北奥法律事務所

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個別の法的問題等

乳幼児の窒息事故・無呼吸状態と保育園の賠償責任

登園時間中の園児が睡眠中に無呼吸状態となり、心肺停止の結果、死亡や重篤な障害が生じた場合に施設側の賠償責任の有無が問われた裁判例が、幾つか公表されています。

最近の例として、「未認可保育園で睡眠中の幼児X1(1歳2月)が、一時無呼吸状態となり、低酸素性虚血性脳症(障害等級1級)という重篤な後遺障害を残したため、X1及び両親X2・X3が、保育園の経営者Yに対し1億3000万円強の賠償を請求した例」が紹介されています(横浜地裁川崎支判H26.3.4判時2220-84)。

判決では、X1の心肺停止の原因は不明で、X側で主張した態様(窒息)とは認め難いこと、Yに保育上の注意義務違反や救護義務違反が認められないことを理由にXらの請求を全面的に棄却しています(但し、控訴中とのこと)。

解説によれば、乳幼児の窒息に関する前例の多くは、原因不明として保育士らの過失が否定されているものの、一部に乳幼児突然死症候群との医学的所見を排して保育士らの過失を認めた例もあるそうです。

予防こそが最も大切な事柄ではありますが、より深刻な事態を防止するためにも、保育事業に携わる方やお子さんを預けている方々に、保育上の事故や登園中の重篤な病気に関する裁判例を通じて、どのような状況下で事件が起きているか、事件が起きたとき関係者がどのように行動しているか、それらについて裁判所がどのように評価=賠償責任の有無等を判断しているか、学んでいただき、予防等に活かしていただく機会があってよいのではと感じています。

 

弁護士による暴利行為の被害に遭わないために

最近の判例雑誌に、「交通事故の賠償手続などを受任した弁護士が依頼者から受領した金額が、受任業務の内容等に比して高額に過ぎる(暴利行為として公序良俗違反である)と認められ、一部の返還請求が認められた例」が載っていました(東京地判H25.9.11判時2219-73。要旨は以下のとおり)。

Xらは、子Aが交通事故で死亡し、XらはY弁護士に加害者への賠償請求等を依頼し、①相談料として5万円、②刑事告訴として100万円、③損賠請求の着手金として100万円、④自賠責請求報酬として255万円、以上の合計460万円を支払った。

その後、Yが提訴に難色を示したため、XらはYを解任し、上記の支払が暴利行為だとしてYに返還を求め、併せて慰謝料を請求した。Yは、Aの死亡が自殺(ゆえ、加害者への賠償請求が奏功しない)との疑いがあることなどが提訴に難色を示したもので、事故態様に争いがあることなどから既払金が不当に高額とは言えないとして請求を争った。

以上に対し、1審は④の自賠責報酬につき、100万円を超える部分を暴利行為として残金155万円の返還を認め、他の部分については棄却した。Xらの控訴に対し、2審は、③についてもYが訴訟提起に至っていないことから、50万円を超える部分を暴利とし、上記④を含め205万円の返還を命じた。

この事件はさておき、近時、噂話の類として、「東京などには、プロ(弁護士)の目から見れば、さしたる労力を投入しなくとも一定の成果が確実視されるなど、ごく簡単な事案なのに、あたかも成果獲得が非常に困難であり、それを、当該弁護士に依頼すれば実現させてあげるなどと吹聴して高額な報酬を請求する弁護士がおり、特に、刑事事件や交通事故、債務整理などに、その傾向が顕著である。そして、最近では、そうした弁護士が、広告宣伝などを通じて岩手など地方にも触手を伸ばしている」などと幾つかの方面から聞くことがあります。

具体的な紛争事案や問題事案を聞いたわけではなく、最近の業界の競争激化に伴う流言飛語の類もあり得るかもしれませんが、ここ数年の弁護士の激増に伴い、弁護士と依頼者との紛争が増えていることは間違いないと思います。

紹介した事件では、Yの主張によれば、Aの死亡に自殺の疑いがかけられ、それに起因して?Xらは警察等の対応に強い不満を持ち、Yに賠償請求だけでなく刑事告訴の委任もしているという事情があり、単純に「プロ(弁護士)の目から見れば、さほど手間のかからない簡単な案件」というわけではなく、むしろ、Y弁護士と依頼者Xとの間の意思疎通や争点への考え方の相違などに紛争の芽があったようです。

判決を見る限り、有効とされた部分の金額も決して少額とは言えませんが、裁判所は、そうした以上も考慮し、上記の判断に止めたものと思われます。

ただ、「ぼったくり事案」であれ「方針等を巡るトラブル事案」であれ、結局は、依頼者と弁護士との間に適切な意思疎通や信頼関係の構築がなされていないことが、紛争の根底にあることは間違いありません。

常にそこまで必要かはともかく、とりわけ、一般的には難易度が高いと見られる訴訟等を依頼するケースや、高額な金銭の授受が行われる(或いは想定される)ケースなどでは、相談・依頼先の弁護士に対し、適切に事実関係を説明し資料を提供することを前提に、見通しに関する丁寧な説明を受ける(求める)ことはもちろん、見通しや信頼関係の構築、費用の相当性などに多少なりとも不安を感じる点があれば、複数の弁護士に相談するなどして、相性的なことも含め、「自分が真に頼みたいと思える適切な弁護士を選ぶ」という姿勢を大切にしていただきたいと思います。

少なくとも、司法改革による弁護士の激増により、多くの方にとって、弁護士の選択権が増えた(これは、数年前までは、とりわけ地方では、ほとんど考えられなかったと言っても過言ではありません)ことは確かであり、そうした「チャンス」を上手に活かしていただきたいと思います。

 

復興特需に伴う労災の多発と安全配慮義務

岩手では、半年ほど前から、震災復興の関係で沿岸各地で大規模かつ大量に行われている各種の土木、建設関係の工事などで、労災事故が多発しているとの報道をよく見かけるようになりました。

ご紹介の記事にもあるように、沢山の工事が同時進行で行われているため、人手不足や工期などがタイトになり、その結果、個々の従事者が、過重労働を余儀なくされていることなどが、原因として挙げられているようです。
http://www.morioka-times.com/news/2014/1406/19/14061901.htm

ところで、労災=業務上の負傷、疾病等に該当すれば、労災保険から治療費や休業損害が支給されますが、労災に起因する損害の全てを填補するわけではなく、例えば、労災保険からは慰謝料が支給されることはありません。

しかし、雇用主等に何の落ち度もないというのであればまだしも、企業側が、労災を必然的に招かざるを得ないような過酷な労働環境を強いるなどという事情があれば、労災保険とは別に、企業側の責任を問うことができます。

すなわち、そのような事情がある場合には、雇用主等に、従業員に基本的な安全を確保した労働環境を提供する義務(安全配慮義務)の違反があるとして、労災保険では対象外である慰謝料なども含めて、賠償請求をすることができます。

ただ、少なくとも私に関しては、震災復興に関する業務の従事について労災保険の適用や企業への賠償責任の問題が生じたというご相談を受けたことは、まだありません。

この種のニュースは見落とさないようにしているつもりですが、報道でも、その種の訴訟が起きたという話は(少なくとも岩手県内では)聞いたことがありません。また、主に若手の先生が従事している沿岸部での無料相談事業について、弁護士会のMLで相談内容(テーマ)の情報が流れてくるのですが、そこでも、この種の相談を目にした記憶がありません。

この種の労災(安全配慮義務違反)の問題は、工事に関する事故に限らず、人手不足や被災地対応の高ストレスに伴う精神疾患や過労死、過労自殺などについても当てはまる話であり、以前に、沿岸部の自治体に派遣されていた公務員の方に関する痛ましいニュースもあったと思いますが、それらの問題で労災保険や安全配慮義務違反(雇用主側の賠償責任)を巡って県内で裁判等が生じたという話も、聞いた記憶がありません。

もちろん、訴訟等に至る以前に、適切に被害補償を受けるなどして解決されているというのであれば、特に申し上げることもないのですが、果たして、本当にそうなのか、疑問がないわけではありません。

震災を巡っては、闇雲に法律相談事業を立ち上げる一方で、本当に弁護士のフォローが必要な事柄に、ちっとも手が届いていない(その結果、復興予算の無駄遣い等が放置されるなどの問題が生じた)という話を色々と聞くこともあり、そうしたチグハグさを解消し、真に支援が必要な人々のために弁護士がお役に立てる機会が、もっと設けられて欲しいと感じています。

例えば、この種の問題について弁護士会が自治体や業界団体?などと提携し広報活動をしてもよいのではと思うのですが、万年窓際会員の身分では、何の影響力もなく、お恥ずかしい限りです。

不貞行為の相手方の慰謝料

前回(不貞行為を巡る問題)の続きです。

配偶者が第三者と性的な関係(不貞行為)を持った場合、原則として不貞の相手方は、他方配偶者(被害配偶者)に対し慰謝料支払義務を負うことが、実務上認められています。

例外として、①関係を持ったのが夫婦関係の破綻後である場合、②関係を持った相手(加害配偶者)が婚姻中であったことを知らず、かつ知らなかったことに過失がない場合には、慰謝料支払義務を負わないと考えられています(①は違法性ないし利益侵害がなく、②は故意過失がないので、それぞれ不法行為責任の要件を満たさないため)。

「破綻」と言えるかは、前回述べたとおり、相当長期間の別居などある程度限られた事実関係がないと裁判所は認定に慎重だと思われます。

ただ、破綻とまでは言えなくとも、過去の不貞などにより夫婦関係が相当に形骸化していた場合などは、慰謝料も抑制的になる可能性があります。

特に、加害配偶者の過去の不貞で被害配偶者が相当な慰謝料を回収した後、さらに加害配偶者が再度の不貞に及んだという場合には、再度の不貞に高額な慰謝料を認める(さらに、それが繰り返される)のは、社会通念上、相当に疑義があるところです(一種の金儲けになりかねません)。そうした特殊事情があるケースで、慰謝料を抑制した裁判例があり、私自身、それに類する例を取り扱ったことがあります。

加害配偶者と不貞相手がそれぞれ被害配偶者に負担する慰謝料等の賠償義務は、原則として連帯債務(不真正連帯債務)とするのが現在の裁判所の主流です。そのため、例えば、夫Y1の不倫を理由に妻Xが夫と不倫相手Y2に慰謝料請求する場合、「Y1は300万円、Y2は200万円の慰謝料義務。但し、200万円の範囲で両名は連帯債務」という趣旨の判決をするのが一般的と言えます(もちろん、金額の算定は事案次第)。

この場合に、Y2がXに200万円を支払った場合、Y2はY1に対し「200万円の一部は、貴方が負担すべきなのだから、私に払いなさい」と請求(求償)することが考えられます。この場合、双方の関係の内容(帰責性の程度など)により求償の金額が定められることになり、例えば、終始、対等な関係であったなら50%ずつとか、Y1の方が積極的に持ちかけてY2がやむなく応じたような場合であればY1の方が負担割合が大きいなどといった判断があり得ると思われます。

ただ、この点に関しては、上記の「現在の実務の主流派」とは別に、「不貞相手の慰謝料義務を、加害配偶者との連帯責任とはせず、金額も抑制的に算定する立場」もあります。上記の例で言えば、夫Y1はXに250万円、Y2は50万円の債務に止めるとか、Y1だけは50万円の範囲でY2と連帯責任とする(Y1に対する認容額は300万円とする)という判決がなされることがあります。

この点は、学説上の対立があり、裁判所の考え方も統一されていないようですが、私が以前に調べた範囲では、伝統的には連帯責任(冒頭のパターン)とする方が主流派で、個別責任(少額賠償)は少数派ではないかと感じます。

ただ、この点も、事案によりけりという面があり、例えば、配偶者男性が知人女性と強姦まがいのように関係を持ち、その後も男性側が支配的、抑圧的な態度で女性と関係を続け、女性はそれにあらがうことが困難だった、というようなケースであれば、主流派の立場でも、妻がその女性に請求しうる慰謝料を相当に抑制する(場合によってはゼロ又はほとんど認めない)ということになるはずです(当然、そのような裁判例があります)。

不貞行為を理由とする離婚や慰謝料については、被害側・加害側いずれの立場からも多数のご相談・ご依頼を受けてきましたが、とりわけ震災から1、2年ほどは、不思議なほどこの種の事件のご依頼が多くありました(私だけではなかったようで、ネットでも弁護士の方の同種の発言を見かけたことがあります)。

当時、「震災で家族の絆が深まった」などと美談的な報道をよく見かけたような気もするのですが、良くも悪くも、震災を機に「自分の気持ち(或いは欲望?)に正直に生きたい」という人が増えているのかと思ったりしたものです。また、震災は、いわゆる高利金融問題の収束(高金利貸付の廃止=18%化の定着期)とほぼ重なっており、高金利で苦しめられることのない社会の到来と共に、そうした出来事が新たに増えてくるのだろうかと思わないでもありませんでした。

最近は、「夫からのハラスメント(嫌がらせ的な対応)」を理由とする(主張する)案件が増えていて、不貞を理由とするものと半々といった印象があります。

男女系の紛争に携わる弁護士としては、基本となる事実関係(離婚や慰謝料の評価の核となる事実関係)については、なるべく争いのない状態にしていただき、周縁的な事情にはあまりこだわらず、法的な主張をしっかり行って、法的な判断(弁護士のアドバイス又は裁判所の勧告等)を踏まえて、大人としての賢明な対応を、関係者それぞれにとっていただければと思っています。

不貞行為と離婚及び慰謝料について

離婚に関する紛争で弁護士が関わるものとして最も多い類型(離婚原因)は、不貞行為(不倫)が絡むものではないかと思われます。

不貞の有無は、時に争われることもありますので、その点について慎重を期したい方は、交際の状況を調査して証拠化(尾行写真や報告書)することが望ましいと言えますが、ご自身で行うのは難儀でしょうし、探偵に依頼すると非常に高額な費用を要しますので、この点(立証準備)をどこまでやるかは、常に悩ましさが伴います。

探偵費用については、私が依頼者の方から伺った話では、調査期間が長期に及んで三ケタ(100万円以上)になったという例もありますが、それを相手方(配偶者や不貞相手)に請求できるかという問題がありますので、非常に高額な費用を用いることには慎重な姿勢が求められるのではないかと思われます。

ちなみに、「探偵に配偶者の不倫調査を依頼したところ、その探偵から、不倫相手に慰謝料請求を行うことまで持ちかけられ、これに応じたところ、探偵が不倫相手に不相当に高額な慰謝料を要求し、それが原因で事態が紛糾した例」に接したことがあります。

今はあまり聞かなくなりましたが、かつては、探偵が不倫相手を脅して一般相場を大きく上回る高額な慰謝料を支払わせ、自身も高額な報酬を得ようとする例が報道されたことがあり(「別れさせ屋」などと呼ばれています)、弁護士法72条違反等はもちろん、事案によっては、配偶者自身が、恐喝その他の共犯という扱いにされかねませんので、「調査」以上のことを探偵に求めることのないよう、ご注意いただきたいものです(仮に、そのようなことを提案された場合、それだけで違法行為に手を染めている業者である疑いがあると考えた方がよいと思います)。

不貞行為に関しては、発覚時などに念書を提出させる例もよく見かけます。その際には、具体的な時期、頻度、当事者の特定情報(氏名、住所等)はもちろん、交際の詳細、不貞の場所など、なるべく事実関係の詳細な記載を求める(場合により、後日に裏付け調査ができる程度に事実の特定を求める)のが賢明かもしれません。

ご夫婦が破綻状態にある場合には、その後に異性と性的関係を持っても「違法な不貞行為」とは見なされず、賠償責任の対象にならず、この点が訴訟の争点となることはしばしば見られます。

ただ、破綻というためには、長期の別居など、ある程度の客観的な事実が必要で、「仲が悪かったが同居はしていた(家庭内別居)」というのでは、裁判所は破綻性の認定には消極的です。

余談ですが、何年も前、ある相談会の担当日に「夫が、行きつけの飲み屋の女性と懇意になった」と相談されてきた同世代のご婦人がいて、配偶者のお名前を伺ったところ、少し前に、ある機会に知り合った方だったということが判明し、仰天したことがあります。

その際は、配偶者の方とまたお会いする可能性が相当にあったので、相手方の立場での受任は差し控えさせていただきましたが、とても感じのよい奥様で、ご主人も基本的には立派な方と認識していましたので、このような方を悲しませるのはけしからんということで、この種の問題に熱心に取り組むであろう何人かの先生のお名前をお伝えして、私からは終了とさせていただきました(結局、その後、ご主人ともお会いする機会がなく、ご夫婦がどうなかったのか全くわかりません)。

現在のところ、面識のある方について、この種のご相談に接したのは、後にも先にもこの一度だけですが、知り合いの方でこのようなご相談を受けると、心底滅入ってしまいますので(とりわけ男女系の紛争は、相談を受ける側も、色々な割り切りをしないと気持ちが持たない面があります)、二度となければというのが正直なところです。

次回は、不貞行為の相手方の慰謝料について、少し補足して書いてみたいと思います。

離婚訴訟における慰謝料

ご夫婦の一方又は他方が離婚を希望するものの自主的な協議で合意できない場合、最初は家裁に離婚の調停を申請しなければならず、調停の場でも協議が決裂する場合には、一方(離婚を希望する側)が他方(希望しない側)に対し訴訟提起し、裁判所の判断を求めなければなりません。

この点、不貞や暴力行為等(典型的な帰責事由)があれば、慰謝料の請求が含まれるのが通常であり、事実関係の骨子に争いがない又は十分な立証がなされた(と裁判官が判断した)場合には、相当額の慰謝料が認められることになります。

金額については、帰責事由の内容・程度や夫婦関係の程度(同居期間=実質的・良好な夫婦関係の期間が長いほど金額が高くなりやすいとされています)など諸般の事情を総合的に考慮しますが、300万円くらいが中央値(最も多い)と思われます。なお、私が代理人として関わった範囲では、不貞行為が認定されている事件で判決が命じた離婚慰謝料は、最高額が500万円、最低額が150万円との記憶です。

ただ、私が取り扱ったものでも、これを大幅に上回る金額で和解した(相手方から支払を受けた)こともありますので、交通事故の慰謝料などと異なり、予測がつきにくい面が大きいと言えます。

なお、上記の事案は、判決ではなく和解であった上、養育費の変動要素を考慮して加算したという面もあり、特殊性の強い例というべきかもしれません。交通事故など一般の不法行為との最大の違いとして、夫婦の生活水準の程度を考慮すべきとの見解もあり、これを重視すれば、裕福なご夫婦ほど慰謝料が高額になりやすいことになりますが、個人的にはこれを強調することには些か疑問を感じます。

ところで、不貞や暴力行為等のような典型的な帰責事由がない場合でも慰謝料が認められる場合があります。例えば、酒癖が悪く酔って配偶者に面倒をかけることが多々あった場合に、典型事由ほどではないものの、一定の金額(例えば、50万円~100万円程度)の慰謝料が認められる例があります。

暴力行為(傷害を負わせる行為)には至らなくとも、暴言等を含め、家庭の雰囲気を非常に悪化させる不当行為であると社会通念上評価されるようなものがあれば、一定額の慰謝料を認めることがありますので、そのような事案で請求を希望される場合には、証拠の保全等を考えていただいた方が良いのかもしれません。

先日、「肉体関係(狭義ないし厳密な意味での不貞行為)がなくとも、精神的には情を通わせた関係にあった(それにより家庭ないし配偶者を蔑ろにしていた)として、一定額(肉体関係がある場合よりも低額)の慰謝料を命じた例」の報道がありましたが、「典型的帰責事由に準ずる信頼関係破壊行為」という点で、類似する面があるのかもしれません。

私見としては、過去数十年の日本社会の主流派とされてきた「夫の収入で家計を営み、妻が専業主婦としてこれを全面的、献身的に支えてきた夫婦」では、離婚により妻が直面する境遇に厳しいものがある(再就職や再婚などの困難さをはじめとする社会の冷遇等)ことから、高額な離婚慰謝料が認められてしかるべきだと思いますが、今後、そうした社会の仕組みが変動し離婚後も再就職・再婚等にさほどのハンディがないと言えるようになれば、この点は変容していくかもしれないと感じています。

ただ、その場合でも、育児が伴う場合で監護者(親権者)の収入が高くなく、かつ裁判所が算定する養育費も高いとは言えないケース(夫側の収入も低いなど)であれば、僅かな原資で単独で育児を担う苦労を慰謝料算定において斟酌すべきではないかとも思われます。

なお、相手方配偶者が不倫に及んだ場合に他方配偶者(被害配偶者)が相手方配偶者(加害配偶者)に詰めより、一般的な相場観(社会通念)とかけ離れた額の金額を支払わせる旨の念書を作成する例があります。

しかし、かかる事例(妻の不倫で夫が妻に2000万円の念書を書かせた)で、念書を無効(夫の請求を棄却)した判決仙台地判H21.2.26判タ1312-288)があり、そのような行為については無効とされるリスクが濃厚です。

当事者間の合意がすべて無効とされるわけではありませんが、離婚に限らず、社会通念からかけ離れた利益を得ようとすれば、結果的に通常得られる程度の利益も得られないリスクが生じることは、十分に認識しておくべきだと思います。

学校等での不祥事(被害事件の発生)と被害者側への調査報告義務

「学校でいじめが生じて被害者(生徒・児童)が自死に及んだ後、遺族が加害者側や学校に対して賠償請求する例」は、判例雑誌などで時折見かけることがあります。

当事者(加害者)に社会通念上容認しがたい「いじめ行為」があったという具体的な事実が判明すれば、加害者本人はもとより、その親権者や学校側が監督責任としての賠償義務を負うことがあり、裏を返せば、そのような事実が解明できなかった場合には、立証不十分で遺族の請求は棄却される可能性が高いと言えます。

もとより、遺族には事件発生(子の自死)に至るまでの事実関係を解明するのは容易でなく、学校に対し事実の調査、解明を行って欲しいと期待するのは当然やむを得ないことと言えます。

そのため、学校が当初から不誠実な対応に終始するなど、事案の解明や報告に取り組まなかった場合には、いじめ行為への監督云々とは別に、それ自体(調査報告の懈怠)が違法行為(義務違反)に当たるとして、遺族への賠償義務がみとめられることがあります。

例えば、「私立中の生徒が自殺し両親が後になって全容解明を希望し徹底調査を求めたものの学校が拒否したケースで、学校に調査報告義務違反ありとし慰謝料の支払を命じた例」があります(高知地判H24.6.5判タ1384-246)。

事案と判旨は次のとおりです。

『Y1学園が経営する私立中の1年生Aが自殺した。両親Xらは当初、自殺の事実を伏せたいと考え、Y1もそれに沿う対応をしていたが、後日、Aがクラブ内・教室内でいじめ・嫌がらせを受けていた事実が判明したため、XらがY1に徹底調査を求めた。

ところが、Y1は、一部の者のみの簡易な聴き取りのみを行いXが求めた全校調査等を拒否したため、Xらは、「Y1は自殺の原因を調査しXらに報告すべき義務あるのに怠った」と主張し、クラス担任Y2及びクラブの顧問Y3を含め、総額800万円(Y1にX1・X2各250万円、Y1・Y2連帯でXら各100万円、Y1・Y3連帯でXら各50万円)を請求した。

判決は、Y1にXらに各80万円、Y1・Y2に連帯でXらに各15万円の支払を命じ、Y3への請求は棄却(総額190万円を認容)。

裁判所は、Y1が、本件自殺が学校生活上の問題に起因する疑いがあることを真摯に受け止め原因が構内にあるか調査しXらに報告すべき必要性は相当程度高かったのに、消極的な姿勢でその調査等を行わなかったと判断し、自殺から2年以上が経過した判決時には当該解明は事実上不可能になってしまったことなどを重視し、義務違反を認めた。但し、Yに有利となる事情も斟酌し、賠償は上記の金額に止めた。』

また、「いじめ」以外でも、小学5年生の児童が自死した件で、遺族が担任の指導(学校内での接し方)に問題がある(児童へのパワハラ的な行為があった)と主張し、学校に調査、報告を求めたのに、学校がこれを怠ったとして賠償請求した件で、担任の指導に違法な点はなかったものの、学校に調査、報告義務違反があるとして、その点を理由とする賠償請求が認容(総額110万円)された例もあります(札幌地判H25.6.3判時2202-82)。

このように、「生徒・児童に深刻な被害が生じた場合に、学校生活にその原因となる事情が存すると疑われる相当な理由がある場合には、本人・家族の求めにより学校が相当な調査、報告をする義務を負い、これを果たさないと賠償の対象となる」ということは、裁判所の一般的な認識として、認められているということができるのではないかと思います。

そして、このような考え方は、一定の応用が利くのではないかとも思われます。すなわち、企業に勤務している方に深刻な被害(例えば過労や職場内のいじめ等による自死など)が生じた場合に、その原因が企業での勤務状況にあると疑われる相当な理由がある場合には、本人・家族の求めにより勤務先が相当な調査・報告をする義務を負い、これを果たさないと賠償の対象となる(被害そのものに責任がなかったとしても、判明後の対応の不備を理由に慰謝料等を賠償しなければならない場合がある)」と考えることができるのではないでしょうか。

また、こうした話は、労働契約に限らず、介護施設を利用している方に関し自死や重大な事故が生じた場合(入院中の事故など医療機関を含む)など、様々な形で応用範囲が広がってくる可能性があります。

この点、上記の札幌地裁判決では、調査・報告義務の根拠を就学契約に求めているとのことで、生徒・児童の「利用者」という面を強調するのであれば、労働契約のような場合には応用の範囲は限られてくるかもしれませんが、それでも、こうした視点を持っておくことは、利用者(従事者)等と企業側の双方にとって、重要なことではないかと考えます。

とりわけ「見える化」などという言葉が広く用いられるなど、説明義務的な発想を広く認め、そのことにより社会の透明性や様々な意識(職業意識や規範意識など)の向上を図っていくことが現在の社会の潮流になってきていると思われ、そうした面も意識する必要があると考えます。

ただ、上記の「調査報告義務違反」で認められる金額は大きなものではなく、それのためだけに裁判を行うというのは、受任する弁護士に相当な費用を要する可能性が高い(その種の事案の性質上、膨大な作業を必要とする可能性が高いため)ことに照らせば、被害者側の権利行使の機会(利益)の保護という面からは、なお不十分という印象は否めません。

そのため、こうした問題を射程に入れた弁護士費用保険の開発や普及(適切な運用や審査制度等も含め)が求められるところだと思っています。

震災復興と労災問題

最近、震災の復旧・復興工事に関し、労災事故が増えているという報道を見かけることが多くなっています。
http://www.nhk.or.jp/lnews/morioka/6043313301.html?t=1397818123649

いわゆる労働災害(就労や通勤に関連して生じた事故や疾病等による被害)については、労災保険の給付対象になるか(労働者災害補償保険法に定める業務上の負傷、疾病等に該当するか)という問題と、雇用主等の企業に安全配慮義務違反を理由とする損害賠償責任が成立するかという問題があります。

これは、交通事故における「自賠責保険上の給付と民事上の責任(任意保険からの支払)」との関係に似ており、被害者や遺族は、労災保険の給付(療養補償給付=治療費、休業補償給付=休業損害など)を受けると共に、企業側に悪質な対応がある場合には、企業に対し、安全配慮義務違反を理由とする賠償請求(労災保険に含まれない慰謝料など)をすることが考えられます。

ちなみに、公務員の場合には、国家公務員・地方公務員それぞれに災害補償法が定められており、公務災害として認められれば、上記と同様の枠組みに従って、保険給付や賠償を受けることができます(被災自治体の公務員の超過労働が問題となっていますが、公務災害に該当する例も多々あるのではと思われます)。

ここ数年の判例雑誌を勉強していると、業務起因性(又は公務起因性)や安全配慮義務違反が争われる事案は時折みかけており、特に、長時間労働を余儀なくされた方が、くも膜下出血等で死亡又は重大な後遺障害を負った場合の業務起因性等が認められるかが争点となる事案が多いように思われます。

安全配慮義務違反に関しては、アスベスト関連の判例が多く取り上げられており、国家賠償請求などが絡んで複雑な様相を呈するものも少なくありません。

労働災害の疑いがある事故や疾病等について、雇用主側から納得のいかない対応を受けた場合や、労災の不支給決定を受けた場合に疑義があると感じている方などは、ご相談をご検討いただければと思います。

もちろん、企業サイドからのご相談等もお引き受けしておりますので、不相当な請求を受けて困惑しているとか、被害等の事前防止の観点も含めた対処のあり方などについて弁護士の支援を受けたいとお考えの方は、ぜひご利用いただけばと思っています。

なお、長時間労働や様々な業務上の事情が積み重なって労働災害が生じたと見込まれるケースなどでは事実関係の把握が大切ですので、時系列表の作成など、事案の概要を説明するための資料を予めご準備の上、相談の場に臨んでいただくよう、ご理解のほどお願いいたします。

若い夫婦が実家から受けた資金援助と離婚後の行方

若いご夫婦が新居を取得する際、ご自身が借入可能なローンだけでは全額を賄うことが困難であるとして、ご両親などから資金提供を受けることがあります。

例えば、住宅ローンの主たる担い手である夫の収入が十分でない場合に、妻の実家が援助するというようなケースなら、世間にも幾らでもありそうです。

では、このご夫婦が後年になって離婚を余儀なくされた場合に、資金提供をしたご両親が、提供を受けた側に「一生、添い遂げると誓ったからお金を援助してやったのに、その約束を破ったのだから、お金を返せ」と求めることはできるでしょうか。

実は、この点が争点になった離婚訴訟に以前、携わったのですが、その事案では、返せとは言えない(貸金ではなくて贈与と認定し、財産分与の中で考慮する)との判断が裁判所から示されています。

この件では、ご実家が提供した金額は非常に大きな額であったことや、自宅に関する財産分与の中で資金援助の額が十分に反映されない(実際に提供した金額の数分の1程度しか考慮されない)面があったことなどから、貸金と認定する余地も十分あるのではと思ったのですが、複数の裁判官から贈与の心証が示されており、そういうものだと受け止めるほかなかったようです。

ちなみに、文献によれば「資金提供が贈与と貸金のどちらと認定されるか」という問題を裁判所が判断する際は、提供者と受領者の双方の社会的地位や職業、相互の関係、金額の多寡、授受の理由や経緯、返還請求等(返還を前提とした双方の行動)の有無などを総合的に判断するとされており、相手方を援助する(当該金員を贈与する)納得できる動機や目的がなければ、贈与と認定することはできないとされています(加藤新太郎編「民事事実認定と立証活動・第2巻」286~287頁)。

ただ、上記のように「住宅ローンのための実家からの資金提供」という問題に関しては、実際にその点が争われた裁判に従事した立場から言えば、よほどの事情がない限り、贈与と扱われる可能性が高いことは否定し難いのではと感じました。

そうした意味では、お子さんご夫婦の「万が一」に不安をお持ちの方であれば、そのような状況に直面された際には、一筆求めておくのが賢明なのかもしれません。

外国人の研修生・技能実習生に関する労働問題

現在、生産年齢人口の減少などに起因して、外国人労働者の受入を促進すべきだという議論が活発化しており、最近では、安部首相が「外国人女性の家事労働への進出促進を」と述べた(で、批判された?)などという報道も見かけました。

外国人労働者を巡っては、何年も前から、研修制度の形で実質的には労働者と変わらない待遇で就労に従事させているという話があり、中には、工場で劣悪な条件で就労させているのではないかとして、問題になったケースも幾つかあったと記憶しています。

この点に関し、先般、「技能実習生(中国人女性)Xら5名が研修先のA社で就労していた件で、A社の役員がXらを劣悪な環境で就労させて様々な違法行為を行ったとして、A社及び役員のほか、A社を監督すべき立場にあった協同組合とその役員、Xら(実習生)のサポートを担当していた企業とその役員にも賠償責任を認めた例」を見かけました(長崎地判H25.3.4判時2207-99)。

中国人女性Xらは、H21出管法改正前の外国人研修・技能実習制度に基づき入国し、第一次受入機関たる雲仙アパレル協同組合Y3の傘下企業(第二次受入機関)であるA社で研修(縫製作業)をしていました。

が、Xらは、「A社(役員)は、長時間残業など労基法違反の環境でXらを就労させ、旅券・通帳等を違法に管理し、セクハラ・暴行をしており、その上、最低賃金法の定めを下回る賃金しか支払っていない」と主張して、関係者に賠償請求する趣旨の訴訟を起こしました。

法律構成としては、①A社役員Y1・Y2に対し、民法709条・同719条(共同不法行為)・会社法429条等(A社は審理中に破産)、②Y3と役員Y4に対し、民法719条・中小企業協同組合法38条の3(役員の賠償責任)・一般社団・財団法人法78条(法人の賠償責任)、③来日実習生のサポートを担当するY5社と役員Y6に対し、719・会社法429条(役員の賠償責任)・上記法人法78条、④公益財団法人国際研修協力機構Y7に対し、719条(調査義務違反)を理由に賠償請求しています。

裁判所は、Y7に対する請求のみ棄却し(Y7に義務違反にあたる事実なし)、他はすべて一部認容しており、金額はXら5名につき、一人あたり170~225万円ほどになっています。

判決では、Xらを労基法9条・最低賃金法の適用対象たる「労働者」と認め、Xら主張のY1・Y2による違法行為に加え、Y4・Y6がこれを幇助していたとの事実関係を認めたようです。また、破産手続済のY1に対する請求権は「悪意で加えた不法行為に基づく請求権」(破産法253条1項2号)に該当する非免責債権と認定しています。

この事件は長崎県の縫製工場を舞台としたもののようですが、岩手県北エリアも縫製工場が多いそうで(高級衣類を担当する質の高い縫製で評判らしいです)、現在と異なり企業倒産が非常に多かった10年近く前には、沿岸北部の縫製工場が倒産し、私が破産管財人を担当したことがあります。

幸い、その企業に関しては上記のような問題を耳にすることはありませんでしたが(未払賃金があったものの、労働者健康福祉機構による立替払+財団債権としての配当により、大部分をお支払いしたはずです。反面、それで原資が尽き、一般債権者には一切配当できませんでしたが)、申立以前に外国人の方(実習生?)も従事していたという話を聞いたような記憶があり、当時すでにこの問題が話題になっていたことから、そのような問題がなければと思ったことを覚えています。

好むと好まざるとに関わらず、被災地などの労働者(生産人口)不足に伴い、外国人労働者等の何らかの形での受入の増大は高まらざるを得ないのではと思われます。

このような事件が起こらないよう、また、職場でのトラブル等があれば、大事になる前に企業外部を含む関係者が早期に適切な対処ができるよう、このような判例などをもとに勉強したり、弁護士等のサポートを受けていただければと思っています。