北奥法律事務所

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個別の法的問題等

月額3000円(税別)の顧問契約に関するコンセプト

平成23年に月額3000円の顧問契約(Aコース)を設けた際に投稿した文章を微修正したものです。利用頻度に応じた顧問契約の定め方に関心のある方は、ご覧いただければ幸いです。

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平成23年から、顧問契約に関する新機軸(Aコース)を打ち出すことにしました。個人・法人を問わず、月額3000円(消費税別)で顧問契約(顧問弁護士)を導入できるというもので、弁護士会の報酬会規の法人顧問料が月額5万円(岩手・盛岡では、月額3万円が多いとも聞いています)ですので、相場より大幅に値引きした価格ということになります。

以下、このコースの設定の経緯、意図等について、ここで概略を説明いたします。なお、金額の表示はすべて税抜としています。

1 Aコース設定の経緯

私は、零細企業経営者の子弟のはしくれであると共に、真っ当なビジネスをする企業が盛んに活動することが社会を成り立たせる基本と考えていますので、弁護士として中小・零細企業の経営を支援する仕事には相応の意欲を持って取り組んでいます。

東京時代には勤務先に様々な顧問先企業がありましたので、そうした意欲を充足できる多くの仕事に巡り会いましたが、岩手に戻った後は、私が盛岡に地縁・血縁がないに等しく、依頼事件の多くは弁護士会や市町村などの相談会でお会いする方々の個人的な問題ばかりで、企業活動をサポートする仕事をご依頼いただく機会はめっきり減ってしまいました。

幸い、全くご依頼がなかったわけではありませんが、多くは他の先生(弁護士など)から紹介いただいたり、弁護士会の相談センター等で偶然お会いした方ばかりで、企業の方が直接にアクセスされてきたことは、滅多になかったと感じています。

現在、当事務所と顧問契約を結んでいただいている企業さんの数も、恐らくは私と同等の実務経験(約20年)を有する弁護士の平均値を遥かに下回る数と言わざるを得ないでしょう(人脈云々以前に、カリスマ性の欠如が最大の要因かもしれませんが)。

JC(青年会議所)などで多少とも垣間見る限りの印象ですが、盛岡・岩手でも、少なからぬ企業さんが県内又は仙台・東京の弁護士と何らかの繋がりを持っていたり、弁護士の紹介を受けることができるルート・人脈等をお持ちのようで、インターネット(Webサイトを掲げる事務所)を弁護士探しの主たるツールとして活用しようという方は、あまり多くはないようです(意思決定を司っている社長さんなどが、ご高齢という事情もあるかもしれませんが)。

そのため、企業(とりわけ、地元に広範な人脈を持ち従前から弁護士を利用してきた企業)の方々から依頼を得ることは、岩手に戻って10年以上を経た今でも、容易ならざるという印象を受けています。

また、私のように地縁・血縁のない人間が異業種の方々との人脈を作るには、例えばJCのような様々な業界の方が集まる夜の会合などに参加する必要があるかとは思いますが、極度の残業体質の上、家庭の事情で夜間に身体を空けるのが難しいという事情もありました。

もちろん、純然たる個人向けの仕事が嫌というわけでは全くなく、今後も多くの力を注いでいくことは間違いありません。ただ、弁護士の活動を通じて地域社会の全体に貢献するとの初志からは、個人向けの仕事ばかりに比重が強くなるのは望ましくなく、個人向け・企業団体向け双方の業務をバランスよく受注できる事務所であるべきだと思っています。また、一方の仕事を経験することが他方の業務にも大いに生きてくることは当然です。

というわけで、夜の会合以外の方法で人脈を作ったりご依頼をいただく機会を作ることができないか模索してきましが、名案も浮かばず、「この弁護士は色々な仕事を手がけているから、話だけでも聞いてみようか」と関心を持って頂けるような内容にしようと、事務所サイトで「取扱実績」欄を増設するなどしていました。が、それを理由にに依頼いただくこともなく、暗中模索の日々が続きました。

そんな中、平成23年当時、たまたま手にしたビジネス誌で、東京の若い弁護士さん達が経営している事務所(ベリーベスト法律事務所)が「月額3980円(消費税込み)の顧問契約を導入した」として、大きく取り上げられていたのを目にしました。

私自身、以前から「実際のご利用があまり多くはない企業から月額で数万円の顧問料をいただくのは、弁護士の不労所得に等しく合理的ではないし、そのような契約は長続きしない。ただ、来所相談をする必要は滅多になくとも簡易な相談を気軽にできる顧問弁護士は欲しいというニーズはあるはずで、それに対応するサービスを提供できないだろうか」との思いがあり、当方も導入すべきと考えました。

以上の経緯で、従前から設定していた顧問契約とは別に「月額3000円+受任時の1割引」というプランを新設した次第です。

ネットでざっと調べた限りでは、平成23年当時、ベリーベスト法律事務所の「3980円」よりも低い単価で顧問契約を謳っている事務所はなく、当時「日本で一番安い値段で顧問契約を引き受ける弁護士」だったかもしれません(その後は調べていません)。

2 新コースの目的

新コースの主たる目的は、サイトに表示したように、たまには弁護士に電話やメールで聞きたいことがあるという方が、従前よりも安価な値段(顧問料)で気軽に問い合わせ等ができるようにしたいとのニーズにお応えする点にあります。

また、簡易なやりとりであっても、法的なアドバイスを通じて、本格的な弁護士の出番を要しない形で紛争を予防したり交渉相手からのアドバンテージの獲得につなげていただいたり、中には、ご自身が気づいていない問題を指摘し、すぐに本格的な事件として動き出すべきだ、とお伝えすべきこともあると思います。

早期のご相談→合理的タイミングでの事件依頼→手遅れの防止というサイクルで考えていますので、来所相談の必要がある場合に支障なくご来所いただける方(岩手の方や盛岡へのアクセスに難がない隣県などの方)を顧客層として想定しており、基本的に「全国展開」するようなサービスではないと考えています。

また、過去の経験等から「町弁の採算に関するデッドライン(基準単価)は時給2万円」と考えており、月額3000円(年額3万6000円)という価格は「年間2時間弱(月に平均1回、1回あたり電話・メール等で10分程度)のご利用」に相当すると位置づけています。そのため、それ以上のご利用が多く生じる場合、原則として追加料金をお願いするか他の契約類型への切替をお勧めすることになると思います。

この程度のご利用なら、普段なかなか弁護士に相談することはないという中小・零細企業や個人の方でも一定の実需はあるのではないかと考えての設定です。

3 伝統的な顧問契約との異同など

伝統的な顧問契約の相場よりも遥かに低い値段ですが、従前の顧問契約の価格破壊を目的とするものではありません。むしろ、来所相談等は割引とはいえ有料とさせていただきますので、「顧問先の相談は無料」という契約類型とは、異種のものと言えます(従来型の顧問契約もタイムチャージと組み合わせる方式でお引き受けしています)。

敢えて言えば、「毎月、数万円を払って顧問契約をしているが、さして利用がなく、契約に疑問を抱いている企業」にとっては、いざというときに弁護士への迅速なアクセスを確保するため顧問契約だけはしておきたいとのニーズをリーズナブルなコストで確保しうる点で、価格破壊的要素はあるかもしれません。

ただ、それは、従前の顧問契約(弁護士)に、実働を伴わない顧問により不労所得を得ている面があったこと自体が間違っているというだけのことであり、「あるべき価格を不当にダンピングする」という意味での安値競争とは異なるものです。

もとより、顧問契約を締結している多くの弁護士が不労所得を貪っているというわけではありません。ネット上で検索いただければすぐにお分かりのとおり、伝統的に、一般的な弁護士の顧問契約が「月数万円の顧問料を支払えば相談等の時間は原則として無制限」となっているため、相当量のご利用があれば元が取れるようになっており、そうした利用をされている方も沢山おられると思います。

しかし、この仕組みだと、盛んに利用(相談等)をした方とそうでない方とで実質的に大きな不公平が生じてしまいます。さりとて、伝統的にドンブリ勘定体質を持つ弁護士業界で「利用実績のない顧問先には顧問料を返金」などといった手法が普及するとも思えません。

毎月、帳簿類の精査という明確な実働が伴う税理士さんと異なり、弁護士の顧問業務は相談等の実需がないと機能しにくい面があることは否定できません。そのため、利用の有無に関係なく頂戴する顧問料の部分はなるべく減額し、それと共に、多くのご利用のある顧問先には顧問契約をせずに利用される依頼者よりもメリットがある(割引サービス)という形で顧問契約を再構成していくのが、これからの顧問弁護士に関する望ましい姿ではないかと考えます。

「定期的に顧問先企業を訪問して相談等を行う」など、顧問税理士のように定期的な実働を伴うケースなら、低額の顧問契約を導入しなくとも、実働に応じた相当の顧問料を定めればよいと思います。しかし、法務部門が各部門のリーガルリスク等を定期的にチェックし顧問弁護士に定期的に相談する仕組みを作りやすい大企業ならともかく、現在の我が国の中小・零細企業にはそうした実需は滅多にない(掘り起こしも難しい)という印象です。

また、Aコースのような顧問契約については、学校の同級生など個人的に親しい関係の弁護士がいるという方なら「ちょっとした相談程度なら、その弁護士に電話等でサクッと聞けばいいから敢えて顧問契約なんてする必要はない」ことになるかもしれません。

ただ、そうした人脈を持たない方や、あったとしても一種のフリーライダーになりたくないという方にとっては、簡易な相談を遠慮なく受け付けること自体を目的とした低額の顧問契約は相応に利用価値があると思われます。

私自身、今は概ね(至って?)健康のため必要はないものの、いずれ病気がちになった場合は、町医者の方に低料金で自分の身体に関する些細なことについて遠慮なく電話・メールで相談できる顧問契約のようなものがあればと思わないではありません。

個人的に、仕事上お世話になっている医師の先生や遠方の病院で活躍している高校の親友もいないわけではありませんが、逆に、おいそれとは相談できず、よほどの事情がなければと腰が引けてしまう面があり、料金のやりとりをするビジネスライク?な関わりの方が、案外、料金などの範囲内で遠慮無く物事を聞きやすいような気もします。

4 料金

月額3000円の設定の根拠は、3980円(消費税込み)のベリーベスト法律事務所(の方々)に比べ、経験年数では上回るものの規模では遥かに見劣りすることから、同事務所より若干低めの値段としたものです。

また、あまりに低くするのもどうかと思いましたので「今どきの顧問弁護士=高額なランチ一食分」と考え、「高級食材を扱うが、リーズナブルな価格で提供しているレストランで、ランチを月1回利用すればディナーが1割引になる」イメージで考えてみました。

ちなみに「無料」というのは、他の顧客等へのしわ寄せを不可避とするものですので、震災のように臨時的な場面以外は多用すべきでないと思っています。そうした理由で、私は巷で流行する「債務整理等の無料相談」はしていませんが、反面、直ちにお引き受けする場合などは相談料は頂戴しない(又は、相談料分を定額料金から差し引く)などの方法でバランスをとっています。

昔、ある大物弁護士の方が「社長さんに顧問弁護士(月5万円)を勧める際は、社長さんが月1回、高級料亭かクラブで飲食するのを控えれば済む値段ですよ、それで会社が守れるのだから、安いものではありませんかと説明している」と仰っている文章を読んだことがあります。

しかし、このご時世や現在の私の身分では、高級料亭やクラブに入り浸るような社長さんと接点を持つことは到底期待できません(イソ弁時代は少々お会いする機会もありましたが、今となっては昔のことです)。

他方「頑張った自分へのご褒美で、月に1回くらいは贅沢なランチを食べたい」という方なら、幾らでも知り合う機会はありそうですし、コストパフォーマンスを真剣に考えて選んでいただく方が、実りあるお付き合いになるのではないかという期待もあります。

月3000円という価格も実需のない方には十分に高額ですので(少なくとも私のような一般人から見れば)、「顧問弁護士」という一種のブランド価値をダンピングしているということも言えないでしょう。

5 見通し

ただ、「このコースが対象として想定している潜在顧客層」が、このような金額・コンセプトでの顧問契約に対する実需(利用価値があるとの理解を含め)がなければ、実際に申込みを受けることもないでしょう。

私自身は、弁護士が希少種である時代には「顧問弁護士」は金持ち企業のステイタスのようなものだったが、その時代は終わった。タイムチャージ等と組み合わせたリーズナブルな料金での契約が新しい時代に求められる町弁の顧問契約ではないか、と考えているのですが、皆さんのご意見をお尋ねしてみたいところです。

事務所サイトで小さく表示するだけの扱いですので、導入から2年半を経過した平成26年2月現在も、実際に申込を頂戴した企業様はごく数件に留まっています(もちろん、お申し込みいただいた皆様には大変有り難く思っています)

(追記・令和2年改定時には、幸い従前よりはかなり増えています。それでも十数社ですので、他の先生方に及ぶべくもありませんが・・)。

私自身が華やかな宣伝に向いている人間ではありませんので、サイトをご覧いただく方を別とすれば、個人的に聞かれた際「ウチではこういうこともやっています」とご説明する程度のことしかできないのだろうと思います。

まだ、このような顧問契約の新しいプラン(類型)を作ったことが成功と言えるのかそうでないのか、結論が出ていませんが、こうした試みが社会に受け入れていくのか否か、しばらくは様子を見てみたいと思います。

不動産売買における説明義務、情報提供義務(論文紹介)

判例タイムズ1395号に掲載されている裁判官による論文です。

不動産の売買に関して、購入後に不測の損害を被った買主が、売主や仲介業者に対し、「買主に不利益となる情報について説明すべき義務があったのに、それを説明しない義務違反行為がある」と主張し損害賠償や契約解除を求めるなどして紛争になった様々な事案を紹介しており、それを通じて、裁判所の判断の傾向を明らかにすることを目的とした内容となっています。

紛争の類型に関しては、例えば、眺望系(マンション購入後に期待した眺望が得られなかった例)、不法投棄・土壌汚染系(購入地の地下に不法投棄等が判明した例)、土地の利用に様々な制限があることが判明し購入目的(特定の建物の建築等)が実現できなくなった例など、多岐に亘っています。

判例を紛争類型ごとに整理すれば、この種の論点に関し相当に知識、理解が深まることは間違いなく、この種の問題に直面し易い地元の不動産業者の方向けの勉強会の講師などをお引き受けする機会でもあれば、そうした作業をする意欲も湧きますので、どなたかお声をかけていただければ幸いです。

 

会社の再編を巡る裁判例と問題点(論文紹介)

判例タイムズ1394号に掲載されている裁判官による論文です。

会社再編とは、狭義には会社の合併及び分割、株式交換・移転を指し、広義には事業譲渡・組織変更も含めて捉えられる法的営為の総称です。

論文では、これらを巡って生じる紛争の類型ごとに、その類型(論点)に関して生じた近時(平成20~24年)の裁判例を整理し紹介しています。

紛争類型(論点)としては、①再編の効力が争われる場合、②会社と株主との紛争、③会社と取引先・労働者との紛争、④役員責任紛争に分けて整理しており、特に、再編に反対する株主等の買取請求と価格算定に関する裁判例が、近時では最も多い判決があったとして、多数紹介されています。

東京時代は、会社の経営陣(オーナー兄弟)の確執により生じた、会社支配権の争奪戦的な面の強い多数の訴訟に関わらせていただいたこともありましたが、地元の有力企業の方々へのツテも無いに等しい田舎の町弁をしていると、この種の紛争にはすっかり縁遠くなってしまいます。

少し前に法人内部の地位確認紛争や役員の責任追及に関する訴訟に携わったこともあり、会社法へのご縁が全く無くなったわけではありませんが、もっと中小企業向けの法的問題に関わる仕事や勉強の機会を持てればと残念に思っています。

たまに、この種の論文をチラ見したり裁判例をデータベースにまとめたりして、若干は近時の議論をフォローするようにはしていますが、事件とまではいかなくとも、例えば、この種の企業法務に関するショートセミナー等のご依頼でもあれば、論点や事例の基礎的な説明ができる程度に勉強する機会になりますので、そうしたことに関心のある方がおられれば、一声いただければなぁと願っています。

DV防止法のH25改正に基づく活用(同居中の交際相手からのDV)について

判例タイムズ№1395号に、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)の平成25年改正に基づく保護命令手続の運用に関する解説記事が掲載されていました。

改正法で、これまでは保護の対象にならなかった「生活の本拠を共にする交際相手からの暴力」に対する保護を含むことになりました。

記事では改正法に基づき被害者が裁判所に対し、加害者に住居からの退去や接近禁止を求めるための申立書の書式等を掲載しています。

保護命令の申立は自治体の相談窓口で支援業務を行っているため、弁護士に依頼せずにご自身で申し立てる方が少なくないようで、私に関しては、これまで代理人としての申立経験はありません。

これまで関わった例としては、申立を受けた方が後日に申立人から別件訴訟を提起された件や接近禁止命令に反して子に会いに行って逮捕された方の刑事事件などがあり、前者については、暴力を行っていないと主張している相手方(被申立人)の立場で、保護命令を争うべきか法的論点を検討したことがありました。

この論文も、申立を受任する場合はもちろん、改正法で対象となった事件について申立代理人以外の立場で検討する機会にも参照価値がありそうです。

少し前に、被災地ではストレスが昂じてDVに及ぶ例が増加しているという話を聞いたことがあり、今後も出番が増えてくる法律であることは確かだと思います。

 

首相の靖国参拝とアーリントン墓地

購読している日経新聞が積ん読となり、さきほど、10月5日の新聞を読んだのですが、記者コラムで、靖国参拝に関し次のように述べられていました。

「今年の5月に、安倍首相が米誌インタビューに対し『靖国参拝は、米国人にとってのアーリントン墓地(戦没者追悼国立墓地)と同様に自然なことだ』と答えた。

ほどなく、米国の国務長官と国防長官が千鳥ヶ淵墓苑に献花し、国防総省高官が『千鳥ヶ淵墓苑はアーリントン墓地に最も近い存在だ』とのコメントを公表した。

これは、米国が、安倍首相に対し「靖国とアーリントンを一緒にしないで」とメッセージを送ったものに他ならないし、韓国や中国にもその認識(米国は靖国参拝を支持・容認しない)を示したものと見るべきだ。

実際、単一の宗教法人である靖国神社を、米国人戦没者でありさえすれば、無宗教を含むほぼ全ての信教の持ち主の埋葬を受け入れているアーリントン墓地になぞらえるのは無理がある。

安倍首相の言動によっては、日米同盟に対する米国内の支持も一部損ないかねない。両長官は米国民向けにメッセージを発したようで、高等なコミニュケーション戦術と言えようか。」

先日の、安倍首相の靖国参拝は、中韓の反発以上に米国からの「失望」コメントの方が国内の反響を呼んでいたように思いますが、上記のコラムを執筆した方は、当然そのようなコメントを予測していたのだろうと思います。

靖国を巡っては、あまりにも多くの論点が錯綜しており、ざっと考えても、大要、次のような論点が考えられ、個々の論点に関する論者の立場も、モザイク状に入り乱れていると思います。

先の大戦の意義に関する理解(大義の有無・程度)の問題(対東アジア政策を主とする大日本帝国政府の政策ないし統治思想に対する評価などを含む)、

政教分離の問題(最高裁の目的効果基準的な見地からの評価のほか、靖国神社と神道一般との関係(神道内部の路線の違い)なども含む)、

③個々の戦没者・遺族の靖国に対する肯否様々な感情及び信教の自由や思想などの問題(遺族会やその子弟などの肯定的立場と「靖国に祀られない権利」を主張する否定的立場との利害の調整のほか、国民を死地に送り込んだ基盤である大戦時の日本を覆っていた全体主義・集団主義と個人主義ないし人権思想(戦後民主主義)との関係等に関する考察や双方の評価等の問題を含む)、

A級戦犯合祀及びそれに付随する問題(戦没者追悼施設として相応しいのかどうかという議論のほか、前提としての個々のA級戦犯への評価(戦争犯罪者と言うに値するか等の論点)やBC級戦犯或いは戦犯であることから免れた個々の戦争責任者の評価、ひいては極東国際軍事裁判自体の大義云々の議論も含む)

靖国参拝を巡っては、各人の立場が強く出ている個々の主張が全く噛み合わない光景を目にすることが多いと感じますが、その背景にも、様々な論点が整理されずにゴチャゴチャのまま各人の言いたいことばかり声高に告げられていることが、主たる原因ではないかと感じています。

いわば、複雑な事案の訴訟で、裁判所等の強力なリーダーシップによる主張整理が伴わず、当事者が勝手な主張を繰り広げ、不毛な主張書面のやりとりばかり繰り返しているような状態だと思います。

それだけに、あくまで「首相の靖国参拝」を円満に実現したいのであれば、それらの様々な論点を解きほぐし、説得可能な論点について地道な努力を積み上げ、米国や中韓さらには国内も含む主要なステークホルダーが反発するのを不要視ないし躊躇するような環境作りをしなければならないと思います。

そのような努力の光景を欠いたまま、自分達のしたいことばかりを先行させ、結果として価値観を共有していない第三者的な周辺弱者(例えば中韓に工場移転し依存度が高い中小企業など)に損害を被らせることになれば、人心が急速に安倍政権等から離れてしまう可能性も否定できないと思います。

私個人を含め、現在のところ、国際問題等の形で騒がれることのない静謐な環境でなされるのであれば、殊更に靖国参拝に反対しようとまでは思わない(逆に、大騒ぎになるくらいなら自粛はやむなしと考える)立場の国民の方が多いと思われるだけに、この問題に関わっている方々には、冒頭のコラムで述べられているような「高等なコミニュケーション戦術」を学んでいただきたいと思うほかありません。

ともあれ、訳あって、1月1日に東京駅に立ち寄るので、可能であれば靖国神社と千鳥ヶ淵の双方に行ってみたいと思います。

 

刑事弁護とタイムチャージ

近年、私選で刑事事件を受任させていただく機会が増えています。被疑者国選の導入により、そのような機会が減少するかとも思ったのですが、被疑者国選を利用できない50万円以上の預貯金のある方や、ご本人が対象となる場合でも、ご家族からご依頼いただき受任しています。

私は、数年前から、私選の刑事事件は、原則として1時間2万円(税別)を基準額とするタイムチャージを基本とする方式(準時間報酬制)で受任する取扱とさせていただいています。ちなみに、この単価は交通事故の弁護士費用保険(日弁連LACの少額事件基準)と同じ額で、一般的な町弁にとっては、「儲からないが事務所の経費くらいは賄える程度の額」です。

米国などと異なり我が国の町弁業界ではタイムチャージは普及していないため、恐らく地方では非常に珍しく、タイムチャージで刑事事件を扱う弁護士は、もしかすると岩手では唯一なのかもしれません。

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過去の経験からすれば、とりわけ、捜査段階で決着できる(起訴されずに済む)事件では、濃密な対応が必要とされる特殊事例を別とすれば、10~30万円(5~15時間の従事)の範囲で収まることがほとんどです。頻繁に接見したり関係各所への連絡など様々な対応が要求される事件を別とすれば、国選事件と大差ない金額に止まることも珍しくありません。

実際、被疑者国選も、1回の接見に対し、1~2万円程度の報酬を算定しているようです。但し、遠方の警察署への移動時間や関係者への連絡、裁判所や検察庁への申立、申入れなど接見以外の作業については原則として報酬がありませんので、その種の作業が多い事件では、赤字リスクが高くなります。

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刑事事件は、民事訴訟で賠償や金銭等の請求をするような「特定の経済的利益の実現」を目的とするものではなく、犯罪の成否(有罪か無罪か)を巡って厳しく対立するタイプの事件も滅多にありませんので、成功報酬というものに馴染みにくい面があります。

また、刑事事件では、事件ごとで必要な作業のばらつきも大きく、「働いた分だけ報酬をいただく」というのに馴染みやすい面があると思っています。

少なくとも、弁護士が大したことをしなくとも、検察庁の取扱基準の問題として公判請求を免れる場合は珍しくありません。そのような場合に、実務の実情に詳しくない依頼主に、あたかも自分の功であるかのように吹聴して高額な成功報酬なるものを請求する弁護士がいれば、それは詐欺とか消費者被害とか言うべきものだと思います。

もちろん、弁護人の努力で一定の成果が生じた場合には、成果報酬的要素が加味されてよいとは思いますし、高度な知見を必要とする特殊な弁護活動をして相応の成果を挙げたり、献身的な努力で早期釈放を実現するなどした場合には、相当の加算がなされるべきと思います。ただ、その場合でも、時間給換算で極端な高給になるのは疑問ですが。

聞くところでは、米国では、刑事弁護(私選)はタイムチャージとするのが通例であり、また、(上記のような成功報酬に馴染む事件を別とすれば)弁護人が成功報酬の名目で高額な金員を請求するのは間違っているという考えが強いのだそうです。

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幾つかの事務所(とりわけ「刑事専門」を謳うものなど)のサイトでは、1件あたり一律に数十万円の報酬を掲げるものが少なくありません。

もちろん、無罪を獲得するため膨大な弁護活動に明け暮れるような事件では、そのような金額で問題ない(やむを得ない)と思います。タイムチャージでも、まさにそのようなタイプの事件では、原則として、相当に高額な報酬をご負担いただく点は変わりありません。

しかし、「事実を争っておらず、大がかりな被害弁償等も要せず、接見やご家族等との連絡調整の頻度も高くないため、全部で10時間に満たない仕事しかしない」程度の事件でも、何十万円もの報酬を当事者に負担させているのであれば、同業者の目で見ても暴利と感じます。

上記のようなケースでも、何か問題が生じたときにきちんと動いて貰えるよう、念のため私選弁護人を選任しておきたいとの申出を受けることはあり、その場合、危惧された事態が生じず限られた従事時間で終了した場合には、それに相応しい低額の報酬に止めるべきだと思います。

タイムチャージでなく、弁護士の裁量で決めている方々も、その点はわきまえを持って対応されているのではないかと思いますが、少なくとも時間簿を作成しておけば、算定に変に頭を悩ませることもなく、依頼主にも安心して説明できる面があると思います。

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もちろん、刑事事件に限らず、「依頼主のご予算に限りがあるものの、事件の性質上、正しい解決を得るため無理をしてでも弁護士が奮起して励まなければならないケース」は多々あります。

そのような場合には、(一部の弁護士或いは事案等を別とすれば)弁護士が、上限を超えた部分の請求は差し控えるという形で、経済的には泣きを見ざるを得ないことが珍しくなく、その点は、タイムチャージ形式でも代わりありません。

だからこそ、短時間で相当な経済的成果など適正な利益を依頼主にもたらした場合には、少なくともタイムチャージ単価を控え目な額に設定しているのであれば、相応の成果加算がされるべきだと思いますし、それは、結局は、依頼主との信頼関係を前提とした弁護士の裁量判断を尊重していただかざるを得ない面があります。

結局、タイムチャージ(を基本とする準時間報酬制)という試みは、これまでドンブリ勘定で行っていた報酬算定に関する作業を、より合理的、客観的にしようとする様々な営みの一つという位置づけになるのだと思います。

少なくとも、「1回の手術と1週間の入院で済んだ人」と「半年以上の入院をして何度も難しい手術を受けた人」が、「手術を要した」というだけの理由で同一の金額を請求されるというのであれば、それは明らかに違和感があり、前者に過大な請求をして、後者の赤字を補填しようとしているのではという疑念を禁じ得ません。

弁護士業界における費用の算定は、これまでそのような傾向がなきにしもあらずで、弁護士費用を巡る価値観の違いなどの問題もあって、それを完全に克服することは困難だとは思います。

タイムチャージに限らず、費用に関する議論をもっとオープンにすることで、合理的な費用のあり方について、理解や実践が深まっていけばと思っています。

加工食肉の提供による食中毒事故と製造物責任(事例紹介)

盛岡にも進出しているステーキチェーン店で販売されたサイコロステーキについて生じたO157の食中毒事故に関し、チェーン店を展開しているフランチャイザー(本部)であるX社が、サイコロステーキの製造元Y社に対し、製造物責任等を理由に12億強を賠償請求したものの、棄却された例(東京地判H24.11.30判タ1393-335)です。

裁判所は、当該サイコロステーキ(生鮮品を加工した結着肉)について、 現在の食肉技術では内部にO157の混入を完全に防止するのは困難であり、中心部までよく加熱することを前提とした食材として、広く流通しているとの事実を認定し、それを重視し製造上の欠陥も指示説明・警告上の欠陥も認められないとしています。

流通実態やそれを支える法的規制の状況等を踏まえて欠陥の有無を判断するという点は、加工食品に限らず応用範囲が広いと思われ、製造物責任が問われる事案では参考になると思われます。

 

子を虐待した親が、その子の死亡で巨額賠償を得た判決と立法論

子Aが、両親Xらに虐待されている疑いがあるとして、Aの入院先の病院Y1の通告により、一時保護のため児童相談所に入所した後、児相職員のミスでアレルギー物質を含む食べ物を口にした直後に死亡した場合に、両親が児相を運営する市Y2にXの損害等として数千万円の賠償請求を認めた裁判例を少し勉強しました。
横浜地裁平成24年10月30日判決・判タ1388-139です(Y2市が控訴中とのこと)。

事案と判決の概要は次のとおり。

X1・X2の子であり当時3歳のAは、H18.6当時、Y1(独法・国立成育医療研究センター)が開設する病院に入通院して治療を受けていた。

Y1は、XらがAに適切な栄養を与えておらず必要な治療等を受けさせていない(いわゆるネグレクト)として、Y2(横浜市)が設置する児童相談所(以下「児相」)に対し、児童福…祉法25条に基づく通告をした。

児相の長は、7月にAを一時保護する決定(同法33条)をした。
Aは、卵アレルギーを有していたが、保護先の児相職員が約3週間後、Aに対し誤って卵を含むチクワを食べさせてしまい、Aはその日に死亡した。

XらはY1に対し、自分達は虐待していないのにY1が虚偽の通告をしたとして、慰謝料等各275万円を請求した。

また、Xらは、Y2に対し、①本件一時保護決定等が違法であり、Aに面会等させなかったことを理由に慰謝料各150万円、②Aの死亡に関し、死亡の原因が卵アレルギーによるアナフィラキシーショックによるもので、チクワを食べさせた児相職員に過失があるとして、Aの損害約6400万円の相続及びXら固有の慰謝料各500万円などの支払を請求した。

Yらは、Xらに虐待行為があったので、Y1のY2への通告やY1の一時保護等は適法と主張し、Aの死亡についても、アナフィラキシーショックではない他の原因によるものとして、因果関係を争った。

判決は、XらのY2に対する請求は計5000万円強(1人2500万円強)を認容し、Xらの対Y1請求は棄却した。

まず、Y1のY2への通告(が違法か)については、XらがAに必要な栄養を与えておらず、Aにくる病(栄養不足等による乳幼児の骨格異常)を発症させ、適切な時期に必要な治療等を受けさせていなかったと認定し、通告は必要かつ合理的で適法とし、対Y1請求を棄却。

次に、Y2の一時保護決定等についても、上記事実関係やY1の医師がAの検査等をしようとしてもXらが同意せず治療等をさせなかったとして、同様に適法とした。

他方、Aの死亡(卵入りチクワの提供)については、本件では、摂取から発症・死亡までの時間が通常よりも多少の開きがあるが、発症までの時間はアレルギー物質が吸収される時点によっても異なり、本件では吸収が相当程度遅くなった可能性があるとして、Aの死因が当該チクワの摂取によるアナフィラキシーショックによるもので、Y2職員の過失も認められるとして、Y2にXへの賠償責任があるとした。

損害額については、近親者慰謝料(Xら各200万円)を含め、上記の金額の限度で賠償を認めた。

判例タイムズの解説には、一時保護決定に関する議論や学校給食でアレルギー物質を含む食事を採った子が死亡した事案などが紹介されています。

が、反面、「虐待親が、虐待に起因して行われた児童相談所への一時保護の際に生じた事故に基づく賠償金を自ら取得することの当否」については、何ら触れられていません。この裁判の中でも、権利濫用等の主張はなされていないようです。

Xらの相続権について考えてみましたが、ざっと関連条文を見た限りでは、Xら自身がAを殺害したわけでないので、相続欠格事由(民法891①等)にはあたらないと思われます。また、被相続人(A)を相続人(Xら)が虐待した場合には、相続人から廃除することができますが(民892条)、その申立は、被相続人(A)のみができるとされ、本件のような場合にはおよそ実効性がありません。

また、Xらの請求を権利濫用と評価する余地があったとしても、Y2の過失そのものは否定しがたく、これを理由にY2の責任を否定するというのも疑問です(Xらも悪いがY2職員も過失があり、前者を理由に後者を免責すべきではありません)。但し、本件ではY2が死亡原因が他にあるとして因果関係を争っており、それが認められれば、賠償額は大幅に減額されますが。

このように考えると、「自ら悪質な虐待行為をしてAの死亡の遠因を作った本件Xらが、Aの死亡で巨額の賠償金を手にするのは不当だから阻止すべき」という価値判断を実現するには、「親の虐待に起因して子が死亡した場合には、公的機関の請求により、親の相続権を制限できる」といった法律を制定するないのではないかと思われますが、どうなのでしょう。

ちなみに、虐待親の親権を制限する趣旨の法改正が昨年に行われていますが、親権の制限は相続権の剥奪とは関係がないと思われ(相続権にまで手をつけた改正にはなっていないのではないかと思われます)、本件のような例でその改正を活かすことも難しいのではと思われます(但し、24年改正はまだ不勉強なので、そうでないとの話がありましたら、ご教示いただければ幸いです)。

なお、虐待親が自ら子を殺害したのに等しい場合は、全部の相続権を剥奪すべきでしょうが、そこまでに至らない場合や親側にも酌むべき事情がある場合には、全部廃除でなく部分的には相続権を認めてもよいのではと思われ、そうした判断は、家裁の審判に向いていると考えます。

また、虐待親の相続権を制限した場合に、回収された賠償金は、同種事故の防止や虐待児の福祉など使途を特定した基金とすれば良いのではないかと考えます。

もちろん、このような考え方自体が、財産権に対する重大な制約だとして反対する立場の方も、我が業界には相応におられるかもしれませんが。

我ながら価値判断ありきのことを書いている気もしますので、あくまで議論の叩き台になっていただければ十分ですが、お気の毒なお子さんの犠牲を粗末に扱わないためにも、こうした事件から、現行法や実務のあり方などに関心や議論が深まればよいのではないかと思っています。

H26.2.12追記

この件の控訴審は、Aの死因がアナフィラキシーショックによるものと断定できず、Y2が主張する他の死因(右心室に繊維化した異常部位が混在していることに起因する致死的不整脈による突然死)の可能性も否定できないので、本件食物の摂取とAの死亡との間に相当因果関係を認めることができないとして、Y2に対する認容判決を取り消し、Xを全面敗訴させています(判例時報2204号)。

離婚に伴う退職金の分与と分割について

給与所得者の方の離婚事件では、退職金の財産分与が論点となることが珍しくありません。

この場合、退職が間近の方であれば、退職金の予定額を確認し、中間利息を控除した額の半分(原則)を配偶者に分与することになります。

これに対し、退職まで相当の年数のある方であれば、現時点で自己都合退職した場合の金額を算出し、その半分(原則)を分与すべきというのが一般的な取扱です。

退職まで非常に多くの年数があり、定年退職時に勤務先が確実に退職金を支給すると言えるか不確定要素が大きい場合(企業の存続などを含め)には、退職金の財産分与を認めるか争いがあります。退職金の財産分与の可否が争点となった事件を取り扱ったことがありますが、裁判所の相場観もまだ確立していないように思われます。

この点、年金については分割制度が法律で確立されましたが、かつては年金の財産分与についても、これと似たような争いがありました。

結論として、裁判所の判断で退職金の支払義務が認められたものの、一括払をする原資を持ち合わせていない方で、支払の実施をどのようにするか問題になりました。

このように、離婚時の一括払型だと、支払う側には債務額をどのようにして調達するかという問題が、受け取る方には自己都合退職など低い計算方法で支払額が定められてしまうという問題があるため、これが常に正しい方法とは言い難い面があるように思われます。

深く検討した上での提案ではありませんが、個人的には、退職金についても、年金と同様に、退職時に分割して離婚した配偶者に対象額(総額のうち婚姻期間に該当する額につき原則として半額相当)を直接に支払う制度を設けてもよいのではと考えます。

仮に、退職者に問題行動があって退職金の全部又は一部の支払が拒否される場合にも、配偶者に帰責事由がないのであれば、配偶者の按分額については、原則として全部ないしそれに準ずる額を支払うことにすれば、その後の不正行為で離婚配偶者も退職金の受け取りができなくなるという問題は回避できます。

ただ、勤務先にとって見れば、巨額横領など退職金の全部不支給をしなければならない事案で、過去にその従業員と離婚した配偶者に一定額を支給しなければならないというのは、不満が生じるかもしれません。

その点は、保険などで賄う(その上で、保険会社がその部分について従業員に求償する)という仕組みなどが考えられますが、従業員夫婦の関係次第で退職金に関する事務が影響を受けるというのは企業側にとって抵抗が残るでしょうから、その点は大きな障壁となるとは思います。

もちろん、当事者が、すぐに調達できたり、多少の減額を容認してでも直ちに受け取りたいと希望する場合には、現在のスタイルで問題ないのでしょうが、当事者がいずれかを選択できるような仕組みはあってよいのではと考えます。

温泉の権利を巡る法律問題

何年も前、雫石方面に所在する温泉宿が使用している温泉の利用権に関するご相談を受けたことがあります。

その際、温泉権(源泉権)に関する知識が皆無に近かったため専門の書籍も買い求めたりしたのですが、残念ながら温泉に関する相談を受けたのは、その一度だけで、訴訟等に発展しなかったこともあり、本も持ち腐れの状態が続いています。

実際、岩手に戻ってきて10年ほど経ちましたが、温泉権に関する訴訟などの話は聞いたことがなく、全国的にも温泉権に関する訴訟はほとんどないと思われます。

古い記録を整理していたところ、昭和63年に仙台高裁で、盛岡市郊外の繋温泉を舞台とする温泉権を巡る紛争の判決があったことを見つけました(判時1285-59)。

温泉権が鉱泉地(源泉の湧出する土地)から独立した物権としての権利が認められるか、肯定するとして、その公示方法(対抗要件)はどうするかなどといった、この種の問題に関する基本的な論点が対象となったようです。

昨年に亡くなられた先生が当事者の代理人を務めているなど、時の流れを感じさせる面があります。

温泉開発が廃れたせいか、温泉権を巡る紛争もほとんど聞かない状態が続いていますが、温泉地の衰退による廃業、倒産などが続くようであれば、いずれは源泉権の処分やそれを巡る紛争なども生じてくるのかもしれません。