北奥法律事務所

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交通事故(損害賠償請求)の訴状提出と個人情報

私は、数年前から、交通事故の被害者側で訴状を作成して裁判所に提出する際は、事故証明書など、双方が共通認識を持つべき基本的な資料のみを提出し、それ以外の資料(特に、治療状況の詳細や被害者の収入等に関する資料)は、加害者の代理人弁護士が選任された後、その弁護士に送付することにしています。

そもそも、交通事故のような「不法行為等に基づく損害賠償請求訴訟」では、賠償請求の原因となる加害行為やそれに基づく損害の内容について、被害者が全面的に主張立証責任を負うのが原則ですので、訴訟でも、自己が支払を求める損害の内容等について、詳細に資料を提出して事情を説明しなければなりません。よって、人身傷害事故で治療費や休業損害などを請求する場合、診断書やレセプト、収入に関する資料などを色々と提出する必要があります。

ただ、これらは個人情報そのもの(特に、収入などは典型的なセンシティブ情報)なので、被害者にとっては社会生活上、無関係の相手というべき加害者に、それらの情報の開示を余儀なくされるというのは、疑問の余地がないわけではありません(人によっては二重被害だという見方もあるかもしれません)。

また、それらの資料は、裁判所が証明の程度を判断し事実認定をする上では必要なものですし、加害者の代理人や任意保険(損保会社)にとっても同様の判断や反論等をする上で必要なものですが、加害者本人にとっては、目にしなければならない資料という訳ではありません。

任意保険に加入せず代理人弁護士の選任もせず、加害者自ら訴訟に対応するというのであればやむを得ませんが、そのような例外的な場合でなければ、被害者側(被害者側代理人)にとっては、賠償請求のためとはいえ、加害者本人に被害者の個人情報が詳細に記載された資料を見せる必要は微塵もないと思います(滅多にあることではないと思いますが、加害者本人だと目的外使用の不安もないわけではありません)。

そこで、小手先レベルと言われるかもしれませんが、私の場合、せめてもの対応ということで、訴状では損害に関する事実関係の詳細を記載するものの、その裏付けとなる書証(治療や収入等に関する資料)を出さず、事故証明書や事故態様に関する書証のみを提出することとしています。そして、訴状等が加害者本人に送達され、それが損保会社を経由して同社の顧問又は特約店の弁護士に交付され、加害者の代理人として裁判所に届出がなされた後で、裁判所とその代理人弁護士に交付する形をとっています。

私の知る限り、加害者側代理人の場合、損保会社にはコピーを送りますが、加害者本人には送付しないことが通例と理解していますので、こうすれば、(殊更に損保会社が加害者本人にコピーを送るのでもない限り)被害者の様々な資料が加害者本人の目に触れることはありません。

もちろん、訴状には休業損害等の計算の関係で、収入額等を書かない訳にはいきませんので、訴状には提出予定書証の番号を書いています(裁判所に手持ち資料の存在を説明する点で、証拠説明書を添付するか留保するかは悩みますが)。

さほど沢山の件数を手掛けた訳ではないものの、今のところ、この方法で裁判所等からクレームを受けたことはありません。

これだけ個人情報保護(個人情報に関する資料等の取扱の慎重さ)が強く叫ばれるようになった時代なのに、「損害賠償請求訴訟」に限っては、「被害者が全面的に損害の主張立証責任を負う」とのお題目のもと、様々な自身のセンシティブ情報の開示を、(よりによって被害者が加害者に)強いられるというのは、かなり違和感を感じるところがあります(そうした意味では、究極的には民事訴訟法の改正なども視野に入るような話なのかもしれません)。

この点、加害者が任意保険に加入している方であれば、加害者ではなく損保会社に対し訴訟提起するという方法も考えられますが、この方法の当否については議論もあるようですし、やはり、加害者本人の責任を明らかにしたいというのが一般的な被害者の心情ではないかと思います。

裁判制度を巡る様々な現代的課題の中では、ごく些細な事柄というべきなのかもしれませんが、業界関係者には思考の片隅に置いていただいてもよいのではと感じています。

新規加入弁護士等の募集について

平成25年春から加入していた辻弁護士がご夫君の転勤のため遠方に転居することとなり、残念ながら3月末で退所することとなりました。

これまで辻弁護士への事件依頼等を通じてお世話になりました皆様には、心より御礼申し上げます。辻弁護士は家事事件などを中心に、熱意をもって受任事件に取り組んでくれましたが、辻弁護士の離脱後も、リーガルサービスの質を落とすことがないよう、引き続き、全力を尽くしていきたいと思います。

ともあれ、辻弁護士の離職により、弁護士の執務席が空きますので、現在、新たに加入いただける弁護士を募集しています。現在の業界の状況や私自身の力不足もあり、勤務弁護士(給与制)ではなく準パートナー形態での加入をお願いすることになりますが、岩手で自分の力を発揮し地域社会に貢献したいと考える若い弁護士の方には、ぜひ門を叩いていただければと思っています。
https://www.bengoshikai.jp/kyujin/search_lawyer_office_detail.php?id=3968

一緒にやっていける方であれば、弁護士以外の他士業の方の加入も前向きに考えたいと思っていますので、関心のある方は、ご遠慮なくご連絡下さい。

「難民高校生」は岩手にも他人事ではない

家庭にも学校にも居場所がなく、東京・渋谷などの繁華街をさまよう「難民高校生」の自立支援活動を行っている方の記事がネット上で流れていました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150323-00000525-san-soci

このような話は、岩手県民には遠い世界のように感じるかもしれませんが、決してそのようには言えない現実があります。

数年前、「女子高生が、ろくでなし男に言い寄られて交際開始し、ほどなく男に命じられるがまま、かなりの期間、学校にも家庭にも戻らない状態で売春を強いられ、仕舞いには、男の命令で売春相手に睡眠薬を盛って現金を持ち出し昏酔強盗として逮捕された」という、一体ここは日本なのか、岩手なのかと言いたくなるような、酷い事件の弁護人・付添人を担当したことがあります。

当然、家裁でも、本人(少年)が被害者でもあるという面に配慮した審判がなされていましたが、引用の記事を見て、その女の子も、家庭環境に恵まれない点があったことを思い出すと共に、こうした支援団体が岩手にもあれば、紹介して支援を受けて欲しかったと思っています。

もちろん、根本的な問題としては、子供さんが親の愛情を十分に受けることができない事情がある家庭(親子それぞれ)への支援など、様々な予防策を充実させることが必要だとは思いますが。

自転車の保険義務化条例と後遺障害認定

先日、兵庫県議会で、自転車の使用者に保険加入を義務づける趣旨の条例が可決されたとの報道がなされていました。

私自身は、自転車が加害者となる事故(以下「自転車事故」といいます。)の処理を受任したことはありませんが、10年ほど前、岩手県民生活センターの交通事故相談員を務めていた際、自転車同士の衝突事故について相談を受けたことがあります。

その事故では、相談者である被害者の方に一定の後遺障害が残る事故でしたが、加害者は事故の賠償責任を対象とする任意保険に加入しておらず、支払能力も無いと思われる方で、回収困難と見込まれました。

他方で、当事者間では事故態様や過失割合に争いがあり、被害者の方は訴訟などを行ってでも相手の責任を問いたいとの希望はあったのですが、被害者の方も、ご自身の被害を填補する保険(人身傷害補償特約付きの自動車保険契約など)に加入しておらず、まして、訴訟費用等の支給を受けることができる保険(弁護士費用特約付の保険契約)にも加入されていませんでした。

そのため、相談者の方は、それらの事情が難点になり加害者に訴訟等の手段で賠償請求をすることを断念したと記憶しており、その際、自転車にもせめて現在の自賠責(自動車)並みの責任保険を強制する法律又は条例(まずは購入時の上乗せから始めたり任意保険加入者は免除するなど、引用ニュースの条例と同じようなもの)を制定すべきではないかと強く感じたのですが、センターの専属相談員の方に考えを伝えた程度で、他に働きかける機会等もないまま終わってしまいました。

その後、ここ10年で自転車事故がクローズアップされるようになり、引用の条例をどこかが制定するのも時間の問題だと数年前から思っていました。

ただ、このニュースを見る限りでは、保険加入の義務付けしか記載がないのですが、適正な賠償を実現するための手続という点では、賠償実務に携わる者の目から見れば、それだけでは不十分です。

最大の問題は、自転車事故での後遺障害の認定制度の不存在です。

すなわち、自動車が加害者となる事故の場合、後遺障害の可能性があれば、自賠責保険(損害保険料率算出機構、自賠責損害調査事務所)を通じて後遺障害の有無や等級について審査を受け、認定を受けることができます。この審査は、所定の診断書の提出などを別とすれば、費用負担がありません。

民事訴訟(賠償請求訴訟)では、裁判所は特殊な例を除き原則として自賠責の後遺障害認定等級を尊重しますので、被害者にとっては自賠責の後遺障害認定を受けることは、立証の負担という点で強い力を発揮します。逆に言えば、自賠責の認定制度がなければ、被害者は後遺障害の有無や程度について重い立証負担を負い、適正な認定を受けることができないリスクが高くなると言えます。

そのため、自動車以外の被害でも、自賠責の後遺障害認定制度を利用できる仕組みの整備が急務だと考えます。この点は、上記の算出機構を動かす必要がありますので、自治体の条例だけでは対応が困難で、法律改正が望ましいのですが、迅速な導入が困難ということであれば、例えば、熱意のある自治体が損保会社などの支援を得て機構と協定を結ぶような仕組みがあれば良いのではと考えます。

後遺障害認定の問題は、自転車事故に限らず、他の事故や暴力事件など後遺障害が生じる被害一般に当てはまる問題であり、訴訟外の方法で簡易に認定を受けることができる仕組みが広く求められていると考えます。

また、被害救済(賠償)の確保という点では、自転車では加害者・被害者とも保険加入していない人が多いでしょうから、加害者が任意保険に加入していない事案でも、重大な後遺障害が生じた場合などの被害者の最低限の救済として、自賠責に準ずる一定額の保険金が支出される仕組みを作るべきだと思います。

ネットで検索したところ、東京都が自転車にナンバープレート(登録制)の導入を検討しているとの記事を見ましたが、登録時に一定の金額を徴収すれば、そうした保険金の原資となるでしょうし、また、ナンバー制度を設けることで、警察が事故証明書を作成する際に人違い(や虚偽申告等による責任逃れ)を防止でき、また、車両の所有者を特定し事故ないし賠償責任の当事者を特定することが容易になりますので、私自身は導入に賛成です。

また、自転車事故は、事故態様(過失割合)を巡って当事者間で事実関係の説明が強く争われ易く、事故直後に第三者(端的に言えば、警察官)の協力を得て実況見分を行い、調書を作成しておく必要があります。この点は、私自身が自転車事故についてさほど相談等を受けたことがないため実務の実情を存じませんが、自転車事故が原則として過失致傷罪(罰金のみ)に止まることを理由に実況見分がほとんど行われていないのだとすれば、改める必要があると思われ、まずは警察実務の実情を把握したいところです。

余談ながら、最近は弁護士費用保険の普及で、少額事案を含め、物損のみの事故に関する賠償請求訴訟が増えていますが、この種の事案では事故態様や過失割合に関する紛争が生じるものの、物損事故では実況見分が行われないため、正確な事実関係の把握に難儀することが少なくありません。

そういう意味では、物損事故でも、警察が当事者の希望で有料で実況見分を行うものとし、その料金は任意保険加入者であれば保険で賄うことができるという仕組みを作っても良いのではないかと思います。

ちなみに、物損事故では損保会社の依頼で調査会社が実況見分調書に類する図面を作成することがありますが、事故から大幅に期間を経過した後に一方当事者の主張のみに基づき作成されることが通例なので、誰が作るにせよ、なるべく事故直後に双方立会の上で作成されるのが望ましいと考えます。

ともあれ、私自身も自転車は日常的に使用していますし、いざという場合に備えてご自身やご家族が自転車を使用できるようにするためにも、加害者向けの賠償責任保険はもちろん、被害者向けの人身傷害補償特約や弁護士費用特約が付された保険契約には、ぜひ加入していただきたいところです。

また、それと共に、自転車が少しでも歩行者や車両との事故のリスクを軽減し、当たり前の運転方法で安心して走行できるための道路づくりや交通法規のルールを整備していただきたいところです。

新幹線延伸に伴う北陸と盛岡の交流と課題

盛岡タイムスのWeb記事で、北陸新幹線の開通を通じた盛岡の課題について取り上げられていました。
http://www.morioka-times.com/news/2015/1503/13/15031301.htm

記事に、「さんさ踊りをPRしても、実際に来た時に見られる場所はどこにもない」とあり、確かにピンと来ないなと思い(盛岡駅改札口等でたまに見られるものは別として)、「さんさ 体験」で検索したところ、15人以上の団体客を対象に90分以上で技術指導をして下さる公的団体があることが分かりました。
http://www.iwatetabi.jp/edu_travel/detail/03201/22.html

ただ、これだと、修学旅行生などは良いと思うのですが、一般の個人旅行者には無理な話で、そうした方が気軽に楽しめるようなものも考えてよいのではと思います。

例えば、(私も、まだチラ見しかしたことがないのですが)もりおか歴史文化館などで、常駐職員の方に頼めば、個人客・家族連れでも5~10分程度で、その場で簡単に踊ったり太鼓を叩いたり、踊り方・叩き方を簡単に教えてくれる(その場でプチ輪踊りをする)とか、予約等すれば着物なども対応できるとか、そうしたものがあればと思いました(私が知らないだけかもしれませんが)。

繋温泉なども、従業員の方で、実はやってますとか友達に山ほどいて頼めば出動してくれます的な方は沢山おられるでしょうから、団体・個人問わず、宿泊客向けに、そうしたサービスを積極展開してもよいのではと思います(星野リゾートが繋に進出すれば、古牧温泉の例に照らしても、そうしたことをやりそうな気がします)。

私自身が、9年もJCに在籍したのに、結局、踊れないまま(数回の練習会と一度、花車を押しただけ)で終わってしまったので、それだけに、踊れる方々には、資源を活用していただければと思っています。

記事に話を戻すと、金沢には、10年ほど前に白山登山を含めて妻と旅行したことがあり、盛岡にとっては範になる都市ではとの印象を強く感じていますので、新幹線開通を機に、双方の交流を盛んにしていただき、文化や市内の景観等の向上につなげていただければと思っています。

対立する両当事者の相談が同じ弁護士に行われた例

先日、相談にいらした方(A氏)から、「以前、弁護士会?の相談でC弁護士に相談した。その後、相手方のB氏が、自分もC弁護士に相談して同じ見解を聞いたと説明してきた」というお話を伺いました。

どうやら、C弁護士は、A氏から相談を受けた後、紛争の相手方のB氏からも同じ事項で相談を受けていたようです。

しかし、同一の弁護士が紛争の対立当事者双方から相談を受けることは(双方の同意等がない限り)禁じられていますし、私を含め、弁護士であれば、対立当事者からの相談依頼だと判明した時点でお断りするのが通例です(しなければならない職業上の義務があります)。

もちろん、C弁護士がどのような認識、判断のもとで相手方からの相談にも応じたのか分かりかねる上(私も、相談が開始してから利益相反に気づいて中止をお願いしたことはあります)、その件では、あまり問題が生じなかったようです(C弁護士は、A氏も聞いた「A氏の希望に沿う判断」をB氏にも説明したとのこと)。

ただ、このような話を聞くと、「相手方からの相談受付を防止する仕組み」の欠如について、考えずにはいられないものがあります。

当事務所では、電話で相談依頼を受け付ける際には、相談テーマや対立当事者のお名前もお聞きし、過去に入力した一覧表で対立当事者から相談依頼を受けていないか確認するようにしています。

ただ、事務所に対立当事者から相談依頼の電話がかかってきた記憶がなく、対立する相手方当事者(相談者)の方とは弁護士会や役所相談などでお会いするのが通例になっているので、それについては事前に相談者リストを入手する以外に予防策がありません。

最近では、相談担当日の前日に、リストの送信を受けて確認するようにしていますが、弁護士会から励行されているわけではなく、当方の自主的取組みに止まっており、この点に関する関係者の議論が進んでいない印象を受けるため、残念に感じています。

杜の都・仙台の並木道と、街に緑が少ない盛岡

数年前のGWに、当時の「土日の高速1000円」政策に触発され、1泊2日で秋保温泉を中心に仙台近郊巡りをしたことがあります。その際、新幹線でしか行ったことのない仙台中心部に初めて自動車で入りましたが、盛岡との違いとして、片側2車線以上の幹線道路の多くで、道路脇や中央分離帯内に大きな街路樹が設けられていたことが強く印象に残り、「杜の都」と称される理由が実感できました。

盛岡の場合、都市景観と呼ぶに値する見栄えのよい街路樹となると、盛岡地裁から市役所までの並木くらいしか思い当たらず、当時はまだ存在した旧県立図書館前の杉並木は伐採されてしまいました。

あとは、中央通などで申し訳程度に小木が点在している程度、というのが率直な印象で、ここ数年に新たに作られている片側2車線の道路群(西バイパスなどが典型)でも、街路樹群が設けられることは皆無といってよい悲しさで、仙台と比べて都市景観の貧しさ、さらには市民の関心の低さを感じずにはいられません。

旧図書館前の杉並木については、生え方が雑然とした感じもあり、伐採されたことで、かえって岩手公園(庭園)の景観が楽しめるようになったとの意見も多くあるようですが、郊外などに次々と作られる片側2車線の幹線道路の殺風景ぶりを見ていると、心まで殺伐としてくるような感じは否めません。

都市化して無縁社会化が進行した盛岡では地域住民等の自主的な働きかけは難しくなってきているのかもしれませんが、なるべくなら役所主導ではなく、住民サイドからの動きにこそ期待したいところです。

盛岡に限らず、岩手全域を見渡しても、「中心市街地や幹線道路に緑が溢れた街」というのを見かけないように感じますが、条例制定運動なども考えてよいのではないでしょうか?(少なくとも、岩手弁護士会・公害環境委員会は賛同ですが)

弁護士業務における時間簿作成の必要性

私は、当サイトにも表示しているとおり、経済的利益による報酬算定に馴染まないタイプの事案では、タイムチャージに準ずる方法で当方の受任費用をご負担いただいています。

また、タイムチャージではない受任形態(着手金・報酬金制や広義の手数料制)でも、ほぼ全件、時間簿(業務従事簿)を作成しています。これは、私の時間報酬単価(1時間2万円)が、当事務所の経営上は採算ラインを形成していることから、事件ごとの採算性を確認して今後の業務の質の改善に繋げるためであったり、成果報酬の金額算定の資料とすることを目的としています。

ところで、弁護士報酬の金額算定を巡って争われた裁判は、過去に多数存在し(私自身は提訴等の経験はありませんが)、最高裁が一般的、抽象的な基準(弁護士会の旧報酬会規のパーセンテージに基づく経済的利益の額に応じた算定のほか事件の難易や争いの程度、労力の程度などの総合判断)を示しているため、裁判所は、これに沿って相当額を算定することになっています。

そのため、裁判になること自体は滅多にないにせよ、報酬の額を巡って議論になる場合には、従事時間の記録を取っておくことは、適正な算定をする上で、意義があることと言えます。

また、最近は、弁護士が、直接的な依頼者以外の方に報酬を請求する制度が導入されています。住民訴訟で住民が勝訴し相手方から自治体に被害回復がなされた場合の住民側代理人たる弁護士から自治体への報酬請求(地方自治法242条の2)と、株主代表訴訟で同様に株主側が勝訴等した場合(会社法852条)が典型ですが、今後は、いわゆる弁護士費用保険を巡っても、受任弁護士と請求先の保険会社との間の紛争が生じてくるのではと思われます。

住民訴訟の報酬請求に関しては、平成21年に重要な最高裁判決が出ており、前記のとおり経済的利益のほか受任弁護士の労力や時間の程度などを斟酌して定めることになっており、訴訟行為はもちろん、打合せ、調査、書面作成等に要した時間、補助者の労務費なども記録しておくことが望ましいとされています(判例地方自治390号9頁)。

逆に言えば、「極端に経済的利益が大きいものの、さほど争いもなくさほどの労力を要しない事案」などでは、依頼者側からも、受任者に対し、時間制での受任を求めたり、委任時に時間簿の作成を求め、経済的利益に基づく算定額が時間単価に換算してあまりにも高額になる場合などは値引き交渉の材料とするといったことも、今後は考えてよいのではないかと思います。

ただ、業界不況に喘ぐ現在のしがない田舎の町弁の側の立場で申せば、上記の時間単価を大幅に下回る不採算仕事の受注を余儀なくされることが珍しくなく、たまに利益率の大きい仕事にも従事させていただくことで、何とか事務所を維持しているという面もありますので、相応の成果が出ている事案では、ある程度の金額は大目に見ていただきたいものです。

自治体の法務と「まち育て」

以前にも投稿したとおり、私は「判例地方自治」という、行政関係の裁判の判決等を掲載している法律雑誌を購読しているのですが、その今月号を見ていたところ、弘前大の北原啓司教授の連載記事(「まち育てのススメ」)で、「オガール紫波」の経営者である岡崎正信氏が紹介されているのを見つけました。

記事では、これまでは、多額の補助金を投じてまちを一時的に「つくる」ことに力点が置かれていたが、持続可能な「まち育て」の発想に切り替えていくべきだという点が強調され、その例として、補助金に依存せず民間融資による事業を通じて利潤をあげ、それを行政サービスの原資とすると共に、それを民需にも還元させて多大な成功を収めた言われるオガールを紹介しています。

他方で、その逆(莫大な補助金を投じて建設されたのに自治体が黒字経営できず地元には運営コストの赤字ばかり垂れ流す大型公共施設。本文では具体例を示していませんが、投稿に引用されている木下斉氏によれば、青森県のアウガなどがその例とされています)の例も指摘し、結論として、都市計画の価値観を転換すべき(都市計画法を、都市を育てるためのステージに対応させるべき)といったことなどが述べられています。

岡崎さんは、盛岡JCでは私より1年上の先輩で、私が入会した直後の平成17、18年頃には、JCでも熱心に活動されており、当時から、今をときめくオガールの原型のような構想を伺ったこともあります。その頃、まだ世間から脚光を浴びる以前の藻谷浩介氏の講演会?が盛岡JCで開催されたことがあり、岡崎さんもその際の中心メンバーの一人だったとの記憶です。

残念ながら、岡崎さんがオガールの事業に本格的に取り組むようになってからはJCにおいでになる機会も滅多になく、私も幽霊部員状態が続いたこともあって、3年前の岡崎さん達の代の卒業式でご挨拶した以外には、何の接点もない状態が続いていますが、facebookで公私さまざまな投稿を活発にされているため、興味深く拝見しています。

岡崎さんは、昨年頃から岩手では一番の有名人と言っても過言ではないほど雲の上の時の人になっていますが、判例雑誌にまで登場されたので、さすがに驚きました。自治体法務の担当者を主たる購読層とした雑誌ですので、そうした方々に、法務行政の観点・立場から今後のまちづくり(まち育て)へのサポートのあり方を考えて欲しいということで、こうしたテーマも取り上げられているのではないかと思います。

記事では、増田もと岩手県知事の「地方消滅」やそのアンチテーゼとしての山下祐介氏の著作などにも触れており、北東北の人間にとっては興味深い記事なのですが、判例地方自治は盛岡地裁の資料室でも購読しておらず(以前に調べたとき、県民が閲覧できるのは、県庁と岩手大だけだったとの記憶です)、この地域に、判例地方自治を購読している人が私以外にどれだけいるのだろうか(弁護士ではゼロかもしれない)と思わないでもありません。

縄文の遺跡群と北東北のオリジナリティ

「太陽の塔」などで有名な芸術家・岡本太郎は、縄文文化とその出土品などに対し高い芸術的価値を認め、その息吹を伝える北東北や沖縄の人々にも、特別な思いを感じていたことは、よく知られています。

私も、10年ほど前に東北新幹線の車内誌で「岡本太郎が発見した北東北」といった内容の特集を読んでから、岡本太郎への関心が深くなり、ちょうど岡本太郎の再評価の動きが高まってきたこともあって、平成23年にはNHKで放送されていた自伝的なドラマを見たり、東京に泊まりがけで行く機会があったので、青山の岡本太郎記念館に立ち寄るなどしていました。

さきほど、昨年8月10日の日経新聞に掲載されていた縄文文化特集で、パリで民俗学の泰斗に師事した後に欧州から帰国した岡本太郎が、日本独自の文化を求めて最初に京都・奈良を訪問したものの、京都は過去の遺物の集積で奈良は中国のコピーに過ぎないと失望し、縄文土器に接してはじめて、日本独自の文化を感じたという趣旨のことが書かれているのを見ました。

その記事を読んで、ふと思ったのは、京都・奈良については既にその価値が広く認められ、何年も前に世界遺産登録がされているのに対し、縄文文化に関しては、その痕跡を残している場所などが世界遺産登録されたという話を聞いたことがない、そのことは、岡本太郎に言わせれば、真に日本独自と言える文化が世界に紹介され価値が認められていないものに他ならず、とても嘆かわしいことではないか、ということでした(沖縄については琉球王国の文化は世界遺産登録されているものの、縄文文化絡みの登録は無かったと思います)。

そのように考えると、現在、世界遺産登録を目指している「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、縄文文化に関し世界遺産登録を目指している唯一の存在という意味では、これを成就させることは岡本太郎の遺志にも沿うことではないかと思います。

これまで、上記遺産群の運動をしている方々が、岡本太郎(の関係者)側に協力を要請するといった話はあまり聞いたことがありませんが、芸術的な観点を交えて文化の価値への理解を広めるという意味では、大いに意味のあることで、ぜひ、取り組んでいただきたいと思っています。

ところで、上記の記事で取り上げられていた土偶は、長野県茅野市や群馬県で発見されたものでしたが、それらの地域が世界遺産登録を目指しているなどといった話はこれまで聞いたことがないと思って検索してみたところ、最近になって、そのような動きが出てきたようです。
http://www.nagano-np.co.jp/modules/news/article.php?storyid=33288

私見としては、信州などで著名な土偶が発見されていることは確かですし、地域おこしではなく縄文文化の価値を世界に認めて貰うことが目的でしょうから、「明治の産業遺産群」で北九州などと釜石(橋野高炉跡)が一括りになっているように、北海道・北東北とタッグを組んで、一緒にまとめて世界遺産登録を目指して良いのではと感じますが、いかがでしょう。