたのですが、ちょうど、口述試験でそのテーマがズバリ問われてスラスラ答えることができた(ので、会場を出た瞬間、心の中でガッツポーズと内田先生への感謝をした)ことをよく覚えています。
本書の後半部分は、現在の判例実務の到達点の明文化に関する説明という面が多く、現役の法律実務家にとってはさほど刺激的な部分ではありませんが(裏を返せば、そうしたものを勉強したい方にとっては、極めて重要な基礎本ということができ、民法の初学者にとっても意義が大きいでしょう)、国際的な「法というインフラ産業に関する国際的、歴史的な輸出競争」を大きな視野で論じた前半部分は大いに刺激的で、強く共感できます。
否応なく弁護士の激増(と、町弁業で食うことが難しい)時代を迎えた現在、そうした法制度インフラの輸出に関する実務は、人的資源の確保という点でも、実現可能な面が強まっていると思います。
まして、「非欧世界で最初に近代化を成し遂げ、現代では、法の支配に基づく人権尊重の社会も作り上げ、そのことが、経済的繁栄の基礎をなしている国」が、世界にそうした理念=インフラを広めていくことは、戦後社会の平和と繁栄を享受する現代日本人の重要な責務ではないか(裏を返せば、その責務を果たさなければ、遠からず日本人は厳しいペナルティを科されるのではないか)と思います。
そうした意識を涵養する意味でも、必読の一冊と思います。
著者は原発に関する建設阻止や稼働停止などを求める訴訟に長年従事された第一人者と言うべき方で、数年前は、日弁連の「反主流派」とされる宇都宮健児会長時代に事務総長もつとめています。
平成23年11月に刊行された本ですので、福島第一原発事故に関する説明は多くはありませんが、それだけに、福島事故に至るまでの「我が国の反原発訴訟の歴史と法律上の議論の到達点」を知る上では、基本文献と言ってよい一冊だと思います。
もと裁判官が、裁判所の組織や人事、及びそれと関わりの大きい司法制度などを批判的に論じたものです。民事手続法の分野では現役時代から著名な方で、私も幾つかの実務家向けの書籍を拝読したことがあります。
いささか語気が強く、割り引いて考えた方が無難に感じる箇所もありますが、裁判所という空間が、社会人としての価値観や振る舞いといった点に関して、ある種の同調(同化)圧力を伴う職場であり、筆者のような個性の強い方には生きにくい組織であることは、修習生時代の経験や多くの裁判官の方々と接した印象として、私もそれなりに感じています。そうした観点から司法制度(ひいては国家統治システム)のあり方を考える上では、参考になると思います。
中堅世代の東京の弁護士の方々が、「ヒヤリ・ハット事例」を中心とするご自身の経験談や公刊された懲戒事例などをテーマごとに整理し列挙したもので、著者の方々の中に、私の司法研修所の同期・同クラスの方が2人、含まれています。
私が弁護士になりたての頃にも、同じような若手向けの中堅世代の体験談をまとめた本が刊行されており、その本を読んだことや、私自身のヒヤリ・ハットの経験なども思い出しながら拝読しました。
法律実務家向けの本ではありますが、若手の弁護士は言うに及ばず、リスクのある職人仕事をしている他業界の方にも、参考になる点はあると思います。