昨年の話ですが、盛岡北RCの幹事さんから、「明日の卓話の担当者が急なキャンセルになった。すまないが、急遽、引き受けて欲しい」との要請があり、交通事故の賠償実務に関する基礎的な説明をしたことがあります。
RCの卓話は、例会場で20~30分弱の「ミニ講話」を行うものですが、私の場合、弁護士業務に関する話題を取り上げるのを通例としています。
過去に担当した卓話では、①相続、②中小企業の法務(同族間の経営権紛争)、③夫婦(不貞・離婚)に関する話題を取り上げたので、今回は、上記3つを含めた町弁の「主要な取扱業務」の一つである、交通事故(に伴う賠償等の問題)を取り上げることにした次第です。
一晩で準備する必要もあり、過去に多く扱ってきた論点、事項を取り上げることとしましたが、抽象的に話してもつまらないでしょうから、幾つかの論点を含む架空の事故を想定し、それをもとに解説しました。
ここでは、その際に用いた事例(設問)と、解説の項立てのみご紹介することにします。もし、盛岡市内・岩手県内の方で、「交通事故に関する賠償問題の基本について、30分~1時間程度でセミナー等をして欲しい」とのご要望がありましたら、ご遠慮なくお申し出いただければ幸いです。
ちなみに、この少し後に、某損保さんから代理店の方々に向けて、事故被害者の保護に関する対応の基礎や弁護士費用特約の意義についてミニセミナーをして欲しいとのご依頼をいただき、この事例(設問)をアレンジする形で対応させていただいたこともありました。
(事例)
盛岡市内の某ロータリークラブの会員であるX(50歳。会社勤務)は自車を運転してホテルニューウィング前の交差点から開運橋方面に向かって直進しており、開運橋西袂の交差点を通過し盛南大橋方面に向かうつもりであった。
ところが、第2(右)車線を直進して開運橋西袂の交差点を通過中に、反対方向から進行してきたY運転の高級外国車が突如、交差点内でX車めがけて右折してきたため、X車は交差点内でY車との衝突を余儀なくされた。
この事故で、Xは全身に強い打撲傷を負うなどして盛岡市内の病院に1ヶ月ほど入院し、退院後も7ヶ月ほどの通院を余儀なくされた(退院後の実通院日数120日)。また、頸椎捻挫、腰椎捻挫などによる痛みが完治せず、医師から後遺障害診断書の発行を受けており、後遺障害の認定申請を検討している(レントゲンなどでは異状は確認されていない)。
Xの怪我の治療費については、事故直後からYが加入する任意保険A社が対応して支払等を行っているが、事故から半年ほど経過した時点で担当者が「これ以上の通院の必要はないでしょう。今後は通院を続けても治療費を支払いませんよ。」などと言うようになり、やむなく通院継続を断念したなどの事情も生じ、XはAに不信感を抱いていた。
また、X車(平成18年式の国産大衆車)は大きく破損し修理代の見積は150万円にも達しており、やむなく事故直後に廃車を決断せざるを得なかった。
ところで、X自身は青信号の状態で交差点に進入したとの認識であるが、Yは「自分が右折を開始した時点で、すでに赤信号になっていた(ので、X側信号も赤のはずである)」と主張し、Xにも相応の過失があるとして、Yの損害を賠償するようXに要求するようになった。
Yは事故による怪我はなく、Y車(平成2年式)は左端周辺に破損ができた程度の被害に止まっているが、
「この車両は高級車であり、被害部分の板金塗装だけでは、他の部分と色合いが違ってしまう。だから、破損部分の修理とは別に、100万円以上をかけて車体全部の塗装を行う必要がある」とか
「この車は市場で手に入らないレアもので、愛好者には2000万円で売れるものだ。事故歴が付くと売値が安くなるので、その損害(評価損)として500万円を支払え」とか
「これは自分が10年以上乗りこなしている愛車で、これまで一切の破損等がなかったのに、この事故で傷物になったことで精神的に強いショックを受けて眠れない日々を過ごした。相応の慰謝料を払って欲しい」と主張し、Xの勤務先等に押しかけんばかりの気勢を示している。
以上の状況下でXから相談、依頼を受けた弁護士としては、Xの損害の賠償を請求すると共にYからXに対する賠償請求に対処するため、どのようにXに説明し代理人として行動すべきか。