北奥法律事務所

岩手・盛岡の弁護士 北奥法律事務所 債務整理、離婚、相続、交通事故、企業法務、各種法律相談など。

〒020-0021 岩手県盛岡市中央通3-17-7 北星ビル3F

TEL.019-621-1771

弁護士業務一般

地方の弁護士の横領事件に関する弁護士会の後始末と残された課題①

平成24年に岩手県盛岡市で活動する某弁護士が顧客からの預かり金を横領した事件が発覚し、逮捕・起訴されて実刑判決を受け、弁護士会からも除名処分を受けるという報道があったことは、覚えている方も少なくないと思います。

私の知る限り、当時の岩手弁護士会の会長の方の記者会見などの報道を別とすれば、地元の弁護士が、この件でコメント等することはほとんどなかったと思いますし、事件の詳細な調査や検証が行われて対外的に公表されるなどということもなかったはずです。

既に2年も前の事件として風化している面は否定しがたいとは思いますが、だからこそ、敢えて、この件について少し書いてみたいと思います。

なお、当事者たる元弁護士の方とは、5年以上お会いしていませんが、平成18~20年頃(横領行為より何年も前)には何度か接点があり、面識のあった方ということもありますので、以下では、「A氏」(イニシャルではありません)と表示させていただきます。

今回は大長文なので、先に目次を書いておきます。また、4回に分けて掲載させていただきます。また、以下で「弁護士会」と表示するのは、基本的に岩手弁護士会を指しますので、ご留意下さい。

1 事件に対する岩手弁護士会の取り組みと当事務所の関わり(今回)
2 検証と民事上の責任に関する問題(第2回)
3 予防とそれに関連する問題(第3回)
4 被害補償の問題(第4回)
5 事件の引取等について(第4回)

1 事件に対する岩手弁護士会の取り組みと当事務所の関わり

(1) 岩手弁護士会による「A氏の受任事件」の他弁への引取要請

まず、前提として「A氏の事件」は、要するに、当時、弁護士事務所を経営していたA氏が、事務所経営に行き詰まったことなどから、数千万円にも及ぶ依頼者からの預かり金(報道によれば、遺言執行や破産申立のため預かったもの)を着服(口座から引き出して私的な用途に費消し返還もしなかった)したとして、平成24年に逮捕、起訴され有罪判決を受けた事件です。

なお、A氏は、弁護士としては20年以上の経験年数があるはずで、平成18年頃に東京から岩手に登録替えしています。

私は、当時も今も弁護士会の役職等とは無縁の「末端の万年窓際ヒラ会員」ですので、当時の弁護士会の内部的な協議等については何も存じませんが、少なくとも、岩手弁護士会では、A氏の除名処分のほか、事件発覚と同時にA氏が業務を停止したことに伴い、A氏が携わっていた事件を引き継ぐ弁護士の斡旋等を行っていることは間違いありません。

この点につき少し詳しく書くと、私の記憶もやや曖昧なのですが、被害者が弁護士会に被害相談をして間もなく、A氏が業務を停止した状態になり、弁護士会では、副会長の一人(以下「B先生」といいます。)をこの件の担当者として全体像の把握など幾つかの対応を開始しています。

そして「業務停止(受任業務の放棄)の状態に陥ったA氏が受任している他の事件(横領問題により続行不能を余儀なくされた事件を除いた他の事件)について、弁護士会が後任者を斡旋すること」が決定され、ほどなく、私も後任者の一人としてB先生から連絡(受任要請)がありました。

私が受任した事件は、親族間の紛争に関する事件(1件のみ)で、私に配点(引取要請)がなされた時点で、「調停が不調に終わり、訴訟を提起しなければならないが、訴状の作成などは一切行われていない状態」でした(なお、その件では最終的に2個の訴訟が必要となりました)。

A氏は、その事件の依頼主から着手金として相当の金額を受領しており、調停が1回?で不調になったことから、訴訟の着手金を含む金額として受け取ったものと認められる額でした。

A氏の受領額は、事案や類型に照らせば、相場の範囲の額で、事案のボリュームからはやや安いとっても良い額ですが、引継資料として交付された手控えなどから、A氏は、そのボリューム(事案が抱えている厄介な論点等)を理解していなかったのでは(そのため、その程度の額の請求に止めていたのではないか)とも推測されました。

ともあれ、A氏は事件発覚の時点で無資力とのことで、1円も引継はなく、B先生が、他の事件を含めA氏側(A氏の代理人?)から引き継いだという若干の資料が交付されたのみで、要するに「着手金ゼロ円で、訴状作成段階から(要するに一から)スタートする」という形で、引き継ぎをしたことになります(但し、実費だけは依頼主に拠出いただきました)。

まあ、訴状が変な内容であれば、それを引き継いで尻拭いに負われるより、訴状作成段階から自分で全部を手がける方が楽というべきかもしれません。

なお、B先生が送ってきたFAXの中で、当時、B先生が配点(引継要請)を行った盛岡市内の弁護士全員に送付した文書があり、それには、送信先として10名強の弁護士が表示されていました。

ですので、仮に、これが「A氏の引継先の全員」で、かつ、1人あたり1件の配点に止まっていたのであれば(この点は誰にも聞いておらず存じません)、A氏について引き継ぎがなされた事件(=A氏が業務停止した時点でA氏が受任しており、他の弁護士に引き継ぐことができる又は引き継ぐべき状態にあった事件)は、僅か10件強程度に止まっていたということになります。

当時、当事務所では、数十件(恐らくトータルで50件~100件程度)の受任事件があり、内訳は、私が作業の大半を行うプロパー案件(本格訴訟など)が概算で30件前後、それ以外に、私が大枠の方針等を依頼主と協議して事務作業の大半を事務局が担うもの(主に個人の債務整理)が数十件(事務局が一人あたり手持ち事件で常時10件以上)程度はありました(余談ながら、平成20年前後は債務整理特需のピーク期+弁護士過疎の影響で、これよりも遙かに多くの手持ち案件がありました。残念ながら、今は、高利金融問題の終焉+倒産の劇的減少+弁護士の大増員+首都圏の弁護士の宣伝攻勢などに起因して、債務整理の受任はごく僅かになりましたが)。

そのため、仮に、A氏の破綻当時の受任件数が十数件程度だったとすれば、およそ事務所経営は困難ではないかと感じたのを覚えています。

(2) 当事務所の引継事件の対応と採算

ともあれ、当事務所では、B先生から引継要請(ご紹介)のあった方について訴訟提起し、1年半以上の期間をかけ(着手金ゼロで、2つの訴訟と2回の尋問を行いました)、最終的には、裁判所の和解勧告をベースにした和解で解決(終了)しました。

当方の主張が概ね容れられた論点もあれば退けられた論点もあり、依頼主にとって全面的に満足できるものではなかったかもしれませんが、膨大な労力を投入したこともあり、私の仕事にはご満足いただけたようです。

ちなみに、「着手金ゼロ」ですが成果報酬はゼロではありませんので、事案の内容など諸般の事情を斟酌し、その種の紛争に一般的(相場的)な成果報酬を頂戴しています。もちろん「着手金部分の上乗せ」はしていませんので、その分、採算性の悪い仕事をしたことになります。

余談ついでに言えば、私は、採算性の確認のため、プロパー案件はタイムチャージ事案でなくとも時間簿を作成しているのですが、その仕事は、上記の事情や和解条項の詰めなど様々な対応を余儀なくされ、当事務所の採算ライン(私の時給2万円)を大幅に下回るものとなりました。

この点は、依頼主が希望していた難しい論点で勝利し、それに基づく高額な金員を相手方から回収できれば、労働に見合った報酬を頂戴できたかもしれませんが、その点が叶わなかったことによる面が大きいため、A氏には関係ない話ではありますが。

私としては、依頼主が「最初に頼んだ弁護士が、(別の方との関係とはいえ)横領事件を起こして逮捕等され、着手金を支払った直後に業務停止に陥った(実費も二重払させられた)」というマイナス状態からスタートしていた上、私も「着手金ゼロだから手抜き仕事をしているのでは」などとは思われたくなかったこと、事件自体に法的検討を要する論点が多数あった(その点で、熱意を喚起された面があった)ことから、上記のような経過を辿ったという次第です。

ちなみに、私の知る限り、B先生とは事件の配点と資料等の引継ぎだけの関わりで、その後、事件処理等に関して照会等を受けたことはなく、恐らく、引継ぎ後の個々の弁護士の対応までは弁護士会としては関知しない(個々の弁護士の一般の受任事件と同じ)という対応をとったものと思われます。

ですので、私以外の方が引き継いだ事件がどのような内容で、どのように処理・解決されたかということは、私は一切存じません。

ひょっとしたら、筋の悪い(敗訴必至の)事件で、かつ訴状すら作成されていないという訴訟を配点され、全面敗訴で完全タダ働きをした方もおられるかもしれませんが、事実関係を一切把握していませんので不明です。

(以下、次号)

 

「憲法週間相談」の今昔と一斉無料相談事業の賞味期限

岩手弁護士会では、毎年5月初旬に、大きな会場を借りて一斉無料相談をしています。憲法記念日(5月3日)に因んで「憲法週間相談」と称し、10年以上前から行っており、参加する弁護士数も多く、岩手の「弁護士無料相談事業」としては老舗の1つと言ってよいと思います。

地元のTV番組にも必ず取り上げられており、私も一瞬だけ登場しています(一人でパソコンの画面を仏頂面で見ている姿が映っており、その際、この文章を書いていたことは言うまでもありません)。
http://www.nhk.or.jp/lnews/morioka/6043440661.html?t=1398941550993

この事業は、裁判所も後援している(盛岡地裁に看板も立ちます)ため全国一斉の企画ではないかと思われますが、私が東京で働いていた時期(平成12~16年)には聞いたことがなく、その点はよく分かりません。

なお、参加する弁護士には日当は一切出ませんが、代わりに弁護士会から昼食代が支給されています。

私は、ほぼ毎年参加しているのですが、この事業も最近の相談事業一般に言われているのと同様、ここ数年は「参加する弁護士(供給)は増える一方だが、来場者(需要)は減る一方」という状態が続いています。

今年は、10時に来て12時過ぎまで参加しましたが、午前の部は20人近くの弁護士が参加しているところ、私が来た時点で相談者は弁護士数の半分程度しか来場していませんでした。

早く会場に来た弁護士の順に相談者を配点している(らしい)のですが、私のところまでは相談者の方が廻って来ず、内職で時間を空費して終わるかと思っていたところ、終了間際に配点があり、1人だけ会場に残ってその方に対応する羽目になりました(ゼロよりはましですが)。

ちなみに、去年(25年)の相談会も2時間で配点は1人だけ、その前年(24年)は2人程度との記憶です。

平成17~20年頃は、参加弁護士(現在の約半分)の数倍の相談者が来場し、私も「はい次!はい次!」の野戦病院状態でしたので、ここ数年の業界環境の激変を、こうした光景にも感じざるを得ないものとなっています。

この原因(特に、需要減少の原因)については、社会現象としてのクレサラ問題の終焉(+これに代わる大口需要の不存在)や弁護士激増と各種広告などによる多チャンネル化(他の相談窓口等の拡大)などが挙げられますが、既に多くの方が十分に認識されているでしょうから、殊更に書くほどの話ではありません。

ただ、「大広間での一斉無料相談事業の参加者減少」については、もう一つの要因を考えてもよいのではないかと思われます。

すなわち、「一斉相談」のため、大広間に向かい合わせの机と椅子を多数並べ、一方に弁護士、他方に相談者が座って相談する(応じる)というスタイルになっているのですが、聞き耳を立てる人がいるとは考えにくいものの、少なくとも相談者の姿は周囲に丸見えとなってしまいます。

中身は書けませんが、私が配点された案件も、すでに相手方に代理人が付いていた上に、その代理人が会場のすぐ近くに鎮座していたという案件でした(実際に会ったことはないとのことでしたが、さすがに、気づいた時点でヒソヒソ+記号会話モードにしています)。

少し前までの「おおらかな時代」ならまだしも、こうしたオープンな空間で相談を受けることを嫌がる(個室での相談を希望する)方は、確実に増えているのだろうと思いますし、弁護士会が設営する相談会が上記のようなリスクを内包すること自体、今や批判の対象になりうるのではと思わないでもありません。

ただ、事務局等に、事前に個室かどうか照会があったか、大広間の空間を見て嫌がって帰った人がいるか等について聞いたわけではありませんので、統計的なこととして説明できるわけではありませんが。

私も、ここ数年は、もう参加は止めようかと思いつつ、営業に苦戦している今どきの町弁の1人として、お役に立てるよい出会いがあればとささやかながら期待して、生き恥を晒しているというのが正直なところです。

弁護士会も、参加弁護士数を絞る(或いは予備戦力として事務所待機とする)などした上で、相談ブースを仕切るなどの工夫をしてもよいのではと思うのですが、一旦始めた(長く続いている)ことを止められない(縮小もできない)のは、役所だけの話ではないということなのかもしれません。

広告費にばかり金をかけ人材育成をしない企業の末路と消費者の選択

先日、韓国で起きた旅客船の沈没事故を巡って様々な報道がされていますが、その中に、事故を起こした会社(旅客船の運営企業)が、従業員の安全教育(安全訓練)をほとんど行っていなかったという趣旨の記事を見つけました。

いわく、昨年、広告費に約2300万円、接待費に約600万円を支出したのに対し、安全教育の研修費はわずか5万円程度しか支出されていなかったというものです。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140420-00000019-yonh-kr

このニュースを見て、ふと思ったのは、「日本の町弁業界でも、最近は、多額の広告費をかけて大規模な宣伝をしているが、本当に宣伝に見合った実力があるのか、覚束ない弁護士(法律事務所)も出てきているのではないか」という点でした。

日本の町弁業界(個人や小規模企業等を顧客とする弁護士)は、10年ほど前は、個人商店(弁護士1、2名程度の事務所)ばかりだったのが、平成18年頃から生じた、いわゆる債務整理特需(過払バブルと呼ぶ人も多いですが、限られた期間とはいえ実需であったことは確かなので、特需という表現の方が適切と考えます)の影響やそれに引き続く業界の大増員(若手の大量供給)の影響で、大きく変容しました。

東京など大都市では、数年前から、さほど経験年数のない弁護士が集まって(或いは、そうした弁護士を集めて)、大きな規模の事務所を作り、TV、ネット、新聞広告など各種メディアを用いて顧客獲得のための宣伝攻勢をするという例も見られるようになり、最近では、岩手でも、そうした光景が身近なものとなってきています。

宣伝広告に力を入れること自体にあれこれ言うつもりはないのですが、曲がりなりにも15年近い経験を持っている身から見れば、受任する弁護士達が、個々の依頼事件を適切に対応しているのか、それに相応しい力を身につけているのか、不安に感じる面がないわけではありません。

とりわけ、消費者金融相手の過払請求の大規模宣伝で集客している事務所に関しては、他の事件のスキルを研鑽する機会をどれだけ持っているのか、他の事件にどれだけ熱心に取り組んでいるのか(さらには、若い弁護士の力量の向上のためどのような取り組みをしているのか)、よく見えてこないこともあり、債務整理特需が終焉した今、そうした事務所が今後どのような展開を見せるのか、業界人として注視しています。

もとより、高いスキルや豊富な経験・知見がないと適切な対応が難しい事案は幾らでもあり、そうした事件で実力不十分の弁護士に依頼等したのでは、依頼者はもちろん受任弁護士も取り上げるべき論点等(依頼者に有利な結果をもたらす法的主張等)を見落とし、結果として、依頼者が法的に適切な利益を受けられなかったり、不当な損失を被ってしまう可能性が高くなります。

もちろん、若手に限らずベテラン・中堅勢にも仕事ぶりに疑問符の付く方がいないわけではありませんが、そうしたことも含め、今後ますます、ご自身にとって、その事件(問題)を任せることができる、信頼するに足る弁護士を選ぶという姿勢(「賢い消費者」であること)が求められることは、間違いないことだと思います。

もとより、私自身、そうした批判の対象とならないよう、また、上記の観点から選ばれる弁護士であるため、現在の習慣になっている地道な判例雑誌のデータベース化をはじめ、今後も研鑽を続けていきたいと思っています。

月額3000円(税別)の顧問契約に関するコンセプト

平成23年に月額3000円の顧問契約(Aコース)を設けた際に投稿した文章を微修正したものです。利用頻度に応じた顧問契約の定め方に関心のある方は、ご覧いただければ幸いです。

***********************************

平成23年から、顧問契約に関する新機軸(Aコース)を打ち出すことにしました。個人・法人を問わず、月額3000円(消費税別)で顧問契約(顧問弁護士)を導入できるというもので、弁護士会の報酬会規の法人顧問料が月額5万円(岩手・盛岡では、月額3万円が多いとも聞いています)ですので、相場より大幅に値引きした価格ということになります。

以下、このコースの設定の経緯、意図等について、ここで概略を説明いたします。なお、金額の表示はすべて税抜としています。

1 Aコース設定の経緯

私は、零細企業経営者の子弟のはしくれであると共に、真っ当なビジネスをする企業が盛んに活動することが社会を成り立たせる基本と考えていますので、弁護士として中小・零細企業の経営を支援する仕事には相応の意欲を持って取り組んでいます。

東京時代には勤務先に様々な顧問先企業がありましたので、そうした意欲を充足できる多くの仕事に巡り会いましたが、岩手に戻った後は、私が盛岡に地縁・血縁がないに等しく、依頼事件の多くは弁護士会や市町村などの相談会でお会いする方々の個人的な問題ばかりで、企業活動をサポートする仕事をご依頼いただく機会はめっきり減ってしまいました。

幸い、全くご依頼がなかったわけではありませんが、多くは他の先生(弁護士など)から紹介いただいたり、弁護士会の相談センター等で偶然お会いした方ばかりで、企業の方が直接にアクセスされてきたことは、滅多になかったと感じています。

現在、当事務所と顧問契約を結んでいただいている企業さんの数も、恐らくは私と同等の実務経験(約20年)を有する弁護士の平均値を遥かに下回る数と言わざるを得ないでしょう(人脈云々以前に、カリスマ性の欠如が最大の要因かもしれませんが)。

JC(青年会議所)などで多少とも垣間見る限りの印象ですが、盛岡・岩手でも、少なからぬ企業さんが県内又は仙台・東京の弁護士と何らかの繋がりを持っていたり、弁護士の紹介を受けることができるルート・人脈等をお持ちのようで、インターネット(Webサイトを掲げる事務所)を弁護士探しの主たるツールとして活用しようという方は、あまり多くはないようです(意思決定を司っている社長さんなどが、ご高齢という事情もあるかもしれませんが)。

そのため、企業(とりわけ、地元に広範な人脈を持ち従前から弁護士を利用してきた企業)の方々から依頼を得ることは、岩手に戻って10年以上を経た今でも、容易ならざるという印象を受けています。

また、私のように地縁・血縁のない人間が異業種の方々との人脈を作るには、例えばJCのような様々な業界の方が集まる夜の会合などに参加する必要があるかとは思いますが、極度の残業体質の上、家庭の事情で夜間に身体を空けるのが難しいという事情もありました。

もちろん、純然たる個人向けの仕事が嫌というわけでは全くなく、今後も多くの力を注いでいくことは間違いありません。ただ、弁護士の活動を通じて地域社会の全体に貢献するとの初志からは、個人向けの仕事ばかりに比重が強くなるのは望ましくなく、個人向け・企業団体向け双方の業務をバランスよく受注できる事務所であるべきだと思っています。また、一方の仕事を経験することが他方の業務にも大いに生きてくることは当然です。

というわけで、夜の会合以外の方法で人脈を作ったりご依頼をいただく機会を作ることができないか模索してきましが、名案も浮かばず、「この弁護士は色々な仕事を手がけているから、話だけでも聞いてみようか」と関心を持って頂けるような内容にしようと、事務所サイトで「取扱実績」欄を増設するなどしていました。が、それを理由にに依頼いただくこともなく、暗中模索の日々が続きました。

そんな中、平成23年当時、たまたま手にしたビジネス誌で、東京の若い弁護士さん達が経営している事務所(ベリーベスト法律事務所)が「月額3980円(消費税込み)の顧問契約を導入した」として、大きく取り上げられていたのを目にしました。

私自身、以前から「実際のご利用があまり多くはない企業から月額で数万円の顧問料をいただくのは、弁護士の不労所得に等しく合理的ではないし、そのような契約は長続きしない。ただ、来所相談をする必要は滅多になくとも簡易な相談を気軽にできる顧問弁護士は欲しいというニーズはあるはずで、それに対応するサービスを提供できないだろうか」との思いがあり、当方も導入すべきと考えました。

以上の経緯で、従前から設定していた顧問契約とは別に「月額3000円+受任時の1割引」というプランを新設した次第です。

ネットでざっと調べた限りでは、平成23年当時、ベリーベスト法律事務所の「3980円」よりも低い単価で顧問契約を謳っている事務所はなく、当時「日本で一番安い値段で顧問契約を引き受ける弁護士」だったかもしれません(その後は調べていません)。

2 新コースの目的

新コースの主たる目的は、サイトに表示したように、たまには弁護士に電話やメールで聞きたいことがあるという方が、従前よりも安価な値段(顧問料)で気軽に問い合わせ等ができるようにしたいとのニーズにお応えする点にあります。

また、簡易なやりとりであっても、法的なアドバイスを通じて、本格的な弁護士の出番を要しない形で紛争を予防したり交渉相手からのアドバンテージの獲得につなげていただいたり、中には、ご自身が気づいていない問題を指摘し、すぐに本格的な事件として動き出すべきだ、とお伝えすべきこともあると思います。

早期のご相談→合理的タイミングでの事件依頼→手遅れの防止というサイクルで考えていますので、来所相談の必要がある場合に支障なくご来所いただける方(岩手の方や盛岡へのアクセスに難がない隣県などの方)を顧客層として想定しており、基本的に「全国展開」するようなサービスではないと考えています。

また、過去の経験等から「町弁の採算に関するデッドライン(基準単価)は時給2万円」と考えており、月額3000円(年額3万6000円)という価格は「年間2時間弱(月に平均1回、1回あたり電話・メール等で10分程度)のご利用」に相当すると位置づけています。そのため、それ以上のご利用が多く生じる場合、原則として追加料金をお願いするか他の契約類型への切替をお勧めすることになると思います。

この程度のご利用なら、普段なかなか弁護士に相談することはないという中小・零細企業や個人の方でも一定の実需はあるのではないかと考えての設定です。

3 伝統的な顧問契約との異同など

伝統的な顧問契約の相場よりも遥かに低い値段ですが、従前の顧問契約の価格破壊を目的とするものではありません。むしろ、来所相談等は割引とはいえ有料とさせていただきますので、「顧問先の相談は無料」という契約類型とは、異種のものと言えます(従来型の顧問契約もタイムチャージと組み合わせる方式でお引き受けしています)。

敢えて言えば、「毎月、数万円を払って顧問契約をしているが、さして利用がなく、契約に疑問を抱いている企業」にとっては、いざというときに弁護士への迅速なアクセスを確保するため顧問契約だけはしておきたいとのニーズをリーズナブルなコストで確保しうる点で、価格破壊的要素はあるかもしれません。

ただ、それは、従前の顧問契約(弁護士)に、実働を伴わない顧問により不労所得を得ている面があったこと自体が間違っているというだけのことであり、「あるべき価格を不当にダンピングする」という意味での安値競争とは異なるものです。

もとより、顧問契約を締結している多くの弁護士が不労所得を貪っているというわけではありません。ネット上で検索いただければすぐにお分かりのとおり、伝統的に、一般的な弁護士の顧問契約が「月数万円の顧問料を支払えば相談等の時間は原則として無制限」となっているため、相当量のご利用があれば元が取れるようになっており、そうした利用をされている方も沢山おられると思います。

しかし、この仕組みだと、盛んに利用(相談等)をした方とそうでない方とで実質的に大きな不公平が生じてしまいます。さりとて、伝統的にドンブリ勘定体質を持つ弁護士業界で「利用実績のない顧問先には顧問料を返金」などといった手法が普及するとも思えません。

毎月、帳簿類の精査という明確な実働が伴う税理士さんと異なり、弁護士の顧問業務は相談等の実需がないと機能しにくい面があることは否定できません。そのため、利用の有無に関係なく頂戴する顧問料の部分はなるべく減額し、それと共に、多くのご利用のある顧問先には顧問契約をせずに利用される依頼者よりもメリットがある(割引サービス)という形で顧問契約を再構成していくのが、これからの顧問弁護士に関する望ましい姿ではないかと考えます。

「定期的に顧問先企業を訪問して相談等を行う」など、顧問税理士のように定期的な実働を伴うケースなら、低額の顧問契約を導入しなくとも、実働に応じた相当の顧問料を定めればよいと思います。しかし、法務部門が各部門のリーガルリスク等を定期的にチェックし顧問弁護士に定期的に相談する仕組みを作りやすい大企業ならともかく、現在の我が国の中小・零細企業にはそうした実需は滅多にない(掘り起こしも難しい)という印象です。

また、Aコースのような顧問契約については、学校の同級生など個人的に親しい関係の弁護士がいるという方なら「ちょっとした相談程度なら、その弁護士に電話等でサクッと聞けばいいから敢えて顧問契約なんてする必要はない」ことになるかもしれません。

ただ、そうした人脈を持たない方や、あったとしても一種のフリーライダーになりたくないという方にとっては、簡易な相談を遠慮なく受け付けること自体を目的とした低額の顧問契約は相応に利用価値があると思われます。

私自身、今は概ね(至って?)健康のため必要はないものの、いずれ病気がちになった場合は、町医者の方に低料金で自分の身体に関する些細なことについて遠慮なく電話・メールで相談できる顧問契約のようなものがあればと思わないではありません。

個人的に、仕事上お世話になっている医師の先生や遠方の病院で活躍している高校の親友もいないわけではありませんが、逆に、おいそれとは相談できず、よほどの事情がなければと腰が引けてしまう面があり、料金のやりとりをするビジネスライク?な関わりの方が、案外、料金などの範囲内で遠慮無く物事を聞きやすいような気もします。

4 料金

月額3000円の設定の根拠は、3980円(消費税込み)のベリーベスト法律事務所(の方々)に比べ、経験年数では上回るものの規模では遥かに見劣りすることから、同事務所より若干低めの値段としたものです。

また、あまりに低くするのもどうかと思いましたので「今どきの顧問弁護士=高額なランチ一食分」と考え、「高級食材を扱うが、リーズナブルな価格で提供しているレストランで、ランチを月1回利用すればディナーが1割引になる」イメージで考えてみました。

ちなみに「無料」というのは、他の顧客等へのしわ寄せを不可避とするものですので、震災のように臨時的な場面以外は多用すべきでないと思っています。そうした理由で、私は巷で流行する「債務整理等の無料相談」はしていませんが、反面、直ちにお引き受けする場合などは相談料は頂戴しない(又は、相談料分を定額料金から差し引く)などの方法でバランスをとっています。

昔、ある大物弁護士の方が「社長さんに顧問弁護士(月5万円)を勧める際は、社長さんが月1回、高級料亭かクラブで飲食するのを控えれば済む値段ですよ、それで会社が守れるのだから、安いものではありませんかと説明している」と仰っている文章を読んだことがあります。

しかし、このご時世や現在の私の身分では、高級料亭やクラブに入り浸るような社長さんと接点を持つことは到底期待できません(イソ弁時代は少々お会いする機会もありましたが、今となっては昔のことです)。

他方「頑張った自分へのご褒美で、月に1回くらいは贅沢なランチを食べたい」という方なら、幾らでも知り合う機会はありそうですし、コストパフォーマンスを真剣に考えて選んでいただく方が、実りあるお付き合いになるのではないかという期待もあります。

月3000円という価格も実需のない方には十分に高額ですので(少なくとも私のような一般人から見れば)、「顧問弁護士」という一種のブランド価値をダンピングしているということも言えないでしょう。

5 見通し

ただ、「このコースが対象として想定している潜在顧客層」が、このような金額・コンセプトでの顧問契約に対する実需(利用価値があるとの理解を含め)がなければ、実際に申込みを受けることもないでしょう。

私自身は、弁護士が希少種である時代には「顧問弁護士」は金持ち企業のステイタスのようなものだったが、その時代は終わった。タイムチャージ等と組み合わせたリーズナブルな料金での契約が新しい時代に求められる町弁の顧問契約ではないか、と考えているのですが、皆さんのご意見をお尋ねしてみたいところです。

事務所サイトで小さく表示するだけの扱いですので、導入から2年半を経過した平成26年2月現在も、実際に申込を頂戴した企業様はごく数件に留まっています(もちろん、お申し込みいただいた皆様には大変有り難く思っています)

(追記・令和2年改定時には、幸い従前よりはかなり増えています。それでも十数社ですので、他の先生方に及ぶべくもありませんが・・)。

私自身が華やかな宣伝に向いている人間ではありませんので、サイトをご覧いただく方を別とすれば、個人的に聞かれた際「ウチではこういうこともやっています」とご説明する程度のことしかできないのだろうと思います。

まだ、このような顧問契約の新しいプラン(類型)を作ったことが成功と言えるのかそうでないのか、結論が出ていませんが、こうした試みが社会に受け入れていくのか否か、しばらくは様子を見てみたいと思います。

刑事弁護とタイムチャージ

近年、私選で刑事事件を受任させていただく機会が増えています。被疑者国選の導入により、そのような機会が減少するかとも思ったのですが、被疑者国選を利用できない50万円以上の預貯金のある方や、ご本人が対象となる場合でも、ご家族からご依頼いただき受任しています。

私は、数年前から、私選の刑事事件は、原則として1時間2万円(税別)を基準額とするタイムチャージを基本とする方式(準時間報酬制)で受任する取扱とさせていただいています。ちなみに、この単価は交通事故の弁護士費用保険(日弁連LACの少額事件基準)と同じ額で、一般的な町弁にとっては、「儲からないが事務所の経費くらいは賄える程度の額」です。

米国などと異なり我が国の町弁業界ではタイムチャージは普及していないため、恐らく地方では非常に珍しく、タイムチャージで刑事事件を扱う弁護士は、もしかすると岩手では唯一なのかもしれません。

*********

過去の経験からすれば、とりわけ、捜査段階で決着できる(起訴されずに済む)事件では、濃密な対応が必要とされる特殊事例を別とすれば、10~30万円(5~15時間の従事)の範囲で収まることがほとんどです。頻繁に接見したり関係各所への連絡など様々な対応が要求される事件を別とすれば、国選事件と大差ない金額に止まることも珍しくありません。

実際、被疑者国選も、1回の接見に対し、1~2万円程度の報酬を算定しているようです。但し、遠方の警察署への移動時間や関係者への連絡、裁判所や検察庁への申立、申入れなど接見以外の作業については原則として報酬がありませんので、その種の作業が多い事件では、赤字リスクが高くなります。

******

刑事事件は、民事訴訟で賠償や金銭等の請求をするような「特定の経済的利益の実現」を目的とするものではなく、犯罪の成否(有罪か無罪か)を巡って厳しく対立するタイプの事件も滅多にありませんので、成功報酬というものに馴染みにくい面があります。

また、刑事事件では、事件ごとで必要な作業のばらつきも大きく、「働いた分だけ報酬をいただく」というのに馴染みやすい面があると思っています。

少なくとも、弁護士が大したことをしなくとも、検察庁の取扱基準の問題として公判請求を免れる場合は珍しくありません。そのような場合に、実務の実情に詳しくない依頼主に、あたかも自分の功であるかのように吹聴して高額な成功報酬なるものを請求する弁護士がいれば、それは詐欺とか消費者被害とか言うべきものだと思います。

もちろん、弁護人の努力で一定の成果が生じた場合には、成果報酬的要素が加味されてよいとは思いますし、高度な知見を必要とする特殊な弁護活動をして相応の成果を挙げたり、献身的な努力で早期釈放を実現するなどした場合には、相当の加算がなされるべきと思います。ただ、その場合でも、時間給換算で極端な高給になるのは疑問ですが。

聞くところでは、米国では、刑事弁護(私選)はタイムチャージとするのが通例であり、また、(上記のような成功報酬に馴染む事件を別とすれば)弁護人が成功報酬の名目で高額な金員を請求するのは間違っているという考えが強いのだそうです。

*******

幾つかの事務所(とりわけ「刑事専門」を謳うものなど)のサイトでは、1件あたり一律に数十万円の報酬を掲げるものが少なくありません。

もちろん、無罪を獲得するため膨大な弁護活動に明け暮れるような事件では、そのような金額で問題ない(やむを得ない)と思います。タイムチャージでも、まさにそのようなタイプの事件では、原則として、相当に高額な報酬をご負担いただく点は変わりありません。

しかし、「事実を争っておらず、大がかりな被害弁償等も要せず、接見やご家族等との連絡調整の頻度も高くないため、全部で10時間に満たない仕事しかしない」程度の事件でも、何十万円もの報酬を当事者に負担させているのであれば、同業者の目で見ても暴利と感じます。

上記のようなケースでも、何か問題が生じたときにきちんと動いて貰えるよう、念のため私選弁護人を選任しておきたいとの申出を受けることはあり、その場合、危惧された事態が生じず限られた従事時間で終了した場合には、それに相応しい低額の報酬に止めるべきだと思います。

タイムチャージでなく、弁護士の裁量で決めている方々も、その点はわきまえを持って対応されているのではないかと思いますが、少なくとも時間簿を作成しておけば、算定に変に頭を悩ませることもなく、依頼主にも安心して説明できる面があると思います。

*******

もちろん、刑事事件に限らず、「依頼主のご予算に限りがあるものの、事件の性質上、正しい解決を得るため無理をしてでも弁護士が奮起して励まなければならないケース」は多々あります。

そのような場合には、(一部の弁護士或いは事案等を別とすれば)弁護士が、上限を超えた部分の請求は差し控えるという形で、経済的には泣きを見ざるを得ないことが珍しくなく、その点は、タイムチャージ形式でも代わりありません。

だからこそ、短時間で相当な経済的成果など適正な利益を依頼主にもたらした場合には、少なくともタイムチャージ単価を控え目な額に設定しているのであれば、相応の成果加算がされるべきだと思いますし、それは、結局は、依頼主との信頼関係を前提とした弁護士の裁量判断を尊重していただかざるを得ない面があります。

結局、タイムチャージ(を基本とする準時間報酬制)という試みは、これまでドンブリ勘定で行っていた報酬算定に関する作業を、より合理的、客観的にしようとする様々な営みの一つという位置づけになるのだと思います。

少なくとも、「1回の手術と1週間の入院で済んだ人」と「半年以上の入院をして何度も難しい手術を受けた人」が、「手術を要した」というだけの理由で同一の金額を請求されるというのであれば、それは明らかに違和感があり、前者に過大な請求をして、後者の赤字を補填しようとしているのではという疑念を禁じ得ません。

弁護士業界における費用の算定は、これまでそのような傾向がなきにしもあらずで、弁護士費用を巡る価値観の違いなどの問題もあって、それを完全に克服することは困難だとは思います。

タイムチャージに限らず、費用に関する議論をもっとオープンにすることで、合理的な費用のあり方について、理解や実践が深まっていけばと思っています。

日弁連CM問題と、今こそアピールすべき弁護士像を考える

私はTVで視たことがありませんが、日弁連が全国的に放映しているCMがあるのだそうで、業界内では何かと話題になっています。http://www.youtube.com/watch?v=8bVRpp18zAg

ネットで流布されている噂話?では、このCMに5000万円もの会費が使われているのだそうで、私に限らず、若い世代を中心に、いよいよ厳冬期に突入し始めた弁護士業界では、「金(会費)返せ」と怨嗟の声が巻き起こっているようです。

それはさておき、私は弁護士の本質は傭兵だと思っていますので、このような「フレンドリー路線」で弁護士という商品を売りだそうという考え方には、どうしてもついていけないものを感じてしまいます。

私自身は、弁護士の典型ないし理想像は、権力者はもちろん大衆にも媚を売ることなく叩き上げのスキルと専門家の根性で黙々と自分のやるべきことを孤独かつ無愛想にこなしていく「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」のようなものだと思っています。

なので、仮に、私がCM制作に携わる立場なら、今回の日弁連CMとは真逆の作品を作ろうとすると思います。例えば、こんな感じです。

①最初に、人々が無惨に殺される戦争や昔の酷い暴力などのシーン。

②場面が変わり、スーツ姿の弁護士が「異議あり!」などと宣言し、厳しい論調で相手方を問いつめ、誤りを認めさせる(堺雅人氏を起用?)。

③そして、「私達の社会は武器を捨てた。しかし、理不尽な仕打ちが社会からなくなったわけではない。それと闘うために、法と弁護士があります」などといった趣旨の言葉をナレーション。

④場面が変わって、現代の、理不尽な目に遭わされている弱者を大きくクローズアップするシーンを出す(例えば、夫に蹴飛ばされる妻(或いは上司と部下)とか?逆の方が今どきかもしれませんが)

⑤最後に、「理不尽に負けるな!私達は、貴方と正義のために闘います」との文字を表示してCM終わり。

ニコニコするだけなら、他士業でも、それ以外の人でも、誰にでもできます。しかし、依頼者の権利と法の正義のためにどこまでも闘うことは、我々にしかできません。

弁護士は敷居が高い、と言う人はこれまで沢山いました。このようなCMが出てくる背景にも、そうした主張があるのかもしれません。

しかし、「弁護士が敷居が高い」との主張は、正しい事実を描いたものとは言えません。

多くの日本人にとって本当に敷居が高かったのは、弁護士という職業ではなく、まして個々の弁護士そのもの(例えばこの男、小保内義和)でもありません(目つきの悪いベテラン方が沢山いるとの話はさておき)。

敷居が高かったのは、闘うことそのものだと思います。

これまでは、自分の権利、自分の正義を守るため、闘うことには躊躇する人、或いは、そこまで追い詰められていない(と感じる)人の方が圧倒的に多かったと思います。だから、傭兵である弁護士と関わることに、得体の知れぬ異形の文化と接するような違和感を持っていたのであり、それと「保険のないオーダーメイド傭兵」ゆえの費用の高さなども相俟って、「敷居が高い」と形容していたに過ぎません。

今、その前提自体が、様々な面(闘うための法制度の整備、コスト、闘争を余儀なくされる場面の増加、そして人々の気質等)で、着実に変わりつつあると思います。

だからこそ、人々が、他者と利害が衝突したとき、自身の正しさを世に問うことを諦め衝突現場から退くことを是とするのではなく、自己の正しさを主張し闘うことを鼓舞すること、そして、弁護士の数が大量に増えた今こそ、それを適切に補佐する専門職として、これまで以上にその役割が果たせるのだと喧伝することが「日弁連の広告」に求められているものではないかと思うのですが、いかがでしょう。

ちなみに、この点は、日弁連評論家で有名な小林正啓先生のブログを参考にしています。 http://hanamizukilaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-76f3.html

このような、ある意味、「和の国」に相応しくない存在として弁護士を考えていく観点からは、キャッチコピーだって、あんな「ニコニコしまくり」みたいな雰囲気とは、真逆のものを用いるべきだと思います。

例えば、こんなものはどうでしょう。

“貴方に嫌われたっていい。貴方の役に立ったのであれば。”
“社会に嫌われたっていい。明日の社会を守ったのであれば。”

それこそ、弁護士が依頼者に色々と面倒な準備作業を要求するものの、それが奏功して裁判官が良い心証を示すような「妙薬は口に苦しバージョンのCM」もいいのではと思います。

さらに言ってしまえば、「ニコニコのアピールをしようとする弁護士(ガッキー氏?)が最初に出てきて、それを『そんなのはダメだ』と押しのけて、闘うことをアピールする弁護士(堺雅人氏?)が出てくるようなCM」というのも、話題性という点では面白いかもしれません。

とまあ、いつも誰かに嫌われている?僻み根性たっぷりの私としては、ニコニコだらけのCMを見ていると、このようなことしか考えつかないのでした。

ま、ここに書いている程度のことは、日弁連のお偉いさん方や優秀な広告代理店の方なら重々承知のはずで、それでも深慮遠謀があって、今回のようなCMを作っているのだろうと解釈しています。例えば、社会が、揺り戻しの時代に向かっているからこそ、弁護士という、ある意味では西洋的近代化を象徴する側面のある存在が社会から排撃されないよう、慎重な対応をとっているという見方もあるのかもしれません。

ですので、このCMの反響も含め、この種の「フレンドリー路線」がどのような帰結をもたらすか、片隅で見守っていこうと思っています。

 

利益相反問題に関する苦悩と対策

今回は、主として同業者の方に向けた投稿です。以前にも書きましたが、利益相反系の話です。

先日、10月に事務所である相談を受けた件で、今月、その方(Aさん)から受任依頼のお電話があったのですが、調べたところ、1ヶ月前(11月)の法テラス岩手の相談担当日に、その事件の相手方(Bさん)からご相談を受けていたことが判明しました。

当然、Bさんと法テラスの相談室でお会いした際、相手方(Aさん)から1ヶ月前に相談を受けていたなどということを覚えているはずもなく、事前知識等が一切ないとの前提で普通に応対していたことは申すまでもありません。

で、Aさんのご依頼も、曲がりなりにもBさんからも相談を受けてしまった以上、職務規程(弁護士倫理)により受任不能となってしまい、泣く泣くお詫びしてお断りさせていただきました。

当然ながら、今後、もしBさんから受任希望のお電話をいただいたとしても、同様にお詫びしてお断りさせていただくことになります。

Bさんとは、お会いしたのが法テラスの事務所ということもあり、名刺をお渡ししたかも定かではなく(受任方向で協議した場合でなければ、名刺はお渡ししていません)、今回は、たまたま、Aさんの電話のあと、事務局が気づいて指摘したため発覚したというもので、その指摘がなかったら、私はもちろんBさんも気づかないまま、Aさんの代理人としてBさんと対峙していたということも、ありうると思います。

で、さすがに、このようなことを繰り返すわけにはいかないということで、最低限の策として、これまでは単発的なご相談の方は、相談票等を紙で保管していただけだったのですが(事件依頼者についてはエクセルのデータベースがあります)、氏名等のデータベースを作りました。これにより、今後は原則として相談のみの方でも全件を入力し、新規相談の際に、利益相反チェックをしていこうと思っています。

ただ、そうはいっても、今回のように、法テラスで突然、相手方が相談にお見えになるようなケースでは、これを防ぐことは非常に難しいです。今後は、そのデータベースを相談室にも持参する方向で対処したいとは思いますが、法テラスや弁護士会、市役所相談などにすべて共通している、相談直前に担当弁護士にカードを渡す=氏名を知らせるこれまでのスタイルだと、万全を期すのには限界が大きすぎます。

やはり、以前の投稿にも書きましたが、出先機関での相談については、最低限、前日の夕方にその時点で予約がなされた方のリスト(最低でも氏名、できれば相談のテーマも)をメールやFAX等の適宜の方法で、事務所までお伝えいただくシステムを導入していただきたいものです。

私のような下っ端の窓際弁護士が何を言っても変わらないのでしょうが、利用者の方(或いは政治家?)の苦情という形で伝えていただければ、案外、実現するかもしれませんので、これら(法テラス、弁護士会、市役所など)に影響力をお持ちの方は、ぜひご検討いただければ幸いです。

暴論の類ですが、例えば、公的機関の利用者の方々が、一斉に、受付の担当者に申し込みの電話をする際に、「その日の担当弁護士を教えて欲しい、併せて、その弁護士に、以前に相手方から相談を受けたことがないか確認して欲しい」と要請する(それを受付担当者が嫌がったら、あれこれ不満を言って改善を求める)ような事態にでもなれば、運営サイドも困り果てて重い腰が動くことがあるのかもしれません。

それが嫌だというのなら、最低限、上記のようなケースでは「Bさんの相談カードは直ちに破棄し、情報はすべて忘れる(一切の流用をしない)ことを前提に、Aさんからの依頼を受けても良い」と、職務規程を変えることも考えていただきたいものです(といっても、こちらは無理筋だとは思いますが)。

この種の問題は、紹介ではない形(公的機関やネット等)による弁護士への相談や事件依頼が一般的になっている現代では、小都市などでは幾らでも生じる話だと思われ、これを弁護士会が看過し放置し続けるのであれば、それは、悪だ(受任者(弁護士)の問題だけでなく、利用者にとっても重大な障害である)と言わなければならないと思います。

同業者の皆さんが、この種の問題についてどのような対策をとっておられるか、ご教示いただければ幸いです。

信頼関係を築くのが難しい方からのご依頼に対する苦慮

この仕事をしていると、1年ないし数年に1回くらいの頻度で、非常に残念な相談者(事件依頼を希望される方)にお会いすることがあります。

抽象的に言えば「事件そのものは決して看過できない(重大な争点があり、勝訴が確実とは言えず敗訴リスクも高いが、取り上げる価値や意義は否定できない)ものの、当事者の方の個性等が強すぎ、結果として弁護士=私との間で長期の訴訟を行っていくために必要な信頼関係を築くことが著しく困難と認めざるを得ない方」です。

もう少し具体的に言えば、勝訴が困難と思われる争点で、その難しさ(裁判所の一般的な判断傾向)などをご説明しても、それを決して受け入れることなく、否定的なニュアンスを伴う弁護士(相手方の代理人ではなく、ご自身が相談を依頼して相対している弁護士)の説明にも直接的に強い怒りや敵意を表明したり、効果的とは言い難い主張や立証方法に固執し、弁護士にその方針に沿った煩瑣・膨大な作業を求め、それに難色を示すと強い不満を表明してくるような方、ということになります。

また、そのような方は、最初(初対面)の相談時から非常に感情的になっているため、相談時間に事案の争点整理や主張・立証方法の確認などといった基本的な作業ができず、延々と、従前の交渉経過での相手方の担当者等への不満を強い口調で述べ続けるなど、当初から受任事務の継続に必要な対話の成立に困難さを感じるのが通例です。

もちろん、当方も絶対に勝てると判断した事件しかお引き受けしないというスタイルで仕事をしているわけではありませんので、難しい争点のご相談で、弁護士としての概括的な見立てをお伝えした場合に、一応はその説明を謙虚に受け止めていただいた上で、なお、一緒に戦って欲しいとの真摯な申出を受けた場合には、着手金をはじめ相応の条件を付させていただいた上で、お引き受けすることも少なくありません。

そのような経緯でお引き受けした場合、当方も、事件には依頼者のご希望も含めた私なりの見立てに沿って全力で取り組んでいますので、争点そのものが勝訴的な判断が得られなかったとしても、言い分を尽くした上でやむを得ないと一応は納得したとして、何らかの解決(例えば、若干の解決金などの敗訴的な和解)を受け入れていただいているのが通例です。

しかし、最初から、ご自身の意に添わない説明等を受け止めることを感情的に強く拒否し弁護士に対し自己の意に添う行動を求める姿勢が強い方などに対しては、「この方とは信頼関係を築くのは無理」として、お断りせざるを得ないことがあります。

*****

先日、「訴訟の途中で依頼者と代理人(受任弁護士)との間で方針の違いが顕著になり、依頼者が代理人の方針に強い不満等を表明し、訴訟の中で重要な位置づけになっている相手方の反対尋問のための打合せを直前にキャンセルし、尋問そのものが困難になったため、やむなく代理人が辞任したのに対し、依頼者が代理人に対し賠償請求した例」を少し勉強しました(東京地判H24.8.9判タ1393-194)。

判決は、次のように判示し、依頼者の請求を棄却しています。

「本件の事実経過を総合考慮すれば、受任者Yは、代理人辞任までの全体を通じ、依頼者Xの意向を可能な限り尊重し誠実に受任事務の遂行にあたっている。

Yは、Xの要望に裁判所が消極姿勢を示している等の説明をしたのに対し、Xが直接的かつ明白に不満ないし不信感を露わにした態度を示すなどのやりとりが続き、それでもYがXの意向に添う尋問案を作成して打合せの準備を進めていた。

ところが、Xが一方的に打合せをキャンセルし、その理由にYへの不信感を背景とする投げやりな態度を示したことなどから、YがXから訴訟を受任し続けていくため必要な信頼関係が損なわれ、尋問打合せの直前キャンセルを機に、決定的に破壊されたと認定できる。

よって、Yの辞任はやむを得ない(民651Ⅱ)もので、賠償責任は成立しない。」

**** 

結婚や継続的な商取引などと同じく、一定の期間、密接な関係を築かなければ所期の目的を達成できない者同士は、その目的を達成するため必要な信頼関係の構築ができないと見込まれるのであれば、関係の構築そのものを回避せざるを得ない(それが互いのためである)ことが多々あります。

勝ち負けの判断が難しく、真剣に戦っていくのなら弁護士には非常に多くの作業が要求されざるを得ない事件について依頼を希望される方におかれては、願わくば、意中の方に求婚や交際を申し込むとき(或いは、申し込むかどうかを検討しているとき)のような慎重さをもって、弁護士とも相対していただければ幸いです。

 

里山資本主義と町弁デフレの行方

藻谷浩介ほか「里山資本主義」を読みました。
http://www.kadokawa.co.jp/product/321208000067/

NHK広島取材班との共著なので、中国山地で自然エネルギーや新型建材を通じた林業の復権、耕作放棄地などを活用した高品質の食品産業や里山の資源を活かした過疎地での地域コミュニティの再生の取り組みなどが取材班から紹介され、それらの営みが近未来の日本社会を支えていく姿を、藻谷氏が「デフレの正体」のような歯切れの良さで論じています。

中国山地なので東北の人間には馴染みにくい例のように感じがちですが「標高数百メートルのモコモコした山がどこまでの連なり、小さな谷が複雑に入り組む、雪は降るが豪雪地帯ではなく緩傾斜地が多い。よく言えば玄人好み、ありていに言えば地味すぎて、体験型観光などの新たな観光産業も、多くの場合根付いていない」(123~127頁)という意味では、東北も北上高地をはじめ中国山地とよく似た地域が非常に多くあります。

そうした点では、東北の人々にとって、学ぶところの多い一冊というべきかもしれません。

地方に生きる弁護士としては、「里山資本主義」を実践し、個の知恵と力を活かして地域内で新たな営みをする方が増えることで、必然的に、関係者の利害を法的に調整する必要のある場面が生じてきますので、そのときにお役に立てるようにしておきたいものです。

とりわけ、新たな取り組みであればこそ、従来の実務では見られなかった新たな法的問題が生じてくる可能性がありますので、そうした場面で必要とされるよう、何らかの形で、地域内の「里山資本主義」の営みに、弁護士として接点を持っておければと思っています。

例えば、岩手会の公害環境委員会が、その受け皿として活用できればとは思いますが、原発被害対策がお役御免になったこともあり、また休眠状態に逆戻りしそうな状況です。

10年近く前に日弁連の公害環境委員会に出席した際、「里山を保護せよ」といった活動に関する報告を耳にすることがあったのですが、最近は脱原発などに重心が移っているせいか、里山の話に接する機会もなく、どうしたものやらです。

余談ながら、「日本でデフレと言われているものの正体は、主たる顧客層が減りゆく商品の供給過剰を企業が止められないことによって生じた、ミクロ経済学上の値崩れである」という下り(270頁)については、債務整理や企業倒産など近年の「主たる顧客層」が急減し、これに代わる採算の合う仕事も伸びないのに、人(供給)ばかり増やし続ける町弁業界にとっては、色々と考えずにはいられないものがあります。

尤も、町弁業界の場合、全国で広がる「相談料無料キャンペーン」を別とすれば、値引き競争をしているというより、事務所経営を維持できるだけの採算の合う仕事が激減し、新規受注する仕事の多くが採算割れリスクの高いものばかりという話が多いのかもしれません。

このような話は、数年前の公共工事激減による建設業界の大量倒産時代に多くの業者さんから「倒産に至る経緯」としてよく聞かされた話です。

ともあれ、藻谷氏によれば、デフレ(成熟分野の供給過剰による値崩れ)を解決し企業が生き残るには、需給バランスがまだ崩れていない、コストを価格転嫁できる分野を開拓してシフトしていくことでしか図れないとのことですが、町弁業界はコストを価格転嫁できない仕事を相当程度、避けて通ることができない業界であり「需給バランスが崩れておらず、かつ、採算の合う類型の仕事」を新規開拓せよと言われても、なかなか思いつくものではありません。

少なくとも、震災関連で被災県に新たに生じてきた業務(地元の弁護士に配点される仕事)については、地域固有という意味では、里山資本主義的な感じがしないこともありませんが、採算性という点では、今も総崩れと言っても過言ではない状態が続いているように見えます。

結局のところ、自己の付加価値(能力や信用)を高め、「単価の大きい仕事を任せたいと顧客層に信頼される力」を養うほかないのかもしれませんが、当面は、暗中模索の状態が続きそうです。

被災地等に対する広報を通じた弁護士の関わり方について

先日、法テラス気仙の相談担当で大船渡に行きましたが、予約ゼロで当日飛び込みの簡単なご相談が1件あっただけで、ほぼ一日、内職等に潰して終わりました。

法テラス気仙には約1年前から月1回の頻度で通っており、毎回4名前後の方が来所していたので、このような経験は初めてでした。

ただ、法テラスは国?の資金で強力な宣伝活動を行っているので、ゼロ件となるのは滅多にないのですが、弁護士会や県(沿岸の出先機関)が主催の被災者向け相談事業などでは、宣伝力の格差のせいか、ゼロ件になることが以前から珍しくありませんでした。

集客できないなら規模縮小すればよいのにと思わないでもないのですが、仕事を減らせと安易に口にするわけにもいかず、集客等につなげる工夫をもっとできないのだろうかといつも思ってしまいます。

例えば、全戸配布される各自治体の広報やタウン誌、或いは地域内の業界団体等の広報などに簡単な連載コーナーを設けていただくことはできないでしょうか。

そして、被災関係に限らず、地域で取り上げるべき法的トピックについて、弁護士が執筆して説明したり、読者のアンケート等で要望があったテーマも積極的に取り上げつつ、記事の末尾で地元の窓口も紹介すれば、多少は集客力も向上するのでは?と思うのですが。

私は、岩手弁護士会の原発被害賠償に関する支援活動に関与しているのですが、この件も同様に集客力(相談等のアクセス)のなさに喘いできたので、可能なら岩手日報などで他の震災関連も含めた連載などの企画を採用していただければと思ったりもします。

他県の取り組みなどはまったく存じませんので、そうしたものが行われている例などご存知の方がおられれば、ご紹介いただければ幸いです。