北奥法律事務所

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夫婦・男女・親子関係

ウイルス禍で生じていたDV等の問題と駆け込みホテルなどの解決策

ウイルス禍の真っ最中であった3年ほど前の話ですが、学校の休校と企業の自宅待機(リモート)が長期化した結果、自宅内にストレスを抱えた家族内で虐待問題が生じたとの報道が時折とりあげられていました。
「子どもに手をあげた」親からの相談相次ぐ 名古屋のNPO | NHKニュース

家族全員を自宅に長時間、閉じ込めることで、家庭内の感染リスクのほか、以前から家庭が抱えていた問題が子供など家庭内弱者への各種DV被害の形で発現することは、世界中の報道で予測されていたことですが、それに関する実効性のある予防策などのニュースを目にすることがないまま終わったように思われ、残念に感じます。

数年前、盛岡市内の某著名ビジネスホテルが、所在する地域の小学4年生を対象に宿泊体験の企画(参加する子供が夜にホテルに来て宿泊し、そのまま朝に登校するというもの)を行ったことがあります。

例えば、ウイルス禍が再発しホテル等が再び閑古鳥などという事態が生じたときは、いっそ「駆け込みホテル宣言」でもしていただき、自宅で過ごすことに支障のある方を受け入れてもよいのでは(内容に応じて一定の利用費は公的補助)と思いました。

また、休業居酒屋なども、そのような方を対象に食事を提供等するサービス(同上)を行うなどという形で、関係者を救済すると共に仕事や金の流れをつくる努力があれば良かったのではと思います。

そのような形で、公的ニーズと民営サービスを繋ぎ合わせる工夫が、現在の状況下でも色々と求められているのではないかと思われ、関係者のご尽力を期待したいものです。

養育費などの未収問題の天引(給与分割)による解決と、憲法改正の前にやるべきこと(上)

以下は、平成25年に、養育費などの回収に関する法制度について憲法改正のことも考えつつ書いた投稿を再掲したものです。

前編が養育費問題で、後編で、そこから飛躍?して憲法改正について触れています。

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昔は、給与所得者たる夫に長年連れ添った専業主婦の方が離婚を余儀なくされた際に、年金の大半が夫に支給され、その形成に尽力したはずの妻がほとんど受給できないので、社会的に不公平だと言われていました。

当時の裁判所は「扶養的財産分与」などの理屈で多少の修正(改善)を図っていたものの、離婚を余儀なくされた妻の保護が不十分だということで、平成19年から年金分割制度が導入(施行)され、離婚した妻が年金の半分に見合う額を公的機関(支払元)から直接に受領できることになりました。

これにより、年金に関しては、分配の不公平はおろか、回収リスクという問題も完全に克服されることになったと思われます(夫に支給された年金を夫の口座に差押する場合には、手間と費用もさることながら、払戻による回収不能リスクが不可避です)。

これに対し、離婚等に伴い回収リスクが生じる同種の論点として、①養育費、②退職金(の財産分与)の2点があり、いずれも現状では回収不能のリスクが強く存在しており、引用のような記事がたびたび掲載されますが、一向に改善の兆しが見えません。

この点、養育費等に限らず、我が国の民事執行制度は、非常に欠陥が多い(高額な財産を有することが判明している者に対しては問題ないが、財産の所在が不明であったりその時点で財産を有していない者などに対する関係では無力に近い)とされてきました。

そのため、長年に亘り民事執行制度の強化が叫ばれており、最近の法律雑誌に発表された論考では、強制回収の実効性を高めたり任意の支払を促すための制度として、金融機関への照会制度の強化(債務者に関する財産情報の開示の徹底)や不払債務者の目録制度(信用情報登録)などが立法論として紹介されていました(判例タイムズ1384号)。

その論考では養育費等には特に触れていなかったとの記憶ですが、少なくとも「民事執行制度に頼らずに最初から天引することこそが、最良の債権回収制度」という観点に立てば、養育費等については、年金分割のように天引払い(給与分割)を実現する法改正が、必要かつ妥当というべきだと思います。

要するに、養育費を支払う義務がある親(非監護親)については、差押等の手続を要することなく職場が養育費相当額を天引して監護親に支払うものとし、退職金についても、離婚した配偶者が寄与した範囲の額については、支給時に対象額を分割し、配偶者に通知して直接に支払うことにするという方法です(いずれも、当然分割を前提に、勤務先が受給権者に対して直接に支払義務を負うという考え方をとります)。

大概の職場であれば、社会保険に加入するはずなので、社会保険を通じて勤務先等の情報を管理し受給権者に提供する形をとれば、制度の構築や運用にさほどの手間を要するとは思われません。

引用記事には養育費不払について国の立替制度なども紹介されていますが、税金一般も含めて真面目に払っている人にとっては肩代わり制度の安易な導入は納得し難い面があります。

まずは、上記のように、支払可能であるはずの債務者の履行を徹底させる方法をとった上で、就業困難などの事情により養育費の形成そのものが困難なケースなどについて、公的給付や金銭以外を含む支援を拡大させるというのが本筋ではないかと考えます。

(以下、次号)

 

著名人の不倫に伴う賠償問題への保険による損害填補に関する一考察

現在は新型肺炎騒動ですっかり下火になりましたが、先日まで人気俳優さんの不倫騒動の件で、改めて不倫という事象が世間の注目を浴びることになりました。

この事件自体には、職業柄その手の話は日常的に仕事で扱ってる(有名人にはご縁ありませんが)ということもあり、さほど関心はないのですが、「CM打ち切りで企業が事務所に賠償請求を予定」という報道もあり、普段扱っている仕事では出てこないようなカネの話については多少の関心があります。

この点、不貞に限らず薬物なども含め、有名人が不祥事を起こして降板等を余儀なくされて企業が巨額の賠償請求をするとか、金額があまりにも大きすぎて払えないんじゃないか、というニュースを最近はよく見かけるようになりました。

このような「本人の迂闊さが祟って巨額賠償」という事象で我々庶民がご縁がある話といえば、なんといっても交通事故であり、まともな社会人なら任意保険で備えをしているかと思いますし、近時は大企業の役員などが代表訴訟向け?の賠償責任保険に加入しているといった話もあります。

が、有名人(や被害企業)が「CM等打切に備えた賠償責任(被害填補)保険」に加入している(そのような保険商品が販売されている)という話は聞いたことがなく、もし社会内にそうしたものがなければ、いっそ、そのような保険を販売してもよいのでは?と思います(商品設計にはAIの助けが必要かもしれませんが)。

この場合、一般論として「不倫や薬物は故意行為だから保険の対象外(免責)だ」という議論があるかと思いますが、薬物はまだしも?不倫については、「犯罪じゃない」などと擁護する声があったり、発覚せずに逃げきる?ことができる方も沢山いるのかも(また、被害の程度は事案でまちまち)、ということで、多少なりとも保険に馴染むように思いますし、少なくとも、被害者側(企業側)については被害填補保険を希望する声はいくらでもあるのではと思います。

ただ、とりわけ賠償責任保険(不貞加害者自身が加入する保険)は、一定の自己負担(保険会社の免責額)が必要でしょうし、その額は一律ではなく保険会社が独自の調査や判断で設定するのが望ましいでしょうから、例えば、賠償額も実行リスクも大きい大物芸能人に対しては億単位の免責額が設定されたりするのではないかと思います。

結果として、不貞リスクのある有名人がこぞって保険加入すれば「自分たち(仲間うち?)でやらかした問題は、自分たちで責任をとる(ので、保険料減額のためにも問題行動自体をさせない)」という一種の相互扶助(と相互監視)の仕組みも期待できそうに思います(同じような話を産廃不法投棄の賠償問題で投稿したことがあります)。

ただ、加入する有名人や保険会社が設定した免責額のリストが流出するなどすれば、それはそれで大ニュースになってしまいそうですが・・

ところで、某先生がFBで「ニュースで大事になって加害配偶者(夫)や不貞相手(女性)に顕著な減収等が生じると結果として不貞被害者(妻)が慰謝料や養育費等を回収できないリスクが生じる」と指摘されていたのですが、そうであればこそ、CM等の企業や有名人に限らず、世間一般のために「ウチの配偶者にはその種のリスクがある」と感じる方のため「被害填補保険(交通事故の人身傷害補償保険と同じ)」を販売・加入してもよいのでは?と思ったりします。

もちろん、コレも保険会社の調査・判断で「あなたの夫は危険度が高いから保険料も高くなります」という、加入者にとってはゲンナリするような話が避けられないかもしれませんが。

ともあれ、賠償責任や被害填補保険による責任や被害への備えを行いつつ弁護士費用特約のような形で当業界への委任費用の負担を軽減する仕組みも構築していただければ、なおよいのではと思っています。

余談ながら、大河ドラマ「花燃ゆ」は最後を除いて(録画の強制消去被害に遭いました)見ていましたので、京都で「やらかしてしまった」久坂玄瑞と重なって見える面はありました。そうした意味(憑依??)では、俳優さんというのも恐ろしい職業なのかもしれません。

ゲスの極みの外部不経済に泣かされたり悩まされる人々(後編)

不貞問題については、明確な証拠が突きつけられない場合などに不貞そのものやその程度などを巡って全面否認する例も時折みられます。

そのように特定の事実関係(幅のある事実も含めて)が争われた場合、裁判所としては、争点たる事実Aの存否について「争いのない関連事実のうち、Aの存否の判断に影響しうる事実群(肯定方向に働くB群と、否定方向に働くC群)」を先に確定させ、次いで、証拠によりAの存否に判断しうる他の事実群(肯定方向に働くD群と否定方向に働くE群)の存否を確定させ、その結果により、BないしEを総合的にみて経験則に基づきAの有無を認定する、というのが基本だと思います。

特定の事実を巡って当事者の証言が全面対立することも時には見られますが、「コテコテの虚偽の証言」の類はさておき、各人のメンタリティなどに起因して事実認識(認知)に様々な歪み(バイアス)が生じ、同じ状況に直面しても認識する事実の内容が甲と乙とで微妙に(時には大きく)ずれることで、そのような「供述の対立」が生じることも珍しくありません。

そのことは、裁判に限らず普段の家族・友人間の会話などでも当たり前に生じることだとも言えるでしょう。

そうした意味では、法廷傍聴などに限らず裁判ドラマなど通じて、事実の存否が争われる光景とご自身の日常的な光景などを比較しながら、「事実の存否や内容に関する適切な判断のあり方」に考えを深めていただければと思います。

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ところで、「ゲス不倫」報道に言及するまでもなく、この種の話題はイエスの時代から現在に至るまで古くて新しい投石(第三者による過剰な糾弾)の問題があり、未だに社会の底の闇の深さを感じるというか、それで良いのだろうかと思うところはあります。

我が業界にも、周囲の不安や猜疑心を煽り自分の正当化に固執し、物事を混乱させてまで目先の駆け引きや勝利を優先するトランプ大統領型?の弁護士は珍しくありませんが、私自身はそうした「相手をとことん痛めつけてでも勝つ」路線ではなく、適切なルールを踏まえつつ、各人のやむを得ざる事情を踏まえた対立の止揚と調和を目指すオバマ大統領のようなスタンスの方が性に合っています。

もちろん、そうした方向を意識せざるを得ない特殊な事案(相手方の行動に著しい問題があり強い反省や糾弾を相手に求めなければならない対決色の強い事案)を受任することもありますので、その場合は、どのような方法をとれば裁判所にその点の理解が得られるか、日々悩んだり自身を発憤させるよう努めたりの繰り返しにはなりますが。

不貞問題に限らず交通事故から企業活動被害なども含め、加害者・被害者どちらの立場でも仕事をするのが普通の町弁ですので、依頼主の立場や事件の事情に即した適切な主張立証を意識しつつも、特殊事案を別とすれば、相手方当事者の真っ当な心情への配慮も意識した仕事ができるのが望ましいと思っています。

先日、中野信子氏の「サイコパス」という本(文春新書)を読みましたが、虚偽の言動を平然とまき散らす悪質な不貞行為者に限らず、社会の様々な混乱や人の尊厳の蹂躙などを招く御仁に対し、どのように向き合っていくか(関わりを避けるべきかも含め)を考える上で、色々と参考になるように思われます。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166610945

ゲスの極みの外部不経済に泣かされたり悩まされる人々(前編)

不貞行為絡みの慰謝料請求は町弁には頻繁に相談・依頼がなされる事件の一つであり、当方も、①被害配偶者、②加害配偶者、③不貞関与者のいずれの立場でも、少なからぬ取り扱い経験があります。

紛争の形は様々ですが、「夫の不倫により妻が不貞相手の女性を訴えた例」を受任した件(どちらの立場かは差し控えます)で、夫の言動に多くの問題があり、当事者たる女性(被害配偶者、不貞関与者)の双方から見て、「夫が一番悪い」と感じざるを得ないことは時折あります。

そうした「夫の身勝手過ぎる行動で女性達が本来なら無用の争いや消耗、憔悴を余儀なく光景」を見ていると、思わず、準備書面でも、「Aのような輩を昨今ではゲスの極みというのであろうが・・」などと書きたくなってしまいます(他方、妻の不倫事案では、不貞相手の男性や夫に問題又は残念な点があったり何らかの疾患を感じる例が多く、妻自身の人格に反社会性を感じることは滅多にありません)。

さすがに、そうした非難ありきの記載は自粛していますが、無用の争いが生じた挙げ句に、私自身が関係証拠を長時間分析し、事実関係や法的構成を文章にまとめる作業のため延々と深夜労働(毎度ながらの不採算仕事)を余儀なくされる日々を送っているせいか、「この男のせいで・・」という思いをどこにぶちまけたらいいのやらと、つまらないことばかり考えてしまいます。

詳細は書けませんが、その件では男性が複数の不貞行為に及んでおり、先行の不貞行為と後行の不貞行為は一定の期間を空けて生じ、不貞関与者同士(夫と関わった女性達)は互いに意思疎通がないため、いわば異時的不貞行為とでも呼ぶべきものでした。

このような事案で不貞関与者(特に後発関与者)の責任をどのように考えるべきかという問題があり、その点は理論的に様々な論点を内包し、法律論としては相応に奥深いものがあるため、相応に機が熟せば当事者にご迷惑をお掛けしない形でブログでも書いてみたいと思っています。

或いは、そうした営みを通じて「法律実務家として勉強を深めることができる」と思える(思い込める?)ことが、せめてもの慰めなのかもしれません。

ところで、不貞行為に基づく慰謝料の問題は事案によって色々な争点がありうる一方で、これまで基本的な法的構成や諸論点を整理した書籍が出版されることはほとんどなかったようで、昨年頃に出版された中里和伸先生の本が大いに参考になります。
https://www.amazon.co.jp/%E5%88%A4%E4%BE%8B…/dp/490449721X

ただ、この本にも、上記の異時的不貞行為の問題(過去に配偶者に有責行為があり夫婦の信頼関係が損なわれたものの、同居が継続された(と見られる)場合に、後発して関与した第三者の責任の有無・程度)にはほとんど触れられていなかったとの記憶であり、さらなる議論の深化が期待されます。

ちなみに、私が担当した案件では、そうした点について色々と検討したことを書きましたが、若い相手方代理人が議論に応じることないまま、早期解決のため裁判所の勧告を踏まえて相応の譲歩をした和解で終了するという結果になっています。

ちなみに著者の中里先生には私が合格した直後の時期にご挨拶する機会があり、とても誠実な方との記憶があります。
http://news.livedoor.com/article/detail/10390500/

弁護士を名乗る詐欺とホンモノの流儀、そしてオレオレ予防策の要諦

過払がほぼ終焉した後も未だに収束の様相を見せないオレオレ詐欺(電話詐欺、振り込め詐欺)ですが、昨日も岩手の高齢者の方が弁護士を詐称する者により巨額の被害に遭ったという残念なニュースが出ていました。
http://www3.nhk.or.jp/lnews/morioka/6045417041.html

「本物」である私は、こう見えて17年ほど弁護士をやっていますが、会ったことのない方に電話だけで高額な金員の支払を求めるとか事務所以外の場所に持参して欲しいなどと頼んだことは一度も記憶がありません。

オレオレでありがちな「子が捕まって被害弁償云々」という話なら、最初に弁護士ではなく警察から「お子さんが云々の事件で捕まりました」と連絡が行き、警察の説明や警察署での本人との面会などを通じて事案の内容を把握するというのが通例でしょうし、私から最初に連絡するときは「警察署に面会に行って下さい」などという簡易な伝言を除いてなるべく手紙で行っています。

まして、被害弁償であれ他の預かり金であれ、金銭の授受はすべて業務用の預かり金口座への送金をお願いしており、ご本人が事務所に現金を持参するとか管財事件の際に現場で現金を引き継ぐなどのケースはともかく、私自身が「どこそこに(高額な)現金を持ってきて下さい。そこで受け取ります」などと求めることはまず考えられません。

また、相手方(加害者など)に高額な金員を請求し代理人としてお預かりする(受任費用を控除し依頼者に送金します)ことはあっても、依頼者側に何百万円などという高額な金員の預託を求めることはまずありません。

あるとすれば、債務者代理人として受任し相手方への送金を対応することになった場合くらいでしょうが、滅多にありませんし、そんな大事な話を電話だけでやりとりするはずがありません。

以上は、別に私に限った話でなく、町弁にとってごく当たり前の話だと思います。

ですので、10年ほど前にオレオレで弁護士がネタとして使われ始めた頃から、日弁連などは「本物の弁護士は電話だけで多額の現金を送金しろとか事務所以外の場所に持ってこいなどとは言いません。そんなこと言われたら本物かどうか弁護士会に電話して」とキャンペーンを張る(前提として、全会員にアンケート等も実施する)程度のことをやるべきでは?と思っていました。

警察などとの交渉次第では、啓発のためのCMなどをお役所の費用で行っていただくこともできたのではと思いますし。

今さら何を言っても時機を失したというべきかもしれませんが、それでも、弁護士会であれ警察等であれ、そうしたことを考えていただければと残念に思います。

それと共に、相応の高齢の方については、後見等の審判を受けていなくとも、多額の現金の引き出し等は予め親族など本人が信頼できる者として指定した第三者の同意がないとできないようにするとか、自宅に高額なタンス預金をさせないなどの予防措置を促進していただきたいところです。

申すまでもなく、以上に述べた程度のことは「通常の判断能力のあるきちんとした人」なら、くどくど言わなくとも当たり前の感覚として理解できていることでしょうし、多くの高齢者が「どうしてそんな詐欺に引っかかるのか」という話に惑わされてしまうのは、加齢に伴う脳機能の低下などの影響で、以前は持ち合わせていた思考力や判断力を発揮できないことに起因するのでしょうから、なおのこと、そうした「後見などの必要まではないが判断能力等が低下しつつある高齢者等の財産管理等のサポート制度(と担い手)」を整備する姿勢が必要だと思います。

田舎のしがない町弁をしていると「認知症(後見等相当)とまでは言えないけれど、加齢などの影響でコミュニケーションが非常に難しく、法律相談などが成り立たない高齢の残念な相談者の方」とお会いすることが珍しくありませんが、そのことと、不合理な言辞に惑わされ詐欺の被害に遭うリスクの高齢者が相当数おられることは「加齢によるコミュニケーション能力の低下とリスクの増大」という点で、共通性があるように感じます。

そうした方々が高額かつ理不尽な被害を受けるのを防止できる仕組みを多重的に構築すべきでしょうし、多額の被害を受けるよりはマシという観点で、ご本人などに一定のコスト負担も考えていただければと思います。

さすがに「駅や車両、路上などの全部に防犯カメラを設置し犯人を調査する」といった超監視社会にするわけにもいかないでしょうし、渡した1万円札そのものを徹底追跡して犯人を捕捉できるほどIT技術が発達するのを期待するのも困難でしょうから・・

乳幼児の虐待防止と育児家庭の一斉面談制度の提案

乳幼児の虐待殺人事件は昔から存在しているとは思いますが、最近は育児環境に不利な条件を抱えた方が増えているせいか、特に報道される機会が多くなっていると思いますし、とりわけ、下記に引用した事件のように、「若いシングルマザーが、ろくでなしの交際相手(内縁夫)に流される(人として呑み込まれてしまう)形で、男の主導のもとで虐待殺人が行われるケース」が増えているような感じがします。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161125-00000051-mai-soci

このような事件は、要するに「ろくでなし男」側が、自ら殺傷したり母親に子を殺すように仕向けているとしか思えませんが、少し前に読んだ、橘玲氏の「言ってはいけない」(新潮新書)で、未開部族や他の動物の習慣として、そうした話が取り上げられていました。

いわく、南米やオセアニアには、乳幼児のいる女性と結婚した男が女性に子を殺すよう要求する習慣のある未開部族があるとか、ハヌマンラングール(オナガザルの一種)のオスが子連れのメス集団(ハーレム)を乗っ取った際、真っ先に小猿達を殺戮する習慣があり、これは、授乳中のメスは交尾に応じず、小猿を殺すことでメスが再び発情期になり新たなオスの子を産めるようになるという、オスの繁殖戦略に基づく(そうした行動をとったサルが、結果として種を後世に残して繁殖した)というものだそうです。

実親による虐待事案も多くありますので、すべてをそれで説明するのは無理でしょうが、我が国でしばしば報道される「内縁夫などが絡むネグレクト殺」は、上記の話に似ているような印象を受けます。

乳幼児は自らがその命を守るための行動をとることはできないのですから、国家・社会が、刑法(殺人罪)などを設けてその防止の必要性を認めている以上、乳幼児の虐待殺の防止(安全確保に止めず、子自身の生活の質の向上を含め)のため、より実効性のある措置を講ずべき時期に来ているのではないかと強く感じます。

監視社会との批判もあるかもしれませんが、例えば、乳幼児期には行政等の第三者(委託された相当な企業・民間団体などを含む)が定期的に面談して安否などを確認するような制度(もちろん単なる監視・調査の制度ではなく、様々な相談などを通じて育児家庭を支援することを目的としたもの)を推進すべきではと思うのですが、そうした取り組みをしている自治体とか政治家などはいないのでしょうか?

国民・住民たる乳幼児の安全を守るのは国・自治体の責任だと法律等で明確に位置づけ、例えば、乳幼児を監護する者(親権者など)には、予め策定した要綱等に基づき行政が相当と認めた者(保健師、民生委員、相応のNPOなど?)と一定の頻度で安否確認などを目的とする面談を義務づける制度を設けるべきと思っています。

面談を通じて不穏な情報やその潜在的可能性のある事案では児相などに通報→早期に実情把握・調査や受け皿の確保などを行うとのイメージです(それを踏まえた児相や警察の実働強化などの整備は当然です)。

もちろん、ほとんどの家族にとっては相応の負担になりますから、頻度等は家族側の既存の監護体制等に応じて区分すればよいでしょうし、相応の財源が必要になりますが、それは「次世代を守るのは旧世代全体の役目」ということで、相続税の増税(基礎控除の縮小を含め)が一番ではと思っています(とりわけ、被相続人との関係が希薄なのに棚ぼた的に高額財産を取得する事案が近年では増えており、通常の相続よりも税率を大幅に上げてよいと思います)。

facebookでこうしたことを書いたところ、他の先生から地域保健師の制度があるとの指摘をいただきました。

保健師についてはほとんど存じておらず(そういえば盛岡市から健康指導を受けよと書かれてある通知を過去に受けたものの、多忙を言い訳に放置してしまったことはあります)、ネット検索したところ、こんな会社さんがあるのを見つけました。
http://www.hokenshi.com/job.html

各論は様々な方法・議論があるとは思いますが、「こどもファースト」の精神で制度の構築や運用を考えていただきたいものです。

(H30.6追記)
H30.6に発覚した目黒の虐待死事件(報道では妻の連れ子を再婚男性が虐待とありましたが、養親関係はあるのでしょうか)や岩手県北上市の実父育児放棄死事件を機に、この投稿を思い出して読み返すと共に、表現を微修正しましたが、当時と今とで実務に大きな伸展がないように思われます(引用したニュースも現在は閲覧不能とのことで、恐らく大阪や首都圏で生じた虐待殺事件ではと思いますが、要旨だけでも書いておくべきでした)。

実効性のある予防制度が構築されるまで、あと何人の子が虐待殺人の犠牲にならなければならないのかと、残念な思いを禁じ得ません。

なお、H29.12.13付で里親(里ジジ・里ババ)の強化(彼らの関与を通じた、ゆるやかな相互扶助と相互監視)について投稿しており、そちらも参照いただければ幸いです。

「義・支援金が家庭を壊す光景」と養育費不払問題の完全解決策としての「給与分割」提唱の辞

先日、弁政連岩手支部の企画で、年に1回ほど行っている岩手の県議会議員さん方と地元弁護士らとの懇談会に参加してきました。

今年は、例年どおり、震災絡み(被災者・被災地が直面する各種の法律問題)がメインテーマとなったほか、法テラス特例法の延長問題、成年後見制度への行政支援の強化(市町村申立やいわゆる市民後見人の育成など)、離婚等に伴い女性・子供が直面している法律問題の紹介(を通じた議会への支援要請)といったことが取り上げられました。

2年ほど前から釜石の「日弁連ひまわり事務所」に赴任している加藤先生から、被災地の弁護士に多く寄せられている相談・依頼の例に関する紹介があったのですが、その中で、「義援金・支援金の受領に関し、直接の受給者=世帯主が受領金を独占するなどして家族内で不和・紛争が生じている」との紹介がありました。

この問題は、私が震災直後の時期(2年ほど)に最も多く相談を受けた類型で、「いっそ不当利得返還請求訴訟をしたらどうですか(弁護士への依頼が費用対効果的に問題があるなら、本人訴訟用の書面作成くらいならやりますよ)」と説明していたこともあっただけに(残念ながら、結局ご依頼は一度もありませんでしたが)、懐かしく感じて、私も珍しく挙手して補足発言をさせていただきました。

改めて感じたのは、この問題は、誤解を恐れずに言えば「以前から不和の種があった不穏な家庭に役所が不公平な態様でお金を渡すことで、油を蒔いて点火させ、その家庭を役所がぶっ壊した」と言っても過言ではないのではということであり、だからこそ、行政は受給者に広くアンケート調査をして「貰って有り難かった人・家庭」もいれば、「そんなカネが配られたことで、かえって悲惨な事態になった人・家庭」もいるのではないかという現実を、きちんと把握、総括し、そうした「現金給付政策」の当否ないしあり方について検討すべき責任があるのではないかと考えます。

ご承知のとおり、現在の給付制度のあり方(世帯主給付)に対しては、世帯主ではなく個人単位にすべき(世帯主給付にしたいなら全員の同意書を要請し、それが得られなければ個人給付にするとか、世帯主を窓口にするにせよ給付の利益は各人が有する旨を制度で明示するなど)といったことを、日弁連など?が提言しています。

そうしたことの当否を明らかにする意味でも、今こそ(すでに時を失した感はありますが)、被災地住民を対象とする大規模調査が行われるべきではないかと声を大にして述べたいです。

ちなみに、今年の2月の弁政連懇談会について触れたブログでも、この件について取り上げていますので、関心のある方はぜひご覧ください。

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ところで、県議さんとの懇談の際、S先生から養育費の不払問題について詳細な報告がなされていたのですが、それを聞いているうちに、いっそ給与についても、年金分割のように「義務者を介さない受給者への直接給付制度(給与分割制度)」を作るべきでは?と思いました。

すなわち、義務者の勤務先が、「養育費の権利者(親権者又は子の名義)」の口座に直接に支払う制度を作れば、給与の全額を受領した義務者による不払という問題は根本的に解決されることになります。

こんな簡単で抜本的なことを誰も言い出さなかったのだろうかと不思議に思ってネット検索してみても、その種の提言を見つけることはできず、FBで少し聞いてみたところ、給与分割ではないものの、日弁連が「国による養育費の立替(と不払者への国からの求償)」の制度を提言していたとの紹介を受けました(私も過去に読んだ記憶があり、すっかり忘れていました)。

ただ、日弁連意見書の理念に反対する考えはないのですが、「立替制度」だと財源をはじめ導入に必要な作業・工程が多そうですので、給与分割方式の方が手っ取り早く導入できそうな気がします。

さらに言えば、国の立替方式は、実質的には国が育児費用を給付する性質を帯びることから、「子を育てるのは誰か」という家族観ひいては憲法観の問題に関わりそうで、その点でも、議論百出=導入できたとしても時間がかかるのではと感じます(議論そのものは盛んになるべきだと思ってますが)。

私が考える「養育費等の支払のための給与分割制度」は次のようなものです。

①まず、子のいる夫婦の協議離婚については、親権者の指定をするのと同様に、原則として養育費の合意が必要とし(紛糾すれば調停・訴訟により解決)、合意した額を、家庭裁判所の認証(これがないと不相当な額になるため。なお、認証作業は裁判所から指定された弁護士が行う等できるものとすれば業界的にはグッド)のもと、離婚届に記載する(調停離婚等ならその届出時に調書等を添えて養育費の額も役所に申告する)

②その届出を受けた役所が、マイナンバー制度を通じて?義務者の勤務先に通知→勤務先は、義務者の給与から養育費相当額を天引して権利者の指定口座に直接に送金する(但し、分割は義務ではなく、権利者の同意があれば直接送金や供託等の処理も可能とする)、

婚姻費用についても、同意又は審判に基づき定めた額を対象とする給与分割を実施できるものとする(役所に届出→マイナンバー等(社会保険等)を通じて?勤務先への通知)。

これにより養育費等の不払問題は根底から解決するでしょうから、日弁連(子ども関連委員会?)がこれを提唱しないのは怠慢の極みでは?と思わないでもありません。

マイナンバー制度の導入に伴って、離婚等に伴う給与や退職金の分割制度もやろうと思えば確実にできるのではないかと思っているのですが、マイナンバーそのものに否定的?な日弁連に旗振りを期待するのは無理なのかもしれません。

ただ、この制度が実現すれば、高金利引下げと同様にまた一つ弁護士の仕事分野(養育費債権回収)が無くなるわけで、町弁の皆さんますます貧困~♪(ラップ調に)と思わないでもありません。

なお、こうした制度に反対する方(養育費の支払確保の必要を前提としつつ給与分割という方法自体に反対する方)がどのような反論をするかと想定した場合、その根拠として、①給与天引制度が作られると、離婚や別居の事実を無関係の第三者(職場関係者)に知られることになる(情報漏れ等を含むプライバシー問題)と、②天引制度を通じて特定人(養育費等の義務者)の諸情報(勤務先から離婚等の事実・養育費等の額まで)を国が一元的に把握・管理することへの不安(ソフトな情報管理・監視社会への恐怖)の2点が挙げられるのではないかと思っています。

①については、天引ありきでなく、権利者が同意すれば(或いは義務者の申立に正当な理由があるとして裁判所の許可を得ることができれば)天引をせずに自主支払とすることができる(のでプライバシーOK)とした上で、不払等の不誠実事由があれば権利者はいつでも天引の導入を役所に要請できる(申立も簡易な手続でOK)とすれば、きちんと履行する真面目な義務者に不利益を課さずに済む(不誠実な義務者に即時の措置を打てる)ので、それで対処可能と考えます。

これに対し、②については、まさに価値判断の問題で、そうした管理社会的な流れを危惧する(ので住基ネットやマイナンバー等に反対する)方の心情も理解できるだけに、悩ましいところだと思います。

ただ、なんと言っても、「自分では権利主張(確保手段を講じること)が困難な子供の権利・利益を守ること」こそが大鉄則であることは明らかでしょうから、それを前提に、ドラスティックな制度の弊害の緩和なども考えながら、世論の喚起や理解を得る努力を図っていくべきなのでは(少なくとも、当然に支払われるべきものに執行の諸負担を負わせるのは絶対に間違っている)というのが、とりあえずの結論です。

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ところで、今回のブログで取り上げた二つのテーマ(義・支援金の内部紛争と養育費等)は、一見すると無関係のように見えますが、家庭の内部紛争という点では同じです(前者は行政から支給されるもの、後者は家庭内の扶養義務者が支払うべきものという違いはありますが)。

日弁連などは、ともすれば公権力に対し社会的弱者に救済のための公金を拠出せよということばかり強調しがちですが、財政難云々で税金から巨額の拠出を求めることのハードルの高さ(時に不適切さ)が強調される昨今では、それ以上に、「税金に頼らずとも「民」の内部で解決できる仕組み」や民間=家庭の内部の意識等の質を高める仕組み、ひいては法やその担い手(弁護士)がそのことに、どのように関わっていくか(役立つか)という視点を中心に、制度のあり方を考えていただくことも必要ではないかと感じています。

そもそも、「国にあれしてくれ、これしてくれ」とばかり主張するに過ぎないのなら、およそ国民主権の精神に反する(国に何かをしてくれと求めるよりも、自分が国・社会・周囲の人々のため何ができるか、すべきかを考え実践するのが主権者のあるべき姿ではないのか)と思いますし。

余談ながら、今回の弁政連の「県議さん達との懇親会(宴会)」も前回と同様、当家は家族の都合が第一ということで、私は帰宅せざるを得ませんでした。

まあ、当方の営業実績は昨年の今頃と同じく試練の真っ只中ですので、金持ちでもないのに交際費を拠出しなくて済んだと思わないでもありませんが、「私の祖父は県議だったんですよ~」と親近感をアピールして県議さん達を相手にヘコヘコと営業活動に勤しむ・・などという野望?はいつになることやらです。

まあ、上記の発言は、「でも、そのせいで実家の商売は潰れかけたので、政治は御法度というのが家訓なんですけどね」というオチがありますので、県議さん達に話しても嫌な顔をされるだけでしょうけど・・

男女間の様々な法的紛争に関するミニ講義とその意義

昨日は、盛岡JCの先輩で、地域のご婦人方のネットワークを構築して様々なイベントなどの事業を行っているTさんのお誘いで、Tさんが主宰するグループの会員である十数名のご婦人方を対象に、男女に関する様々な法律問題(離婚、不貞、その他の男女間紛争、子を巡る問題など)について、「男と女と家族の事件簿」との演題で、お話をさせていただきました。

過去にご相談等を受けた例や業界内で著名な裁判例をもとに「大家族のメンバー全員に、不和や不倫、子の奪い合い、婚姻外の交際破綻など次々に紛争が発生する」という、昼ドラ好きの方々のニーズに合致しそうな?架空の事例を考えて、それをもとに色々と論点をご説明しましたが、盛り沢山すぎて時間が足りず、論点の大半を超特急で済ませてしまいました。

他方、最後のフリートーク(近時の芸能人の事件絡みなど)がやっぱり一番盛り上がったので、いっそ何も準備しないで30分以上のフリートークにした方が良かったかも・・と、少し思いました。

男女や親子、相続など、ご家庭に関するトラブルの解決や紛争の予防のためのご相談、ご依頼は日常的に承っていますので、個別のご相談等だけでなく、こうした形で、町弁の仕事について(守秘義務の範囲内で)気軽にお話を聞いていただく機会を頂戴し、願わくば、それを通じて「法の支配(まっとうなルールによって人と社会をよりよく育てていくこと)」について理解を深めて機会をいただければと思っています。

もちろん、今回のミニ講義でも、最も大事なことは憲法13条と24条=個人の尊厳と両性の本質的平等である、という形でまとめさせていただいています。

などと考えつつ帰路についたところ「会場にコート忘れましたよ」の電話が・・・。実は、2週間前にも二戸支部でコートを忘れており、今期2度目の失態で、公言が憚られる他の忘れ物話も含め、このままでは「物忘れ王」一直線になりかねないと危惧するばかりです。

「子供の貧困」と弁護士業界が真っ先に取り組むべき対策

5月5日(こどもの日)の各紙の社説が、いずれも近年よく取り上げられている「子供の貧困」や虐待問題などになっていることを紹介するネット記事を見かけました。
http://www.j-cast.com/2016/05/08266168.html

田舎の町弁をしていると、離婚やこれに伴う親権、養育費(及び離婚までの婚姻費用)の請求・申立をはじめ、経済的に厳しい生活を余儀なくされている母子の方との関わりを避けて通れない面があります。それらは大赤字仕事になることも珍しくありませんが、一期一会と思って腹を括って対応しています。

「子供の貧困」は、世間的にはここ2、3年で一挙に取り上げられることが多くなったように思いますが(その点ではLGBTに似ています)、日弁連はそれより何年も前から取り上げており、例えば、平成22年に盛岡で実施された人権擁護大会では、メイン扱いというべき第1分科会でテーマとして取り上げられ、その改善を求める決議(提言)もなされています。

ただ、この日弁連決議を見ると、保育施設の拡充や高校教育の無償化など、様々な貧困救済(公的給付)に関する提言がなされているものの、意地悪い見方をすれば、大新聞の社説などとあまり変わらないというか、弁護士でなくとも提言する(できる)ような内容の項目が多く、「個々の弁護士が実務で現実に見聞した痛々しい問題を集約して、その改善・救済を求める」といった印象はあまり感じられません。

提言内容そのものを批判する趣旨ではありませんが、「法律実務家の意見書」であれば、自身の実務上の経験、知見などを踏まえた事柄に力点を置いた方が、読み手に説得力があるのではと思います。

例えば、子供の貧困の多くは、離婚を典型とする「主たる稼ぎ手(いわゆる世帯主)が子の養育環境から離脱(又は養育放棄)すること」により生じるところ、我が国では、離婚後は非監護親(たる稼ぎ手。通常は父)は監護親(通常は母)に養育費を支払うべきとされていますが、裁判所が採用する養育費の計算方法は、一般的には義務者(非監護親)に手厚く、とりわけ所得が少ない層では子が現実に生存できるだけの額すら算出されないとして問題になっています(その根底には、典型的な世帯構成を前提とする「世帯主」の利益を優先し、他の家族の立場ひいては一人一人の個性ないし実情を軽視する我が国の現在の社会システムの問題があるのではないかとも言われています)。

これに対し、上記決議では、公的給付(役所=税金からの支払)を主眼としているせいか、残念ながら養育費の問題について触れられていないように見受けられます。

「子供の貧困」対策を弁護士会が語るのであれば、公的給付のような、本業との結びつきが弱く弁護士会が特段の政治的影響力などを持っているとも考えにくい事柄よりも、まずは、養育費のような、自身の取扱領域に属する事柄について具体的に問題や改善策を求め、その上で他の事柄も論じるという方が良いのではと感じます。

この点、私のような末端の町弁は、冒頭で述べたように低所得の監護親の方の依頼により法テラスの立替制度に基づき離婚や養育費、婚姻費用の支払等を求める事件を受任することが多くありますが、法テラスは生活保護等の事情がない限り「立替」=総額10~20万円程度(通例)に対し毎月数千円程度の返済を求めています。そのため、滞納せずにきちんと支払をされる方については、それだけ実質的な取得額が目減りする結果になります。

そこで、上記の養育費等に即して言えば、①法テラス受任による養育費・婚姻費用(が主要争点の事件)については、代理人報酬は原則として全額公費負担(本人=監護親の償還義務なし)、②法テラス経由ではない事件も、監護親が低所得等なら同種の公的補助をするなどといった提言と、それを実現するためのロビー運動をする方が、その必要性を支える具体的な事情を多くの弁護士が語ることができるはずですし、関係先にも影響力を発揮しやすいのではと感じます。

中には「弁護士の業界利益の主張だ」と批判する人もいるかもしれませんが、それが導入されて救済されるのは、サービスの利用者=監護親及びその親に養育される子供自身に他なりませんし、弁護士にとっても、自身を頼りにして下さる方々を守るための運動なのですから、それを実現することは業界の信用にも繋がるのではないでしょうか。

だからこそ、それを実現することができれば、社会的影響力を認められ、やがては公的給付のような「本業以外の論点」にも影響力を拡げる道が開けるのでは(それこそが廻り道に見えて近道である)と感じます。

監護親(母親)の代理人として従事している末端の町弁の率直な心情としては、「(この程度の養育費等の額で)報酬をいただくのは誠に心苦しいが、もともと低い報酬なのにタダ働きで事務所を潰すわけにもいかず」と感じながら勤しんでいるという面は否めず、「低額報酬+立替制度」のままでは、関係者が互いに疲弊、消耗を繰り返して、結局は子供にしわ寄せが及ぶという印象は否めません(そのため、この種の業務で恒常的な大赤字に悲しむ身としては、従事者の報酬増額にも取り組んでいただきたいところではあります)。

もちろん、「養育費」は自助の問題であり、自助が不十分だ(社会内で機能していない)から公助(や共助)を拡充すべきだというのが、上記の日弁連決議の根底にあるのでしょうが、順番の問題として、まずは自分達の取扱領域から入り、その上で、「弁護士達が全国で取り組んでいる養育費の額や支払確保に関する負担の問題一つをとっても、自助が社会内で機能していないことは明らかだ、だから公助等を強化すべきだ」という論理を構築した方が、公助を論ずるにしても説得力が増すのではないかと思います。

そんなわけで、日弁連(弁政連)の偉い方々も、(このテーマに限らず)本業との結びつきが薄い政策提言や議員さんとの宴会に費やすエネルギーや暇とカネがあるなら、まずは、仕事に端的に関わり、子供の利益にも直結するようなロビー運動をなさっていただきたいと、末端で実務を担う田舎の町弁としては願うばかりです。

なお、日弁連は養育費の算定方法についても意見書を公表していますが、弁護士への依頼費用などにまで踏み込むものにはなっていないようです。