五戸と菊駒へのいざない

少し前の話ですが、父の葬祭の最中に今度は青森県五戸町に在住の母方の伯父が亡くなったとの知らせを受け、私も一度は葬儀に出席すべきということで、先日、通夜に出席してきました。

私の母も五戸町の出身で、小学3、4年頃までは、半年に1回以上の頻度で母の実家を訪問し、当時は大家族であった実家の方々に可愛がっていただきました。

当時は、私は自分の生家(父方)にあまり居心地の良さを感じていなかったせいか、不思議なほど母の実家の方が、楽しかった思い出ばかりとの記憶があり、また、どういうわけか、子ども向けのテレビ番組について、母の実家で視聴した記憶だけが残っている(自宅で見た記憶がほとんどない)という不思議な感覚があります。

具体的に言えば、「ウルトラマン80」、「ザ・ウルトラマン(アニメ)」は五戸で見た記憶しかなく、ガンダムも五戸で見たときの記憶の方が鮮明に覚えているという有様です(黒い三連星の回だったせいかもしれませんが)。

幼少時、自宅のテレビは父が野球中継、祖母が時代劇(水戸黄門等)と横溝正史シリーズで占領していた記憶しかなく(後者は私も一緒に見ていましたが)、そうしたことも影響しているのかもしれません。

それはさておき、通夜の際には、予定時刻より少し前に到着したので、五戸の中心街などを少し自動車で散策しました。

私の場合、小学校高学年に達した頃には、母が私達兄弟を連れて実家に帰ることがなくなり(兄が中学に達したことが関係しているのか、その辺はよく分かりません)、それ以後、五戸に行く機会が全くなくなり、7、8年前に、青森地裁に一度だけ自動車で行った帰りに、高名な馬肉店(尾形)で馬刺を買って帰るため五戸を少し垣間見たという程度です。

が、改めて五戸の中心街を廻ると、私の子供の頃の風景がかなり残っており、また、二戸をはじめ岩手の主な市町村では薄れてしまった独特の香気というか、昭和の風情や気品を色濃く残しているものがありました。

五戸の中心部は斜面に沿って形成されており、最下部に五戸川と後記の菊駒酒造があります。岩手には、傾斜地に古い街並みが形成されている町自体が全くと言ってよいほど存在しない上(敢えて言えば花巻駅前付近くらいでしょうか)、県北などでは二戸のように旧街道沿いに一直線の街並みになっている場所が多く、斜面に密集するような形で中心部(旧市街)が形成され、今も一定程度は保全されている町は、北東北でも珍しい部類に入ると思います。

そうした意味では、古い街並みが好きな方にとっては、歩いて楽しい場所であると思います。中心部だけでなく、川原町を中心とする五戸川のエリアも独特の風情があります。

ところで、二戸に南部美人があるように、五戸には「菊駒」という日本酒(銘柄)を製造している長い歴史のある企業(現在は、菊駒酒造という会社名)があります。 http://www.kikukoma.com/

私の実家は酒類卸をしている関係で、成人後(司法修習の際や受験生時代の合宿時)に実家から日本酒を送って貰うことがあったのですが、その際は、二戸の酒である南部美人と、五戸の酒である菊駒の2つを送って貰っていました。

南部美人は、今やすっかりメジャーになったのでご存知の方も多いとは思いますが、飲みやすい酒で、とりわけ大吟醸は刺身や上品な和食と非常に相性がよく、日本酒に苦手意識のある女性の方なども安心して飲める酒だと思います(修習生の際には、クラスの方々への社交道具として、大いに重宝しました)。

他方、菊駒は、私の感覚では南部美人よりも重く力強い酒で、日本酒が心底好きな人に向いており、酒肴も、刺身などあっさりした上品なものではなく、塩辛や酒盗のような味の濃いものと非常に相性がよいと思います。修習生の際にも、そうした理由で自分は南部美人よりも菊駒の方が好きだと仰る男性もいました。

いわば、双方は個性が全く異なる好対照をなす酒であり、飲み比べながら双方とも大いに味わっていただきたい銘酒同士と言えると思います。

ただ、青森の方はご存知かも知れませんが、ここ十数年は順風満帆そのものの南部美人とは逆に、菊駒は、その間、協力関係にあった八戸のメーカーと紛争が生じるなど苦難の道を歩んできました。

私は経営者の方を存じているのですが、現在はその問題も終息し、長い歴史のある酒造家を継いだ若い真面目な社長さんを中心に、懸命に酒造りを続けておられます。

そんなわけで、二戸及び南部美人だけでなく、五戸及び菊駒も大いに贔屓にしていただければというのが、2つの街にルーツを持ち、2つの銘酒に浅からぬ縁を持って生きてきた私からの皆さんへのお願いです。