北奥法律事務所

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区画整理を巡る訴訟と被災地の法的需要

先日、区画整理に関し、施行者たる自治体から特定の行政処分を受けた方が、その処分が違法であると主張し争う趣旨の手続の依頼を受け、行政不服審査請求に加え裁判所への取消訴訟提起と執行停止の申立を短期間で一気に行うという経験をしました。

区画整理に関しては、被災地の高台移転を始めとする様々な復興事業の関係で、沿岸部では大々的に行われているところですが、今回、お引き受けしたのはそのような事案ではなく県央部のもので、10年以上に亘る様々な事情を経て自治体側が事業の執行に動き出したところ、当方依頼主の権利、利益が蔑ろにされていると主張し、衝突に至ったという流れを辿っています。

ともあれ、照応の原則という区画整理では最も争いの対象になりやすい問題が主たるテーマになっていることなどから、事件自体は悪戦苦闘という面はあるものの、区画整理紛争の基本的な対応の仕方を学ぶという点で、色々と参考とさせていただいています。

そうした意味では、今後、被災地などで区画整理紛争が生じ、弁護士の支援が求められることがあれば、お役に立ちたいとの思いは持っています(ただ、費用対効果等との両立などで悩むことが多いかもしれませんが・・)。

ところで、前記のとおり、被災地では区画整理が大々的に行われているため、中には権利関係を巡って紛争等が生じている例もあるのではないかと思われますが(先日、大船渡に出張した際にも、紛争絡みと思われる立看板が国道に出ていました)、私の知る限り、訴訟に至った例はほとんどないのではないかと思われます。

震災直後の時期には、震災に起因して県内に様々な弁護士の仕事が生じるのではないかという憶測が流れており、例えば、いわゆる二重ローン問題などに起因して多数の企業倒産や個人破産等が生じるのではないかとか言われていましたが、実際には、そうした「特需」のようなものは、岩手では全くと言ってよいほど生じませんでした。

敢えて言えば、主として住宅ローンが残存する自宅等が被災した方のための「個人版私的整理ガイドライン」については、一定の需要がありましたが、これも、「多くの方が金融機関と借換を済ませてから制度が導入された」などと酷評されたように、実際の利用者は潜在的需要層のごく一部に止まったとされており、沿岸部で開業している先生方に多く配点されたことなども相俟って、当事務所での受任はごく数件で、現在はほぼ収束した状態と見られています。

区画整理や高台移転等にあたり複雑な相続問題を抱えて弁護士の対応が必要となる事案(相続人不存在や関係者多数・紛糾事案など)も多く存在するのではないかと言われてきましたが、私が見聞している限りでは、その方面の仕事が増えているという話も聞きません。

ここ最近、災害弔慰金絡みの訴訟や避難誘導に関する国賠訴訟(鵜住居事件など)が報道で取り上げられるようになっていますが、裏を返せば、報道で取り上げる程度の僅かな件数しか、この種の訴訟も生じていません。

現在、被災地で報道されている問題の一つに、労災の多発という問題があり、中には安全配慮義務違反で使用者側に賠償請求するに相応しい事案も幾つかあるのではないかと思われますが、これについても、訴訟等の話はほとんど聞いたことがありません。

現在、宮古支部に1件、訴訟事案を抱えていますが、その事件番号を見ても、宮古支部に継続している民事訴訟は、ごく僅か(過払紛争の華やかなりし頃に比べれば数分の1レベル?)と思われますし、岩手弁護士会が延々と続けている県庁主催の被災地相談に関する件数報告などを聞いても、内陸の若い弁護士さんが一日がかりで出張し「今日もゼロ件でした」などとMLに報告されているのを拝見するのが珍しくないという状態が続いています。

弁護士を必要としない、法的紛争のない幸せな社会なるものが出現しているのか、助力・支援を必要とする方への適切な情報提供や繋ぎ役(中間項)が欠如し、それを埋め合わせる営みが欠落した状態ばかりが続いているのか、或いは、あと数年もすれば、本当に需要なるものが顕在化するのか、未だに近未来の「被災地の法的需要」は見通せませんが、まずは、どのような事態が生じても、地元の弁護士として、お役に立つに相応しい事案で力を発揮できるよう力を養うと共に、沿岸・内陸を問わず、地域社会の行く末について、静かに見守っていきたいと思っています。

 

ペットの保護施設とペット自身の権利

さきほど、盛岡近郊に「ペットの里」という大規模な敷地を確保したペットの保護施設(養育放棄されたペットを全国規模で保護し里親確保等を図る施設)が開設されたとの記事を知りました。
http://morioka.keizai.biz/headline/1691/

私自身はマンション暮らしでペット飼育には関心も余裕もないこともあり、大したことができるとは思いませんが、小岩井農場のほど近く(小岩井→滝沢分かれのルートの途中)なので、家族接待で小岩井方面に行く機会などに、立ち寄ってみたいと思います。

ところで、この施設のHPを拝見したところ、タリーズ日本の創業者である参議院議員の方など、全国レベルで名がある(と思われる)企業の方々などが評議員として名を連ねておられますが、地元(滝沢市や盛岡広域圏)の企業・団体などは運営その他に関与していないのでしょうか?
http://pets-sato.net/outline/

素人感覚ですが、こうした施設(誤解を恐れずに言えば、広義のテーマパーク)は、地元民(盛岡圏民)にどれだけ愛着を持って受け入れられるかが成功(継続性)のポイントだと思いますので(ハウステンボス云々を引用するまでもなく、すぐ近所の小岩井農場が最たるものでしょう)、地元小中学生の社会科見学とか、地域イベントとの連動とか、色々な形で地元民と関わりを深めていただければと思っていますし、そうしたことを通じて、近い将来には、「るるぶ」などの観光ガイドにも載るような知名度や信用等を確立していただければと感じています。

また、さらに誤解を恐れずに言えば、この施設は、日本国中のペット飼育者が、おぞましいエゴないしやむを得ざる切実な必要から、自分では養育の責任を果たすことができなくなった(現行制度上、大量殺戮するほかない)動物を引き取った施設であり、そのような「全国の消費者が不要だとして排出した物を集めた場所」というおぞましい表現を用いるのであれば、廃棄物ないしリサイクルの施設に類する面があると思います。

なぜこのような感じの悪い言い方をするかと言えば、仮に、この施設が何らかの事情で経営破綻等に陥り、かつ、地元行政その他の支援が困難だと判断された場合を想定すれば、この施設は、一転して、「世界最大のペットの救済施設」から、「世界最大(最悪)のペットの大量殺戮施設」に転落してしまう恐れを秘めていることになるのではないかと思います(そういえば、数年前の秋田の熊牧場事件はどうなったんでしょうね?無事に県内の他の牧場等に引き取って貰ったのか、そうでないのか、存じませんが)。

そうした文脈で比喩的に言えば、この施設が経営破綻した場合、約15年前に発覚した岩手青森県境不法投棄事件(全国中の産廃が5~10年間に亘り、両県境の山間地に持ち込まれて不法投棄された事件で、質量とも日本最大級と言われた不法投棄事件)の二の舞ということになりかねず、そうしたことを防ぐという見地からも、この施設が設立の趣旨に添って成功を収め経営を全うできることは、地元民にとって利害関係を有する問題だ(そのような観点からも、地元民が、この施設の健全な応援団となるような関係が形成できるのが望ましい)と言えるでしょうし、岩手県にとっても、このような施設を「世界最高のペット救済施設」に育てて行く(盛り立てる)ことが、県境不法投棄事件で膨大な被害を被った岩手にとって、ある意味、「岩手らしいやり方による、全国に対する仕返し」と言えるのではないかとすら思います。

滝沢市も、発足早々、地元の中学で残念な事件が発生していますので、この施設の盛り立て役を買って出ることを通じて「生命とその尊厳を大切にする教育」の名誉挽回をしていただければと思わないでもないですが、余計なお世話というべきでしょうか。

また、私の知る限り、日弁連等が、この種の問題について活動をしているという話は聞いたことがありませんが、法整備であれ運用面であれ、地元の弁護士にお役に立てることがあるならと思わないでもありません(そもそも、日弁連でこの話を扱っている委員会等があるのでしょうか?公害環境委員会に在籍していた際には一度も聞いたことがありませんし、野生動物を原告とする訴訟は知っていますが、これら元ペットを原告=権利享有主体だと主張とする全国一斉殺戮差止訴訟とか「犬猫権」的な改憲論なんて運動をする人は聞いたことがありません。私のような窓際ヒネクレ族にとっては、反自民運動も結構ですが、こうした地道な話の方が、遠回りに見えて本当は近道ではと思ってしまうのですが)。

ともあれ、そうしたくどくど話はさておき、この施設の理念的な価値云々は言うに及ばず、盛岡でもマンション暮らしでおよそペット飼育など縁のない家庭も増えていますので、こうした施設の見学等を通じて、自宅で飼育できない子供が動物と触れあえる場が近郊にあること自体、良いことなのではないかと思っています。

 

田舎の町弁のリンカーン物語

弁護士時代のリンカーンの有名な逸話で、「敵対証人が、その日は月夜の晩で犯人の顔がよく見えたと主張したのに対し、その日は実際は曇りで月が見えなかったと述べて、その証言は信用できないと弾劾した」という物語は、多くの方がご存知だと思います。

この種の「気象ネタによる絵に描いたような弾劾」は、滅多にあるものではありませんが、先日、それに類する経験をする機会に恵まれました。

ある交通事故の事件で、過失割合(の評価の前提となる事故態様)に関し、当事者間に大きな争いがあり、当方が当日の路面状況などを主張したところ、相手方から、それとは全く異なる事実の主張がありました。

少し具体的に述べると、相手方は「前日からの悪天候で路面に積雪が多く、凍結もあり、雪のせいで道幅が非常に狭かった」と主張してきました。

これに対し、当方(依頼主)は「前夜を含め当日に降雪はなく、路面に積雪はなく、かなり前の雪に基づく除雪の山で道路脇に積雪があるものの、道幅を狭めるほどではなかった」と主張していました。

その事故では、実況見分調書が作成されておらず当日の現場写真もないなど、事故当日の路面状況を正しく記載した記録がありませんでした。

そのため、どうしようかと考えあぐねていたのですが、気象庁のHPを調べたところ、自治体ごとの気象情報が詳細に乗っており、それを見る限りでは、当方依頼主の言い分に即した気象経過であることが判明しました。

そこで、それらの資料をDLして提出したところ、裁判官から、路面状況については当方の主張どおりとする旨の心証が示されました。

過失割合については、事故態様を巡る他の論点や全体の評価などから、必ずしも当方の勝利というわけではなかったものの、言い分を尽くした上で相応の和解案が示されたため、依頼主もやむなしということで、和解成立で終了しました。

新人時代、弁護士会で配布された模擬裁判の資料にも、この種の「気象ネタによる反対尋問」のシナリオが付されていましたが、そのシナリオでは、当日の気象状態については弁護士法23条照会で気象庁に確認したという設定になっていました。それに比べると、インターネットでこの種の情報が無償・容易に入手できるようになったという点で、時代の流れを感じさせるものがあります。

ともあれ、気象ネタに限らず、事実関係を巡って当事者双方の主張事実が相反した場合には、各人の主張を基礎付ける証拠の有無や内容を丹念に検討、調査する作業が必要であることは間違いありません。

鮮やかに弾劾できることは滅多にありませんが、確たる根拠のない相手方の主張に一定の疑問符を付す程度なら、知恵と努力次第で一定の成果を挙げることは珍しくありませんので、今後も研鑽に努めていきたいと思います。

破綻懸念先からの売掛金の回収に関する諸問題(設問)

地方都市で、地元の企業(特に、規模の大きい企業)にさしたる人脈もなく仕事をしていると、企業法務的なご相談、とりわけ財産法の分野に関する様々な知識、理解を横断的に問われるようなご質問を受けることは滅多にありません。

東京時代は、勤務弁護士(担当者)として、顧問先企業から様々なご相談を受けていたので、久方ぶりにその種のご相談をお受けすると、懐かしさはもちろん、事務所の埋もれた本や昔に培った勉強の成果が有効活用できるということで、喜々として調べたりすることがあります。

最近は、企業倒産件数の減少もあって、債務者サイドでの受任はもちろん、債権者サイドからご相談を受けることも滅多になくなっていますが、先日、その種のご相談を受けました。

企業取引に関するご相談は、私法上の論点が色々と入り組んだものであることが多く、司法試験の模試などに活用できそうなものも少なくありません。

そんなわけで、以前にお受けしたご相談について、念のための塩漬け期間も経過しましたので、事案を抽象化・修正した上で掲載してみることにしました(そんなに込み入った論点ではないので、口述試験レベルでしょうか)。

回答例を表示していませんが、破綻リスクのある取引先企業からの債権回収に関心のある方からご要望があれば、何らかの形でお伝えすることができればと思ったりもします。顧問先限定と言いたいところですが、敷居の高そうなことが言える恵まれた身分でもありませんし。

こうした投稿をご覧になった方で、「中小企業向けの債権回収等のセミナー」のご依頼でもいただければなぁと思わないでもありませんが、期待するだけ無駄なのでしょうね・・

《設問》

X社はY社と継続的な取引をしており、XはYに約1000万円の未収売掛金(受託業務の報酬請求権)を有している。いずれも期限到来済みで請求原因等に特段の争点はないが、Yには倒産のリスクがある。

Xは、YからY所有の商品を預かっており(700万円程度の換価価値がある模様)、中には、Xの受託業務とは関係ない理由で預かっているものもある。Xは、現時点ではYとの関係は良好で、取引を継続している等の理由から、強硬手段を取ることでYとの取引が断絶するのは、なるべく避けたい。

以上を前提に、以下の点について法律上の問題点を検討しつつ論じなさい。

①近日中にYが倒産した場合、Xは預かり品を売却して債権回収することができるか。

②仮に、現時点でXがYから任意に当該預かり品の代物弁済を受けた場合に、後日に当該代位弁済の効力を争われるケースとして、どのような事態が想定されるか、及びその際のXの反論とその当否を検討しなさい(売掛金と預り品の対価的均衡は確保していることを前提とする)。

③仮に、Xが強硬路線(強制的な手段)に切り替えた場合に、Xが取りうる手段と留意点等について説明しなさい。

契約書によって相手方に弁護士費用を負担させることは可能か

裁判のご依頼や相談を受ける際に、「自分が勝った場合に、自分が(私=受任弁護士に)支払う弁護士費用を、相手方に負担させることができないのか」という趣旨の質問を受けることが珍しくありません。これとは逆に、自分が負けた場合に、相手方が依頼した代理人(弁護士)の費用を自分が負担しなければならないのかという質問もしばしば受けます。

業界人にとっては常識ですが、現在の法制度には「弁護士費用の敗訴者負担制度」が存在しませんので、勝った側も負けた側も、ご自身が依頼する代理人(弁護士)の費用は自己負担というのが原則です。

ただ、不法行為(等)に基づく損害賠償請求については、他の損害(慰謝料、逸失利益など)の合計額の概ね1割相当の額を、加害者が負担すべき弁護士費用として被害者への賠償を命じるのが実務(判決)の通例ですので、その点は、全面的負担ではないとはいえ、一応の例外ということになります。

そのため、契約上のトラブル、例えば、売掛金の請求に関し、不払を続ける債務者に支払を求めるケースなどでは、自己負担を余儀なくされるわけですが、仮に、最初の契約時に、特約で「期限どおりに支払わない場合に、債権回収のため依頼した弁護士費用は、債務者が全面的に負担する」という趣旨の条項を契約書内に設けておけば、債権者は債務者に請求できるのではないかという話が出てくるのではないかと思われます。

この点は、私の知る限り、議論が深まっていない論点で、判例等もほとんど聞いたことがありません。ネットで少し検索しても、「敗訴者負担反対運動」が盛り上がった時期に、一部の弁護士会が、そのような定めを契約書に盛り込むべきでないなどと書いた意見書を公表した話が出てくる程度で、現在の実務の指針になるような解説を見つけることができませんでした。

ただ、先日、マンションの管理組合が管理費等を滞納した区分所有者に請求するにあたり、「弁護士費用を滞納者が負担する」との規約があることを理由に、滞納管理費とは別に、管理組合が依頼した代理人(弁護士)の委任費用を請求し、裁判所がこれを全面的に認めた例というのが掲載されていました(東京高判H26.4.16判時2226-26)。

この件では、未払管理費が約460万円、確定遅損金が約130万円で、それとは別に、管理組合の代理人費用(着手金・報酬金の合計)として100万円強を請求しており、1審は、代理人費用を50万円のみ認めましたが、控訴審は100万円強の全額を認めています。

判決は、規約に基づく「違約金としての弁護士費用」の法的性格について、区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているに過ぎないから、組合側が債権回収にあたり弁護士費用等の自己負担を余儀なくされるのは衡平の観点から問題であり、不払を自ら招いた滞納者が全部負担するのが相当だとして、違約金の性格は違約罰と解し、組合が余儀なくされた費用の全額を滞納者が負担すべきだとしています。

解説によれば、標準管理規約(マンションに関し国交省が作成しているもの)に同趣旨の条項が設けられているとのことですので、この判決の理に従えば、同じ規約を用いている分譲マンションに居住している方は、管理費を滞納した場合、特段の事由がない限り、同様に、管理組合側の代理人費用まで負担しなければならないということになるかもしれません。

特に、この判決をなさった方が、弁護士費用をはじめ弁護士を巡る法律問題の泰斗とされている加藤新太郎判事なので、業界内での影響がありそうな気がします。

ところで、このように、規約に定めていれば弁護士費用を請求できるという判決が存在する以上、これはマンション限定と解釈しなければならない理由はなく、売買や請負(業務委託)、賃貸借など、他の契約でも、同様の特約を設けておけば、同様に契約に基づく代金や賃料等の支払を怠った側に請求をする際、弁護士費用を付して請求することができる可能性は十分にありうると思われます(判決はもちろん解説でも触れられていませんが)。

ただ、上記のように、「当然の義務を履行しない者のため、債権者が経費負担を余儀なくされるのが不当だという当事者の衡平」を重視するのであれば、議論の余地のない債務(一般的な賃料や、売掛金等の債権内容に争いがない場合)なら、債務者に負担させる特約が有効になりそうですが、相応の理由があって支払拒否に及ぶ場合などは、債務者に負担させることができないと判断される可能性があるかもしれません。

また、とりわけ事業者と消費者との契約に関しては、現時点では、そのような特約が消費者契約法違反として無効となる可能性は少なくないのではないかとも思われます。

ともあれ、経験上、支払義務に争いのない売掛金(特に、中小企業間の取引)について正当な理由のない支払拒否についてのご相談も多く接していますので、そうしたものについては、上記の判決の考え方からすれば、回収のため依頼した弁護士の費用を相手方(債務者)に請求する特約が有効と認められる可能性は大きいのではと思われます。

ですので、とりわけ、取引先からの売掛金の回収に日々苦労なさっている中小企業の方々などにおかれては、受注段階で適切な契約書を作成すると共に、正当な理由のない支払拒否のため弁護士への依頼を余儀なくされた場合には、その経費は債務者が負担する旨の特約を盛り込んでおくことを、強くお勧めしたいところです。

また、現在の我が国では非現実的かもしれませんが、将来的には、婚姻時に、「不貞など有責行為をしたため離婚を余儀なくされた場合には、財産分与その他の関連手続を含め、弁護士費用はすべて有責配偶者の負担とする」などという契約を締結し、離婚時に、その有効性や射程距離を法廷で争うようなご夫婦も登場するかもしれません。

ともあれ、この論点(契約に基づく弁護士費用の債務者負担やその程度)に関する議論(ひいては論点の知名度)がもっと深まってくれればと感じています。

 

逮捕された人が弁護人を選ぶ権利は強化されるべきか

先般、当番弁護士で某警察署に赴いたのですが、担当した方から「半年前にも捕まったことがあるが、その際に私選で頼んだ若い弁護士は態度が横柄で、示談こそしてくれたが、釈放後に被害者からも「とても酷い弁護士だった」と言われた。それで、今回はその人に連絡せず当番弁護士の出動要請をした」と聞かされました。

その際の私選費用も聞きましたが、私(私選弁護はLAC単価のタイムチャージ方式)よりも、かなり高い金額を請求しているかもと感じました(その件でお金を使い果たしたのか分かりませんが、現在は資産なしということで、今回はいわゆる私選ではなく、そうした方向けの制度を利用いただくことになりそうです。遠方の署なので赤字必至ですが・・)。

依頼者と受任弁護士とのマッチングは多分に相性の問題もありますので、他の弁護士さんをどうこう述べる趣旨ではないのですが、ネットが多少は発達した娑婆の世界はともかく、身柄を拘束された人にとっては、現在もなお、弁護士の実質的な選択権は整備されていないと感じる面はありました。

その後、思ったのですが、仮に、警察署に「その警察署の管内を対象として営業している、私選弁護人の選任を希望する弁護士のリスト(PR欄や費用等の受任条件欄付き)」を備え置き、捕まった方(で私選弁護人の選任を希望する人)が、それを見て希望する弁護士に当番弁護士として出動を求めることができるような制度があれば、「捕まった人が、自分が希望する(自分に合う)弁護人の選任を求めることができる可能性」が、少なくとも、現在(警察署の地理的云々を別とすれば、基本的には弁護士会や法テラスの登録名簿順でしょう)よりも高くなるというような気はします。

弁護士側の判断もありますので、出動要請の際に、認否その他、一定の属性や情報が記載された(或いは拘束者が任意提供できるような)ペーパーなどを作って送信することも併用すれば、マッチングという点では多少は機能するかもしれません。

もちろん、現在の弁護士会(供給者側)の感覚からすれば、幾らでも批判できそうな荒唐無稽な案だと思いますが、需用者側にとっての合理性(競争原理ないし選択権)はもちろん、供給者側にとっても、現在の町弁供給過多の流れが続き、営業面で困る弁護士が増えれば、そうしたリストへの登録をしてでも依頼獲得を希望する(せざるを得ない)人は、それなりに出てきそうな気がします。

また、弁護士ドットコムの運営者などが(会内で)天下を取れば、弁護士会から警察署等に申し入れるなどという展開も、あり得ない話ではないように思います(ま、その前提自体があり得ない話と言われるのかもしれませんけど)。

ただ、捕まった方々が、地域の弁護士の顔写真入りリストのようなものを眺めている光景を想像すると、さすがに当事者としては目眩を感じないこともありませんので、そんな案は夢想が過ぎるということになりましょうか。

上記の案はさておき、刑事手続を受けた方(弁護人、とりわけ私選弁護人に関わった方)に向けて、上記のような観点からの当事者の意識調査などを大規模に行った統計資料のようなものがあれば(犯罪学の学者さんとマーケティング学者さんなどに手がけていただければ)と思わないでもありません。

事件の当事者を人前で呼び捨てにする人々

この仕事をしていると、事件の当事者について、敬称(さん、氏など)を付して呼ぶ方もいれば、それらを付さずに呼び捨てにする人もいて、特に、刑事被告人等について、人によって分かれることが多いことは皆さんもご存知のとおりです。

そして、そのような光景(発言)に出くわすと、そのいずれ(敬称を付すかどうか)が正しいかというよりも、発言者が、その当事者ないし事件とどのように向き合っているかが何となく感じられる面があります。

刑事事件で、威厳あふれる刑事事件の裁判長や老練なベテラン弁護士さん、糾弾すべき立場にある検察官が呼び捨てにするのであれば、私自身は、違和感を持つことはほとんどありません。まして、深刻な被害を受けた被害者ご本人等であれば、被害感情を表現する趣旨で呼び捨てにするのは当然と言ってもよいのだろうと思います。

これに対し、若い修習生や弁護士、記者などが、横柄な態度で当事者を呼び捨てにしているのを聞かされると、そうした姿勢は、あなた自身への刃となって返ってくるのではありませんか、と感じるところが往々にしてあります。

先日、ある事件で、裁判所の門前で記者さん達に囲まれ、事件の進行状況等についてコメントしたことがあり、その際、私が終始一貫、関係当事者らを「●●氏」と呼んでいるのに対し、事件の当事者から何某かの迷惑行為を受けたわけでもないのであろう若い記者さん達の何人かが、そうでない呼び方(や態度)を示しているのを聞いていると、そんなことを感じたりします。

少なくとも、相対的に第三者性が強い立場の方が、事件の当事者に表立って乱暴な言葉遣いをしているのを見ると、どうしても、「威を借る」的な臭いがして、何だかなぁと思ってしまいます。

上記のケースでは、若い記者の何人かが、刑事手続を受けていない方も含め、事件の関係者を当たり前のように呼び捨てにしていたのですが、この記者さん達がそのような話し方をしているのには、どのような背景(マスメディアの社内・業界内の環境=取材対象者への向き合い方に関する文化)あるのだろうと考えずにはいられないものあがります。

もとより、記者の方が取材対象者に怒りを持ったのなら、乱暴な言葉遣いや態度で虚勢を張るのではなく、自らの努力で取材対象者を糾弾できる根拠となる事実を発掘する姿勢を身につけていただきたいと思いますが、私が記者の方と接点を持った数少ない経験の範囲では、そうしたものを感じたことはほとんどありません。

そのような姿勢を学ぶ機会を持たないまま社内で影響力を持ってしまう人もそれなりにいるのだろうかと思うと、残念に感じてしまいます。

私もそうでしたが、若い業界人(修習生や駆け出し期)だと、検察修習等の影響が残っているのかな(或いは、未熟さ・自信のなさが、かえって虚勢的なものにすがらせやすいのかな)と思いますし、そうしたものは、弁護士として叩き上げの経験を持てば、ほどなく解消されるのが通常ではないかと思っています。

記者さんも、個人差があるのでしょうが、中堅の方の方が、そうした(対外的な)言葉遣いが丁寧かなと感じたりしますので、法律家と同様?に、経験を積んで、事件や人に対し、相応の謙虚さを持っていただければと思います。

 

アイスバケツとALS関連訴訟

最近、アイス・バケツ・チャレンジなる運動(イベント?)が盛り上がっており、本来の趣旨は、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の研究を支援するための寄附を募る運動なのだそうです。

氷水をかぶること自体には、あまり意義を感じませんが、難病支援の運動であれば、盛んにやっていただいてよいのではと思います。

ところで、ALSが裁判のテーマとして取り扱われることはほとんど聞いたことがありませんが、先般、同症の罹患者への介護給付費の算定方法が問題となった裁判例が公刊されており、せっかく、アイスバケツを機にALSに関心を持ったという方がおられれば、こうした話題にも目を向けていただければと思います。

事案と判旨の概要は以下のとおり(和歌山地判H24.4.25)。

昭和11生まれの男性Xは、身体障害者1級を認定され、障害者自立支援法・介護保険法に基づく介護認定を受けている筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者であり、平成19年3月頃からは、Y(和歌山)市内の自宅で妻Aと2名の訪問介護員による24時間介護を受けている。

Y福祉事務所長は重度訪問介護の支給量を1月268時間(1日8時間+緊急対応20時間)とする介護給付費支給決定(H22・H23決定)をした。

Xは、24時間の公的介護を要し1月651時間(1日21時間)を下回らない決定をしないことが裁量の逸脱・濫用だと主張して、Yに対し、本件各決定の取消しと当該義務付けを求め提訴。

裁判所は、結論として、X(筋萎縮性側索硬化症の患者)に関する介護給付費で「1月支給量が542.5時間を下回らない決定をしないこと」が裁量逸脱・濫用とし、決定の一部を取消し、上記時間の限度で、介護給付費支給決定の命令(義務づけ判決。行訴法37の3)を行いました。

判例タイムズの解説によれば、本件は、障害者自立支援法に基づく介護給付費につき、支給決定を義務付けた初めての事例とのことです。

Xは、本件訴訟の提起時に仮の義務付け命令を申し立て、支給量を1月511.5時間とする決定の仮の義務付け命令を得ており、Xの代理人をされている方は障害者支援の分野では著名な先生で、福祉関係者とも連携し、緻密な主張立証をなさったものと思われます。

福祉分野に関しては、私も本格的な紛争の相談を受けることは滅多にありませんが、以前、母子手当に関し行政から納得のいかない判断を示されたというご相談を受けたことがあります。

その際には、市側の対応が筋の通らないものと判断しましたので、ご本人の主張を書面に要約して市役所に提出して下さいとお渡ししたところ、後日、市役所から希望どおり手当を受給できることになったとのお話をいただきました。

福祉関連は、弁護士にとっては超不採算仕事になるのが通例で、経営者にとっては「業務」として受任できるか悩ましさが伴い、いわゆる市民団体等の支援が得られない普通の弁護士にとっては、持続可能性等の関係で受任してよいのか悩む面はあると思います。

ただ、行政が明らかに筋の通らない対応をしていると確信できる案件などに巡り会った際には、そうしたものを糾すのも町弁の職責と腹を括って、できる限りのことをしていきたいとは思っています。

 

弁護士業界のグローバル経済とローカル経済

先日、冨山和彦氏の「なぜローカル経済から日本は甦るのか」という新書本を購入したのですが(まだ未読)、今日の午前中に、BS朝日の激論クロスファイアで同氏が出演し、同じテーマで話をされていたので、途中からでしたが、興味深く拝聴しました。

冨山氏に関しては、司法試験に合格しながら事業家に進んだ先駆者という意味で、以前からちょっとしたファンのようなもので、初期の著書を拝読するなどしていました。

で、先日、上記書籍を書店で手にとった際、そこで図示されていた、「グローバル経済(G)とローカル経済(L)の特徴」とで列挙されていた要素が、以下のように、前者(G)=世界や全国規模で活躍する企業法務等(やそのカウンターパートとしての大規模消費者被害)を取り扱う弁護士さん達の世界で、後者(L)が、私のような地方の町弁の世界によくあてはまる(或いは、弁護士業界も、G側とL側の乖離がより顕著になってきているのではないか)と感じ、読書欲を駆り立てられて購入した次第です。

・Gの世界→製造業、大企業が中心でグローバル経済化での完全競争
高度な技能を持つ人材が求められ、高賃金

・Lの世界→非製造、中堅・中小企業によるローカル圏での不完全競争
平均的技能を持つ人材が求められ賃金が上がりにくい

すでに、G側(特に企業法務に特化した弁護士)とL側(町弁)とは、同じ職業ではないと言わざるをえないほど「働き方の違い(一種の階層分化)」が確立したと思いますが、現在、議論がなされつつある業界の構造激変に対応した弁護士会の改革問題(会のサービスを享受しない会員等の会費減額運動から組織再編等まで)を考える上では、上部組織としての日弁連はまだしも、下部組織については、都道府県単位での単位会(だけ)という括りが、いかにも不合理という感じがしています。

法曹の一体性を重視する立場の方からすれば、異論も大きいところだろうとは思いますが、少なくとも、思考実験としては、「G側の弁護士とL側の弁護士」に区分して弁護士会(業界団体)を再編した場合に、どのような業界団体像が考えられるか、ということも検討してみてよいのではないかと感じています。

また、その延長線上でふと思ったのですが、現在、大企業の世界では、社外取締役の推進という議論が盛んになされていると思いますが、私の勘違いでなければ、日弁連や各地弁護士会に、社外役員(弁護士以外に理事会等の重要な意思決定に外部の企業・団体の経営者等が参画し一定の影響を及ぼす立場の方)が設けられた(或いは、設けるべき)という話は聞いたことがありません。

不勉強なので、法規制等の問題があるのかもしれませんが、弁護士会に限らず、「業界団体の役員について、発言力のある外部関係者を投入し組織を活性化、変革する梃子にする」という視点は、もっと持ってよいのではと思います(少なくとも、社外取締役の給源として期待され営業している弁護士業界自身が、弁護士の独立なるものを理由に、自社に社外役員なんか入れません、というのでは、何の説得力もないと思いますし)。

 

地方の弁護士として生きることの光と影と、それぞれの道

先般、佐世保市で生じた痛ましい事件については、加害者の関係者を巡って生々しい報道がなされることが多々あり、それも同業者の方ということで、ネット上で流布されている記事(引用は差し控えました)を見ると、色々と考えさせられるものがあります。

少し具体的に言えば、私は、「大学卒業2年目で(奇跡的に)司法試験に合格し、東京で中小企業法務等を中心に4年半修行した後、出身県の主要都市(ちなみに盛岡は当時の人口30万弱、佐世保は25万とのこと。岩手と長崎の県人口も概ね同じ)で事務所を開業し、(東京時代に某先生から勧められていたので)すぐに地元の青年会議所に入会した」という人間なのですが、上記事件の関係者の方が、その部分に限って言えば、客観的には、これと似たような経歴をお持ちのようです。

ただ、私の場合はJC入会後の展開がその方とは大きく異なり、半年程度で兼業主夫(幽霊会員)の道に邁進(転落?)せざるを得ず、9年間も在籍したのに理事長どころか委員長すら拝命することなく終わりました(当然、ごく稀にJC関係の会合に出ても、大して居場所もなく隅でひっそりとしているという有様になってしまいました)。

そのせいか?、地域の有力企業さん方とは顧問云々の仕事上のご縁はほとんどなく、運良く親しくさせいてただく機会に恵まれたごく一部の方に多少のお世話になっている程度で、もとより「地域有数の規模の事務所」では微塵もありません。

それどころか、債務整理特需の終焉後は事務所の運転資金に汲々としつつ、名士どころか営業時間前後は自宅で雑多な家事等に追われながら、「書類仕事する時間が足りないんだけど」と愚痴を撒き散らす日々というのが正直なところです。

そのため、ある時点までは記事の方のような「地方の大物弁護士への道」がありえたのかもしれないものの、10年ほど前に、そうした道にご縁のない分岐点を辿ったのだろうと感じたりすることもないでもありません。

といっても、こんな事件を引用するまでもなく、自分に明らかに適性のない道にご縁がないことを嘆くこともありません。せいぜい、(当時の中央大の宿命として)受験仲間の全員が初志を貫徹できるわけではないので、彼らに恥じない(小保内は折角受かったのにこの有様か、と思われない)生き方が出来ればという程度の欲(執着?)で済んでいます。

この仕事に限らず、我々程度の年数を生きた方なら、同じ感覚をお持ちだと思いますが、

・Aを得た者は、Bを得ることができない(ことが多い)
・Aを得ることができなかった者が、結果としてBを手にする(ことがある)
・AもBも手にすると、恐るべき災厄まで付いてくる(ことがある)
・但し、その災厄を受けた者が、時に、特別な何かを創出することもある

ということを、多くの実例を含めた実感として、感じることがあります。

光強ければ影もまた濃しと言いますが、私に関しては、今のところ、華やかな舞台に関わらず日陰で静かに暮らすことで、結果的に対処困難な問題にもご縁が無くて済むという方向に、生き方の舵が切られているように感じないこともありません。