誤振込(過誤送金)事件の迅速・抜本的解決策としての預金凍結制度の切望について

犯罪被害者保護

山口県阿武町の誤振込事件では、送金受取人A氏の刑事責任と町側の責任ばかりが世間で話題になっており、最近では、A氏が送金した関係業者を通じて喪失金の大半の返還の目処がついたという報道も、地元の敏腕弁護士さんへの賛辞なども含めて拝見しています。

その報道が出るまで「お金の回収は無理ではないか」として、関係者の責任を問う声が大きかったと思いますが、銀行の役割(に関する制度のあり方)に言及する方を見たことがありません。

もし、誤振込が発覚した時点で、役場が銀行に通報し、既存残高を超える額については、一旦、払戻などの口座操作を不能とする措置を講ずることができれば、誤振込預金が保全され、A氏が拒否しても法的手続により返還が可能となります。

ただ、残念ながら、私の知る限り、単なる誤振込について送金者側の要請や銀行側の判断で預金の即時凍結を可能とする制度は、現時点で導入されていません。

TV等では仮差押に言及する方も多く見かけましたが、実務家の感覚では、少なくとも地方の裁判所なら、発覚から裁判所の命令まで、1ヶ月前後を要することが珍しくありません。

役場が弁護士に相談する等で数日、弁護士の準備に1週間前後、肝心の裁判所の審査に2週間前後を要する(最短でも1週間前後)ことが珍しくなく、日本の裁判官は本件のように急を要する事件でも「コレが足りない、アレができてない」などと、申立人=救済を求めてくる者に難癖を付ける自分達の役割だと思っている人種ですので(一部の善良な方々を除く)、あれよあれよと2週間以上を経てようやく発令=既に全額払戻で手遅れ=裁判所なんて何のために存在するのさ、という展開になりやすいです。

誤振込を行った役場担当者のミスなどは非難されるべきでしょうが、所詮、人間の作業ですから万能ではありません。核ボタンのように?1人では操作できないようにすれば予防が容易になるのでしょうが、人的資源として可能かという問題は避けられないはずです。

当事務所も、受任事件で依頼者や相手方などから受領する預り金の清算は(私が内容を確認するなどした上で)担当事務局が1人で行いますので、理屈上は誤振込(誤操作)のリスクが避けられません。このようなリスクを抱えているのは阿武町のお役人さんだけではなく、全国・全世界に当たり前に存在するはずです。

実際、著名証券会社のPC誤操作による巨額賠償訴訟=ジェイコム株事件=も、一昔前にありましたし。

というわけで、このような事件では、銀行が直ちに預金凍結を行うことが不可欠で、最高裁や刑事専門の法律家に任せるべき?A氏の刑事責任に関する法解釈云々よりも、迅速な凍結を可能・容易にする制度の導入にこそ、国民的議論を費やすべきではないかと考えます。

預金凍結に関しては、オレオレ詐欺が世間に知られるようになった頃、詐欺(組織犯罪行為)に起因して送金した口座については、被害者が弁護士等を通じて申告することで預金を凍結させる制度が導入されています。私は残念ながら?凍結そのものに関わったことはありませんが、当時(平成15~20年頃?)、その種の書式を見たことがあります。

なお、オレオレだけでなく闇金の利用(借入)による返済に対しても口座の凍結を認めるべきではないかという議論が当時あり、議論の到達点がどうなったか私も分からない(覚えていない)のですが、結局、ヤミ金では口座凍結は簡単には認めてくれない(オレオレのように、コテコテの犯罪行為でないと厳しい?)という展開になったような気がします。

ヤミ金被害に関しては、オレオレほどには「預金の凍結」(よく知りませんが、銀行側が嫌がるようです)に対する世間の後押し(支持)が得られなかったのかもしれません。

余談が長くなりましたが、例えば、

・一定額以上の高額な誤振込に関しては、送金行為者(役場)が誤振込であることを疎明する資料を名義人口座の銀行に提出する。

・銀行は(所定の判断基準に基づき)誤振込の疎明が確認できれば、直ちに、残高を超える額の払戻等を不可とする暫定的な凍結措置を行い、その上で、名義人(A氏)に通知する。

・暫定的な凍結措置の期限は2ヶ月程度とし、送金行為者は、最初の1~2週間で名義人との協議で解決できなければ、その間に仮差押の措置を講ずるものとする(最後は本案訴訟で決着)。

・名義人が凍結に凍結を述べ「誤振込ではないこと」の疎明資料(判断基準に耐えうる資料)を提出した場合、銀行は、自身の責任で凍結を解除するか、送金行為者に所定の担保を積ませた上で凍結を継続するか、いずれかを選択できるものとする(前者の場合、銀行が法的リスクを負うので、通常は後者が選択される)。

・凍結が継続する場合、名義人も凍結解除の仮処分の申立等を行い裁判所の判断を求めることができるものとする。

という形で、誤振込預金を簡易迅速に凍結し、散逸を防いで返還を実現する制度を速やかに構築すべきではないのか、というのが私見となります。

少なくとも、この程度の制度なら直ちに導入できると思いますし、こうした制度の不備ゆえに、巨額公金を無益に喪失すると共に、誤送金をしなければ犯罪者?にならなくて済んだはず?の人を犯罪者?兼返済不能債務者にさせ、つまらない?ミスを犯した人(役場の担当者など)にも甚大なトラウマ等や住民訴訟賠償リスクを生じさせたかもしれない、という視点は持つべきではないかと思います。

制度の導入は第一義的には議員さんなどの仕事なのかもしれませんが、裁判官に限らず、国民が働きかけないと何も行って下さらないことも間違いないのでしょうから、こうした事柄にも関心を持っていただければ幸いです。

弁政連岩手支部なども、候補者と雑談・・もとい懇談するばかりでなく、こうした話にも関心を持っていただければと思いますが、私が何を言っても・・(以下、自粛)。

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ところで、先日、好摩方面に仕事があり、玉山地区のA店で「DXナポリタン」を美味しくいただきました。

本当は、現場近くのB店に一度も行ったことがなかったので、最初、B店に行こうとしたのですが、最近発売されたばかりのゴー券にB店の名がなく、

「昨年のリストにはB店あったよね。昨年も、食べた翌週とかに追加掲載されたお店が何軒もあったんだよね・・なんだか今年も同じことになりそう・・」

と、みみっちい考えが脳裏をよぎり、数年ぶりながら、掲載されているA店の方に行かせていただきました。

ケチでビンボーって、こういうことさ。