北奥法律事務所

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中小企業法務

中小企業の経営再建と弁護士の需要

中小企業庁の「経営革新等支援機関」という制度に登録している関係で、先日「いわて企業支援ネットワーク会議」という会合に参加してきました。

経営革新等支援機関とは、中小企業金融円滑化法の終了に伴い、金融機関の格付けが落ちて融資の返済要求を受け、これに耐えられず倒産する企業が多数生ずるのを防ぐため、必要な支援を行うことを目的に設けられた制度です。

具体的には、リスケジュールや様々な経営改善計画の策定や経営指導等を通じ、格付け低下=融資引き揚げを防ぐと共に、経営内容や収益を改善させていくことを内容としています。

上記の会議は今回が4回目だそうで、これまでも通知は受けていたのですが、制度の運用状況として、あまり弁護士の出番がなさそうな展開になっていることもあり、参加を見合わせていたものの、一度くらいは出てみたいということで、今回が初めての参加になりました。

で、予想どおり、弁護士で参加したのは私だけで、ほとんどの参加者(認定支援機関)は税理士さん又はその事務所の方でした。

また、会議の構成団体等として国の出先機関や中小企業再生支援協議会、県内の主要金融機関の方などが参加しており、現在の運用状況の説明などがありました。

それによれば、岩手県は、統計上は200社が対象になるはずだが、現時点で支援事業に対する相談は20件弱、申請がなされたのは6件のみということで、役所側にとっては、見通しを大きく下回る状況とのことでした。

岩手では、平成23年頃から自己破産等の申立も非常に少ない状況が続いており、建設業などの震災特需が影響しているのかもしれません。

報告によれば、全国的にも件数が多くはないほか、支援事業に従事しているのは税理士が5割、コンサル会社や金融機関が3割強で、弁護士が従事した案件は、全体の僅か1%しかなかったそうです。

これでは、やっぱり弁護士には関係の乏しい制度なのかな(ひいては、経営再建の分野そのものが、弁護士に関しては、企業再生で有名な村松先生のようなごく一部の方だけの専業分野に止まらざるを得ないのかな)、と思わざるを得ません。

ただ、それでも敢えて、支援機関に登録したり、たまに会合や研修に参加しているのは、私の場合、出自などの事情で、昔から中小企業を支援する類の仕事に強い関心があるということもありますが、経営再建の問題を抱えた企業は、法律問題の「るつぼ」であることが多いという点があります。

例えば、経営不振の原因が経営者の資質によるものであれば、そこに経営陣内部(ご家族などを含めた)の不和の問題があるかもしれませんし、取引先との関係にあるのであれば、契約内容や売掛金の回収などを巡って、様々な法的論点があるかもしれません。

過剰な人件費によるものであれば、解雇問題に直面するかもしれません。過剰施設の閉鎖等にあたっても、法的紛争が生じることもあります。

少なくとも、民事再生の手続をとった場合には、それらの問題が一挙に噴出し、債務者企業の代理人である弁護士がてんやわんやの対応に追われることは珍しくありません。

企業再生に関する相談は、資金繰りに関するものから始まるため、弁護士よりは金融機関や税理士さんの方に話が行きやすいでしょうが、先に相談を受けた他の専門家の方が、ご本人が気づいていない法的論点などを見出した場合には、弁護士への相談や対処をご紹介いただければと思っており、その一助になればと思って登録しているというのが、正直なところです。

ただ、ざっと拝見する限りでは、認定支援機関の主たる業務(合実計画・実抜計画の策定等)は、金融機関が交渉相手ということもあってか、被災地で用いられている「個人版私的整理ガイドライン」にやや感覚が近い面があるかもと感じています。

脇役だけでなく、認定支援機関としての主たる業務でも、お役に立てる機会があれば幸いです。

継続的取引の不当停止を理由とする賠償請求の認容判決

中小企業の方々にとって、経営上、依存度の大きい(売上高に占める割合が大きい)発注企業(往々にして自社よりも規模の大きい企業)がある場合には、突然に取引の打ち切りを通告されるような事態が生じることのないよう、様々なご苦労をなさっているケースが多いのではないかと思います。

そして、万が一、取引中止を通告された場合、それが契約上の定めや商取引上の信義則に照らし、違法不当と言える場合には、取引中止を通告してきた取引先に対し、通告の撤回やそれが適わぬ場合には損害賠償を求めたいということになるでしょうし、そのような紛争は、決して少なくはありません。

ただ、取引基本契約書のように継続的取引を明確に定めた書面を交わすことなく、依存度(中止リスク)の高い継続的取引を行っている企業も多いと思われます。

このような紛争を「継続的取引の不当停止を理由とする賠償請求」などと読んでいますが、往々にして、立証上のリスクも含め、勝敗の見通しを立てることが容易でないことも珍しくありません。

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数年前、小規模な企業の経営者の方から、そのような事案のご相談を受け、事案の内容に照らし、提訴してよいのではと申し上げていたものの、ご本人も悩んだ末に提訴(賠償請求)に踏み切ったという案件を受任していました。

そして、今年の夏に、当方の請求を概ね全面的に認める趣旨の判決をいただき、無事に確定して、相手方企業から支払を受けることができました。

詳細は差し控えますが、そのケースは、売上の100%を依存している発注元の大企業から、正当な理由がないのに突然の停止通告等をされて事業そのものが停止に追い込まれたという案件で、停止の不当性は明らかであったものの、継続的取引を行う契約関係があったとの認定が得られるか見通しが立てにくい案件でした。

なお、継続的取引としての要保護性が認められずに単発的な取引に過ぎないと言われてしまうと、理不尽な理由で今後は発注しないと言われても、賠償請求が当然に認められるとは言い難いと思われます。

また、この種の訴訟では、当該取引が継続していれば得られたであろう1ヶ月間の相当な逸失利益を算定して、それに相当な期間(取引継続が期待できた期間)を乗じて算出するのですが、本件では、同種訴訟の中では、比較的、長めと言える期間が認められてました。

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当事務所にとって「地域内の中小・零細企業が東京などの強大な取引先企業から理不尽な仕打ちを受けた場合に泣き寝入りをしないための闘いをサポートする仕事」は、特に力を入れて取り組んでいる分野です。

そのため、私自身としては、「勝って(お役に立てて)ホッとした」というのが正直なところです。

この種の案件は、事実の立証のほか、裁判官の個性などでも勝敗が分かれるリスクがあるため、悩ましい面は色々とあるのですが、その種の問題が生じた場合やそのリスクがある取引をなさる場合などでは、弁護士への早期の相談を念頭に入れておいていただければ幸いです。

顧問弁護士と監査役等の兼任と両者の役割の違いについて

先日、ある法人から「顧問弁護士に監査役(社会福祉法人などでは監事)を任せてよいか」という趣旨のご相談を受けました。

以前、双方の兼任は避けるべきとの話を聞いたことがあり、改めて調べたところ、やはり消極的な意見が有力とのことだったので、そのようにお伝えしました。

聞くところでは、小規模な企業では、顧問弁護士に監査役を依頼し兼任している例が珍しくないようですが、両者は本質的には相容れません。

監査役(監事)の本質的な業務は、取締役(理事)の業務執行(企業経営)が適正・適法に行われているか(法人からの委任の趣旨に合致しているか、企業を取り巻く様々な法令の趣旨に適合する経営がなされているか)を積極的に監視、監督する点にあります。

他方、顧問弁護士の業務は、主として業務執行者たる取締役等のご相談、ご依頼により、企業に関する様々な対内的・対外的な法律問題に関し、助言又は処理等するというものです。

もちろん、顧問弁護士の業務には、企業経営の中で法の趣旨に抵触すると思われる点が見られた場合に、その改善について勧告したり、役員等と一緒に改善策(措置)を検討し執行を補助するなども含まれますので、顧問弁護士と監査役等の業務は、一部、重複する面がないわけではありません。

しかし、顧問弁護士の場合、取締役等の職務執行(企業経営)に法律上の問題(不正等)があると感じた場合には、改善を勧告し、それが聞き入れられないときは辞任等の形で態度を表明することができるに止まるのに対し、監査役等の場合、勧告が聞き入れられないとき(或いは、勧告をするまでもないほど事態が深刻な場合)には、賠償請求をはじめ取締役等の責任を追及するため、法律上、期待されている措置を講じなければならない義務を負います。

そのため、取締役等と監査役等とは「日常的には互いの法人のため協力し合う関係にあるが、いざとなれば対決することを余儀なくされる宿命にある者同士」と言うことができます。

また、顧問弁護士の業務は、性質上、取締役等の業務執行を支援することが契約内容の中核をなすことが多く、「取締役等の職務が適法か否か」という問題が生じた場合、争いがあれば、なるべく適法なものと認定、解釈されるべきという立場で執務しなければならない可能性が高く、その点でも、両者は相容れない面が生じます。

誤解を恐れずに言えば、上記の監査役等の役割に照らせば、「万が一、経営陣が道を大きく踏み外し後戻りできない状態になってしまった場合に、経営陣に引導を渡すのに相応しい人(そのような場合に、経営陣がその人の言うことなら聞けるというだけの重みを備えた方)」に就任していただくのが賢明ではないかと考えます。

逆に言えば、そうした重鎮としての役割を果たすことができるのであれば、顧問弁護士であっても監査役等を兼任してもよいのかもしれません。

もちろん、今の私には、そのような「重み」は荷が重すぎますので、顧問弁護士等の形で日常的な企業経営の法的適正を確保する仕事に従事し、伝家の宝刀というべき監査役等の出番がないようにする、という方向で、役割を与えていただければと思っています。

以上から、顧問弁護士が監査役等を兼任することは、原則として適切ではないと考えますが、実務の実情を必ずしも把握しているわけではありませんので、この点をご教示いただける方がおられれば幸いです。

ところで、何年も前に、岩手県の関係機関から、社会福祉法人の新任理事・監事向けの講義を依頼されたことがあり、自分なりに、理事と監事の役割、それぞれの違い、さらには株式会社と社会福祉法人の違い(評議員会などの存在意義)などを考え、裁判例なども交えてご説明したことがあります。

その際のレジュメを読み返してみましたが、社会福祉法人に限らず、医療法人、財団法人、一般社団法人など、理事・監事という組織形態をとる他の類型の法人について考える際も応用が利きそうな事柄が書いてあり、もし、勉強会を行いたい等の話がありましたら、一声かけていただければ幸いです。