北奥法律事務所

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公益活動等

震災復興とインフラツーリズム

昨年10月の日経新聞で、新たな旅行形態(ニューツーリズム。産業施設観光やエコ・グリーン系、健康・医療系など)の一つとして、土木構造物の建設現場を見学する「インフラツーリズム」なるものが取り上げられており、例として、高速道路のジャンクション建設現場のツアーが紹介されていました。

それを見て、すぐに思い浮かんだのは、被災地では、現在、三陸道や防潮堤、嵩上げ工事や高台の造成、各種建造物の復旧・新造など、至るところで様々な工事が行われたり計画・準備されたりしていますので、それらを見学できるツアーを現地で提供しても良いのではということでした。とりわけ、震災の風化や関心低下等が叫ばれて久しい状況にあるのですから、そうしたことで遠方の方々の関心を喚起する意義は大きいのではないかと思います。

また、インフラ見学に限定する必要はないでしょうから、建設現場と地元の自然景観等の鑑賞を交えたツアーを販売しても良いと思います。私は法テラス気仙の担当のため月1回のペースで大船渡に行っているのですが、大船渡湾は、嵩上げ等の復興土木工事現場だけでなく、太平洋セメントの巨大工場もありますので、これを洋上から鑑賞したり被災廃棄物の焼却等を見学するツアーでもあれば、「期間限定」の希少価値も相俟って、工場萌えの人々が押し寄せるのではないかと思います。

また、湾岸クルーズ船のコースとして、大船渡湾の牡蠣養殖棚を間近で見学したり(いっそ、その場で食べさせたりとか?)、余勢を駆って大船渡のシンボル・穴通磯なども間近で鑑賞できれば、そうしたものを見たい人にも大いに需要があると思います。国道45号線に沿って坂の上に街が広がる大船渡町周辺の光景も、参加者に心地よさを提供することでしょう。

もちろん、本格的にインフラツアーをしたい方には、三陸道の工事現場や隣の陸前高田の一本松のすぐ隣で大々的に行っている巨大コンベアーや嵩上げ工事現場なども視察し、本気度の高い方々にはオプションで地元関係者との意見交換企画なども付加すればよいと思います(冗談抜きで、地元関係者の会合を見学し議論に参加できるツアーなどもあってよいと思います)。

例えば、地元自治体などが企画して最初に地元や首都圏などのカメラマンや旅行業者、学術関係者などを対象にツアーを行い、宣伝して貰ってもよいのではないかと思うのですが、どうでしょう。

なお、この程度のことは、既に多数の人が考えているのだろうと思ってネットで「インフラツーリズム 被災地」と入力して検索したところ、残念ながらというか、国交省の東北地方整備局の文書が出てきた程度でした。
http://www.thr.mlit.go.jp/Bumon/B00097/K00360/guide-tohoku/guide-t3.pdf

先日、法テラス気仙の担当日で市内を少し自動車で廻った際、屋形船が就航しているという看板を見つけました。今年の3月から始まった企画とのことですが、単なる観光事業としてだけでなく、上記のような「震災復興のインフラツーリズム」のツールとしての活用や小型船の導入なども考えていただければと思います。
http://www.55027104031.com/

地元関係者の奮起を期待したいところです。

岩手弁護士会・公害環境委員会の景観アンケート調査②

前回の景観アンケート調査に関する投稿の2回目です。そもそも、この調査は、昨年、「盛岡まち並み塾」などを通じ盛岡町家(鉈屋町界隈)の保護・活用に従事されている建築家の渡辺敏男氏より、活動内容や今後の課題などについてお話を伺ったことを踏まえ、当委員会として何ができるか、すべきか考えたものの、よい智恵も浮かばずということで、他会の動を参考にさせていただきたいとの理由で行ったものです。

ただ、本格的な回答をいただいた京都会や東弁などのシンポや意見書などの活動の濃さは、現在の我々のレベルではおよそ咀嚼し切れないものと思われ、結局は何もできずに終わってしまうのかと溜め息ばかりというのが正直なところです。

ところで、昨年11月に、近畿弁護士会連合会が、歴史的建造物やそれを取り巻く景観の保護などをテーマにしたシンポジウムをしており、その中で、歴史的建造物を所有者が解体する際には、事前にその旨を公表して当否を公に検討できるようにすべきだという趣旨の提言がなされているのを知りました。
http://kinbenren.jp/symposium/index.html
http://kinbenren.jp/declare/2014/2014_11_28-2.pdf

この点、盛岡では、2年ほど前、長年に亘り市民に親しまれた著名な料亭がマンション開発業者に売却され、盛岡市から保護指定を受けていた庭園と共に解体・撤去されてしまうという出来事がありました。

その件に関し、売却の話は事前に当事者以外にはほとんど知られておらず、仮に、事前に把握できていれば、現在の建物の有効活用を前提とする購入案を所有者の方に提案して保存を図りたかったとのお話を伺ったこともあります。

ですので、仮に、その建物・敷地(庭園)の所有者の方が、売却を決意した際に、「指定された物件(公共性の認定を受けたもの)を解体(現状変更)目的で売却する場合には、事前に届出させて公表し、既存建物等の保護活用を目的とする他者にも購入申出の機会を広く与える制度(言うなれば、株式の公開買付制度のようなもの)」が設けられていれば、上記の料亭の建物・敷地等が存続した可能性もあるのではないかと思います。

当委員会は恥ずかしながら色々と活動の限界が大きく、さほどのことはできそうにありませんが、そうした制度の可能性まで視野に入れた議論が喚起されるような活動ができればと思っています。

岩手弁護士会・公害環境委員会の景観アンケート調査①

昨年、私が一応委員長となっている標記の委員会(以下「当委員会」といいます。)では、まち並み(歴史的建築物など)保護などを含む景観問題に関する取り組みの一環として、各地の弁護士会の景観問題への取り組みを照会するアンケート調査をしました。

全52会のうち計35会から回答をいただきましたが、景観問題は弁護士会の活動としてはメジャーとは言えない分野ということもあり、圧倒的な規模を誇る東京弁護士会と、歴史的建築物の保護の関係で先端的な取り組みをしている京都弁護士会など僅かな弁護士会からは詳細な回答をいただいたものの、多くの弁護士会では特段の取り組みはしていないとの回答でした。

とりあえず、ここではアンケートの内容をそのまま紹介します。

***************

1 貴会では、地域内の景観の保護(歴史的、文化的景観等を中心とするまち並み保護のほか自然的景観なども含む。以下同じ)について、現在又は概ね過去5年以内に以下の活動をなさっていますか。該当するものに○を付してご回答下さい。また、具体的な活動内容を余白部分又は別紙にご記入下さい(一部の文言を省略)

(1) 保護(法規制など)の当否が問題となっている個別事案の現地調査及び関連する法規制などの調査
(2) 当該事案ないし法制度に関する地方公共団体(都道府県及び市町村又はいずれか。以下「自治体」)や国などへの意見書の提出
(3) 景観保護等を目的とした市民向けシンポジウムなど、地域内の住民などへの働きかけ
(4) 景観保護等を目的とした自治体の審議会等への会員の推薦及び推薦した委員への条例化等に関する働きかけ、自治体の首長や地方議会議員への働きかけなど
(5) 上記以外の活動ないし運動
(6) 現在及び対象期間内に、上記(1)ないし(5)に該当する活動はしていない。
(7) その他・ご意見など

2 貴会は、地域内の景観の保護のため、以下の活動をし、或いは措置を講じていますか。該当するものに○を付してご回答下さい。補足説明をいただける場合は、余白又は別紙にご記入下さい。

(1) 自治体の景観審議会などの委員に関する貴会会員(特に、貴会公害対策環境保全委員会の委員)の推薦
(2) (1)で推薦した貴会会員など審議会の委員との定期又は不定期の意見交換等
(3) 地域内で景観保護などに取り組む団体、企業などとの協働、意見交換など
(4) その他の活動・措置
(5) 上記に掲げているような活動等は特に行っていない。
(6) その他・ご意見など

3 貴会がこれまで地域内の景観の保護を巡る制度(景観保護等を目的とした制度)に関し、非常に問題があり、特に優先的な改善を要すると感じている点(①景観保護を目的とする建築等の規制又は保護の措置の不足、②住民参加その他の手続上の不備のほか、③行政又は立法による不要・過剰な規制なども含む)と感じた例(論点)がありますか。あると感じている場合には、その内容をお知らせ下さい。

4 地域内の景観保護の問題に関し、行政による建築等の規制又は保護の措置以外の事柄(例えば、居住者・所有者の相続などの問題や空き家対策、近隣紛争その他の私法上の問題など)で、貴会のこれまでの活動などを通じて、特に喫緊の対策を要すると考える事柄はありますか。あると感じている場合には、その内容をご教示下さい。

5 その他、景観保全・活用などの問題を巡る弁護士会ないし弁護士の活動に関し、貴会において特に取り上げるべきと考える事項(ご意見)がありましたたら、ご教示下さい。  (以上)

坂の街・大船渡の景観を考える

現在も、法テラス気仙の担当の一人として、月1回のペースで大船渡に通っています。宮守ICの開通後は、交通状況次第では2時間弱で大船渡に到着でき、渋滞問題もほとんどありませんので、気持ちの上では宮古市よりも近い(移動時間という点では、沿岸では盛岡から最もアクセスがよいのでは)と感じるところがあります。

先日は、再建した大船渡魚市場の食堂がオープンして大盛況になっているとのニュースを見ていたので、是非と思って行ってみたのですが、30分待ちということで時間的に断念し、テラスの眺望だけ拝見して帰りました。場所柄、大船渡湾が一望できますので、この景色を見るだけでも十分に立ち寄る価値はあると思います。

ところで、大船渡市の中心部(主に盛~大船渡地区)は、大船渡湾を囲むようにして坂の街が形成されており、対岸(赤崎地区など)から見れば、坂に沿って建物が林立している景観を楽しむことができます。

このような「港に沿って形成された坂の街」は、瀬戸内海や地中海、或いは長江中流域(重慶~三峡ダム。平成11年の夏に行ったことがあります)などでは珍しくないと思いますが、岩手ではとても珍しく、それ自体、景観としての価値があると言ってよいのではないかと思います。

小規模な港町を別とすれば、岩手の他の沿岸都市は、いずれも北上高地から各地の沢水を集めて流れてくる河川の河口付近に出来上がった細長い平野部(扇状地)に形成されており(宮古、釜石が典型で、ご無沙汰していますが久慈も同じような感じだったと思いますし、陸前高田も細長くはありませんが気仙川河口の扇状地という点は同じでしょう)、街の景観(地勢)という点では、大船渡は岩手的には異彩を放っているように感じます。

その点は、大船渡湾が外洋から深く入り込んだ形状をしており、湾内が比較的穏やかな海になっていることも関係しているのではないかと思われます。

ともあれ、大船渡を訪れて中心部周辺を周遊していると、この街は、もっと坂の街としてのアイデンティティを押し出し、その景観を市街地形成や観光等に活かすべきではないかと感じられます。

例えば、対岸=赤崎地区に、景観を楽しめる南欧・地中海料理の飲食店など出店してはいかがかと思うのですが、どうでしょう。この地区は、中心部からは若干離れているものの、質が高ければ客が殺到するのは、同じく中心部からは離れていると言って良い魚市場食堂が証明していると思います。

岩手弁護士会の公害対策環境保全委員会では、地元の景観資源に関し地元の弁護士として何らかの貢献ができないか模索しており、法規制や運用などを通じ、こうした事柄にも関わりを持てればと思っているのですが、何のツテもスキルもなく、どうしたものやらです。

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東北油化の倒産と周辺環境の原状回復

先月頃から、奥州市江刺区にある東北油化という家畜の死骸処理を行う会社が周辺に悪臭等を生じさせたとして行政処分を受け、程なく自己破産申立をしたとの報道がなされています。
http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20141012_3

私自身は(少なくとも現時点で)この事件には全く関わっていませんので、報道されている以上の事実関係は知りませんが、岩手県から水濁法や条例に基づき汚水や悪臭の是正措置を命じられていた中で破産申立がなされたということは、一般論としては、法令に適合する是正措置を講ずるだけの資力がないのではと危惧されます。

当然、破産したからといって会社に是正措置を講ずべき義務が無くなるわけではありませんし、会社施設の原状回復(特に、周辺環境に著しい悪影響を生じさせるような有害物質等の除去)は、破産手続=管財人の業務上も優先性の高い事務とされています。

ただ、破産手続は、換価・回収可能な会社財産(破産財団)の範囲内で会社の財産の管理や配当を行う手続ですので、もし、同社が当該措置(水質などの原状回復工事)を行うに足る金融資産等を有するのなら、管財人が早急に当該措置に着手するでしょうが、それを賄うに足る資産がない場合は、管財人としては手の施しようがありません。

この場合、有害性の強い物質が拡散するなど周辺環境への悪影響が看過できないもので、税金を投入してでも原状回復をすべきだと判断されるときは、岩手県知事は、行政代執行により一定の除去工事を行う可能性があります(廃棄物処理法19条の8)。

仮に、上記の事情が認められるのに県が代執行を行わない場合には、住民は、豊島事件のように公害調停を申し立てることで、県に代執行を行うよう働きかけることが、方法としては考えられます(行政代執行の義務づけ訴訟という手段も考え得るかもしれませんが、ハードルはかなり高いと思われます)。

ただ、岩手県庁(環境部局)は、県境不法投棄で全量撤去を早期決定するなどの前例がありますので、現在の制度上、代執行の必要性が高い案件であれば、そのような手続を経ずとも、率先して一定の除去工事を行うことは期待できるのではないかと思われます。

なお、管財人(破産財団)が自ら実施できるにせよ、税金を投入(代執行)せざるを得ないにせよ、債権者や納税者の犠牲のもとに高額な原状回復工事を余儀なくされる場合には、そうした事態を招いた会社役員など主要関係者の個人責任を厳しく追及すべきではないかという問題があるかと思います。

水濁法は仕事上関わったことがないため詳しくは存じませんが、事案次第では、廃棄物処理法を含め、何らかの刑事罰の適用がありうるかもしれません。また、刑事罰に至らなくとも、会社等に対する民事上の賠償責任(特に会社法に基づく役員の賠償責任)は十分にありうるところです。

この事件が、そうしたスケールの大きい事件なのか、さほど除去工事に費用を要せず管財人が簡単に実施できるレベルなのか分かりませんが、周辺環境に禍根を残すような形にはならないよう、住民や報道関係者などは、今後も成り行きを注視していただければと思います。

また、報道によれば、同社は県内で牛の死骸の処理ができる唯一の施設で、県内の畜産農家への影響が懸念されるとのことですが、そのような企業であれば、経営破綻になる前に、行政が経営の健全性を何らかの形で調査したり、経営困難な事情が生じた場合には、破綻になる前に事業譲渡など混乱回避の措置を講じる仕組みづくりが必要ではないかと思われます。

そうしたことも含めて、一連の経過を検証し今後に繋げるような取り組みがなされることを期待しています。

自治体のゴミ分別回収に関する取り組みとゴミ袋開封条例

平成15年から、日弁連の公害対策環境保全委員会の委員(廃棄物部会)を拝命していたのですが、今年になって、他の方に席を譲らなければならないとのことで、残念ながら整理解雇されてしまいました。

ただ、また空席が出来れば復活したいとの希望があり(東京の弁護士会館に書籍を買いに行きたいからという理由が半分ですが)、お願いして廃棄物部会ML(メーリングリスト)には残留し、私が運営を預かっている岩手弁護士会の公害対策環境保全委員会の活動の参考にもさせていただいています。

で、本題に入りますが、先日、部会MLに、標記の問題に関し識者が賛否の見解を表明した記事が紹介され、その記事では、弁護士の方が反対派(プライバシー保護重視)の立場で論陣を張っていました。

自治体の一般ゴミ(一般廃棄物)の細かい分別回収は、盛岡市でも10年近く前から導入され、「プラスチック容器包装」「紙容器包装」などに分けて出すようにと言われています。

ただ、分別回収については、全国的に、分別ルールに従わずに排出する人が一定数いるため、不公平感の解消などを理由に、袋を開封して当事者を特定し、改善指導したり罰則(過料)を課す条例を定める自治体も生じています。

ネットで検索すると、次の記事などが出てきており、いずれは岩手県内でも導入(条例化)するような話が出るかも知れません。
http://www.asahi.com/articles/ASG81347RG81PLZB00C.html
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/140125/wlf14012513350012-n1.htm

岩手の上記委員会は、今も開店休業に等しい状態が続いていますが、何らかの機会に、現在行っている他の分別履行の確保策の有無なども含め、県内自治体にアンケート調査するとか、勉強と提言を兼ねた何らかの取り組みができたらと思わないこともありません。

ゴミ開封条例は違憲になるのではないかとの議論もあるようですが、その当否は、詰まるところ、抽象論ではなく分別の必要性や不遵守による弊害・損失等の程度をはじめ、ディテール(立法事実)をどこまで明らかにできるかで定まるでしょうから、その点でも、自治体ごとの細かい取り組みや実務の実情などを、どなたか整理して論点整理などしていただければ(或いは、そうした作業こそが、弁護士会=法律実務家集団の果たすべき役割ではないか)と思っています(自分がどこまでできるかはさておき)。

最近では、奥州市江刺区で「家畜の死骸処理を行う企業が周囲に悪臭を生じさせているとして操業停止命令を受けた企業があり、その問題についても、西日本であれば、とっくの昔に近隣住民が差止請求訴訟をしているのではないかと思ったり、当委員会として何かできることはないのだろうかと思ったりすることもありますが、単なる勉強会以上の域を出ていない集まりなので、まずは、事例学習的なことでもやってみるのが身の丈というべきなのかもしれません。

勉強せずに皆で悪臭だけを嗅ぎに行っても、物笑いの種にしかならないでしょうし・・

ともあれ、「自治体のゴミの分別回収」の問題について、岩手県内の自治体の取り組みなどをよくご存知の方がおられれば、ご教示いただければ幸いです。

区画整理を巡る訴訟と被災地の法的需要

先日、区画整理に関し、施行者たる自治体から特定の行政処分を受けた方が、その処分が違法であると主張し争う趣旨の手続の依頼を受け、行政不服審査請求に加え裁判所への取消訴訟提起と執行停止の申立を短期間で一気に行うという経験をしました。

区画整理に関しては、被災地の高台移転を始めとする様々な復興事業の関係で、沿岸部では大々的に行われているところですが、今回、お引き受けしたのはそのような事案ではなく県央部のもので、10年以上に亘る様々な事情を経て自治体側が事業の執行に動き出したところ、当方依頼主の権利、利益が蔑ろにされていると主張し、衝突に至ったという流れを辿っています。

ともあれ、照応の原則という区画整理では最も争いの対象になりやすい問題が主たるテーマになっていることなどから、事件自体は悪戦苦闘という面はあるものの、区画整理紛争の基本的な対応の仕方を学ぶという点で、色々と参考とさせていただいています。

そうした意味では、今後、被災地などで区画整理紛争が生じ、弁護士の支援が求められることがあれば、お役に立ちたいとの思いは持っています(ただ、費用対効果等との両立などで悩むことが多いかもしれませんが・・)。

ところで、前記のとおり、被災地では区画整理が大々的に行われているため、中には権利関係を巡って紛争等が生じている例もあるのではないかと思われますが(先日、大船渡に出張した際にも、紛争絡みと思われる立看板が国道に出ていました)、私の知る限り、訴訟に至った例はほとんどないのではないかと思われます。

震災直後の時期には、震災に起因して県内に様々な弁護士の仕事が生じるのではないかという憶測が流れており、例えば、いわゆる二重ローン問題などに起因して多数の企業倒産や個人破産等が生じるのではないかとか言われていましたが、実際には、そうした「特需」のようなものは、岩手では全くと言ってよいほど生じませんでした。

敢えて言えば、主として住宅ローンが残存する自宅等が被災した方のための「個人版私的整理ガイドライン」については、一定の需要がありましたが、これも、「多くの方が金融機関と借換を済ませてから制度が導入された」などと酷評されたように、実際の利用者は潜在的需要層のごく一部に止まったとされており、沿岸部で開業している先生方に多く配点されたことなども相俟って、当事務所での受任はごく数件で、現在はほぼ収束した状態と見られています。

区画整理や高台移転等にあたり複雑な相続問題を抱えて弁護士の対応が必要となる事案(相続人不存在や関係者多数・紛糾事案など)も多く存在するのではないかと言われてきましたが、私が見聞している限りでは、その方面の仕事が増えているという話も聞きません。

ここ最近、災害弔慰金絡みの訴訟や避難誘導に関する国賠訴訟(鵜住居事件など)が報道で取り上げられるようになっていますが、裏を返せば、報道で取り上げる程度の僅かな件数しか、この種の訴訟も生じていません。

現在、被災地で報道されている問題の一つに、労災の多発という問題があり、中には安全配慮義務違反で使用者側に賠償請求するに相応しい事案も幾つかあるのではないかと思われますが、これについても、訴訟等の話はほとんど聞いたことがありません。

現在、宮古支部に1件、訴訟事案を抱えていますが、その事件番号を見ても、宮古支部に継続している民事訴訟は、ごく僅か(過払紛争の華やかなりし頃に比べれば数分の1レベル?)と思われますし、岩手弁護士会が延々と続けている県庁主催の被災地相談に関する件数報告などを聞いても、内陸の若い弁護士さんが一日がかりで出張し「今日もゼロ件でした」などとMLに報告されているのを拝見するのが珍しくないという状態が続いています。

弁護士を必要としない、法的紛争のない幸せな社会なるものが出現しているのか、助力・支援を必要とする方への適切な情報提供や繋ぎ役(中間項)が欠如し、それを埋め合わせる営みが欠落した状態ばかりが続いているのか、或いは、あと数年もすれば、本当に需要なるものが顕在化するのか、未だに近未来の「被災地の法的需要」は見通せませんが、まずは、どのような事態が生じても、地元の弁護士として、お役に立つに相応しい事案で力を発揮できるよう力を養うと共に、沿岸・内陸を問わず、地域社会の行く末について、静かに見守っていきたいと思っています。

 

復興特需に伴う労災の多発と安全配慮義務

岩手では、半年ほど前から、震災復興の関係で沿岸各地で大規模かつ大量に行われている各種の土木、建設関係の工事などで、労災事故が多発しているとの報道をよく見かけるようになりました。

ご紹介の記事にもあるように、沢山の工事が同時進行で行われているため、人手不足や工期などがタイトになり、その結果、個々の従事者が、過重労働を余儀なくされていることなどが、原因として挙げられているようです。
http://www.morioka-times.com/news/2014/1406/19/14061901.htm

ところで、労災=業務上の負傷、疾病等に該当すれば、労災保険から治療費や休業損害が支給されますが、労災に起因する損害の全てを填補するわけではなく、例えば、労災保険からは慰謝料が支給されることはありません。

しかし、雇用主等に何の落ち度もないというのであればまだしも、企業側が、労災を必然的に招かざるを得ないような過酷な労働環境を強いるなどという事情があれば、労災保険とは別に、企業側の責任を問うことができます。

すなわち、そのような事情がある場合には、雇用主等に、従業員に基本的な安全を確保した労働環境を提供する義務(安全配慮義務)の違反があるとして、労災保険では対象外である慰謝料なども含めて、賠償請求をすることができます。

ただ、少なくとも私に関しては、震災復興に関する業務の従事について労災保険の適用や企業への賠償責任の問題が生じたというご相談を受けたことは、まだありません。

この種のニュースは見落とさないようにしているつもりですが、報道でも、その種の訴訟が起きたという話は(少なくとも岩手県内では)聞いたことがありません。また、主に若手の先生が従事している沿岸部での無料相談事業について、弁護士会のMLで相談内容(テーマ)の情報が流れてくるのですが、そこでも、この種の相談を目にした記憶がありません。

この種の労災(安全配慮義務違反)の問題は、工事に関する事故に限らず、人手不足や被災地対応の高ストレスに伴う精神疾患や過労死、過労自殺などについても当てはまる話であり、以前に、沿岸部の自治体に派遣されていた公務員の方に関する痛ましいニュースもあったと思いますが、それらの問題で労災保険や安全配慮義務違反(雇用主側の賠償責任)を巡って県内で裁判等が生じたという話も、聞いた記憶がありません。

もちろん、訴訟等に至る以前に、適切に被害補償を受けるなどして解決されているというのであれば、特に申し上げることもないのですが、果たして、本当にそうなのか、疑問がないわけではありません。

震災を巡っては、闇雲に法律相談事業を立ち上げる一方で、本当に弁護士のフォローが必要な事柄に、ちっとも手が届いていない(その結果、復興予算の無駄遣い等が放置されるなどの問題が生じた)という話を色々と聞くこともあり、そうしたチグハグさを解消し、真に支援が必要な人々のために弁護士がお役に立てる機会が、もっと設けられて欲しいと感じています。

例えば、この種の問題について弁護士会が自治体や業界団体?などと提携し広報活動をしてもよいのではと思うのですが、万年窓際会員の身分では、何の影響力もなく、お恥ずかしい限りです。

盛岡の町家文化と地元弁護士の役割

先日、古い町屋群が保全されている盛岡市鉈屋町で開催された「盛岡町家 旧暦の雛祭り」と、北上川を挟んだ対岸の仙北町で開催された「森とひなまつり 明治橋仙北町界隈」の双方を拝見してきました。

とりあえず、関連HPを貼り付けますので、あまりご存じでない方はこちらをご覧下さい。
http://machijuku.org/event/
http://www.city.morioka.iwate.jp/event/event/028793.html

http://www.morioka-times.com/news/2014/1404/11/14041101.htm
http://www.morioka-times.com/news/2014/1404/09/14040901.htm

鉈屋町の方は、今年で10年目だそうですが、通り沿いの家々に雛飾りが溢れ、規模も大きく人力車や和装の方々のパレードなど、和服姿の女性(年齢層は様々でしたが)を沢山お見かけし、古い街並みを生かした華やかなお祭りとしての雰囲気が良く出ていました。

仙北町の方は、鉈屋町と比べると規模は遙かに小さいですが、「徳清(佐藤家)」と金澤家の2つの文化財的な価値のある邸宅の公開を兼ねており、「雛飾り」の規模も、私が拝見した限りでは全体を通じて金澤家の飾りが最も見応えがありましたので、鉈屋町と仙北町の双方を見ないと勿体ないと思いました。

ところで、私が「ひな祭り」を見に行ったのは今回が初めてだったのですが、私は雛人形の価値などが分かる人間ではありませんので、主たる目的は、これまで拝見したことのない鉈屋町の建物群や徳清倉庫などの内部を見学することと、もう一つの理由がありました。

私が一応の責任者(委員長)をつとめている、岩手弁護士会・公害対策環境保全委員会では、来月、鉈屋町側の主催団体である「盛岡まち並み塾」の事務局長である渡辺敏男氏(建築家)に、「歴史的景観の保全」等に関する講義をお願いすることになっています。そのため、鉈屋町等の町家の文化的価値やその保全活動などが講義のテーマになると予測されるので、予習としてお邪魔したという次第です。

ただ、「まち並み保全」というテーマは、歴史や古い街並みがそれなりに好きな人なら誰でも入っていけそうな感じがする反面、私の知る限り、日弁連(公害環境の委員会)でも取り上げられておらず、建築実務に携わっている方でないとピンと来ない建築規制の細かい話が取り上げられやすいこともあって、弁護士の出番がどこまであるのか(出番を作れるのか)、よく分からないというのが正直なところです。

反面、本丸というべき建築規制の話にこだわらず、その周縁で生じる様々な法律問題に関する御用聞きのような形であれば、平凡な弁護士にも色々と出番が生じる可能性はあるのではとも感じています。

例えば、数世代に亘り受け継がれている町家の中には、数十年前に亡くなった方の名義のままになっていて、現役の相続関係者の意思統一が困難であるなどの理由で、相続登記に困難を伴う例があるかもしれません。また、長期間、空き家の状態が続き、近隣の方にとっても防犯、安全面で不安があり、管理や権利関係の処理を速やかに行うことが望まれる例、敷地の利用関係が複雑であるとか境界などに深刻な対立を伴う例など、弁護士がお役に立てる、立つべきケースが幾つもありそうな気がします。

また、今回の徳清倉庫さんのように区画整理などの形で行政との接触(往々にして利用形態に関する干渉や変更要請)を受けることも多いでしょうから、中には行政と見解の相違が生じて法的検討、調整を必要としたり、或いは、利害関係者の多くの方が意思統一できているものの、一部の方の反対があって物事が進まず、早期解決のため弁護士による法的な対応が望まれるという例もあるのではと思われます。

そして、それらの具体的な対処を通じて現行法制の問題点や限界を明らかにできれば、「まち並み塾」のような団体さんと協力して、法律や条例等のあり方について深みのある提言をするということもありうるのかもしれません。

それらの事柄にお役に立つことを通じて、街並みを守っている方々が一致結束して文化的価値を高める営みをすることを下支えするような活動ができれば、「街並み」そのもの(文化的価値云々)について込み入った知識がなくとも、地元の弁護士としての役割を果たすことができるのではないかと思われ、その点も含めて、地域の「宝」の価値の保全や向上に取り組んでおられる方々との協働関係を持つことができればと願っています。

 

三陸道で直結した大船渡と陸前高田の未来と気仙川

先日の木曜、法テラス気仙の担当日のため、大船渡市に行きました。昼は、芸能人の来訪で有名になった「百樹屋」さんに行ってみたのですが、休みになっており、さらに、市内の著名イタリア料理店「ポルコ・ロッソ」も休みで、その他にも休みになっている飲食店をいくつか見かけました。

大船渡の飲食店は木曜定休が多いのか?と不思議に思ったのですが、引用のニュースからすれば、津波注意報のため大事をとって臨時休業されたお店もあったのかもしれません。
http://www.nhk.or.jp/lnews/morioka/6043464111.html?t=1396522184375

帰路は、開通したばかりの三陸道(大船渡・陸前高田間)に行き、気仙川を遡って宮守IC方面に向かいました。大船渡碁石海岸ICから陸前高田ICにはごく僅かな時間で到着でき、時間的には、国道107号線ルートで住田町の分岐点に向かうのと、ほとんど大差ない感じすら受けました。

陸前高田は1年ぶり位で、震災後のメインストリート感のある竹駒地区を北上した程度でしたが、相変わらず仮設又は簡易なしつらえの建物が多いせいか、大船渡との復興格差を感じる面が少なからずありました。

大船渡と陸前高田が三陸道でつながり、両市の社会的・経済的な距離が一気に縮まると思いますが、反面、大船渡と陸前高田との間で、ストロー現象のような事態が生じることも危惧されると思われます。

両市は震災前から合併するとかしないとか(仲が悪いとかそうでないとか)、井戸端話を耳にすることもありましたが、法制度を待たずして一体化しつつあることは否定しがたいと思われ、社会経済上の適切な役割分担など、圏域の住民全体の福利に資するような形で都市設計をしていただければと思っています。

ところで、陸前高田から住田町にかけて流れる気仙川は、国道340号・107号に沿うように流れているため、この街道を運転する際には季節を問わず、渓流の美しさを感じながら運転でき、ささやかな楽しみになっています。

私の知る限り、気仙川沿いには著名な奇岩とか渓谷美の名所として古くから称賛されている場所などが無いため、一般にはさほど知名度がないと思われますが(県内の釣り人の方にはよく知られているようです)、「南の久慈渓流」と言ってよいと思われる美しさがあります。

交通の便の高まりと共に内陸との交流なども活発になり通行者も増加すると見込まれますので、特に景観美を感じさせる場所などに休憩スポットや店舗等を整備いただいてもよいのではと思っています。