平成24年の業務実績の概要

平成24年の業務実績の概要をまとめました(事案等は抽象化しています)。
分類の仕方は、事務所HPの「取扱業務」欄のコンセプトに従っています。

 (1) 全体的な傾向

昨年に引き続き、個人や企業の倒産(債務整理)に関する受任が減少し、家庭問題に関連する受任が増加しています。交通事故も、弁護士費用保険の普及により、主として少額の損害を被った被害者の方からのご依頼が増えています。

 (2) 企業・団体の業務や経営上の法的問題に関する支援

建設工事に関する売掛金請求訴訟(原告側)を1件行っているほか(発注者が誰であるかなどを巡り、当事者が厳しく対立しています)、下請取引に関し、継続的取引を予定していた発注者が開始後間もなく取引を停止したため、受注者が発注者に損害賠償を請求する訴訟を行っています(原告側)。

企業内部の紛争では、「企業を勤怠不良で懲戒解雇された従業員が、いわゆる合同労組に加入し解雇撤回等を求める団体交渉を企業に求めた事件」で、企業側代理人として交渉等の業務を行いました(和解により解決)。

 (3) 債務整理と再建支援

高利の金融業者に対する利息制限法に基づく過払金の請求や引直残高が生じる場合の和解交渉、多重債務の方の自己破産、個人再生などの受任事件は現在も一定数ありますが、数年前までに比べると大幅に減少しました(個人再生はやや増加傾向にあります)。


岩手県内の企業倒産件数が過去最低レベルと報道されているように、全県・全国的に極めて倒産件数が少ない状況が続いていますが、本年3月に金融円滑化法が終了となるため、その後に金融機関の回収が厳しくなり、増加に転ずるものと一般的には見られています。


受任数自体は多くはないものの、建設業者の破産申立で利害関係人に様々な配慮をしながら申立をしたり、医薬品の取扱業者の管財事件で薬品類の取扱を調査するなど、特殊な論点の対処を含む案件処理を行っています。


震災被災者のローン問題に関する救済制度(私的整理ガイドライン)にも携わっていますが、利用件数の伸び悩み等から当事務所では数件程度の従事に止まっています。


企業倒産分野では、若干の破産申立・管財案件のほか、破産によらない清算等の処理なども行っています。

 (4) 事故等による被害の賠償等の請求や防御に関する支援

冒頭記載のとおり、交通事故の弁護士費用保険を通じて、被害者側での受任事件が増加しています。特に、物損のみで過失割合のみが争点となる事件を、保険利用で被害者に自己負担なくご利用いただく例が多いです。


人身被害では、事故の後遺症により事故まで従事していた職業を続けるのがほぼ不可能になった方について、通常の認定等級よりも高い割合の後遺症逸失利益を認めるべきと主張している事件を取り扱っています。

その他、PTSDが争点となっている事故などを取り扱っています。

最近では、医療過誤や保育・介護事故などに関するご相談・ご依頼を受ける機会もありました。

 (5) 個人(消費者)が交わす契約や社会生活を巡る法的問題の解決

建築士が顧客(施主)に設計監理委託契約に基づく報酬請求をしたが、顧客側が、建築士の対応に問題があり、契約不成立などを主張し争った事案」で、顧客側代理人として当方有利の勝訴的な内容で和解したほか、個人間の貸金等の回収、不動産の賃貸借に関する紛争などを取り扱っています。


また、不動産の購入後に問題が発覚したため、買主の方が不動産業者等を訴えた事件で、不動産業者が加入する宅建協会の保証金を通じて、賠償金の支払を受ける手続も行いました(岩手では前例のないケースだったようです)。


その他、不動産売買に基づく占有者への明渡請求訴訟(占有者の占有権原等が争いとなっているもの)などを手掛けています。

 (6) 家庭生活や親族関係、相続を巡る法的問題やトラブルの解決

離婚訴訟をはじめとする、不倫や暴力などを理由とする夫婦間の訴訟や配偶者の不倫相手に対する慰謝料請求の紛争及び不倫等に起因する男女間のトラブルや養育費などの問題(家事調停・審判事件)を多く扱っており、大半の事件では、当方の主張に沿う形での穏当な解決が得られています。


詳細は差し控えますが、慰謝料請求などに関し、事案の特殊性を強調するなどして、通常よりも有利な解決が得られたものも幾つかありました。


その他、遺産相続の処理、成年後見や相続財産管理人の申立、当職が後見人等となって事案処理を行う事件を扱っています。

 (7) 行政との訴訟、刑事事件、その他の業務

相続により亡父の滞納税金を承継した方が、自治体から違法な差押を受けたと主張し賠償等を求めた事件を担当しており、1審で勝訴したものの、2審で逆転敗訴し、現在、上告審の判断を待っているところです。逆に、県内の企業が入札対応を巡って自治体を訴えた事件で、自治体代理人として勝訴判決(棄却)を受けたものがあります。


刑事事件については、新人弁護士の激増等に伴い、多数の事件を扱っていた数年前に比べて件数が大幅に減りましたが、否認事件や少年事件(重大事件である一方、少年が共犯者の被害者的側面を強く有する事件でした)を含む若干の事件を手がけています。


その他の業務としては、昨年に引き続き、被災者支援の一環として、弁護士会の被災地向け相談事業に参加するなどしています(当職は、大船渡広域振興局などを担当)。

 (8) 備考

ところで、私は、他の法律事務所(弁護士)のHPやブログ等の閲覧が半ば趣味となっているのですが、未だに、「弁護士が、HPなどで、自身の主要取扱分野や過去の実績などに関し、守秘義務と両立する範囲で具体的な情報提供をする」という例は、ほとんど見かけることができません。

しかし、日記内で繰り返し書いていることですが、利用者の立場で見れば、「この弁護士は、他の弁護士と比べて、どのような仕事に経験が多いのか、特にどのようなアドバンテージ(優位性=依頼対象たる個別分野への能力等のほか、一般的な法的素養や研鑽の姿勢、人脈その他の業務に関連する付随要素、費用の詳細、自己との相性に関する要素なども含む)があるのか」について情報を見極めて、弁護士の選択(依頼の決定)をしたいはずであり、その点に関する情報開示の文化をもっと育てていく必要があるのではないかと感じています。

少なくとも、私が、医療であれ建築であれ何であれ、専門性の高い業務をどなたかに依頼したい場合には、上記のような情報を大いに欲するだろうと思います。

まあ、現実的には、そうした情報を得るのが難しいことなどもあり、多くの方と同じく、たまたま巡り会った方が信頼できる人であれば、とりあえずお願いしようということになりやすいとは思いますが…。

我が国には、弁護士に限らず、専門家商売(専門家への依頼)については紹介を重要視する文化、伝統が根強く、公開情報を見比べて利用者が主体的に専門家を選択していく文化は育っておらず、そのためのインフラも十分ではありません。

しかし、人間関係の希薄化だ無縁社会だ核家族だといった言葉をあれこれ挙げるまでもなく、紹介による適切な専門家へのアクセスについては色々と限界があり、少なくとも、「紹介」と「Web等による個別情報開示」の双方を車の両輪のように機能させていかなければならないのではと思っています。

私の上記のような試みについても、批判的に捉える同業の方は相当数おられるのでしょうが、そういったことも含め、弁護士という仕事のあり方などについて、この業界を巡る激動の時代の中で、生産的な方向で議論が深まってくれればと願っています。