北奥法律事務所

岩手・盛岡の弁護士 北奥法律事務所 債務整理、離婚、相続、交通事故、企業法務、各種法律相談など。

〒020-0021 岩手県盛岡市中央通3-17-7 北星ビル3F

TEL.019-621-1771

中小企業法務

久方ぶりの知財相談と田舎の顧問弁護士の未来像

先日、ある顧問先から商標権侵害に関する問題のご相談を受けました。さほど紛糾した問題ではなく一応の方針が出ている案件で、確認のための照会ということでしたので、私なりに検討した結果をお知らせして一旦終了となりました。

地域の大企業などに接点の乏しい田舎のしがない町弁をしていると、東京時代は相応にお話をいただいていた「企業法務」的なご相談にはめっきりご縁が薄くなってしまいますが、知財関係はその代表格のようなもので、商標権に関するご相談なんて最後に受けたのは一体何年前だろう?という感もあります。

もちろん、だからといってご相談に対応できないという訳ではありません。過去の経験もさることながら、商標であれ特許であれ著作権であれ、基礎的な勉強は多少はしていますので、常に「模範解答の即答」ができるわけではないにせよ、若干のお時間をいただければ、実務水準としては概ね問題ないレベルの回答ができることが多いだろうと自負しています。

私の場合、購読している判例雑誌について、地道な勉強の習慣として要旨のデータベース作りをしていますし、知財に限らず様々な分野の本を購入して積ん読状態になっていますので、判例を少し勉強した程度の分野のご相談を受けると、勉強したことをようやく生かせるとか、数年前に購入した本達の出番がようやく来たということで、机に本を山積みにして喜々として調べるという面もあります。

今回も、顧問先からメールで関連資料や事情説明に関する書面の送信を受け、電話では簡単なご説明をした上で、文献や判例なども踏まえ、自身の勉強も兼ねて、ある程度、詳しい内容の文章を書いてお送りしました。

当事務所サイトでも表示している「月額3000円」(税別)の顧問先ですので、滅多にご相談を受ける機会もないとはいえ、さほど売上や収益のある業務ではありません(所定時間を超えると別料金をお願いするルールですが、単なる勉強時間について加算するのは難しいですし)。

それでも、こうした形で様々な分野を手掛けることができれば、田舎の町弁をしていると時折襲ってくる「取り残され感」から少しは解放されるような思いもあって、有り難く思っています。

岩手に戻って間もない頃には、盛岡市内の企業さんから著作権侵害に関する賠償問題について受任したこともあったのですが、知財については悲しいほどご縁が薄く、東京時代の独立直前の頃、商標や著作権絡みの訴状を書いたのが懐かしい思い出という有様です。

2、3年前までは日弁連の主導?で作った「弁護士知財ネット」にも加入していたのですが、ご相談等も全くない状態が続いたため、経費削減の必要から辞めてしまいました(倒産ネットは今も続けていますが)。

こうした有様と対照的に、ここ数年は、個人間(親族や知人など)の積年のドロドロした感情のぶつかり合いの果てに訴訟に至る事件のご依頼が多く、時に、当事者の強烈な負の感情やそこに至る残念な物語が私自身の身体にヘドロのように流れ込み、のたうち回るような思いに駆られながら書面を書くことも珍しくありません。

それだけに、感情的な対立が希薄で、相応の勉強を重ねれば一定の答えが出せるような「ライトな企業法務」のご相談に、清涼剤に接するような感じもあって、今後も「相談して良かった、また頼もう」と思っていただけるよう精進を重ねていきたいと思っています。

ところで、ネットで少し調べると、最近は当事務所と同様に月3000円程度の顧問契約を宣伝する法律事務所も増えているようです。当事務所に関しては、5年ほど前にこの方針を打ち出した際、当初は有り難いことに数件のご依頼をいただいたものの、ここ2、3年は新規のお話をいただけておらず、悲哀を託っているというのが正直なところです。

そもそも、顧問弁護士という存在ないし方式自体が、廃れゆく文化なのかもしれないと感じる面はありますが、メール・電話のみでのご相談を受け付けるのは顧問先のみというのが一般的でしょうし、冒頭のご相談をいただいた顧問先も、盛岡から遠く離れた自治体に所在する企業さんであり、来所せずに済ませるという点(ご担当の時間の節約など)でも、意義があると思います。

そうした「頻繁ではないが時折メールや電話で相談をしたい」という需要がある企業さんにとっては、それなりに利用価値のある方法だと思いますし、時に、聞かれたことだけでなく、事案に即して他の点も留意して下さいねとお伝えすることもあります(それだけに、顧問先の方々には、問題が起きてからご相談というだけでなく、返答や検討の有無に関わらず、現在携わっておられる業務に関する様々な情報・資料などを随時、ご提供いただければという気持ちもあります)。

それらのリスク対策やセカンドオピニオンなども含め、地方の小規模な企業・団体さんなどにも、弁護士の活用のあり方について前向きに考えていただきたいところですし、普及し始めた「少額の顧問契約」というスタイルは、それを支えるインフラとして、意義があるのではと感じています。

もちろん、私自身が、実力と磁力の双方を身につけることが先決というべきでしょうから、今は「ドロドロ系の事件」をご依頼いただいている方々に感謝し、のたうちまわりながら研鑽を積みたいと思います。

企業の再建と倒産の狭間に揺れる「いのち」達と弁護士

前回に引き続き、旧ブログで中小企業家同友会の行事に参加した際の感想等を述べたものについて、あと1回、再掲することにしました。

************

平成24年11月8日に、企業再建で有名な村松謙一弁護士の講演会が岩手県中小企業家同友会の主催で行われ、参加してきました。

田舎の町弁をしていると、企業の破産については申立代理人であれ破産管財人であれ、大小様々な案件を取り扱っていますが、企業の民事再生については様々なハードルのためか申し立てられる件数が少なく、私の場合、何年も前に申立代理人と監督委員を各1度だけ経験できたのみで、なかなかご縁がない状態が続いています。

まして、法的手段(民事再生)に依らざる企業再生、なかんずく金融機関等への救済融資などを求める交渉は、田舎の弁護士には滅多にご相談を受ける機会がなく、必然的にノウハウを培う機会にも恵まれません。

そこで、そうした論点に関する実務上の工夫などを少しでも伺うことができればと淡い期待を抱いて参加したのですが、NHKで既に2回くらい見ていた「プロフェッショナル」の番組が講演中にノーカット?で放映された上、番組で取り上げられていた企業の方に関するエピソードや倒産・再建実務を巡る理念的なお話が中心で、残念ながら、そうしたノウハウ的なことは取り上げられなかったように思われます。

まあ、弁護士向けの講義ではなく中小企業の経営者の方々向けの講演でしたので、どうしても理念的、総論的な話が中心となるのは致し方ないことなのかもしれませんが。

************

それはさておき、村松先生が、企業倒産を巡る現場では、経営者が自死に身を委ねてしまう場面が非常に多いことを、ご自身の経験をもとに具体的に語られ、それだけは絶対にいけないのだと強調されていたことが、講演では最も印象に残りました。

私も、事件当事者のご家族にそうしたご不幸があったというお話を伺ったことが何度かありましたので、そのことを思い返してみましたが、私の場合、これまで実際にお話を伺ったのが3回で、いずれも従業員10~20名前後の小規模な企業の倒産が関わっている事件でした。

1件は、破産管財人を務めた県内の企業で、資金繰りに苦しむ状況の中で、高齢の社長の後継者で実務を担当していた息子さん(常務)が自死し、生命保険金の大半を運転資金に用いたものの、すぐに行き詰まり破産申立に至った事件。

1件は、同様に破産管財人を務めた県内の企業で、同様の状況下で熟年の社長さんが自死し、同じような経過で破産申立に至った事件。

1件は、申立代理人を務めた県内の企業で、数年前に創業者である社長(お父さん)が自死し、その際の生命保険金などで資金繰りを凌いできたものの、万策尽きて破産申立に至った事件。

私は平成12年から弁護士をしていますが、過労自殺など自死が関わる他の類型のご依頼を受けた経験がないこともあり、携わった事件に関連して当事者の方に自死があったというのは、この3件だけではないかと記憶しています。

その経験だけで一般化することはできませんが、企業経営に携わっている方々が、自死という問題に晒されるストレスやリスクを少なからず背負っていることは、もっと知られてよいことではないかと思います。

また、自死ではありませんが、「創業者(父)が亡くなった後、経営を引き継いだ兄が、資金繰りに困って、精神障害者(成年被後見人)である弟の預金(数千万円)を横領して運転資金に宛てたため摘発された事件」を扱ったこともあります。その事件では、横領したお金で取引先や従業員への支払を完済したそうですが、兄はあまりにも大きい代償(1審実刑判決)を払うことになりました。

敢えて尋ねませんでしたが、倒産を余儀なくされた場合でも、少なくとも労働者の賃金については8割相当の立替払制度がありますので、もし、その制度の利用で最低限の納得が関係者から得られるのであれば、倒産処理の途を選んでいただくべきではなかったかと悔やまれます。

************

企業の経営者は、様々な責任感に押し潰されそうになる思いを余儀なくされることが多々あると思いますが、ご家族などを悲しませる行動にだけは及ぶことのないよう、孤独の淵に沈むことなく賢明に対処していただきたいと思わずにはいられません。

経営者にとって企業はご自身の子供のようなものだというお気持ちは、私も零細企業の経営者の端くれとして多少とも存じているつもりですが、そうであればこそ、「お子さん」が自らの力で生き続けることができないほど症状が悪化した場合には、終末期医療や葬儀を担当する弁護士という存在を適切にご活用いただき、最後を看取っていただくべきと考えます。

少なくとも、ご自身を投げ打ち「お子さん」の命を救おうとしても、残念ながら無理心中にしかならない可能性が高いという現実は、ご理解いただく必要はあると思います。

もちろん、投薬や手術で治療が可能な場合には、そうした面でも、弁護士を活用いただくと共に、再建関連法制の様々な使い勝手の悪い部分の改善にご協力いただければと思っています。

余談ながら、先日、士業向けに「中小企業経営力強化支援法に基づく経営革新等支援機関認定制度」が導入され、私は、(当時は)岩手県で認定を受けた恐らく唯一の弁護士ということになっています(といっても、興味を抱いて申請を出したのが私だけだったという程度の話で、特別の選抜をされたなどという類の話ではありません)。

どれだけ意味があるかよく分かりませんが、そうしたものも活かした形でお役に立てればと思います。

************

ところで、上記の3つの自死事件は、いずれも死亡後に会社に生命保険金が支払われているようです。

10年以上前に、会社が従業員を被保険者として生命保険を契約し従業員が不慮の死を遂げた際に高額な保険金を受領することが社会問題視されたことがあったと記憶していますが、会社役員について同様の事態が生じた場合の当否については、議論があるのか存じません。

思いつきレベルで恐縮ですが、役員を被保険者、会社を受取人とする生命保険は上記のような弊害が大きいので、原則的には禁止すべきではないかとも思われます。

少なくとも、自死の場合でも保険金を受領できる契約にあっては、ご家族のみを受取人とするなど、弊害防止のための措置が講じられるべきではないかと思いますが、現在の保険実務はどのようになっているのか、ご存知の方はご教示いただければ幸いです。

中小企業家同友会の講義と企業経営という「地味な憲法学」の現場

数年前から岩手県中小企業家同友会に加入していますが、先日は11月例会があり、参加してきました。

今回は、広島県福山市で㈱クニヨシという鉄工所(船舶、道路、航空機などに用いる各種備品などの製造業)を経営する早間雄大氏の講演があり、厳しい状態にあったご実家の小さな鐵工所を短期間で大きく躍進させた企業家の方に相応しい大変エネルギーに溢れた講演で、大いに参考になりました。

同友会の例会は、1時間強の講演の後、休憩時間を挟んで、1時間弱の時間を使って、中小企業の経営のあり方などについて特定のテーマを与えられ、6人前後のグループでディスカッションして最後に各グループの代表が発表するというスタイルになっていますが、今回は早間氏から「自主、民主、連帯」というテーマで議論せよとの指示がありました。

で、私のグループでは、数人ないし十数人の従業員さん(同友会では、必ず「社員」と呼びます)を擁する企業や事業所の経営者や管理職の方がいらしており、例えば、「自主とは、自分をはじめ各人が、業務の従事者として必要十分な仕事を進んでできるよう身を立てること」、「民主とは、社員全員が、真っ当な従事者として行動できるような会社づくりをして、それを前提に社員一丸となって企業のよりよいステージを目指すべきこと」、「連帯とは、それらの積み重ねを通じて、社会全体に価値を提供し増進すること」といったことなどが、各人の業務や社内外の人間関係に関する経験談などを交えて、それぞれの言葉で語られていました。

法律実務家としては、そうしたお話を伺っていると、憲法学のことを考えずにはいられない面があります。

どういうことかといいますと、司法試験で憲法の勉強をはじめた際に、個々の制度や論点を学ぶにあたって、「自由主義(各人の人権と人格の尊重)」と「民主主義(多数派の合理的判断)」との対立と調和という視点を意識するようにという話を最初に教わったのですが、「自主と民主」という話は、それと通じる話ではないか、また、「連帯」は、憲法学的に言えば現代の福祉国家現象(広義の公共の福祉の増進のための国家や社会の役割の増大)に通じるのではないかと感じました。

憲法学は、「普通の町弁」にとって司法試験合格後はほとんど接する機会のない学問で、私の理解も十分なものではないでしょうが、今回の講義や討議は、「一人一人の多様かつ尊厳ある自由と、多数決などを通じた国家や集団による統一的な意思決定システムとの対立と超克を通じて、社会の健全な発展と人々の幸福(広義の公共の福祉)を目指すべき」という日本国憲法の基本理念を、中小企業の運営のあり方(苦楽の現場)を通じて学ぶといった面もあるのではと感じました。

以前、JC(青年会議所)が掲げているJCIクリード(綱領)について、日本国憲法との類似性を詳細に記載したことがありますが、私の場合、時の政権への反対運動のような憲法論やその逆(戦前回帰云々など)の運動といった類の「派手な憲法学」よりも、個々の現場での地道な日本国憲法の実践を感じる営みを発見、発掘し、私自身がその現場にどのように役立つことができるかを考える「地味な憲法学」の方が、性に合っているような気がします。

ところで、同友会の例会は「成功している社長さんによる創業から現在までの谷あり山ありの経験談を、社員さんとの関係づくりを中心に伺う」のが典型となっていますが、数十人~百人規模の企業の運営と、弁護士一人・職員僅かの法律事務所の運営や弁護士の業務を重ねるのは難しく、どのようなことを例会で学んだり討議で話したりするのが良いのか、今も試行錯誤というのが正直なところです(また、恥ずかしながら、私に関しては「本業の営業」には滅多に結びついていません)。

ただ、この仕事をしていると、中小企業の経営者や管理職の方から、実際に生じた事件、問題について様々なご相談を受けることはありますが、紛争とは離れた普段の中小企業の実情や経営者等の意識を学んだり肌で知るという機会は滅多になく、こうした場に身を置くことで、今後のご相談などにも深みのある対応ができる面はあるのでは、さらには、「顕在化していないニーズ」などを先んじて見極めて提案できるといったこともあるかもしれないと信じて、なるべく参加していきたいと思っています。

早間氏の講演でも、「営業しなくても仕事がやってくる企業や指示待ちではない社員の育成」、「企業の強み(専門性)を生かしながら幅広い業界のニーズに応える努力」といったことが強調されていました。

田舎の町弁業界は、数年前までは営業しなくとも仕事がやってくる典型的な寡占商売(極端な供給不足)の世界でしたが、それが様変わりした今こそ、多くの競争相手がいても本当に「営業しなくとも仕事がやってくる弁護士」になるため、考え、実践しなければならない課題があまりにも多くあるというべきで、今回の講義も、その糧にしていかなければと思っています。

会社の後継経営者の選定問題に端を発する兄弟一族間の支配権紛争

先日、盛岡北ロータリークラブの卓話(ミニ講義)を担当することになり、標記のテーマで、同族企業内で数年間に亘り多数の訴訟闘争が起きた実際の事案についてご紹介しました(もちろん、守秘義務の範囲内ですが)。

卓話後にクラブ広報に載せる原稿も作成して欲しいとのご指示があったので下記の文章を作成したのですが、ご了解をいただき、こちらにも掲載させていただきます。

今回は、20分しか時間がないこともあり、駆け足の事案紹介だけで終わってしまいましたが、もともと、10年近く前に岩手大学で講師を務めた際の講義のため作成したものであり、1~2時間程度をいただければ、紛争の内容に関する本格的なお話もできるかと思います。

県内の中小企業さんの経営者団体などで、こうした話を聞いてみたいという方がおられれば、一声お掛けいただければ幸いです。

************

今回は「父が創業した会社を引き継いだ兄弟が、互いに協力して大規模な企業を育て上げたものの、どちらの子を後継者とするかに端を発して不和になり、従業員取締役の支持を得て主導権を握った弟側が兄側を経営陣から追放したため泥沼の紛争が生じ、多数の訴訟が起きた事例」をご紹介しました。

本稿では、当日の卓話を踏まえつつ、お伝えできなかったことなどを含めて記載します。

当日は、次の項立てで、私が平成13年頃に東京で従事した事件の内容を抽象化してお伝えしましたので(それでも、事案説明だけで数頁になります)、欠席された方でレジュメをご覧になりたい方がおられれば、私までご連絡下さい。

第0 株式会社などの支配権確保や意思決定に関する基本的ルール
第1 事案の概要
第2 会社の支配権の当否を巡る裁判(会社法上の訴訟)
第3 経営から放逐された側から放逐した側に対する賠償請求
第4 関連して生じた紛争について
第5 教訓ないし内部紛争の予防に関する視点

紙面の都合上、事案の詳細(若干の脚色等をしています)は省略しますが、要するに、特殊な製品を取り扱う甲社をはじめ企業グループ4社(従業員数百名規模)を作り上げた兄X1(社長)と弟Y1(専務)は、対等に経営する見地から同一比率で株式を保有し(但し、X1・Y1のほか、甲社の株式の一部を乙社が持ち、乙社の株式の一部を丙社が持つなどしています)、両者の合意がないと企業グループ全体を経営できない仕組みを作ってきました。

両名は、昭和62年に、互いの子X2・Y2を中核企業の甲社に入社させ、数年内に取締役、その後に二人とも代表取締役としてX1・Y1と交代する旨を合意しました。

そして、社長もY1に交代し、X2・Y2も入社しましたが、数年後、甲乙各社の従業員取締役がY1支持の姿勢を示したため、Y1は約束を反故にして、平成9年頃から甲社・乙社の株主総会でX1とX2の取締役再任を拒否し、X側を甲社らの経営から追放してしまいます。

これに対し、X側は、合意違反を理由に、株主総会決議の取消等やY1に対する巨額の損害賠償を求める訴訟を提起すると共に、対抗措置として、株式持ち合いの根幹に位置する丁社の取締役会で、特殊な手法によりY1を解任する決議をしました。これに対し、Y1はその決議が無効だと主張しX側に訴訟提起しています。

また、これに関連して、Y側が、乙社が有する甲社の株式をY1の知人に譲渡する出来事があり、X側が、当該譲渡は無効だなどと主張する訴訟や株主代表訴訟も起こしました。

レジュメで省略した訴訟や仮処分なども含め、10件以上の泥沼の訴訟闘争を数年間に亘り繰り広げたのです。

この事件では、結局、X側が起こした訴訟は全て退けられ、丁社に関してX側が行った決議も法律違反だとして無効となり、Y側の全面勝訴という展開になりました。

中心となる訴訟の最中には、XY間で企業分割などの協議も行われたものの不調に終わり、私が関与していた期間(平成15年頃まで)は、従前の株式の持ち合い状態のまま、従業員サイドの支持を受けたY1がX側を排除して甲社らの経営権を保持する状態が一貫して続いていました。

そのため、X2は甲社グループとは別に、一部の元役員の方と共に同種企業を他に設立し、現在も活動を続けています。

他方、Y2はY1の社長職を承継せず平成15年頃には経営陣から姿を消し、現在は別の方が社長となっています。

正確な理由は分かりませんが(訴訟内では、Y側の方針として同族経営を止めたいとの発言はありました)、XY双方とも自身の子に経営を託すことができない事態になったわけです。

精緻な持ち合い構造を作っても泥沼の対立劇が生じることや、株主間合意だけによる経営権確保の限界、従業員取締役の支持が死命を制することになったことなど、企業経営に携わる方には学ぶところが大変多い事案です。本来は、裁判所の考え方を含め、2時間以上かけてお伝えすべき事柄ですので、もし、他団体の会合などで改めて話を聞きたいとのご要望がありましたら、お声をお掛けいただければ幸いです。

最後になりますが、こんな日に限って?メイクアップで出席された吉田瑞彦先生(盛岡西RC前会長。日頃より大変お世話になっております)から、机を叩いて「異議あり!」コールを受けたらどうしようと恐怖していましたが、暖かく見守っていただき、安堵しております(笑)。

 

会社分割に関する基礎知識

先日、ある会社さんから、会社分割を検討しているので、基本的な知識ないし枠組みなどを教えて欲しいとのご相談を受けました。

会社分割は、倒産絡み(詐害行為問題)など幾つかの裁判例の勉強を通じて関心を持っていましたが、仕事上お付き合いさせていただいている「規模の大きい企業さん」の数が多いとは言えない田舎の町弁の悲しさで、これまで会社分割に仕事で関わることが皆無に等しく、数年前に購入した実務書も埃を被った状態でした。そこで、貴重な勉強の機会を頂戴したと受け止め、書籍のうちご相談に関係する部分を一通り読んでご説明したところ、必要に応じて改めてご相談いただくというご返事をいただき終了しました。

会社分割は、大きく分けて、他社による吸収合併等が伴う「吸収分割」と、それが伴わない「新設分割」の2つの類型があり、そのご相談は、新設分割を目的とするものでした。

新設分割をする場合、おおまかな手続としては、

①会社法所定の分割計画書等を作成し、取締役会や株主総会の承認を得ること

②労働者に関し、新設会社への雇用承継や分割会社(本体)への残留者が生じることなどから、労働者(組合又は代表者)と協議する(了解を得る)こと
(会社分割に関する労働契約承継法に基づく通知等の手続を要します)

③債権者や株主のための公告等


などを行った後、分割に関する登記(新会社の設立登記)を申請することになります。

なお、上場企業など企業規模が大きい場合には、独禁法絡みの手続があります。また、新設会社の承継資産が分割会社の資産の1/5未満であれば、株主総会の承認を要しないとする手続もあります。

会社分割に関して紛争が生じる典型例は、次の2つではないかと思われます(少なくとも、会社分割に絡む裁判例は、この2類型に集中しています)。

①経営が行き詰まった企業が、不採算部門を分割会社に切り離して(或いは、優良資産を新設会社に移して)債権者に無断で不良債権処理しようとする(その結果、債権者=金融機関から様々な訴訟を提訴され紛争となる)ケース(紛争予防のためには、不採算部門の整理などを含む事業再生などについて金融機関と十分に協議をする必要があるとされています)

②労働問題(労使紛争など)を抱えた企業が、解雇等を希望する従業員を、解雇可能性の高い不採算部門に承継又は残留させたため、不満のある従業員から地位確認等請求訴訟などを起こされるケース

裏を返せば、そうした問題を特段抱えているのでなければ、粛々と手続を進めることができるのではないかと思いますが、実際に手続を進めて行くにあたっては、分割の目的を明確化させると共に、分割という手段ないし手続が、その目的に合致しているか(阻害していないか)について、多角的分析する姿勢が、担当する弁護士等はもちろん、経営者側にも強く求められるのではないかと思います。

冒頭記載のとおり、私自身に会社分割に携わった経験がなく、また、県内の弁護士で、この手続に関与した経験がある方が多いとも思えませんので、スムーズに手続を進行する上では、弁護士に限らず、適切な経験のある方(紛争性のない一般的な分割案件であれば、登記の関係で関与した経験のある司法書士の方は県内におられるのではと思います)に相談いただいてもよいかと思われます。

もちろん、当方も、文献等に基づいて、分割計画書のベースなど、一定の書面の作成や手続に関するご説明などをすることは可能ですので、会社分割に限らず、必要に応じ、ご相談、ご連絡いただければ幸いです。

名誉毀損のネット投稿に関する責任追及など

インターネット上で名誉毀損となる投稿がなされた場合、一般的には、サイトの運営者に対し投稿者のIPアドレス等の開示を求め、その開示を受けた後、IPアドレス等から把握できる「投稿者が契約しているプロバイダ(経由プロバイダ)」に対し、投稿者の住所氏名等の開示を求めるという方法を取るべきものとされています。

これは、いわゆるプロバイダ責任制限法に基づく手続なのですが、実際には、サイトの運営者が任意にIPアドレス等の開示請求に応じないことも多く、その場合には、裁判所に対し、その運営者を相手方として、IPアドレス等の開示を求める申立を行い、その命令をもとに強制的に開示させる以外には、手段がないと思われます。

ただ、その場合には、サイトの運営主体をどのように把握するか、その住所等(申立書の送達先)をどのように調査するか、管轄等はどうなるか、仮処分命令がなされたとして、運営者が現実に従うのか(従わないとして、強制的に開示させるには、どのような方法を講じることができるのか)といったハードルがあり、この制度も、決して万能ではありません。

そして、私の知る限り、この点が顕著な壁となって生じるのが、インターネット掲示板「2ちゃんねる」ではないかと思います。

5年以上前のことですが、2ちゃんねる上に名誉毀損の投稿をされたという方から、投稿者を特定して責任を問いたいという趣旨のご相談を受けたことがあります。それまで、この種の問題を扱ったことはありませんでしたが、当時、2ちゃんねるの投稿被害が社会的にも多いに問題となっており、盛岡に、その問題を専門的に扱う方がいるという話も聞いたことがありませんでしたので、お役に立てればとの思いで調査等をお引き受けして色々と調べるなどしたのですが、結局、上記の壁(ちょうど、2ちゃんねるの運営が創業者の西村氏からシンガポール国籍の会社に譲渡されたなどという報道が飛び交っている時期で、その点でも幾つかのハードルがありました)にぶち当たり、当方では対応困難として、お断りせざるをえませんでした。

その後、平成25年に2ちゃんねるなど各種の掲示板での名誉毀損の投稿に対する削除及び発信者情報開示請求の手続について詳細に記載した書籍が出版されており(中澤佑一「インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル」)、同書には、平成25年当時における2ちゃんねるへの発信者情報の取得のための仮処分の申立等の方法(シンガポール国籍の会社を相手方とする申立の方法や必要書類の取得方法など。なお、法務局に納付を要する供託金は30万円とされています)及び仮処分命令に基づく2ちゃんねるのサイトへの発信者情報の開示請求の手続などについて、詳細に説明がなされています。

ただ、さきほど、2ちゃんねるのサイトを確認したところ、現在、同サイトの管理会社として、上記会社とは別の会社(ネット情報では、フィリピン国籍と表示しているものもあります)が表示されており、現在も、2ちゃんねる絡みの投稿問題で発信者情報の開示請求を行う場合には、当事者の特定や所在などで厄介な論点が存するため、上記の問題を取り扱って成果をあげた、限られた弁護士でないと対応が困難ではないかと思われます。

私に関しては、その後に2ちゃんねるの投稿問題に関しご相談を受ける機会はなく、社会的にも、2ちゃんねるに関しては、当時に比べれば沈静化した面はあるのではないかと思っていますが、違法行為(名誉毀損投稿)の温床になっている社会的存在(2ちゃんねる)が、当事者の特定や所在などという、法的責任を問うための事実調査のレベルで大きな困難を伴い、結果として権利保護(被害者から投稿者=加害者への責任追及)が困難になるというのは望ましくないことは明白で、上記の壁をクリアできるような、何らかの立法的解決を要するのではないかと思います。

例えば、名誉毀損投稿が頻発しているようなサイトについては、消費者庁が指定して、サイトの運営者は被害者から削除や発信者情報開示の請求がなされた場合には直ちにこれに応じることができるシステムを構築しなければならない(その認証等を受けなければ、サイトの閉鎖命令に応じなければならない)とするような特例法を考えてもよいのではないかと思っています。

病院でのストライキに関する労働者と企業や利用者の利害調整

病院の従事者(看護師など)が組織する労働組合が予告したストライキの差止を求める仮処分を行った病院が、労働組合から不法行為を理由に賠償請求をされ、その訴えが認められた例津地判H26.2.28判時2235-102)について少し勉強しました。

事案の概要等は次のとおり。

従業員148名の大半が労働組合X1の組合員となっている内科・精神科の病院Yで、非組合員への規定外の手当支給(いわゆるヤミ手当)が発覚した。そこで、X1が上部組織X2と共に団体交渉を要求したところ、Yから納得いく回答が得られないとして、Xらがスト決行を通告した。これに対し、Yがストの差止を求める仮処分の申立をしたところ、無審尋で認容された。そのため、Xらはこれに従いストを中止した上で、Yの仮処分申立が不法行為に該当するとして、計1100万円をYに請求した

裁判所は、ストライキ実施に至る経緯(Yが義務的団交事項にあたる各問題についてXらとの団交で虚偽の返答を繰り返したと認定)やスト通告の態様(Xらが保安要員の提供を申し出るなど患者の安全確保に相応の配慮を示したこと)を理由に、Yにはストの差止請求権は認められない=仮処分申立は違法と判断しました。その上で、Yの過失が推認される(上記の増額支給問題の追及を封じる目的の申立だと推認)として、計330万円(X1・X2に各165万円)を認容しました(但し、控訴中)。

何年も前ですが、私も医療機関における労働紛争に企業側代理人として関与したことがあり、その事件では、私が介入する数年前に、組合が徹夜に及ぶ団交の紛糾を理由に経営側にストを通告したものの、経営側が組合の要求の多くを受け入れてストが回避されるという出来事があり、その際に高齢の経営陣が多大な心労を負ったという話を伺ったことがありました。

その件では、経営サイドの方は「組合は保安要員の提供を拒否した」と説明しており、これが相違ないのであれば、上記事件と異なり、仮処分の申立をしても違法とは言えないとされるかもしれません。ただ、当方がその件を指摘したところ、組合側は提供拒否はしていないなどと主張して事実関係を争っていたような記憶もあり、その種の問題が生じた事案では、そうした紛争の決め手になった「肝」にあたる問題については、何らかの形で事実経過に関する証拠を残しておくべきということになるでしょう。

本件のように、労使の見解が鋭く対立した結果、本体的な労使紛争に派生して法的紛争が生じることもありますが、労使紛争の態様・経緯など(本体の紛争でどれだけ正当性があるか)が大きく影響することは確かでしょうから、紛争対応を受任する弁護士としては、事実関係の把握と評価に誤りがないよう、心がけていきたいと思います。

広告業界に関する契約慣行と契約書なき下請受注のリスク

今週末に、デザイン(広義の商業広告)の仕事に携わる方々によるイベントが盛岡市内で行われるそうです。
http://morioka.keizai.biz/headline/1736/

私は、岩手に戻ってからはこの種のお仕事をされている方と関わる機会に恵まれていませんが、東京時代(10年以上前)には、一度だけですが、大手広告代理店から受注した商品カタログ等の制作に関する代金支払を巡る、厄介な紛争に関与したことがあります。

あまり具体的なことは書けませんが、かつて一世を風靡した某有名CMも制作したという広告デザイナーの方が、勤務先をリタイアした後に手がけた仕事で、ある分野では著名なメーカーから某大手広告代理店を通じて商品カタログの制作を受注し、仕事自体は問題なく完了したものの、代金の支払を巡って関係がこじれたという案件でした。

そして、その方が、制作に参加した関係者(孫請側)からは未払代金を請求される一方、元請側(広告代理店)からは契約関係を否定するなどして支払拒否されるという事態になり、元請側、孫請側それぞれと裁判をしなければならなくなり、その訴訟を受任した事務所の担当者として、2年ほど悪戦苦闘を続けたという次第です。

その方は、センスのある広告を仕上げる力量はある方なのですが(その方が抜けた後に作られた同じ企業のカタログを見せられ、素人でも品質の差が分かりました)、制作畑のご出身のためか、「お金(の範囲や流れ)」の話に詰めが甘いところがあり、それが紛争の主たる原因となり、「契約当事者(元請からの受注者)が誰なのか」など、難しい論点に直面して立証に難儀したのをよく覚えています。

その裁判で、ジャグダというデザイナーの方々の団体や、「クリエイティブディレクター」という職業がこの世に存在することを初めて知りましたが、その後、クリエイティブディレクターの第一人者というべき佐藤可士和氏の活躍をテレビなどで拝見したり、この記事のように広告絡みの話題に接する都度、その事件のことを思い出さずにはいられない面があります。

その事件では、大手広告代理店の代理人も、「この事件のように、広告業界では(一千万以上の金額が動く案件でも)契約書を作らないのが実情だ」と述べており、それが本当にそうなのか、そうだとして現在も続いているのか、存じませんが、合意の内容が曖昧だと、紛糾した際に、制作(下請)側の方ほど割を食う面が生じやすいことは間違いないと思います。

そうした意味では、少なくとも、大きい金額が動くなど潜在リスクが相応に存する案件では、弁護士に事業スキームを説明いただき、幾つかの事態を想定して適正なリスク分配を行う趣旨の契約書や合意書などを取り交わすことを励行していただきたいものですし、そのことは、広告業界に限らず、下請受注一般に言えることではないかと思います。

併せて、岩手県でデザイン業界に従事する方々から、現在、そうした事柄がどのように取り扱われているのか、お聞きする機会があればと思っています。

弁護士の「融資支援」の現実と理想

前回の「中小企業支援」に関する投稿の続きです。

先日行われた日弁連主催の中小企業支援に関するキャンペーン会合の際には、日弁連作成の15分ほどの宣伝ビデオが上映されていたのですが、普通の町弁の立場から見ると、首を傾げたくなる部分が幾つかありました。

ビデオは、飲食店を開店した方が、銀行融資や取引先との交渉や信用調査、社内問題、事業の一部閉鎖や事業承継などの論点が生じる都度、特定の弁護士に相談して書面作成や交渉などのサービスを受けて会社規模を拡大・発展させていったというもので、要するに「裁判以外でも弁護士は色々な仕事ができるので、頼んで下さい」とPRする内容でした。

例えば、冒頭あたりに、社長さんから「銀行から融資を断られたので支援して欲しい」という相談がされ、弁護士が、事業計画書(その事業の収益性=返済能力をアピールするための書面)を作成としそれを前提に融資を銀行に了解させたという話が取り上げられたのですが、現時点でこれ(融資支援)を典型として取り上げるのは止めた方がよいのではと思いました。

というのは、一般の方でもイメージし易いと思いますが、銀行への融資依頼(交渉)などという業務を実際に(特に、日常的に)手がけている弁護士は企業再建で有名な村松謙一先生のような限られた方に止まり、私を含む大半の弁護士にとっては日常的に行っているものでなければ研鑽を積みノウハウを得る機会が与えられたこともなく、それを依頼する方(との出会い)も、まずないといってよいと思います。

企業経営者の立場で考えても、収益性=企業のカネに関わる話の依頼先として想定し易いのは、その事業に知見のあるコンサルタントであるとか、経営コンサル絡みの仕事もしている税理士さんなどではないかと思います。

そのため、「弁護士が融資支援が出来る」というのであれば、具体的な手法や実施状況などを明らかにするなどして「弁護士が現実に融資支援ができること」を認知を高める必要があるのだと思います。

当然、そのためには、受任する弁護士がその種の業務を現実にこなすことができるだけの一定の能力の担保(常に実現できるわけではないでしょうが、専門家として一般的に求められる業務の質の確保)が図られなければならず、そのためには、研修的なものだけでなく、一定の頻度で現実にその業務に携わることができる機会を確保させなければならないと思います。

債務整理との比較で言えば、私が弁護士になった平成12年当時、すでに東京弁護士会などが多くの論点に対処するための内容を書いた書籍を刊行すると共に、新人でも直ちに多くの事件を受任し研鑽を積めるだけの現実に膨大な需要及び依頼者とのマッチングの場(弁護士会のクレサラ相談センター)がありましたので、それらの条件を全く満たしていない「融資支援」とでは、あまりにも大きな違いがあります。

そもそも、(ごく一部の著名専門家を除き)弁護士が融資支援に従事する実務文化がないという現実は否定し難いと思いますので、まずは、日弁連等が金融庁や銀行協会など?に働きかけて、「弁護士が●●のような関わり方(支援業務)をすれば、融資を受けやすくなる」といった制度ないし仕組みを作り、「経営コンサル等だけに任せるのではなく、この場面(論点)がある融資事案では弁護士に頼んだ(弁護士も絡めた)方がよい」という文化を、上からの主導で創り上げていくのが賢明ではないかと考えます。

この点、弁護士の多くは、融資の対象事業の収益性などを判定・強化する能力等を兼ね備えているわけではないと思いますが、「特定の課題に関わる様々な事情を拾い上げて総合的な事実説明のストーリーを構築し、文章化する」ことには、訴訟業務を通じて相応に能力、ノウハウを持っています。

そこで、「事業の収益力を高めるための事業の方法などに関するアドバイス」は業界向けのコンサルタントなどにお任せするとして、それをより文章などで分かりやすく伝えるとか、融資対象たる事業や企業それ自体に法的な問題、論点が絡んでいる場合の対処法などをフォローするなどの形で、弁護士らしい(弁護士だからこそ他の業種にはできない良質なサービスができる)仕事ができるのではと思います。また、そのようなワンポイント的なフォローに止まるなら、低額のタイムチャージとすることなどにより、依頼費用も相応に抑えることができるでしょう。

これは、事業承継支援など各種士業が連携して仕事をするのが望ましい分野に広くあてはまる話のはずで、そうしたことも視野に入れて、「ワンストップサービスの文化」が広がりをもってくれればと思います。

就業規則なども話題に出ていましたが、社労士さんが単独で済ませて十分なタイプの仕事もあれば、作成段階から弁護士が関与すべき類型もあるはずですので、「弁護士も就業規則が作れる」などと、社労士さんと競合するような宣伝の仕方ではなく、「このような事案(このような論点を抱えている企業)では、企業自身のため、弁護士も関与させるべき」といったPR(及び需要の創出と供給の誘導)を考えていただければと思います。

何にせよ、受任者側にあまり態勢が整っていない事柄(業務類型)を大々的にPRして、「弁護士に相談すれば大丈夫!気軽に相談を!」などと宣伝するのは、誇大広告の類との誹りを免れませんし、個々の町弁にとっても、司法試験とは関係がない分野で、仕事がいつあるのか(本当にあるのか)わからないのに勉強だけはやっておけというのは些か無理な話ですので、融資支援であれ何であれ、現代の町弁に相応しいサポートのあり方についての議論を弁護士会などの主導で関係先と詰めていただき、需要側・供給側双方にとって有意義な業務のカタチを構築できるように尽力いただければと思っています。

余談ながら、「融資支援」に関しては、東京のイソ弁時代に「X社が新規事業のため融資を必要としている件で、自称コンサルY社から巨額の融資を仲介してやると勧誘され多額の着手金を支払ったが、さしたる仕事もしないまま仲介業務が立ち消えになったため、Yに賠償等を請求した訴訟」を担当したことがあります。そのため、弁護士の手に余る事柄ではないかと感じつつ、弁護士が関与することで業務一般の適正を担保させるべきではないかとも感じており、そのような面も含めて、企業融資に携わる方々に、弁護士の関与の意義やあり方について、検討を深めていただければと感じています。

中小(小規模)企業支援に関する弁護士の役割と現実

昨日、日弁連の主催で中小企業に関する支援のあり方を官庁や県内商工会議所などの支援団体と協議する趣旨の会合があり、参加してきました。

といっても、参加者が具体的な支援業務の内容や基盤整備を角突き合わせて議論するようなものではなく、主催者等の挨拶、日弁連の宣伝ビデオの上映や他県の支援事例の発表と参加団体の方々などから弁護士会又は個々の弁護士への要望に関する意見な述べられるといったやりとりが中心でした。

日弁連は「(増やしすぎた町弁」の食い扶持対策もあってか、中小企業支援のキャンペーンに力を入れているのですが、残念ながら、私の実感する範囲では、「日弁連(弁護士会)のお世話になって、中小企業の方々から相談や依頼を受けた」という経験がほとんどなく、多くの企業の方々は、東京などを含む有力なベテラン・中堅弁護士の方に、様々な人脈・パイプを通じて顧問や事件依頼を行っているのが実情と思われます。

恥ずかしながら、このブログでも何度か書いているとおり、私自身は中小(小規模)企業の方々をサポートする仕事を多数お引き受けしたいと思っているものの、人脈の無さなども相俟ってごく限られたご縁しか持てず、ボスの信用で顧問先の企業法務的な仕事が次々と舞い込んできた(それを精力的にこなすことに充実感を感じていた)東京のイソ弁時代に戻りたくなることも少なくないという恥ずかしい有様です。

それだけに、日弁連が、その種の取り組みを熱心に行い、企業の方々の意識改革や利用のための基盤整備を行っていただけるのであれば、ぜひお願いしたいとは思っているものの、今回の会合も、抽象的なキャンペーンの類に止まり、企業側が直ちに飛びつきたくなるような具体的なメニューの提示などはあまりなかったように感じました。

例えば、この種の話題では、「何を相談したらよいか分からない」という意見がよく出されるわけですが、このような仕事をしているといった小規模企業一般、或いは業界ごとの具体的な相談事例集などを整理、作成して、業界の会合などで簡単にPRするような機会でも設ければよいのではないかと思うのですが、そうしたところまでは議論は進まなかったようですので、その点は残念に思います。

とりわけ、小規模企業の様々な業務については、紛争性が少ないなどの事情から、簡易な相談や書面作成などは他士業が多くを担っている(それで需要者側から特に不満が表明されているわけではない)という実情があるでしょうから、「弁護士に頼んだ方が遥かにメリットがある」と言えるような何かがなければ、実効性のある話にはなりにくいと思われます。

そうした意味では、皮肉めいた話かもしれませんが、数年前に撤廃されたグレーゾーン金利(法定金利と約定金利のダブルスタンダードがあり、約定の高利貸付の返済が困難になれば、信用情報登録と引換えに、法定金利計算による債務減額・過払金請求が可能になる)の問題は、「弁護士に頼めば決定的なメリットが生じる」という意味では非常に判りやすい話であり、それを元に戻すべきだとは思いませんが、今後、何らかの制度や運用を作ったりする際には、参考にしていただきたいものです。

また、「得意分野を知りたい」「費用が高い、不透明だ」といった話も出ていましたが、この点は、このブログでも過去に書いたと思いますが、要するに個々の弁護士に関する適切な情報開示(経験、知見、取り組みなど)や相性などに関するマッチング、双方の採算性の確保を考えた費用設定などで一定の解決が可能な話であり、マッチング等のため汗をかく人、汗をかける場の設定などが求められていることなのだろうと思っています。

そうした意味では、私も、もっとお役に立てる場を持ちたいと思いつつ、兼業主夫の悲しさか、それ以前のキャラや器量の問題か、長い間、弁護士会でもJCでも幽霊部員を続けてしまったことなどから、汗をかきたくても人の集まる場に上手く入っていけない悲しさがあり、どうしたものやらと悲嘆に暮れているというのが情けない現実です。