北奥法律事務所

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岩手と沖縄の訴訟件数に関する格差から考える

先日、那覇地裁に7月下旬に提訴された事件の訴状を拝見する機会があり、事件番号(平成26年ワ第何号)が550番台になっていました。

これに対し、私が7月上旬に盛岡地裁に提訴した民事訴訟の事件番号が150番弱となっており、事件番号は、私の誤解でなければ、その年の1月1日以後、受理した順に付されますので、それを前提に考えれば、盛岡地裁と那覇地裁とでは、地裁本庁に係属する民事訴訟の件数が、約3倍もの開きがあるということになります。

ちなみに、ネットでざっと見たところ、岩手県の人口は130万強、沖縄県の人口が142万強ということで、ほとんど差がありませんから、単純人口比で言えば、同程度の訴訟件数があってしかるべきだということになるはずです。

人間の社会・経済上の活動が活発さの程度に応じて訴訟件数も変化すると思いますし、東京地裁のように制度的・社会的に訴訟件数が集中し易い大都市であればともかく、岩手と沖縄であれば、共にそのような問題(他県裁判所に訴訟が吸い上げられたり他県から吸い上げたりする訴訟のストロー減少)にはさほど縁がないと思われ、単純に、上記の活発さの差と訴訟件数の差をパラレルに捉え易いのではないかと思われます。

ですので、このような差が出ることに、双方の支部数の差(岩手6、沖縄4)を考慮しても、岩手と沖縄とは、社会・経済上、一定の格差があるのだろうと感じざるを得ないところがあります。

岩手の現在の弁護士数は約100名ですが、沖縄弁護士会のHPによれば、同会の会員数は250名強とのことで、その比較からすれば、沖縄の半分弱程度(上記時点で言えば、200~230件程度)の訴訟件数はあってほしいというのが、地元の弁護士の率直な感想です。

震災直後、被災地相談支援でいらした大阪の先生が「大阪の弁護士は沖縄が大好きで、移住者も多い。沖縄と関西の関係のように、岩手も、大都市圏とのつながりをもっと盛んにすべきでは」と仰っていたのを、何となく思い出しました。

どれほどの数かは分かりませんが、震災後、復興特需の影響?で関西方面から移ってこられた方にお会いしたこともあり、そうしたことも含めた人口増や交流人口増等を促進することについて、もっと様々な取り組みが広まればと願っています。

 

参院選・岩手選挙区結果を過去の投票結果と比較したプチ分析(H25.7.22再掲)

今年は国政選挙や大きな地方選挙などがなく、「国民(住民)の選択」という意味での政治のあり方等に関する議論が盛り上がっていません。

昨年の7月の参院選の開票当夜に、以下の文章を書いて旧HPの日記に載せていたのですが、改めて、岩手県における選挙(政治)の実情を考える機会にしていただければということで再掲しました(一部、表現を修正しています)。

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平成25年7月21日に投開票が行われた参院選ですが、岩手選挙区の結果を過去のそれと比較すると色々と興味深い現象を感じ取ることができます。

選挙結果の見方は人それぞれだとは思いますが、何かの参考にしていただければと思い、少し長いですが、書いてみることにしました。

まず、最初に、岩手日報HPに掲載された今回の選挙結果(得票状況)をざっとご覧下さい(閲覧できなくなったときは、wiki等でご確認下さい)。

大雑把に得票率を見れば、次のように算出されると思います。

平野氏(無所属・40%弱)、田中氏(自民・26%強)、
関根氏(生活・15%弱)、吉田氏(民主・10%強)、
菊池氏(共産・7%強)、高橋氏(幸福・1%強)

次に、これと、wikiに表示されている前回(平成22年)や前々回(平成19年)の同じ岩手選挙区の選挙結果(但し、半数改選の関係で、前回については、立候補者は全員異なります)を比較してみて下さい。

これらを比較すると、最初に目につくのは、自民系の候補者(今回の田中氏(26%)、前回の高橋雪文氏(30%)、前々回の千田勝一郎氏(25%))の得票率が、さほど大きな違いがないという点です。

ちなみに、この中で、高橋雪文氏は県議(盛岡選挙区)を2~3期ほどお務めになっていましたので(千田氏もご出身は岩手ですが出馬までは他県在住で、今回の田中氏と同じく議員秘書をなさっていたとの記憶です)、他のお二人と比べると基礎票があると思われ、その点が、得票率の違いの大きな理由の一つと推測されます。

お三方とも、出馬時の年齢に大きな差がなく(性別も同じ)、小選挙区を中心とする当時の自民党の勢力図にも大きな違いがないため、お三方の得票率の違いは、上記の点など候補者間の多少の違い(変数)を除けば、純粋に、それぞれの年における「岩手の自民党(誤解を恐れずに言えば、鈴木俊一氏を中心とする勢力)の県内における支持率を表したもの」と言えそうな気もします。

そして、ここ10年ほど「岩手の自民党の支持率」が大きく変動したとはあまり感じられない(全国レベルの風を別とすれば、鈴木氏ら県内の自民党議員の方などに、県民の支持が大きく増えるような政策的成果も、大きく減らすような不祥事もなかった)ことに照らせば、毎回の得票率に大きな違いがないということも、ごく自然に納得できます。

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今回の参院選では、当初から「岩手と沖縄以外は、自民候補は盤石」との報道が流れ、岩手県では前代未聞と思われる、安倍首相・石破幹事長・進次郎氏の複数回の波状攻撃が岩手でも繰り広げられましたが、それでも、自民党の得票率という点では、過去の選挙とほとんど変わらない結果となったと言うことができます。

また、「政党の離合集散を経験していない」という点から、同様に共産党系の候補の方を見てみても、5~7%ほどの幅ということで、あまり大きな違いがありません。

今回に関しては、社民党から立候補がなく、同党支持者の票が一定数は流れたと推測されるため、今回選挙での全国的な「共産党躍進」と比べると、自民党と同様、岩手は異なる風が流れていた(共産党に風が吹いたとは言えない)と見るほかないと思われます。

次に、民主系列ですが、得票順に、平野氏・関根氏・吉田氏を全部併せると、合計で約65%の得票率になります。これは、平野氏が、民主党(小沢氏系)候補として圧倒的な勝利を収めた6年前の選挙(得票率62%強)とほとんど同じ比率です。

そのため、6年前の結果と比べれば、自民・共産は、多少は得票率が増えたものの過去の結果と大差はなく、非自民・非共産の勢力が、得票率は若干減りつつも、単に3分割されただけに過ぎない(この勢力の内部で票の取り合いをしただけ)という印象を強く受けます。

要するに、現在の参院選の制度を前提に、過去10~15年ほどの岩手県の政治状況を見る限り、有権者のうち、①自民系が25%程度、②共産系が5%程度、③非自民・非共産系が55%程度(過去の選挙結果からの大凡の推計)の基礎票を持っていて、残りの15%程度の浮動票(無党派層ないし各党支持者内部の流動層)を奪い合っている(政治状況に応じてこの15%の層が揺れ動き、得票率に影響を与えている)が、少なくともこの間のほとんど全部の選挙で、その浮動票は主に非自民・非共産系候補に流れていた、という姿が見えてくるように思われるのです。

そして、平野氏が2期目の当選を果たした6年前は、非自民・非共産系が、小沢氏という、諸党派の糾合に関し稀有な才能を持った方の全盛期であった上、順風満帆の状態(候補者が官僚出身の2期目の候補で政党に対する逆風も一切なし)であったことも重なり、非自民・非共産系の候補として最大級の得票率(62%強)を獲得できたのではないかと思われます。

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このような観点から、今一度、今回の選挙に戻りますと、今回の参院選においては、当初から最有力候補の1人と見られていた平野氏が、民主離党後に自民党に支援を求めたものの、自民党岩手支部が独自候補の擁立を重視して、支援を拒否したという報道が流れたことがあったと記憶しています。

もし、この時点で、自民党(岩手支部)が、「平野氏が、自民の基礎票=25%を超える得票をする可能性が相当にある」と予見することができれば、独自候補の擁立を見送り平野氏と手を組む方向で動くことができたのではないかとも思われますし、仮に、自民党側に最盛期の小沢氏のような方がいれば、勝つためには手段は選ばずということで、そのような選択肢をとったのではないかと思われます。

もちろん、選挙のプロの方々ですので、上記のような予測をしつつ「負けてもいいから、独自候補を擁立したい(平野氏と手を組むのは避けたい)」といった、何らかの込み入った理由(内部事情)があったのかもしれず、そうした事情の有無については、そうしたものを発掘することこそメディアの役割ということで、報道関係者にはご尽力いただきたいところです。

また、上記の観点から、三分割された「非自民・非共産」系の票が、3者(平野氏:関根氏:吉田氏)で、大雑把に言って、60:25:15の比率で分かれたことは、旧民主(小沢氏が糾合した勢力)の岩手県内における行く末を考える上で、なかなか興味深い印象を与える数値ではないかと思います。

吉田氏が関根氏に及ばなかったという点は、今もなお、小沢氏(の勢力)を強く支持する方が県内には相当におられるということでしょうし(保守層のうち反TPPの票を集めたという要素もあるのかもしれませんが)、分裂後の民主党(岩手支部)が、全国の選挙結果と同様、基礎票と目される幾つかの労組などの方々以外には、支持の広がりを持つことができていないことが強く印象づけられたように思います。

少なくとも、吉田氏個人は、新人云々という点をさておけば、県外出身のハンディを跳ね返す快活さ(人柄の印象の良さ)、熱心さなどがあったと思われ、ご本人の資質はマイナス要素としては働いていなかったと言うべきだと思います。

そして、平野氏が「非自民・非共産」(55%)及び無党派(15%)のうち、かなりの得票を占めたのは、民主党政権の大臣さん方には珍しく?バッシング報道も無いに等しかった地元出身の復興相として、「派手さはないが、地道に実績を積んだのだろう」という印象を有権者に残したため、県民の多くが、昨今の政治情勢で被災地の復興問題が何かと置き去りにされているように感じている(そのことに対する問題意識が、全県的に共有されている)ことと相俟って、被災県の代表として送り出す上で最も相応しいと考える有権者が多かったというのが、素直な見方ではないかと思われます。

もちろん、報道によれば、鈴木氏の地元である(山田町を含めた)旧岩手2区では、沿岸部も含めて、軒並み、田中氏の方が得票していたので、上記だけでは説明がつかない、南北問題や沿岸・内陸の違いなども、視野に入れなければならないとは思いますが(平野氏の地元である北上市は、数十年の幅で見れば、県北・沿岸の地盤沈下と入れ替わるようにして発展してきた地域だと思いますし)。

ともあれ、上記の分析の見地からすれば、今回、平野氏が集めた「40%弱」という得票率のうち、約15%位が無党派などの浮動票であったと思われ、仮に、この層の投票が全く得られなかったなら、平野氏の得票は25%ほどに止まるため、田中氏に敗北していたはずだと言えることは確かなのではないかと思われます。

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また、今回の選挙は、かつて保革を含めた非自民・非共産系の糾合という偉業を成し遂げた小沢氏の時代の終焉を完全に印象づける結果になったことは確かと思われますが、それと同時に、他の理念・論理・剛腕で岩手の政界を糾合・再編したり、岩手から全国に向けて、新しくより良い政治のあり方を発信できる方の不在もまた、印象づける結果になったと感じます。

無党派層の1人としては、そのような力量を備えた政治家の方が出現して(もちろん、既存の方々がそのように成長することも含め)、新しい政治風景が現れてくれればと願っているところです。

というわけで、今後の参院選であれ、岩手県知事選であれ、岩手県全域を射程に入れて選挙をなさる方にあっては、現在の勢力図を前提とした、上記の各政党ごとの基礎票と、有権者の約15%と思われる浮動票を視野に入れて、自派の足場固めと支持拡大を検討いただくのが賢明ではないかと思った次第です。

また、上記の見地から、市町村毎の得票状況を年度ごとに調査して分析できれば、さらに興味深いものが見えてくるかもしれません。

そうした仕事は、県内の政治学者さんが、ゼミ生を動員してやっていただくべきものだと思うのですが、いかがでしょう。

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ちなみに、毎回の選挙結果の得票率があまり大差がないという姿は、参院選に限らず、衆院選でも見受けられるようです。

この点は、岩手1区のここ10年ほどの得票率をwikiで見れば感じられるところですが、小沢氏の支援で登場してきた達増拓也氏(現知事)と、その後継者の階猛氏(現職)の得票状況を見れば、達増氏が徐々に増やしてきた得票率が、階氏への継承時にピーク(10~11万票=60%強)となり、それが、民主党分裂により、全体の得票率(6割)を維持したまま、真っ二つに割れた(前回選挙での階氏:達増陽子氏の得票比が、概ね35%対25%)という様相を呈しています。

そして、この間、自民(高橋比奈子氏ほか)は、26~30%の得票、社民・共産も約6%ずつの得票となっており、これらを見ると、参院選以上に、政治勢力ごとの得票率が固定化していることが分かります。

そのため、無党派層としては、選挙ごとに、もっと政治勢力間の得票率が変動するような仕組みないし仕掛けをして欲しい、そうでなければ無党派層(浮動層)の存在感が高まらないじゃないかと大いに感じてしまいます。

ちなみに、今回の参院選での盛岡市における各候補者の得票率も見たところ、田中氏(自民)は約25%で国政の岩手1区の自民候補者の得票率と大差なしですが、達増知事が支援する関根氏(生活)が15%強、階氏らが支援する吉田氏(民主)が12%弱であるのに対し、平野氏が40%もの得票率となっています。

平野氏を無党派層のシンボルのように捉えるのは間違いだとしても、盛岡市に関して言えば「盛岡を地盤とする達増知事も階氏も負けて、彼らの固定客(所属政党の固い支持基盤)ではない層が存在感を示した」と言うべき面があるようにも思われ、今後の県政の行方を考える上で示唆に富む面があるのかもしれません。

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あと、ここまで書いてから思い出しましたが、「自民系」の得票には公明党支持者の投票が相当数を占めることは明らかでしょうから、正確には、「自公系」と言わなければならないと思います。というわけで、適宜、そのように読み替えていただければ幸いです。

この点に関し、岩手日報を見てもwikiを見ても、「自民候補者の得票数(得票率)のうち、公明票の占める割合」というのが表示されていないように思われ、この点は、残念だ(よくない)と思います。

とりわけ全国的には与党勢力ということもあり、自民系候補がどの程度、得票レベルで公明票に依存しているかを知ること(自公系における内部の可視化)は、公明党に対するスタンス云々に関係なく、他の党の支持者や無党派にとっても、投票行動を決める上で、一つの大きな要素になると考えます。

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とまあ、ここまでダラダラと書いてきましたが、私は、選挙に象徴されるような権力闘争の類には適性が微塵もなく、片隅で書生肌の青臭い政策論(政治システムの理念論)にうつつを抜かす方が性に合っています。

そのため、選挙で勝つための方法なんぞを考えるよりも、上記のとおり、別の選挙制度を導入するなどして無党派=浮動層が影響力を持ちうるような状態を作出して欲しいなぁと感じているというのが正直なところです。

もちろん、政党を嫌悪しているわけではまったくありませんので、得票率が固定化しないという前提で、無党派(浮動層)が、もっと政党側と関わり(良い意味での影響力)を持てる仕組みも考えていただきたいです。

ところで、ここまで、主として公表された各選挙での得票率を基礎として、色々と書いてきましたが、統計情報をよく見ると、岩手日報もwikiも、白票(無効票)の割合(票数)について、一切表示せず、完全に無視しています(日報らが悪いのか、選管が公表していないのか、私には分かりませんが)。

ご承知のとおり、無党派層に投票を呼びかける方の多くが、「嫌なら白票を出して欲しい。それ自体が、既存勢力への抗議票になるから」と語っているわけですが、公表される統計情報の中で白票が無視されたのでは、上記の呼びかけに応じて?、民主政治の発展を願って白票を投じた方の思いが、完全に無視され、裏切られていることになります。

というわけで、選挙結果の統計情報で白票を公表しないのはもってのほかというべきで、ご賛同いただける方は、岩手日報に抗議電話(wikiには抗議メール?)をなさっていただければと思います。

また、過去の選挙の得票数と現在のそれを比較すると、改めて、人口減少を強く感じます。

その他、実際の数字を見ていけば、空理空論で抽象的な政治論などをするよりも、色々と見えてくる面があると思われ、皆さんも何らかの形で実践していただければ幸いです。

保険金の不正請求紛争と地域差

以前にも書きましたが、私は、定期購読している判例雑誌に掲載されている判例等の要旨をエクセルで作成した簡易なデータベースにまとめる作業を数年前からしています。

残念ながら、医療訴訟や知財訴訟を筆頭に、「多少は判例学習をしたものの、ちっともご縁(依頼)に恵まれない分野」が多数ありますが、その中の一つに、保険金の請求に関する紛争(主に、保険会社が、保険事故が故意による=不正請求だと主張して争う紛争)があります。

ちょうど、最近の雑誌で新たに請求棄却事例が1件追加されたので、これまでの収録状況を確認したところ、「不正請求紛争」として入力した事案が、計20件ありました。ただ、入力(雑誌に掲載)されたもので認容例は1件だけで、他の19件は棄却(契約者敗訴=不正請求認定)となっていました。

この点は、立証責任等に照らし、棄却例の方が掲載価値があるとの判断だとは思いますが、棄却例ばかり掲載されているのを見ると、何となく、保険金請求=悪(又はハイリスク)であるかのような偏見がついてしまいそうです。

また、保険契約の類型ごとに何か違いがないか見てみたところ、火災保険と車両保険とで、紛争発生地域(事件の管轄裁判所)に大きな違いがありました。

まず、火災保険に関する訴訟は、東京高裁管内がほとんど(8件中6件)で、残りは福岡高裁1件、広島地裁1件でした。

これに対し、自動車保険に関する訴訟は、全11件のうち、東京高裁管内が3件(うち1件は認容例)に止まっているのに対し、大阪高裁管内が6件(大阪高裁3件、大阪地裁2件、神戸地裁1件)、広島高裁1件、岐阜地裁1件となっていました。

自動車の保険事故については、盗難系、破損系、水没等の全損系など多様ですが(但し、訴訟対象となるのはベンツ、セルシオなど高級車がほとんどです)、大阪高裁管内の6件については、盗難2件、水没1件、破損2件と、いずれの類型も含まれていました。

これに対し、生命保険に関して故意が争われた例(故意による死亡=自殺か否か)は、札幌地裁の例が1件掲載されているのみで、他の紛争類型の多発地帯(兼人口集積地)である関東でも関西でもなかったというのが興味深いところです。

ちなみに、仙台高裁管内及び高松高裁管内は、「故意か否か」の紛争が一件も掲載例がありませんでした。

保険金不正請求を巡る紛争にはご縁がないため、実情には明るくありませんが、統計全体でも同じような傾向があるのでしたら、保険業界には、「炎の関東、車の関西、真面目な東北・四国」などといった標語があるかもしれません。

ただ、東北・四国に関しては、保険金に限らず管内の訴訟が判例雑誌に掲載されること自体が滅多にないので、地域差を強調するほどの話ではないかもしれませんが。

また、偏見と叱られそうですが、九州(特に「修羅の国」などと言われ、暴力団絡みの話題も多い福岡県)が、意外に件数がほとんどないのに少し驚きました。

まあ、たかだか20件ですので、統計を論ずるレベルにはほど遠いというべきではありますが、平成23~25年に判例時報・判例タイムズに掲載された下級審裁判例の傾向ということで、ご理解いただければと思います。

なお、私に関しては、10年近く前、盛岡家裁で相続財産管理人として受任し、被相続人の死亡保険金を請求した事案で、保険会社から「自殺だ」と主張されたことがあります。もっとも、その事件では、そもそも相続財産管理人が保険金を請求できるのかという論点に直面し、1審敗訴、2審でご遺族を絡めた特異な形で和解したので、結局、正面から自殺の当否が判断されることなく終わっています。

保険事故が故意か否かに関する紛争は、民事・刑事問わず、事実認定の力量が強くが問われることが多く、そのような意味ではやり甲斐も大きいので、不正請求事案での原告側の受任は遠慮させていただきたいですが、依頼者の人柄やご主張が信頼できる事案であれば、原告、被告問わず、ご縁があればと思っています。

 

内実の伴わない?「専門」標榜事務所に対する裁判所の認識

先日、ある交通事故(被害が甚大で請求額も大きく、過失相殺なども絡んで争いのある金額が大きかった事件)で、裁判所から概ね当方の主張に沿う内容・金額の和解勧告をいただき、無事に和解が成立して解決しました。

特に、依頼主(被害者)には最も抵抗があった過失相殺の是非の論点で当方の過失をゼロとする勧告(判断)をいただいた点で、満足いただけるものとなったと自負しています。

和解が成立した期日で、裁判官と雑談する時間があり、その際、「東京では、現在、交通事故専門を謳ってCM等で大々的に宣伝している事務所があり、最近、東京地裁でその事務所が被害者代理人として提訴してくる案件が増えている。しかし、現実には、十分なスキルを持たず、裁判所から見れば杜撰な仕事となっている例が散見される。裁判所の指示には大人しく従うので(具体的に明示されませんでしたが、恐らく、裁判所が不合理だと判断した請求・主張の撤回などを指すと思われます)、裁判官としてはやりにくいわけではないが、当事者(被害者)にとって、これでよいのかと思うこともある」という趣旨のコメントをなさっていました。

このブログでは特定の事務所を批判する意図はありませんので具体的な名称等は差し控えますが、この事務所に関しては業界内での評判が芳しくないとの話をよく聞かされていたため、裁判所からも、こうした話が出てくるのだなぁと思わずにはいられませんでした。

それはともかく、この事務所に限らず、内実を必ずしも備えていないのに専門性を標榜ないし強調して顧客の勧誘をしている「看板に偽りあり」的な話は、現在の弁護士業界が抱える問題の1つと言ってよいのではないかと思います。

そもそも、「その仕事を、どのような弁護士に依頼するのが適切か」を決めるにあたって最も重要なことは、「その弁護士が、対象事件(の適正解決のため必要となる法律事務)を遂行するため、法律家として業界水準に照らし一般的以上の実力を備えているか否か」という点(その見極め)だと思いますが、対象事件を「専門」としているか(標榜しているか)は、その見極めにおいて、必ずしも決定的な役割を果たすわけではありません。

前提として「(弁護士の)専門」自体が、極めて曖昧、恣意的に用いられ易い言葉であり、例えば「その弁護士が、現に従事する時間総量の8割以上が、その事件類型に関する処理に占められている」のであれば、その類型を専門としていると評価してよいのではないかとは思います。

ただ、だからといって、様々な高度な論点が含まれ法律家としての総合的な実力が要求される複雑な事件を誰に依頼するかということを考えた場合に、「交通事故以外は一切受任しないと標榜しているが、経験や実績も不足し研鑽の端緒についたばかりの新人の弁護士」と、「交通事故に限らず、高度、複雑な論点を含む様々な事件を手がけて実績を挙げてきた、法律家としての実力の高いベテランの弁護士」とで、どちらが選ばれるかを考えれば、上記の意味での「専門」を問うことにどれだけの意味があるのかということは明らかだと思います。

とりわけ、弁護士(町弁)の業務は、様々な法律問題が背後で繋がっていることが多いなどの事情から、一部の分野を除き「専門」を過度に強調するのは適切ではありませんし、交渉技術など「分野に関係なく必要となる力」も多くあります。

私も、今も昔も、我が業界への知見の詳しくない方から「貴方の専門は何ですか」と聞かれることは多いのですが、「専門」を重視する必要がある事案は実際には限られている(或いは、他にも考慮すべき要素が多々ある)ということは、利用者サイドの健全な認識として、大事にしていただきたいと思います。

結論として、「この分野に経験、知見が深いのか知りたい」というものがあるのでしたら端的にその分野を明示して尋ねる方が賢明だと思います。

そうでなければ、現時点で取扱の多い分野だとか「売り」にしている、又は特に力を入れている分野があるかとか、特に実績や成果を上げた事件・分野としてどのようなものがあるかなどという形で聞いていただければよいのではと思います。

 

不在者財産管理人に関する予想外の展開と顛末

昨年、不動産の相続手続が数十年も滞った結果、当事者(相続人)が多数生じた状態で処理を余儀なくされた相続事件(遺産分割)で、当事者の中に所在不明の方がいるため、やむなく不在者財産管理人(民法25条)の申立を行ったことがありました。

そもそも、遺産分割は、相続分の譲渡等の方法で相続権を喪失(遺産分割の手続から離脱)した方を除き、法定相続人の全員が手続に参加しなければ、調停や審判を行うことができないため、所在不明の方がいれば、裁判所が、その方に代わって相続人としての権利行使等を担当する者(財産管理人)を選任して遺産分割を行うべきこととされています。

その事件では、対象不在者たるA氏の住所地(住民票で表示された場所)に手紙を送付しても一向に届かず、A氏のご家族に事情聴取しても所在不明との回答しか得られなかったため、当方が受任している遺産分割を行うために必要な限度で管理人を選任していただきたいという趣旨で、当方から申立を行ったものです。

すると、申立後、かなりしばらくして申立先の裁判所から「A氏が、法務省に照会したところ、法務省の管轄する施設に収容されていることが分かった。所在が判明したので不在者とは言えないから取り下げて欲しい」との連絡がありました。

もちろん、初耳の話でしたが、裁判所の調査である以上、やむを得ず申立は取り下げ、収容先を送達場所として遺産分割の調停を申し立て、最終的に、調停に代わる審判(家事事件手続法284条)により、A氏の出頭等を要しない形で審判を終えることができました。

なお、調停に代わる審判の形となったのは、膨大な数の相続人が生じていた関係で、A氏の具体的な相続権(評価額)もごく僅かなものであったことが影響しており(また、裁判所も審判前にA氏に手紙を送付しています)、施設収容者であれば常にそのような形になるとは言えませんので、その点はご留意下さい。

ところで、不在者財産管理人の選任の申立は、申立書の起案や添付資料の準備のほか、候補者の選定や報酬等を巡る調整、交渉など、色々と煩瑣な作業を伴いますので、無駄骨を折らされた身としては、正直、申立前に何らかの形で簡易に調査、照会できるシステムがあればと思わずにはいられませんでしたが、センシティブ情報という性質上、なかなか難しいだろうと思います。

もちろん、A氏のご家族がそのことを教えていただければ、弁護士法23条照会の利用もあり得たのだろうと思いますが、ご家族もご存知なかったのか、本当は知っていて教えていただけなかったのか、その点は今も分かりません。

ともあれ、「遺産分割が数十年も遅延し、多数の相続人(当初の相続人からの数次相続人)が生じるケース」では、関係者の方からご協力が得られず苦慮する場合のほか、関係者に様々な特異な事情があることが判明し、それに応じた特別な対応を余儀なくされることがあります。

そうした場合には、狭義の相続法とは別に、法律家としての総合的な実力を試されているような気持ちにさせられ、しんどさもありますが、ある意味、町弁としてのやり甲斐や面白さを感じることも多いように思われます。

 

養育費の裁判所算定表に関する増額論争とユニセフ

未成年者など扶養を要する子を養育中の夫婦が離婚する場合、養育を負担しない側(非親権者)は、養育を負担する側(親権者)に対し、夫婦の協議又は裁判所の審判で、子の養育費を支払わなければなりません。

そして、我が国では、裁判所が何年も前に基準表(父母双方の収支をもとに養育費の額を算定するもの)を公表しており、ほとんどの裁判官は、基準表による算定を原則とし、特段の事情がある場合に修正する取扱をしています。

ただ、この算定表については、算出される養育費が、債務者たる非親権者の収入と比較して低すぎるのではないか(特に、非親権者の収入がさほど多くない場合などでは、非親権者の側の生活費が優先され、子の方に、人として生存可能とは言えない金額しか支払われない方向で算定されてしまっているのではないか)という批判が、かなり以前から強く主張されています。

実際、私が取り扱った事件でも、親権者(お子さん)側の立場で仕事をする場合などで、そのように強く感じた経験もあり、債権回収の問題と含めて、議論の進展が待たれるところだと思っています。

これ関して、昨年12月25日の日経新聞の記事で、「ユニセフ(国連児童基金)等が公表した報告書で、日本は、先進31ヶ国のうち、子供の幸福度が6位となっている。但し、教育や日常生活上のリスクの低さが1位となっているのに対し、物質的豊かさは21位に止まっており、経済面で子供がしわ寄せを受けている実態が浮き彫りになった」と報道されていました。

この記事は、上記の「養育費の算定において、債務者(非親権者)の利益が優先され、子の養育費(利益確保)が蔑ろにされている」という批判とよく合致するもので、裁判所の算定表の増額を目指している方々におかれては、こうした調査結果も、ぜひ活用していただければよいのではと思いました。

養育費算定表を巡る議論に関心をお持ちの方は、こちらの記事(東京弁護士会の会員報)もご参照下さい。

 

乳幼児の窒息事故・無呼吸状態と保育園の賠償責任

登園時間中の園児が睡眠中に無呼吸状態となり、心肺停止の結果、死亡や重篤な障害が生じた場合に施設側の賠償責任の有無が問われた裁判例が、幾つか公表されています。

最近の例として、「未認可保育園で睡眠中の幼児X1(1歳2月)が、一時無呼吸状態となり、低酸素性虚血性脳症(障害等級1級)という重篤な後遺障害を残したため、X1及び両親X2・X3が、保育園の経営者Yに対し1億3000万円強の賠償を請求した例」が紹介されています(横浜地裁川崎支判H26.3.4判時2220-84)。

判決では、X1の心肺停止の原因は不明で、X側で主張した態様(窒息)とは認め難いこと、Yに保育上の注意義務違反や救護義務違反が認められないことを理由にXらの請求を全面的に棄却しています(但し、控訴中とのこと)。

解説によれば、乳幼児の窒息に関する前例の多くは、原因不明として保育士らの過失が否定されているものの、一部に乳幼児突然死症候群との医学的所見を排して保育士らの過失を認めた例もあるそうです。

予防こそが最も大切な事柄ではありますが、より深刻な事態を防止するためにも、保育事業に携わる方やお子さんを預けている方々に、保育上の事故や登園中の重篤な病気に関する裁判例を通じて、どのような状況下で事件が起きているか、事件が起きたとき関係者がどのように行動しているか、それらについて裁判所がどのように評価=賠償責任の有無等を判断しているか、学んでいただき、予防等に活かしていただく機会があってよいのではと感じています。

 

北東北は、「日本で最も弁護士が生きづらい地域」になったか

大阪の先生のブログ記事で、北東北三県(と福島)が、「昨年(25年)と5年前(21年)とで地裁が受理した事件数(誤解を恐れずに言えば「弁護士の仕事」)が全国で最も減っており、5年前の1/3~1/4のレベルまで落ち込んでいる」という統計情報が紹介されていました。
http://www.idea-law.jp/sakano/blog/archives/2014/07/03.html

この数字は、地元の人間(弁護士)としても、それなりに得心がいく数字です。もちろん、平成21年当時の特異な状況(過払訴訟特需というべき状況)の終焉が最大の要因だと思いますが、それ以外の民事訴訟(地裁管轄事件)が増えていないことも確かで(急減というのは言い過ぎの感があり、やや減という程度の表現が正しいかもしれません)、他方で弁護士の数は増えていますので、受任件数という点では、それなりに減っていると思います。

また、地裁事件以上に、倒産系(自己破産、管財、再生ほか。個人と企業の双方とも・特に後者)の方が、極端な急減になっていると感じます。これは全国的な話でもありますが、岩手の場合、平成20年前後における倒産事件の「最大母体」であった建設系の会社さん達が復興特需で劇的に回復されているため、全国以上に件数が減っているという面があると思います。

そんな訳で、当時の膨大な需要に対応するため人的・物的体制を整えていた(というか整備を余儀なくされた)当事務所の場合、その代償として、私一人で稼がなければならない運転資金の額が、地元の同世代の弁護士では恐らくトップクラスとなってしまい、震災を境に収益状況が極端な右肩下がりになり、現在は資金繰りに追われる日々という感は否めません。

ただ、当時は不思議なほどご縁が薄かった家事関係(夫婦、男女、親子、後見、相続など)の仕事が増えていますので(時給ベースで採算割れの仕事も多いですが)、それで何とか事務所(雇用)を維持しているという感じです。

それにしても、北東北三県は、統計上、「日本で一番人口減少が激しく、かつ日本で一番、自殺の多い地域」という不名誉な地位を拝受して久しく、言い換えれば、「日本で一番、生きるのが辛く(辛いと目され)、人々や社会に見捨てられる現実に直面している地域」ということになるのではないかと思います。

そうした社会の大きなうねりが、地裁事件の減少という面でも、日本で最も激しい落ち込みを示すという形で反映されていることを感じざるを得ませんし、そのことと、平成20年以前、北東北が長年に亘って「日本有数(最悪?)の弁護士過疎地域」と呼ばれていたことも併せて考えると、目眩がするというか、我々田舎の町弁も、極端に必要とされたり不要になったりと、社会状況の変動の激しさに翻弄されているという思いを禁じざるを得ません。

地元の弁護士会も、日弁連がなさっている様々な運動に関する下請作業も結構ですが、このような、北東北(や原発被害地・福島)が、日本で最も「弁護士が生きるのが辛い場所」になっているのかもしれないという現実から目を背けることなく、自分達の面前で起きている現象に対する健全な解決の実現という事柄に、もっとエネルギーを注いでいただければと思っています。

最近では「稼ぐインフラ」が地元で話題になっているので、弁護士会(の協同組合?)が特産品販売その他で稼いで会員に還元するなんて美味しい話もあってよいかもしれませんが、もともと商売っ気のない方々でしょうし、震災応援消費の時機も逸し、他力本願的な期待はすべきでないのでしょうね・・

ナベカヰくんとの再会を求めて

私の東京時代の勤務先事務所では、渡辺解体興業(現・ナベカヰ)という、解体業界最大手(だそうです)の会社さんの顧問をしていました。

私が平成12年4月に入社した際、最初に配点された仕事が同社の依頼による元請企業への請負代金請求訴訟(法的な論点が満載の事件でした)で、その後も、他の事件を含め、退職時まで幾つかの仕事の担当をさせていただいたことなどから、私にとっては、非常に思い入れのある会社さんです。

仕事上関わった方々も、真面目で職人気質な方が多く(一部、豪快な方もおられましたが)、ご相談も、「真面目さが裏目に出て、相手方に騙されたり他者間の紛争に巻き込まれたように見える事件」が多く、そうした意味でも、頑張り甲斐のある仕事を頂戴していたと記憶しています。

で、この会社さんですが、当時から、独自の自社キャラクターをデザインして様々なオリジナルグッズを作って取引先等に配布されており、私も、ナベカヰくんのマークが大々的に入ったタオル、文具、風呂桶など、様々なものをいただいて使っておりました。

残念ながら、市販は一切なさっていないそうなのですが、平成16年に東京を去った後も、ナベカヰくんへの愛着を捨てきれず、ネットでたまに検索するなどしています。

ちなみに、会社HPの紹介コーナーのほか、ブログで同じような投稿をされている方もおられますので、画像紹介ということで、引用いたします。
http://www.nabekai.co.jp/company/challenge/
http://tondemohappun.at.webry.info/200903/article_4.html
http://tondemohappun.at.webry.info/200711/article_4.html

ゆるキャラ全盛の時代になって久しいですが、彼らが登場する遙か以前から、知る人ぞ知るの存在であり、個人的には、同社関係者に働きかけて、いつの日か、メジャーデビューを考えていただければと思っています。

私の知る限り、岩手県内の会社などで、こうした愛らしい自社マスコットを作って企業イメージの向上等に活かしているという話は存じませんが、ぜひ、こうした取組は参考にしていただきたいところです。

ちなみに、この文章も、今も辛うじて手元に残った「ナベカヰくんバンダナ」を頭に巻いて入力した次第です。

 

弁護士による暴利行為の被害に遭わないために

最近の判例雑誌に、「交通事故の賠償手続などを受任した弁護士が依頼者から受領した金額が、受任業務の内容等に比して高額に過ぎる(暴利行為として公序良俗違反である)と認められ、一部の返還請求が認められた例」が載っていました(東京地判H25.9.11判時2219-73。要旨は以下のとおり)。

Xらは、子Aが交通事故で死亡し、XらはY弁護士に加害者への賠償請求等を依頼し、①相談料として5万円、②刑事告訴として100万円、③損賠請求の着手金として100万円、④自賠責請求報酬として255万円、以上の合計460万円を支払った。

その後、Yが提訴に難色を示したため、XらはYを解任し、上記の支払が暴利行為だとしてYに返還を求め、併せて慰謝料を請求した。Yは、Aの死亡が自殺(ゆえ、加害者への賠償請求が奏功しない)との疑いがあることなどが提訴に難色を示したもので、事故態様に争いがあることなどから既払金が不当に高額とは言えないとして請求を争った。

以上に対し、1審は④の自賠責報酬につき、100万円を超える部分を暴利行為として残金155万円の返還を認め、他の部分については棄却した。Xらの控訴に対し、2審は、③についてもYが訴訟提起に至っていないことから、50万円を超える部分を暴利とし、上記④を含め205万円の返還を命じた。

この事件はさておき、近時、噂話の類として、「東京などには、プロ(弁護士)の目から見れば、さしたる労力を投入しなくとも一定の成果が確実視されるなど、ごく簡単な事案なのに、あたかも成果獲得が非常に困難であり、それを、当該弁護士に依頼すれば実現させてあげるなどと吹聴して高額な報酬を請求する弁護士がおり、特に、刑事事件や交通事故、債務整理などに、その傾向が顕著である。そして、最近では、そうした弁護士が、広告宣伝などを通じて岩手など地方にも触手を伸ばしている」などと幾つかの方面から聞くことがあります。

具体的な紛争事案や問題事案を聞いたわけではなく、最近の業界の競争激化に伴う流言飛語の類もあり得るかもしれませんが、ここ数年の弁護士の激増に伴い、弁護士と依頼者との紛争が増えていることは間違いないと思います。

紹介した事件では、Yの主張によれば、Aの死亡に自殺の疑いがかけられ、それに起因して?Xらは警察等の対応に強い不満を持ち、Yに賠償請求だけでなく刑事告訴の委任もしているという事情があり、単純に「プロ(弁護士)の目から見れば、さほど手間のかからない簡単な案件」というわけではなく、むしろ、Y弁護士と依頼者Xとの間の意思疎通や争点への考え方の相違などに紛争の芽があったようです。

判決を見る限り、有効とされた部分の金額も決して少額とは言えませんが、裁判所は、そうした以上も考慮し、上記の判断に止めたものと思われます。

ただ、「ぼったくり事案」であれ「方針等を巡るトラブル事案」であれ、結局は、依頼者と弁護士との間に適切な意思疎通や信頼関係の構築がなされていないことが、紛争の根底にあることは間違いありません。

常にそこまで必要かはともかく、とりわけ、一般的には難易度が高いと見られる訴訟等を依頼するケースや、高額な金銭の授受が行われる(或いは想定される)ケースなどでは、相談・依頼先の弁護士に対し、適切に事実関係を説明し資料を提供することを前提に、見通しに関する丁寧な説明を受ける(求める)ことはもちろん、見通しや信頼関係の構築、費用の相当性などに多少なりとも不安を感じる点があれば、複数の弁護士に相談するなどして、相性的なことも含め、「自分が真に頼みたいと思える適切な弁護士を選ぶ」という姿勢を大切にしていただきたいと思います。

少なくとも、司法改革による弁護士の激増により、多くの方にとって、弁護士の選択権が増えた(これは、数年前までは、とりわけ地方では、ほとんど考えられなかったと言っても過言ではありません)ことは確かであり、そうした「チャンス」を上手に活かしていただきたいと思います。