北奥法律事務所

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個別の法的問題等

広告業界に関する契約慣行と契約書なき下請受注のリスク

今週末に、デザイン(広義の商業広告)の仕事に携わる方々によるイベントが盛岡市内で行われるそうです。
http://morioka.keizai.biz/headline/1736/

私は、岩手に戻ってからはこの種のお仕事をされている方と関わる機会に恵まれていませんが、東京時代(10年以上前)には、一度だけですが、大手広告代理店から受注した商品カタログ等の制作に関する代金支払を巡る、厄介な紛争に関与したことがあります。

あまり具体的なことは書けませんが、かつて一世を風靡した某有名CMも制作したという広告デザイナーの方が、勤務先をリタイアした後に手がけた仕事で、ある分野では著名なメーカーから某大手広告代理店を通じて商品カタログの制作を受注し、仕事自体は問題なく完了したものの、代金の支払を巡って関係がこじれたという案件でした。

そして、その方が、制作に参加した関係者(孫請側)からは未払代金を請求される一方、元請側(広告代理店)からは契約関係を否定するなどして支払拒否されるという事態になり、元請側、孫請側それぞれと裁判をしなければならなくなり、その訴訟を受任した事務所の担当者として、2年ほど悪戦苦闘を続けたという次第です。

その方は、センスのある広告を仕上げる力量はある方なのですが(その方が抜けた後に作られた同じ企業のカタログを見せられ、素人でも品質の差が分かりました)、制作畑のご出身のためか、「お金(の範囲や流れ)」の話に詰めが甘いところがあり、それが紛争の主たる原因となり、「契約当事者(元請からの受注者)が誰なのか」など、難しい論点に直面して立証に難儀したのをよく覚えています。

その裁判で、ジャグダというデザイナーの方々の団体や、「クリエイティブディレクター」という職業がこの世に存在することを初めて知りましたが、その後、クリエイティブディレクターの第一人者というべき佐藤可士和氏の活躍をテレビなどで拝見したり、この記事のように広告絡みの話題に接する都度、その事件のことを思い出さずにはいられない面があります。

その事件では、大手広告代理店の代理人も、「この事件のように、広告業界では(一千万以上の金額が動く案件でも)契約書を作らないのが実情だ」と述べており、それが本当にそうなのか、そうだとして現在も続いているのか、存じませんが、合意の内容が曖昧だと、紛糾した際に、制作(下請)側の方ほど割を食う面が生じやすいことは間違いないと思います。

そうした意味では、少なくとも、大きい金額が動くなど潜在リスクが相応に存する案件では、弁護士に事業スキームを説明いただき、幾つかの事態を想定して適正なリスク分配を行う趣旨の契約書や合意書などを取り交わすことを励行していただきたいものですし、そのことは、広告業界に限らず、下請受注一般に言えることではないかと思います。

併せて、岩手県でデザイン業界に従事する方々から、現在、そうした事柄がどのように取り扱われているのか、お聞きする機会があればと思っています。

公務員が危険な作業を民間人に代行させた際に生じた事故と責任

北海道のある牧場に国が設置した施設内で生じた民間人の死亡事故で、担当公務員の事故防止措置義務違反を理由とする遺族からの国家賠償請求が認められた例について若干勉強しました。

具体的には、AB夫妻が経営している帯広地方の甲牧場内に国が設置・管理した「肥培かんがい施設」(牛などの家畜糞尿の処理施設)を管理を担当する国の機関の職員Cが施設の状況の調査中に、施設の一部である糞尿の貯留槽の蓋を誤って落下させてしまったところ、AB夫妻がCに対し、後日回収しておくと申し出たため、CもABに委ねました。そして、ABが貯留槽内で回収作業をしていた際、急性硫化水素中毒と見られる症状が生じて死亡するという事故が生じたものです。

そこで、夫妻の遺族Xが「CにはABに蓋の回収を委ねる際に、作業の危険性を警告する等の事故防止措置を講ずべき義務の違反などがあった」と主張して国に賠償請求したところ、裁判所(釧路地裁帯広支判H26.4.21判時2234-87)は、Xの主張(担当職員の義務違反)を認め、国に数千万円の賠償を命じています(但し、AB夫妻にも4割の過失があったと認定)。

そもそも、公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失により違法に他人に損害を加えたときは、国又は地方公共団体が賠償責任を負います(国家賠償法1条1項)。

国賠請求を巡る紛争は公務の種類や態様に応じて多岐に亘りますが、「公務員が自ら行うべき作業を申出により民間人に委ねた際に事故が発生した場合に、作業に内在する危険性を警告しなかったことを理由に被害者が賠償請求した例」というのは滅多に聞いたことがなく、同様の性質を持つ事故の賠償問題を考える際に、参考になると思われます。

また、「業務として危険な作業に従事する者が、その作業の一部を好意で代替を申し出た他者に委ねた際に、その者への説明不足に起因して死傷の結果が生する例」というのは、民間企業などでも十分ありうることでしょうから、そうした事故の賠償責任を検討する際にも参考価値があると思われます。

裏を返せば、公務員に限らず、危険性を伴う作業に従事する方が、業務の際に関係者と接する際における事故防止のための措置(接する者への説明等)のあり方という点でも参考になると思われ、研修のための素材として活用できる裁判例というべきかもしれません。

トラック運転手の労働時間と事故時の責任

保冷荷物を配送するトラック運転手Xらが雇用主(貨物運送業者)Yに未払割増賃金などを請求した件で、Xらの待機時間が労働基準法上の労働時間に該当するとして、Xらの請求を認めた例横浜地裁相模原支判H26.4.24判時2233-141)を若干勉強しました。

車両運転に従事する労働者の待機時間の労働時間該当性については、タクシー運転手の待機時間について労働時間性を肯定した例が少し前に掲載されており(福岡地判H25.9.19判時2215-132)、運転者が自由に過ごすことができ労務に服するか否かを自ら判断できるような場合でなければ、使用者の指揮命令下での待機と評価され労働時間との認定を受けるのが通例と思われます。

ところで、私は、「トラック運転手の残業代請求」は携わったことがありませんが(本格的な訴訟としてはIT従事者の方の残業代請求訴訟を行ったことがある程度です)、トラック運転手の方が自損事故を起こし会社所有の車両を大破させたため、勤務先から賠償請求を受けた事件で、運転手の方から依頼を受けたことがあります。

依頼主(運転手)の説明によれば、その件では長時間労働が常態化しており(何年も前なのでよく覚えていませんが、一定の裏付けもあったとの記憶です)、疲労や寝不足などが事故の原因と見られたので、基本的には会社に責任がある事故で、依頼主に一定の責任があったとしても、(私の介入前に)支払済みの金額以上の責任はないと主張しました。

当方依頼主が適法な残業代の支払を受けていたのか、確認したか否かも含め記憶がありませんが、その件では、勤務先も、それ以上の措置(当方依頼主への賠償請求訴訟など)を講じてこなかったので、そのまま終了となりました。

仮に、相手方が訴訟に及んだ場合には、当方依頼主が適法な残業代の支払いを受けていなかったのであれば、反訴として既払金の返還+残業代を請求していたのではないかと思われますが(その件でも待機時間があったはずで、争点になりえたでしょう)、依頼主も自分から提訴することは希望しなかったので、その件では様々な論点が決着しないまま、事実上のゼロ和解となっています。

ともあれ、トラック運転手の超過労働を巡っては、残業代請求のほか、事故絡みも問題も生じやすいことは確かでしょうから、運送等の業務に従事する方は、労使問わず、法令遵守の視点を大切にしていただきたいものです。

消費税の課税標準の判断を巡る裁判

田舎の町弁をしていると、税務に関する法的紛争(申告等の解釈等を巡る税務署との争いなど)の相談、依頼を受けることはほとんどないと言ってよいのですが、東京時代に重加算税処分を争う訴訟を手掛けたこともあり、判例雑誌の勉強くらいはやっておこうということで、多少は勉強するようにしています。

といっても、判例時報などで時折取り上げられる「海外のタックスヘイブンを絡めた巨額の節税対策を巡る紛争(所得税法絡み)」は、田舎の町弁に縁のある紛争とはとても思えず、真面目に読んで勉強するのは、我が業界が対象となった「破産管財人の源泉徴収義務」に関する最高裁の判例など、一部に留まっているのが実情です。

この点、判例地方自治(雑誌)では、固定資産税の評価などを巡る訴訟が多く取り上げられているのですが、消費税は滅多に出番がないと思っていたところ、平成18年に、課税標準(消費税の算定の基礎となる課税資産の譲渡等の対価の額=対価として収受する(すべき)経済的利益の額)の算定を巡る裁判例があったのを見つけました。

具体的には、静岡県川根町の第三セクターが経営する温泉運営企業が、平成12~15年に、入湯客数や入湯税の対象者数を毎日集計し、営業日報に記載する方法で入湯税額を毎日算出して町に申告納税することにより、消費税は課税標準額に入湯税相当額を含めずに税務署に申告していた件で、税務署長が、当該申告方法(消費税の課税標準額からの除外)を認めずに更正・過少申告加算税賦課処分をしたため、企業側が処分取消請求をしたところ認容された例です。(東京地判H18.10.27判タ1264-195

裁判所は、上記の経理作業のほか、顧客への周知などから取引価額と入湯税を区別していたとして、入湯税部分が課税標準額の対象外となることを認めています。

ところで、このような「消費税と他の税金の二重課税」の問題は、温泉税に限らず、酒税など幾つかの商品・サービスで問題になりうるのではないかと思い、そうした紛争や制度上の手当の有無はどうなっているのかと少しだけ検索してみました。

すると、ある税理士さんのサイトで、「たばこ税・酒税等はメーカーが納税義務者となって負担する税金で、その販売価額の一部を構成しているので消費税の課税標準に含まれる。軽油引取税、ゴルフ場利用税、入湯税等は利用者(消費者)が負担する税金なので、原則として消費税の課税標準から除外される」とあり、そうであれば、残念ながら街の酒屋さんなどが、上記の温泉企業のような工夫をして消費税を節税することは難しい(他方、ゴルフ場などは、工夫次第で可能であり、税務署の処分を争うこともありうる)ということになるのかもしれません(もちろん、両者を区別することについての制度論としての当否の問題はかなりあるとは思いますが)。

ところで、上記の裁判例を手掛けたのは我が国の税務訴訟の第一人者と目されている鳥飼重和先生の事務所で、判決文の代理人一覧には面識のある方も含まれているのですが、税務訴訟のすべてが「第一人者が担うべき、多様で総合的な税法の知識、理解を要する訴訟」であるわけではなく、中には、事実認定が主たる争点であるとか、法律論としてはさほど複雑ではない案件もありますので、訴訟外の交渉なども含め、田舎の町弁にもお役に立てる機会をもっと持てればと思っています。

弁護士の「融資支援」の現実と理想

前回の「中小企業支援」に関する投稿の続きです。

先日行われた日弁連主催の中小企業支援に関するキャンペーン会合の際には、日弁連作成の15分ほどの宣伝ビデオが上映されていたのですが、普通の町弁の立場から見ると、首を傾げたくなる部分が幾つかありました。

ビデオは、飲食店を開店した方が、銀行融資や取引先との交渉や信用調査、社内問題、事業の一部閉鎖や事業承継などの論点が生じる都度、特定の弁護士に相談して書面作成や交渉などのサービスを受けて会社規模を拡大・発展させていったというもので、要するに「裁判以外でも弁護士は色々な仕事ができるので、頼んで下さい」とPRする内容でした。

例えば、冒頭あたりに、社長さんから「銀行から融資を断られたので支援して欲しい」という相談がされ、弁護士が、事業計画書(その事業の収益性=返済能力をアピールするための書面)を作成としそれを前提に融資を銀行に了解させたという話が取り上げられたのですが、現時点でこれ(融資支援)を典型として取り上げるのは止めた方がよいのではと思いました。

というのは、一般の方でもイメージし易いと思いますが、銀行への融資依頼(交渉)などという業務を実際に(特に、日常的に)手がけている弁護士は企業再建で有名な村松謙一先生のような限られた方に止まり、私を含む大半の弁護士にとっては日常的に行っているものでなければ研鑽を積みノウハウを得る機会が与えられたこともなく、それを依頼する方(との出会い)も、まずないといってよいと思います。

企業経営者の立場で考えても、収益性=企業のカネに関わる話の依頼先として想定し易いのは、その事業に知見のあるコンサルタントであるとか、経営コンサル絡みの仕事もしている税理士さんなどではないかと思います。

そのため、「弁護士が融資支援が出来る」というのであれば、具体的な手法や実施状況などを明らかにするなどして「弁護士が現実に融資支援ができること」を認知を高める必要があるのだと思います。

当然、そのためには、受任する弁護士がその種の業務を現実にこなすことができるだけの一定の能力の担保(常に実現できるわけではないでしょうが、専門家として一般的に求められる業務の質の確保)が図られなければならず、そのためには、研修的なものだけでなく、一定の頻度で現実にその業務に携わることができる機会を確保させなければならないと思います。

債務整理との比較で言えば、私が弁護士になった平成12年当時、すでに東京弁護士会などが多くの論点に対処するための内容を書いた書籍を刊行すると共に、新人でも直ちに多くの事件を受任し研鑽を積めるだけの現実に膨大な需要及び依頼者とのマッチングの場(弁護士会のクレサラ相談センター)がありましたので、それらの条件を全く満たしていない「融資支援」とでは、あまりにも大きな違いがあります。

そもそも、(ごく一部の著名専門家を除き)弁護士が融資支援に従事する実務文化がないという現実は否定し難いと思いますので、まずは、日弁連等が金融庁や銀行協会など?に働きかけて、「弁護士が●●のような関わり方(支援業務)をすれば、融資を受けやすくなる」といった制度ないし仕組みを作り、「経営コンサル等だけに任せるのではなく、この場面(論点)がある融資事案では弁護士に頼んだ(弁護士も絡めた)方がよい」という文化を、上からの主導で創り上げていくのが賢明ではないかと考えます。

この点、弁護士の多くは、融資の対象事業の収益性などを判定・強化する能力等を兼ね備えているわけではないと思いますが、「特定の課題に関わる様々な事情を拾い上げて総合的な事実説明のストーリーを構築し、文章化する」ことには、訴訟業務を通じて相応に能力、ノウハウを持っています。

そこで、「事業の収益力を高めるための事業の方法などに関するアドバイス」は業界向けのコンサルタントなどにお任せするとして、それをより文章などで分かりやすく伝えるとか、融資対象たる事業や企業それ自体に法的な問題、論点が絡んでいる場合の対処法などをフォローするなどの形で、弁護士らしい(弁護士だからこそ他の業種にはできない良質なサービスができる)仕事ができるのではと思います。また、そのようなワンポイント的なフォローに止まるなら、低額のタイムチャージとすることなどにより、依頼費用も相応に抑えることができるでしょう。

これは、事業承継支援など各種士業が連携して仕事をするのが望ましい分野に広くあてはまる話のはずで、そうしたことも視野に入れて、「ワンストップサービスの文化」が広がりをもってくれればと思います。

就業規則なども話題に出ていましたが、社労士さんが単独で済ませて十分なタイプの仕事もあれば、作成段階から弁護士が関与すべき類型もあるはずですので、「弁護士も就業規則が作れる」などと、社労士さんと競合するような宣伝の仕方ではなく、「このような事案(このような論点を抱えている企業)では、企業自身のため、弁護士も関与させるべき」といったPR(及び需要の創出と供給の誘導)を考えていただければと思います。

何にせよ、受任者側にあまり態勢が整っていない事柄(業務類型)を大々的にPRして、「弁護士に相談すれば大丈夫!気軽に相談を!」などと宣伝するのは、誇大広告の類との誹りを免れませんし、個々の町弁にとっても、司法試験とは関係がない分野で、仕事がいつあるのか(本当にあるのか)わからないのに勉強だけはやっておけというのは些か無理な話ですので、融資支援であれ何であれ、現代の町弁に相応しいサポートのあり方についての議論を弁護士会などの主導で関係先と詰めていただき、需要側・供給側双方にとって有意義な業務のカタチを構築できるように尽力いただければと思っています。

余談ながら、「融資支援」に関しては、東京のイソ弁時代に「X社が新規事業のため融資を必要としている件で、自称コンサルY社から巨額の融資を仲介してやると勧誘され多額の着手金を支払ったが、さしたる仕事もしないまま仲介業務が立ち消えになったため、Yに賠償等を請求した訴訟」を担当したことがあります。そのため、弁護士の手に余る事柄ではないかと感じつつ、弁護士が関与することで業務一般の適正を担保させるべきではないかとも感じており、そのような面も含めて、企業融資に携わる方々に、弁護士の関与の意義やあり方について、検討を深めていただければと感じています。

中小(小規模)企業支援に関する弁護士の役割と現実

昨日、日弁連の主催で中小企業に関する支援のあり方を官庁や県内商工会議所などの支援団体と協議する趣旨の会合があり、参加してきました。

といっても、参加者が具体的な支援業務の内容や基盤整備を角突き合わせて議論するようなものではなく、主催者等の挨拶、日弁連の宣伝ビデオの上映や他県の支援事例の発表と参加団体の方々などから弁護士会又は個々の弁護士への要望に関する意見な述べられるといったやりとりが中心でした。

日弁連は「(増やしすぎた町弁」の食い扶持対策もあってか、中小企業支援のキャンペーンに力を入れているのですが、残念ながら、私の実感する範囲では、「日弁連(弁護士会)のお世話になって、中小企業の方々から相談や依頼を受けた」という経験がほとんどなく、多くの企業の方々は、東京などを含む有力なベテラン・中堅弁護士の方に、様々な人脈・パイプを通じて顧問や事件依頼を行っているのが実情と思われます。

恥ずかしながら、このブログでも何度か書いているとおり、私自身は中小(小規模)企業の方々をサポートする仕事を多数お引き受けしたいと思っているものの、人脈の無さなども相俟ってごく限られたご縁しか持てず、ボスの信用で顧問先の企業法務的な仕事が次々と舞い込んできた(それを精力的にこなすことに充実感を感じていた)東京のイソ弁時代に戻りたくなることも少なくないという恥ずかしい有様です。

それだけに、日弁連が、その種の取り組みを熱心に行い、企業の方々の意識改革や利用のための基盤整備を行っていただけるのであれば、ぜひお願いしたいとは思っているものの、今回の会合も、抽象的なキャンペーンの類に止まり、企業側が直ちに飛びつきたくなるような具体的なメニューの提示などはあまりなかったように感じました。

例えば、この種の話題では、「何を相談したらよいか分からない」という意見がよく出されるわけですが、このような仕事をしているといった小規模企業一般、或いは業界ごとの具体的な相談事例集などを整理、作成して、業界の会合などで簡単にPRするような機会でも設ければよいのではないかと思うのですが、そうしたところまでは議論は進まなかったようですので、その点は残念に思います。

とりわけ、小規模企業の様々な業務については、紛争性が少ないなどの事情から、簡易な相談や書面作成などは他士業が多くを担っている(それで需要者側から特に不満が表明されているわけではない)という実情があるでしょうから、「弁護士に頼んだ方が遥かにメリットがある」と言えるような何かがなければ、実効性のある話にはなりにくいと思われます。

そうした意味では、皮肉めいた話かもしれませんが、数年前に撤廃されたグレーゾーン金利(法定金利と約定金利のダブルスタンダードがあり、約定の高利貸付の返済が困難になれば、信用情報登録と引換えに、法定金利計算による債務減額・過払金請求が可能になる)の問題は、「弁護士に頼めば決定的なメリットが生じる」という意味では非常に判りやすい話であり、それを元に戻すべきだとは思いませんが、今後、何らかの制度や運用を作ったりする際には、参考にしていただきたいものです。

また、「得意分野を知りたい」「費用が高い、不透明だ」といった話も出ていましたが、この点は、このブログでも過去に書いたと思いますが、要するに個々の弁護士に関する適切な情報開示(経験、知見、取り組みなど)や相性などに関するマッチング、双方の採算性の確保を考えた費用設定などで一定の解決が可能な話であり、マッチング等のため汗をかく人、汗をかける場の設定などが求められていることなのだろうと思っています。

そうした意味では、私も、もっとお役に立てる場を持ちたいと思いつつ、兼業主夫の悲しさか、それ以前のキャラや器量の問題か、長い間、弁護士会でもJCでも幽霊部員を続けてしまったことなどから、汗をかきたくても人の集まる場に上手く入っていけない悲しさがあり、どうしたものやらと悲嘆に暮れているというのが情けない現実です。

「物議を醸す施設」の建設阻止(営業妨害)と関係者の責任

行政が、周辺住民などが反対する企業の進出を阻止するため、風営法などの立地規制を利用しようとして、その企業と賠償問題などの紛争になることがあります。

先日、その一例として、「パチンコ業者Xの出店を阻止するため、国分寺市Yが風営法の立地規制を利用する目的で、市立図書館条例を改正して隣接地に図書館を開設して出店を断念させたため、XがYに賠償請求し、3億円強が認容された例」(東京地判H25.7.19判例地方自治386-46)を少し勉強しました。

解説では、個室付浴場や高層マンションの建設を阻止する目的でなされた行政等の措置に関する国賠請求が認容された前例などが紹介されています。

この種の出店妨害は、同業者がライバル業者の出店を阻止する目的で、土地を取得し社会福祉法人などに寄付する方法でなされることもあり、最高裁の判決があるほか、盛岡でもこの種の裁判が提訴され巨額の賠償が命じられた例があります。

パチンコ等の業態に対する社会的な評価はさておき、設置規制などを、設置反対者の利益を図る目的で、法の趣旨に即しない形で活用(悪用?)したと裁判所が評価した場合には、厳しい判断がなされる可能性が濃厚ですので、それらの施設の建設を阻止したいということであれば、急進的な手法は通用しない可能性が高いとの認識のもと、遠回りでも、良好な景観形成などに関し、文化的なものから法的なものまで地道かつ多様な努力を積み重ねていただくほかないのではないかと思います。

ところで、上記の判決の認定によれは、市が条例の制定にあたり、顧問弁護士などに法的リスクについて諮問し、「リスクがあるが、●●の展開になれば賠償紛争を避けられるかも」などと回答していたようです。この種の相談を受ける弁護士としては、リスクを強調して依頼者が行おうとする行動を極力防ぐ方向で回答すべきか、何らかの手段がありうるとして依頼者の希望に沿う方向で回答すべきか、悩ましい面が色々とあると思いますが、少なくとも、前例などを調査し紹介するなどして、依頼者が適切な判断をできるように努める必要があります。

この事案では、顧問弁護士が諮問を受けたのが平成18年とのことですが、パチンコの出店妨害問題を巡っては、平成19年に最高裁の判決がなされているものの、それ以前に最高裁の判決はないようですので、当然に顧問弁護士の判断を違法(業務水準違反)と言うべきではないでしょうが、その種の紛争に関する下級審裁判例はそれなりに出ていたそうなので、それらを調査し市に提供することが求められていたというべきかもしれません。

この点に関し、景観保全のためマンション建設を巡る紛争が生じた国立市では、業者が市に賠償請求して認められ、住民訴訟により市長個人の賠償責任が問われ、責任を認める判決がなされており(東京地判H22.12.22)、上記の国分寺市の事件でも、市長その他の責任が問われる事態もありうるかもしれません。

その場合、事案次第では、事前に関与した弁護士も相被告として提訴される可能性もないとは言えないのでしょうし、今後は、自治体の権限強化(地方分権)が叫ばれることで、自治体の権限行使の適法性を問うような紛争は増えてくると思われます。

「周辺住民等から反対運動が生じる施設の建設等の阻止を巡って賠償問題が生じる例」は、風営法を利用したパチンコ施設の出店妨害の問題に限らず、廃棄物処理施設などでも生じており、そうした事案への対処も含め、研鑽を積んでいかなければと思っています。

ハラスメントに関する法対策と5W1Hとバランス感覚

先日、労働上のハラスメントに関する法的問題を対象とする東北弁連主催の講習会があり、勉強のため参加してきました。

私は労働紛争を多く受任するタイプ(いわゆる労働事件専門)の弁護士ではありませんが、パワハラ絡みのトラブルを理由とする賠償等の問題について、労働者、使用者それぞれの立場で相談や労働審判の依頼などを受けたことがあるなど、多少は手掛けています。基礎的な勉強はしているつもりですが、ハラスメント問題に限らず、労働事件は今後も多く手がけていきたい類型であり、知見を深めることができればと考え参加した次第です。

講習会は、ハラスメント問題では東北の第一人者とされる仙台の先生の講義がメインとなっており、ここで詳細は述べませんが、例えば、セクハラ事案は、密室で行為や言動がなされるため、行為の事実の存否が争われることが多いのに対し、パワハラ事案は、ほとんどの行為や言動は衆人環視の職場内で行われ、他の従業員等の放置を含めた様々な事実の総合的評価が問題となるので、個々の周辺的事実の存否はあまり争われない(評価ないしそれを基礎付ける決定的な事実などが争われやすい)などという説明がありました。

また、その上で、パワハラを理由とする賠償訴訟で、裁判所が、事実の総合評価という手法に安易に頼らずに、個々の事実に関し賠償請求を基礎付ける違法有責な行為があったかを細かく審理した例があるとの説明もありました。

そのことを聞いて、パワハラ問題は、岩手に戻ったばかりの10年近く前に2回ほど手がけた先物取引被害の賠償問題に、似た面があるのかもしれないと思いました。

先物取引被害は、要するに、先物取引という特殊な取引に対する高度な知見又は独自の勘がなければおよそ手がけることができない、ハイリスク・ハイリターンな取引を手がけるのに相応しくない方(その種の経験のない定年後の高齢者など)が、先物会社の従業員の勧誘に安易に応じて多額の証拠金を預けることから始まり、最初は多少の利益が出たりするのですが、程なく、支払済みの証拠金では補填できない額の損失(いわゆる「追い証」状態)が生じ、損を取り返そうとして、担当者が進めるがまま延々かつ頻繁に取引を繰り返し、半年~1年ほどで巨額の損失が生じて終了となるというパターンを取ることが多いとされています(私が関わった事案は、必ずこのパターンでした)。

このような経過のため、個々の行為(勧誘、契約時の説明、証拠金の授受、個別の先物取引(買建、売建や決済)の勧奨、追い証発生時の説明など)については、それ自体のみをもって裁判所が不法行為性を認定させるのが容易でなく、勧誘から取引終了時までの様々な事実経過を詳細に説明し、被害者の取引適性のなさや取引内容の異常性(過度に取引を繰り返し、顧客の損失が増大する一方で、先物会社の手数料収入ばかりが増えていることなど)を説明し、総合的に見て顧客の犠牲のもとで先物会社の利益を図っている不法行為であると評価すべきだと主張するのが通例で、そのような判断をする例も多くあります。

ただ、私が手がけた訴訟では、主張等を尽くした後で行われた和解協議の中で、裁判官から「個々の建玉の取引について、その取引自体の不法行為性を主張立証できなければ、賠償責任ないし賠償額の判断が厳しくなるかもしれない」と言われたことがあり、文献や多数の裁判例の考え方と違うじゃないかと驚き、対処に悩んだことがあります。

幸い?その件では事案に照らし相場の範囲と言える和解金の提示(回答)が先物会社側からなされたので、ご本人が了解し和解で終了となりましたが、裁判官が求める観点から主張を構成するためには、どのように取引を分析したり個々の取引の経過等を調査すべきか、参考となる裁判例等がほとんど見つからなかった上、依頼主が高齢者であるなど細かい事実の確認が困難と思われる方であったため、悩んだことをよく覚えています。

ともあれ、不法行為責任をどのような法的構成で認めうるかという問題は措くとしても、先物のようなハイリスク取引のトラブルであれパワハラであれ、長期間の様々な行為(人間関係等)に起因する問題、出来事の総合的な違法評価を理由とする賠償請求をするには、違法の評価に結びつく要素にあたる事情について、事実関係(いわば、5W1H)を詳細に主張立証しなければなりませんので、その種の問題を弁護士に相談なさる際には、ぜひ、時系列表を作成するなどして、事実関係の適切な整理と把握を通じ、第三者(弁護士)への適切な伝達ができるよう、賢明な準備をお願いしたいところです。

ところで、セクハラは話になりませんが、パワハラ紛争については、「労働者の適切な権利行使を妨害する言動」の類は話にならないものの、労働者が、その企業が想定している基本的な業務を適切に遂行することができない状態が続く場合に、指導・叱責が昂じて過激な言動に及ぶという例も見られるところで、このようなケース(相性的なものも含め)では、人材のミスマッチという面が否めず、使用者(上司)側を一方的に悪者にすることもできない例も見られるのだと思います(中には、労働者=部下の側に不誠実な行動が見られる例もあるでしょう)。

そのような例では、組合せの不幸(端的に言えば、離婚のように、離れた方がよい)の問題があり、相応の規模の職場であれば、配転等により解決すべきでしょうが、小規模な職場であれば、なるべく小康状態(引き延ばし?)を図りつつも、いずれはどちらかの離職等を視野に入れた解決を考えざるを得ないと思われます。

そうした意味では、(殊更に経済界が推進する解雇規制緩和に賛同するものではありませんが)健全な意味で、ミスマッチを克服し難い職場があれば、自分に合う企業を求めて短期間で適切な転職ができるよう、失業率が低く人材流動性(意識面を含む)の高い社会の構築(個人の起業促進なども含め)も求められているのではないかと思います。

余談ながら、レジュメで「ハラスメント判例一覧」が添付されていましたが、私が判例雑誌をもとに作成している判例データベースに入力したセクハラ等に関する裁判例(セクハラ被害に関する企業の調査内容(被害者の申告)の信用性を認め、加害従業員からの解雇無効請求を棄却し、さらに不当訴訟を理由とする企業から加害従業員への賠償請求も認容した例など)が挙げられていなかったので、その点は少し残念というか、「これも追加して下さい」と余計なことを言いたくなる衝動にかられました。

高速道路の事故と責任

先日、岩手県内の高速道路上で走行中の車両の炎上事故があり、乗車中のご家族が死傷するという大変残念なニュースがありました。

特異な事故で、当初はタイヤの破裂の影響を仄めかす記事だったと思いますが、その後、他の車両の部品がガソリンタンクに刺さっているのが分かり、それが摩擦で発火したのではないかという報道があり、恐らくは、どのような経緯でその部品が刺さったのか(道路上に落ちていたのを踏んだのか、他の原因か)を警察が調べている最中なのではないかと思います。

事情が全く分かりませんので憶測で物は言えませんが、前方を進行する車両が物を落として、その直後にそれを踏んだということであれば、内容次第では、その車両の責任を検討すべき余地があるでしょうし、一定時間、危険な状態で路上に放置されていた部品を避けきれずに踏んだということであれば、道路の設置管理の瑕疵を理由とする高速道路の運営企業への責任追及という論点もありうるのかもしれません。被害車両に部品が積まれていた可能性もあるとの記事ないし投稿も読んだ記憶があり、いずれにせよ事実関係の解明が待たれるところだと思います。

ところで、全くの余談になりますが、1年ほど前に、高速道路を走行中に、進路前方に突如、布団を巻いたような物体が出現したことがあり、避けきれずに正面衝突してしまったことがあります。

その際には、第2車線を走行中に進路前方の車両が突如、進路変更をしたところ、目の前(視界)に上記の布団が突如出現し、私も第1車線に進路変更したかったのですが、併走している車両がいた上、第2車線のすぐ後方にも走行中の車両がおり、いわば逃げ場のない状態で、避けきれずに布団に衝突してしまいました。

幸い、視界に入った範囲では、布団に人が入っているなどという事情はないと思われ、また、跳ねた布団はそのまま第1車線と第2車線の間で止まったように見えましたので、その後は、他の車両に迷惑をかけることもなく、高速道路の管理会社側で撤去したのではいかと思われます。

恐らく、引越等のため布団を巻いて運んでいる方が走行中に落としたのではないかと思われますが、当時は、「ヤクザ等が、関係者を轢死させるためグルグル巻きにして高速道路上(の後続車が避けきれない混雑状態の場所)で路上に放り投げたなどという話でもあったらどうしよう」と、少し不安がないこともありませんでした。幸い、報道の類は一切なく、杞憂だったのではないかと思われます(そう信じたいです)。

高速道路上の事故を含む大半の事故類型では、裁判所が刊行する過失割合の基準(別冊判例タイムズと呼ばれる書籍)をもとに、責任や過失の程度に関する判断を行うことになります。

今回の被害者の方もそうですが、高速道路上の事故は、県外の方が当事者となることも多いせいか、私自身はあまりご縁がない(受任するのは一般道や駐車場等の事故が圧倒的で、高速道路上の事故は過去に1、2件程度かもしれません)のですが、大きな被害が生じる事故では、賠償額算定上の論点が多数生じますので、残念ながら被害に遭われた方は必ず相応の力量を持った弁護士に相談等していただければと思います。

弁護士の作成書面と礼節

弁護士が訴訟等で作成する書面は、争点を巡る当事者間の対立の度合いなどに応じて、時に、相手方への厳しい批判を伴うことがあります。ただ、度を過ぎると、名誉毀損などの問題を生じることもあり、賠償請求に関する裁判例も幾つか存在します。

現在、弁護士15年目にして、はじめて「弁護士を被告とする訴訟」をやっています。といっても、名誉毀損絡みではありませんし、原告が私でないことはもちろん、被告も岩手の先生ではなく、また、特異な経過を辿った事件で、典型的な「弁護過誤」などとは異なるタイプの事件です。

ただ、被告たる弁護士の方の行動については、立場論だけではない、弁護士の仕事のあるべき姿という意味で、首を傾げざるを得ない面があり、対応に苦慮しています。

先日、被告側からある申立があり、すでに退けられているのですが、その中でも、「(私が、遠方にある被告の事務所に来ないから)無責任だ、軽率だ、怠慢だ、迷惑だ、不正義だ」などと不満の言葉ばかりを並べ立てた主張がありました(それを前提に、裁判所に特定の措置を講じて欲しいとの申立になっています)。

しかし、その事案の内容に照らしてもおよそ無理のある主張で、ただでさえ問題の多い事案なのにと、ため息ばかり積み重ねざるを得ませんでした。

もちろん、私も罵詈雑言を重ねたのでは同レベルに堕ちてしまいますので、相手方の主張の前提(当方に特殊な義務があるなどという主張)自体が根本的に誤っていると反論するに止めています。

係属中の事件であり、特殊な事情が多いこともありますので、これ以上、具体的なことを記載するのは差し控えますが、どのような事情があるにせよ、弁護士の作成する書面は礼節を弁えないと、一部に真っ当な主張が含まれていたとしても、主張全体が信用されないことになりやすいのではないかと思います。他山の石ということで、気を付けていきたいものです。