北奥法律事務所

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復興特需に伴う労災の多発と安全配慮義務

岩手では、半年ほど前から、震災復興の関係で沿岸各地で大規模かつ大量に行われている各種の土木、建設関係の工事などで、労災事故が多発しているとの報道をよく見かけるようになりました。

ご紹介の記事にもあるように、沢山の工事が同時進行で行われているため、人手不足や工期などがタイトになり、その結果、個々の従事者が、過重労働を余儀なくされていることなどが、原因として挙げられているようです。
http://www.morioka-times.com/news/2014/1406/19/14061901.htm

ところで、労災=業務上の負傷、疾病等に該当すれば、労災保険から治療費や休業損害が支給されますが、労災に起因する損害の全てを填補するわけではなく、例えば、労災保険からは慰謝料が支給されることはありません。

しかし、雇用主等に何の落ち度もないというのであればまだしも、企業側が、労災を必然的に招かざるを得ないような過酷な労働環境を強いるなどという事情があれば、労災保険とは別に、企業側の責任を問うことができます。

すなわち、そのような事情がある場合には、雇用主等に、従業員に基本的な安全を確保した労働環境を提供する義務(安全配慮義務)の違反があるとして、労災保険では対象外である慰謝料なども含めて、賠償請求をすることができます。

ただ、少なくとも私に関しては、震災復興に関する業務の従事について労災保険の適用や企業への賠償責任の問題が生じたというご相談を受けたことは、まだありません。

この種のニュースは見落とさないようにしているつもりですが、報道でも、その種の訴訟が起きたという話は(少なくとも岩手県内では)聞いたことがありません。また、主に若手の先生が従事している沿岸部での無料相談事業について、弁護士会のMLで相談内容(テーマ)の情報が流れてくるのですが、そこでも、この種の相談を目にした記憶がありません。

この種の労災(安全配慮義務違反)の問題は、工事に関する事故に限らず、人手不足や被災地対応の高ストレスに伴う精神疾患や過労死、過労自殺などについても当てはまる話であり、以前に、沿岸部の自治体に派遣されていた公務員の方に関する痛ましいニュースもあったと思いますが、それらの問題で労災保険や安全配慮義務違反(雇用主側の賠償責任)を巡って県内で裁判等が生じたという話も、聞いた記憶がありません。

もちろん、訴訟等に至る以前に、適切に被害補償を受けるなどして解決されているというのであれば、特に申し上げることもないのですが、果たして、本当にそうなのか、疑問がないわけではありません。

震災を巡っては、闇雲に法律相談事業を立ち上げる一方で、本当に弁護士のフォローが必要な事柄に、ちっとも手が届いていない(その結果、復興予算の無駄遣い等が放置されるなどの問題が生じた)という話を色々と聞くこともあり、そうしたチグハグさを解消し、真に支援が必要な人々のために弁護士がお役に立てる機会が、もっと設けられて欲しいと感じています。

例えば、この種の問題について弁護士会が自治体や業界団体?などと提携し広報活動をしてもよいのではと思うのですが、万年窓際会員の身分では、何の影響力もなく、お恥ずかしい限りです。

地方の弁護士の横領事件に関する弁護士会の後始末と残された課題④

A氏事件(平成24年に発覚した盛岡市の某弁護士の横領事件)に関する投稿の4回目(完結編)です。

4 被害補償の問題

「弁護士の横領」に対し、現在、その被害を確実に填補する仕組みはないと思います。

この点、弁護士が、過失で依頼者に損害を及ぼした場合(一審敗訴判決を逆転できる見込みが十分にある事件の控訴を受任した弁護士が、提出期限を途過し敗訴を確定させてしまった場合が典型)には、大半の弁護士が加入している弁護士賠償保険の対象になり、保険会社から相当額の支払を受けることができます(幸い、現時点で私はお世話になったことがありません。他の先生のことは公刊の裁判例以外は知りませんが、岩手に移転し最初に保険に加入した際、これを扱っている保険代理店の方から、前年に管財絡みで県内で2件の支払例があったという話を聞いた記憶があります)。

しかし、横領は故意行為ですから、交通事故の保険と同じく、過誤を対象としている弁護士賠償保険の適用外となるはずです。

そして、横領事件を起こすような弁護士は、基本的には無資力であることが通例でしょうから、ほとんどの事案では、その弁護士の親族などが肩代わりするのでない限り、被害弁償は望めないということになるでしょう。

この点に関し、参考になる話を一つ、ご紹介したいと思います。

平成22年に日弁連の廃棄物部会で韓国の廃棄物法制を少しだけ勉強したことがあり、その際、韓国では「処理業者が不法投棄などをした場合に、原状回復費用を賄うための同業者による共済組合がある。韓国では、このような同業者共済に加入するか、保険会社による不法投棄保険(原状回復費用補償保険)に加入するか、いずれかをしないと廃棄物処理の仕事ができない仕組みになっている。もちろん、共済組合も保険会社も、原状回復費用の出費を極力抑えるため、加入する業者が不法投棄等をしないよう監査する仕組みを整えている。」という話を聞いたことがあります(ちなみに、日本の廃棄物処理法制には、このような仕組みは微塵もありません)。

運用実態などがよく分かりませんので、どこまで参考になるか分かりませんが、これを弁護士に当てはめれば、「弁護士として登録するためには、弁護士が横領をした際に被害弁償を賄うための共済組合に加入するか、横領被害を補償するための保険に加入するか、いずれかを選択しなければならず、かつ、弁護士は、加入先の組合や保険会社から、横領等をしていないか業務監査を受けることを受忍しなければならない」ということになると思います。

もちろん、このような話を今の業界が受け入れるはずもなく(予防策の項で書いたようにコスト負担の問題もあります)、現実的な話ではないというべきかもしれませんが、今後、横領その他の不祥事(顧客に被害が及ぶ事件等)が頻発すれば、こうした急進的が議論も力を増してくるかもしれません。

ただ、このような話になってくれば、少なくとも岩手弁護士会のような規模の小さな団体には手に負えるものではないでしょうから、そのときが、弁護士会という存在(牧歌的なものとしての弁護士会の単位会自治という文化)が終焉を迎える時ということになるのでしょう。

5 事件の引取等について

最後に、余談のような話ですが、ここまで書いてきた「予防・補償」の話は、情報開示の話を別とすれば、いずれも夢想ないし非現実的と見なされるような事柄なのだと思います。

そのため、抜本的な防止・補償策というものは存在しない状態が続きますので、その埋め合わせのような形で、今後も、今回の岩手弁護士会が選択したように、「加害者と同一商圏内で営業している同業者(弁護士)に、係属中の事件の無償引取を要請する」という話が出てくる(悪く言えば、この程度のことしかできない)のでしょう。

ただ、それは結局のところ、事件を引き取る弁護士の善意に依存せざるを得ませんので、個々の弁護士が経済的に窮すれば、私に配点されたように成果報酬は期待できる事件はまだしも、それも期待できない事件などは、引き取り手を見つけることができない方向に傾いていくのだと思いますし、業界全体がそのような方向に傾きつつあることは、否定しがたいと思います。

或いは、そうした完全無償案件などを引き取る弁護士のため、会員(弁護士)向けに一定の費用補償制度が設けられることもあり得るかもしれませんが、それはそれで、その原資をどのように賄うのか(会費で特別会計を作る?)といった問題があるのだろうと思います。

少なくとも、横領のような問題が全国で多く見られるようになってきたことも、業界が激動期であると共に一種の斜陽期であることの象徴的な姿と言わざるを得ないのでしょうから、そうした流れに負けないよう、自分でできることを地道に頑張っていきたいと思っています。

以上、大変な長文になってしまいましたが、一連の投稿をすべてご覧いただいた方には御礼申し上げると共に、問題意識を少しでも共有していただければ幸いです。

地方の弁護士の横領事件に関する弁護士会の後始末と残された課題③

A氏事件(平成24年に発覚した盛岡市の某弁護士の横領事件)に関する投稿の3回目です。

3 予防とそれに関連する問題

(1) 事件発生までのA氏の活動に関し私が知っていたこと

ところで、この種の問題は、被害回復という観点からは、横領事件が発覚した時点では手遅れである、或いは本人の親族等が被害弁償を拠出するのでない限り、被害弁償は期待できないことがほとんどだと思います。

その意味で、弁護士会というより各会員の横領問題を回避するための適切な措置について、実際の事案を踏まえて十分な検討がなされるべき必要があると思います(ネット公開されている岡山弁護士会の要約報告書は、事案の点もさることながら、この点でインパクトのある対策が説明されていないように思います)。

この点、分かりやすい方策の一つとして、会員に関する不祥事などのリスク情報の適切な管理と公表ということが考えられます。

そして、本件のA氏に関しては、私以外にも当時から既にご存知の方もいたのではないかと思いますが、A氏は、岩手に戻ってくる以前に、東京で問題のある弁護活動(代理人業務)を行ったとして、実名入りの書籍で取り上げられていたという話があります。

これは、ネット上でも簡単に検索できる話であり、ここで書籍名を記載するのは遠慮させていただきますが、要するに「医療過誤を理由とする損害賠償請求訴訟を、高額な着手金を得て被害者側で受任したが、ハードルの高そうな(容易には医療側の過失が認められないと見込まれる)事件なのに、これを遂行するだけの力量や弁護士としての誠実さを到底欠くのではないかと依頼者が強い疑念を感じる行動(代理人業務等)が多々あった」という内容になっていたと記憶しています。

私自身は、この書籍を刊行直後(A氏がまだ東京で執務していた時代)に購入して読んでおり、A氏の件は、書籍冒頭の非常にインパクトのある記事として取り上げられていましたので、A氏が盛岡に来て間もなく、「この人は、あの本で取り上げられた人ではないか」と気づいていました。

ただ、そうはいうものの、同業者のこうしたマイナス情報を他に言いふらすのもいかがなものかということで、私自身はこの話を誰にも話さなかったと記憶しています(妻には教えたかもしれませんが)。もちろん、殊更にA氏をかばったのではなく、そのような話を自分で言いふらすのが嫌だからというだけの話です。

その上で、A氏が上記の書籍どおりの人物なのか、その経験をバネに研鑽を積んで医療過誤に限らず大概の分野で適切な仕事をできるようになっているのか、見極める機会を持てればと思っていたのですが、残念ながら、直接対決(互いに原告又は被告の代理人として訴訟等で対決する立場)などA氏の仕事上の能力を見極める機会には恵まれませんでした。

余談ながら、私も岩手に戻って約10年になりますが、不思議なもので、A氏に限らず、未だに直接対決の機会に恵まれない先生は何人もいて、他方で何度も(5回以上)対決している先生も数名おられますので、こればかりは、ご縁ないし運としか言いようがありません。

ただ、連載の最初に記載したとおり、A氏が岩手に登録替えして間もない平成18~20年頃には、A氏には何度かお会いしたことがあります。登録直後の時期に、私の事務所に訪ねてきたこともあり、その際、岩手で自分の事務所を開設するための準備として、様々な事務所を訪問して経営に関する話を聞きたいと申し入れていると述べていました(私も、当事務所を開設した際の大まかな流れをお伝えしたはずです)。

正直なところ、その頃の大まかな印象としては、上記の書籍で描かれたA氏像を払拭するだけの「良い(優秀な)弁護士であるという印象」を持つことはできませんでしたが、予断でその種の心証を持つのは嫌ですので、とりあえず今後も注視しておこうと思ったことは覚えています。

A氏は、岩手に登録替えした当初、県内では大物弁護士として著名な某先生の事務所に1年近く所属し(勤務弁護士?)、その後(平成19~20年頃)、独立開業したとの記憶ですが、しばらくして、「A氏が、登記問題に力を入れたいと称して、自分の事務所に登記部門なるものを開設し、司法書士を勤務者として雇用している」という噂話を聞いたことがあります(大筋で実話と聞いています)。

その際、私自身は、そんな需要があるのか(殊更に司法書士ではなく弁護士に様々な登記事務を依頼したいなどという依頼者がどれほどいるというのか)大いに疑問に感じ(少なくとも、私は、そのような経験をしたことがほとんどありません)、単純に「弁護士と司法書士の共同事務所」というのであれば、まあ理解できる話ではあるけれど、A氏に、そうした(自分がボス的な立場であることを前提とした)共同事務所を経営していくだけの力量、センスが十分に備わっているのだろうかと、僭越ながら感じてはいました。

ただ、私も、A氏と懇意にしていたわけではありませんし(年齢差も大きい上、私の性格からしても、殊更に相談も受けていないのに厳しいコメントを他者にしていくようなキャラではありません)、上記のとおり平成20年頃を過ぎてからはお会いする機会もなく、接点のない状態が続きました。

その後、平成23年半ば頃に、交通事故の損害賠償事件で、A氏が被害者側代理人、私が加害者側(その頃ご紹介をいただいて事件をお引き受けするようになった某損保会社さん)の代理人として、対峙した事件(示談交渉)がありました。

それは、馬鹿馬鹿しい話なのですが、事故や被害者の方の損害は相当に軽微で損害算定上の論点もない事件で、損保側(当方)ではA氏が提示した金額を受け入れる判断をし、A氏にも伝えていたのですが、本筋とは離れた些細な話(感情的なこと)でA氏が気分を害して損保側からの連絡に応じないといった話があり、それで、弁護士が窓口となればすぐに応じるだろうということで、私に依頼があったものです。

そのため、私が通知してすぐに和解がまとまったのですが、その際、A氏が本筋と離れたところで損保側に感情的な不満を述べるFAXを私に送信してきたことがあり、何だかなぁと思ったのを覚えています。

後にも先にも、私がA氏と「直接対決」(というほどの事件ではありませんが)したのは、この1件だけとなりました。

(2) 不祥事予防策としての弁護士の情報開示など

で、何のために、こうした昔話を延々と書いてきたかといいますと、A氏に事件を依頼し高額な金員を預託した「業務上横領事件の被害者」や、本件では私のように着手金ゼロで事件の引継ぎを受けたにせよ、このような弁護士会の取組がなければ、着手金被害(他の弁護士に再依頼するための着手金等の二重負担)を受けていたはずの方々は、恐らく、A氏に関する弁護士としての情報をほとんど知らないまま依頼をしていたのではないか(仮に、A氏に関する様々な情報を知っていれば、依頼をせず、結果として被害を受けなかったのではないか)ということです。

少なくとも、私が、弁護士に何らかの仕事を依頼しなければならない立場になった場合は、その弁護士(例えばA氏)は、どのような経歴等の持ち主か、弁護士としてどの程度の力量の持ち主か、どのような事件の取扱が多いか、標榜している得意分野があるか、仮にあるとして、その標榜は内実が伴っているか、経営や健康その他の私的問題など依頼した業務を完遂できなくなるリスクを抱えているということはないかなどとという、自分の仕事を任せるに足る総合的な力量を備えているかどうかを推し量るための様々な情報を欲する(可能な限り、その情報を収集した上で、依頼する弁護士の方を選定したい)と思います。

この点、業務上横領などという事件(犯罪)は、一朝一夕に起こるものではなく、様々な予兆、積み重ねがあって生じるものであることは間違いありません。そして、典型例というべき、企業・団体の役員、従業員が横領事件を起こすケースでは、往々にして、企業等の責任者側(被害財産の適正な管理に責任を持つべき立場の者やその補助の責任を持つ者)の意識(責任感)が乏しく、横領をした行為者に対し、その立場、地位に相応しくない態様で、長期間に亘って財産管理を丸投げしている例が少なくないため、酷な言い方をすれば、被害の発生は自業自得だと言わざるを得ない一面があります。

これに対し、弁護士(町弁)の横領の場合、個々の依頼者とは長期的な関係ではないことがほとんどであるため、最後に依頼した方々がババ(貧乏くじ)を引いたという面が濃厚に生じます(だからこそ、これを放置するのは弁護士というシステムに対する信頼問題に直結すると思います)。

もちろん、「弁護士であれば誰でもよいという大甘?な考えは持たず、自分の頭で様々な情報を収集、分析し、安心して依頼できる弁護士をシビアに選択しようとする人」であれば、横領を開始していた時期のA氏のような弁護士には依頼しない(何か不審な点を感じて依頼を取りやめる)といったことになるとは思います。

しかし、そのように弁護士を値踏みして選定する方は、以前はごく一部しか存在しなかったと思いますし、その点は、少し前までの弁護士業界の特性とそれに対する世間的な感覚(長年に亘り供給数を絞り込んできたことによる恒常的な弁護士不足=選択の余地が乏しいこと、これと裏腹の、業界全体の信頼感の高さ=弁護士であれば誰でも、(特殊な分野を別とすれば)ある程度以上の仕事はしてくれるはずだし、まして、不合理な理由で受任仕事を放り投げることもないはずだという感覚)から、やむを得ないというか、当たり前といってよい面があります(何より、弁護士の側にそうした信頼を守っていく不断の努力が求められていることは、申すまでもありません)。

また、A氏のような例は、今も、業界人の一般的な感覚として「生じるはずのない話」ですし、岩手で前代未聞であることはもちろん、私も情報通とは言えませんが、正直言って、少なくとも若い世代を含めて現在の会員の方々を見る限り、今後30年以上は岩手で同じ事件が起こることはないと思います(というか、信じたいです)。

ただ、最近も他県では若い世代を含め、この種の事件が発覚しているという現実もあり、A氏のような弁護士が一定程度存在し、かつ、横領の被害に対する抜本的な救済制度が設けられていない(次号参照)という現実がある以上、自分が貧乏くじを引かないようにするためには、弁護士への目利き力を高める(最低限、その意識を持つ)ことしかありません。

そして、(決して万能ではありませんし、迂遠な方法かもしれませんが)予防のための利用者側の目利き力を高めるという観点から現実的に可能な路線としては、個々の弁護士が、もっと自身について適切な方法で情報開示を行う(そうすべきだという文化を創り上げていく)ことが、望ましいのではないかと思っています。

少なくとも、弁護士であれば、誰もが司法試験の勉強を通じて「表現の自由や知る権利は民主政の内実を高めるため必要不可欠(政治的意思決定のための適切な情報の流通の確保が、適切な決定を担保する)」ということを勉強しているはずですが、肝心の司法業界(弁護士に限らず)自体が、このような「表現の自由と知る権利」の充実化におよそ熱心であったとは言えず、未だ、この論考で述べているような観点から個々の弁護士や業界全体に関する適切な情報開示等のシステムないし文化を創っていこうという動きは見られないと思います。

敢えて言えば、個々の弁護士のHPやブログなどは、見苦しい誇大宣伝的なものや、自己満足のグタグタ記事ばかりのものも無いわけではありませんが(などと言うとブーメランになりそうですが)、コンテンツを作成する個々の弁護士の人柄や力量などが一定程度、感じ取れるものにはなっているものも増えていますので、そうしたものについては、一種の情報開示的な機能を果たしていると思いますし、当事務所のHPも、そのような観点を含めて作成しているつもりです(多忙等を理由に色々な意味で中途半端ではありますが)。

また、弁護士自身ではなく、第三者の評価的な文化がもっと醸成されるべきではないかとも感じており、できれば、悪口的なものばかりが目立ちやすい匿名投稿の口コミサイトのようなものではなく、ミシュランガイドのような?世間的にも一定の信頼感をもって受け入れられる精度の高い第三者評価の仕組みが、町弁業界にも出来上がってくればよいのではと思っています。

もちろん、特に若い世代に言えることですが、個々の弁護士の能力やコンディション等は時の経過で大きく異なってきますので、一定の時点の評価などが一人歩きしないような工夫ないし配慮も必要なのだとは思いますが。

ともあれ、究極的には、そうしたものを通じて、個々の弁護士が、自身が現に接している依頼者だけでなく、世間全体が自分の仕事ぶりを見ているのだという緊張感を持って仕事をしていくことが、不祥事を抑止する一つの方法になりうるかもしれません(もちろん、これが強調されすぎると一種の監視社会になりうるわけで、バランス感覚が問われるでしょうが)。

(3) 弁護士のメンタル上の疾患に対する対処

次に、不祥事防止という観点から、本件との関係で特に強調されるべき点として、いわゆるメンタル面の問題があると思います。

A氏の刑事事件に関する報道では、A氏がメンタル面で病気を抱えていたという趣旨の報道があったと記憶しています。今だから言えることなのかもしれませんが、正直なところ、その点は違和感がありませんでした。

私が接する機会があった平成18~20年頃のことは分かりませんが、その頃から精神的にタフな方ではないという印象は持っていましたし、前述の書籍の存在をA氏自身がご存知であれば(たぶん、ご存知だったと思います)、正直、弁護士としては(弁護士を続けていくには)非常に辛いものがありますので、「もともと(弁護士は様々なストレスを抱えやすい仕事でありながら)精神的にタフではない上に、過去の不祥事による負荷を抱えていた」などの点で、通常よりは精神的な健康を害しやすい面はあったと思います。

また、A氏のプライベートなことはほとんど存じませんし、私が聞いた範囲のこともここで書くべきではないでしょうが、私が聞いた限りで、そうした負荷を和らげるなど精神面で支えてくれる方の存在に、あまり恵まれていなかったのではと感じるところはあります。

まして、A氏は基本的な部分で真面目な(或いは、ある種の臆病さを持った)方と認識していましたので、そのような方がこの種の行為に及ぶこと自体、メンタル面の問題を抱えていたことは間違いないと思います。

ところで、我々だけがというつもりはありませんが、弁護士の仕事は、ただでさえ傭兵(喧嘩商売)のような面がある上に、紛争を抱えて一杯一杯の(普段と違って余裕がなく神経質等になっている)精神状態の方をはじめ、コミュニケーションに様々な問題を抱えた方との接触を余儀なくされることが日常茶飯事で、そのような方に対し法的な事柄を説明したり、それを前提とした一定の行動等を求めなければならないこと、仕事自体のプレッシャーなども時に相当強いものがあることなどから、比較的、ストレスを感じることが多いタイプの仕事であることは否定しがたいと思います。

その上、ご承知のとおり、現在の弁護士業界は、(横領に限らず)町弁として生き残ることができない層が一定程度出現することが確実視されている、大競争時代に突入していますので、少なからぬ弁護士が、業務上のストレスと、経営上(弁護士としての存続上)のストレスの双方を抱えています。

そのため、ストレスが昂じて精神面の健康を害し、横領以外を含め、結局は何らかの形で依頼者にも迷惑をかけるという弁護士が、今後ますます増えてくることは、相応に予測されると言わざるを得ないと思います。

特に私が危惧しているのは自殺の問題(とりわけ比較的若い世代の弁護士に関する事務所の経営難を苦とする自殺)であり、この点については私は統計的なものは何も存じませんが、噂話の類では、そうしたものが増加傾向にあるという話を聞いたことがあるような気もしています。

この種の問題はとてもデリケートですので、私も軽々にものを言えませんが、少なくとも、業界内に、そうした問題を二重三重にフォローできる仕組みがあればと思わないでもありません。

少し話が飛躍しますが、こうした問題は、「弁護士大増員時代では、大事務所などに就職しない普通の弁護士も、これまでのような自分の事務所を構えるような伝統的な町弁とは異なった生き方を模索していかなければならない」という話と繋がった事柄だと感じますし、そうしたことも視野に入れながら、業界の未来像や個々の弁護士の行く末などを考えていくべきではないかと思います。

(4) 預かり金の調査など

ところで、「横領」という問題に限って言えば、端的に、弁護士が預かり金を依頼者の承諾がない限り出金できないような仕組みを作ってしまえば、確実に防ぐことができるのではないかと思います。

そのため、例えば、弁護士が預かり金口座から出金する場合には、インターネットバンキングを経由し、かつ、資金移動の際に、依頼者にその旨が通知(メール等)され、依頼者が予め登録した所定のパスワードを入力するなどして、はじめて出金ができるような仕組み(要するに、預かり金の関係者やその利害を代弁できる第三者の認証を必要とする仕組み)を作ることができれば、一挙解決になるのではないかと思います(なお、ネットバンキングができない人は、依頼者と一緒に窓口で手続するなど本人の了解が確認ができなければ出金できないものとすればよいのではと思います)。

ただ、以前にこのことをfacebookで投稿した際、高度・専門的な金融法務に従事されている先生から、無理筋ではないかとのコメントをいただいたような記憶がありますので、今の技術では夢想レベルの話なのかもしれません。

なお、最近では、公認会計士の方に預かり金の管理の適正につき監査を受け、それをHPで公表している法律事務所も登場しています。当事務所も、そこまでやるべきなのかもしれませんが、残念ながら、そのようなことに高額な経費を投入できるだけの高収益を望めない状況が続いており、恐らくは業界に浸透するということもないでしょう(少なくとも、依頼者側がそのコストの転嫁を受け入れるような状況にはないと思います)。

その他、弁護士会その他の第三者が預かり金の抜き打ち調査(強制調査)をすることなども考えられるかもしれませんが、少なくとも現時点では、そのような仕組みを導入する(業界が受け入れる)素地はないと思います。

要するに、横領を完全に抑止できる抜本的な予防策というのは、あまり期待できないのではというのが、現在の率直な印象です。

(以下、次号)

地方の弁護士の横領事件に関する弁護士会の後始末と残された課題②

A氏事件(平成24年に発覚した盛岡市の某弁護士の横領事件)に関する投稿の第2回です。

2 事件の検証と民事上の責任に関する問題

(1) 検証について

前回、「A氏事件(平成24年に発覚した盛岡市の某弁護士の横領事件)に関する岩手弁護士会の事後処理」について、私が関与した限りでの事情を書きました。

ただ、私の知る限り、岩手弁護士会が、A氏事件の概要を調査して一般向けに公表したとか、それを踏まえた弁護士会の対応などを検証したとかいう話は聞いたことがなく、恐らく、そのような作業はなされていないと思われます。

この点、岡山県でも平成24年に弁護士が多数の依頼者から巨額の預かり金を横領して逮捕等された事件が起きているのですが、その事件では、岡山弁護士会は「事件の概要を調査し、弁護士会の対応に問題がなかったかを検証し、弁護士会としての再発防止の手段を検討した報告書」を作成し、公表(概要版だそうですが)しています。
www.okaben.or.jp/images/topics/1367305574/1367305574_4.pdf

なお、弁護士の横領事件は、私の知っている範囲でも4カ所以上の都府県で発覚していますが、検証報告書が存在する(ネット上で公開されている)のは岡山の事件のみです。他の事件でご存知という方は、お知らせいただければ幸いです。

岡山事件の報告書は私もざっと目を通しましたが、報告書の内容自体の評価(痒いところに手が届いているのか)はさておき、こうした作業が行われたこと自体は、肯定的に捉えた方がよいのではないかと思います。

今や、行政の対応で様々な問題が生じたとき(主に、巨額の税金が不良債権化した場合)には、「第三者検証」が行われるのが通例になっていますので、弁護士会も、他人の活動にあれこれ文句(意見書等)を書く暇があるのなら、まずは身内の不祥事に対するケジメとして、横領事件の概要調査や検証等に関する報告書くらいは出すべきなのでは(そうでなければ、弁護士自治などと標榜しても笑われるのでは)と思わないでもありません。

ただ、そうは言っても、弁護士会は実質的には一個の企業ではなく同業者の集まりでしかありませんので、岩手会のような小規模会でボランティア必至で膨大な検証等の作業を行えというのは、自身の事務所の運転資金の確保という問題に直面していない(そうしたことを気にせずに会務等に専心できる)一部の恵まれた?方々を別とすれば、引き受けるのは相当に勇気のいる事柄と言わざるを得ないところがあります。

そこで、例えば、日弁連の嘱託弁護士(日弁連の特定の事務等のため短期間、日弁連に採用され給与の支払を受けている弁護士)が、横領等の不祥事の調査検証に限らず、小規模弁護士会の様々な問題について取り扱うという仕組みがあってもよいのかもしれません。

この点は、「弁護士自治」ならぬ「各県の弁護士会(単位会)の日弁連からの自治(地方自治風に言えば、単位会の日弁連からの団体自治)」という問題と密接に関わる話ですので、軽々に物を言うべきではないかもしれません(要するに、単位会内部の問題を、上部団体たる日弁連に依存することを積み重ねれば、単位会の弁護士会としての意思決定権が、徐々に日弁連に奪われていくことになるのではないかという話です)。

脱線しますが、私自身は、こうした問題を通じて、単位会ないしその会員マジョリティは、徐々に「単位会の自治」を捨てる(捨てたい)方向に進むのではないかなどと感じずにはいられないところがあります。

こうした議論(問題意識)は、小林正啓先生が、アディーレ法律事務所が単位会を提訴した件について触れた投稿(H26.5.9)で示唆されており、関心のある方は、そちらもご覧いただければと思います(花水木法律事務所ブログ。引用が上手くいかないので、ご自身で検索願います)。

(2) 民事上の責任について(債権者からの破産申立)

ところで、ここまで「第三者検証」の話ばかり書きましたが、「弁護士の横領事件」では、よりストレートに当該弁護士の責任を問い、併せて事実を極力明らかにする、もう一つの手段があるはずです。

言うまでもなく、当該弁護士(A氏)の破産手続(による管財人のA氏に対する資産、負債その他の関連事項の調査)です。

この点、A氏自身が破産手続を申し立て、適切な予納金(管財人の報酬原資)を裁判所に入金してくれればよいのですが、事件発覚時に無資力となっていれば、そのようなことは期待できず、現に、今回の件でもA氏(の代理人)は自己破産の申立をしていません。

このような場合に、債権者(ないしその関係者)がA氏の資産や負債の状況や倒産に至る経緯などを詳細に調べて欲しいと欲するのであれば、債権者が自らA氏の破産を申し立てる方法(債権者破産)が考えられます。

ただ、債権者破産(の申立)は、裁判所から、自己破産よりも遙かに高額な予納金を求められるのが昔からの通例となっています。債権者にとっては申立代理人費用に加えてさらにそのような費用の負担を求められるのでは、ただでさえ酷い目にあっているのに、さらに二重被害を被るようなもので、本件のような場合には、非常に使い勝手の悪い制度と言わざるを得ないところがあります。

そこで、例えば、「弁護士の横領事件」については、弁護士会(地元単位会)が落とし前をつけるということで、弁護士有志が債権者(被害者)の協力を得て無報酬で申立をし、管財人も、相当の回収金があれば適切な報酬を支払うが、財団形成ができなければ無報酬も辞さないという方で、かつ、事案の解明と情報を含めた配当を実現するため徹底した努力を行う人材を弁護士会が推薦し、裁判所が選任することができればよいのではと思います。このような慣行ができれば、債権者破産が実現しやすくなることは確かです。

なお、管財人が無報酬を余儀なくされた事案では、弁護士会が何らかの形で若干の「ご苦労さん賃」を支払う(当該事件の調査費等の名目で)ことも考えるべきではないかと思います。

少なくとも、無報酬を美徳とするような考えが蔓延すると、自営業者集団の組織として存続できるわけがなく、そのような考えを過度に強調すべきではありません。

破産手続が開始されれば、管財人は、破産者(対象債務者)の財産や負債等を可能な限り調査し、これを債権者集会で報告しますので、何もしない状態が続くよりは、この手続を活かす道を考えてよいのではと思います。

(以下、次号)

地方の弁護士の横領事件に関する弁護士会の後始末と残された課題①

平成24年に岩手県盛岡市で活動する某弁護士が顧客からの預かり金を横領した事件が発覚し、逮捕・起訴されて実刑判決を受け、弁護士会からも除名処分を受けるという報道があったことは、覚えている方も少なくないと思います。

私の知る限り、当時の岩手弁護士会の会長の方の記者会見などの報道を別とすれば、地元の弁護士が、この件でコメント等することはほとんどなかったと思いますし、事件の詳細な調査や検証が行われて対外的に公表されるなどということもなかったはずです。

既に2年も前の事件として風化している面は否定しがたいとは思いますが、だからこそ、敢えて、この件について少し書いてみたいと思います。

なお、当事者たる元弁護士の方とは、5年以上お会いしていませんが、平成18~20年頃(横領行為より何年も前)には何度か接点があり、面識のあった方ということもありますので、以下では、「A氏」(イニシャルではありません)と表示させていただきます。

今回は大長文なので、先に目次を書いておきます。また、4回に分けて掲載させていただきます。また、以下で「弁護士会」と表示するのは、基本的に岩手弁護士会を指しますので、ご留意下さい。

1 事件に対する岩手弁護士会の取り組みと当事務所の関わり(今回)
2 検証と民事上の責任に関する問題(第2回)
3 予防とそれに関連する問題(第3回)
4 被害補償の問題(第4回)
5 事件の引取等について(第4回)

1 事件に対する岩手弁護士会の取り組みと当事務所の関わり

(1) 岩手弁護士会による「A氏の受任事件」の他弁への引取要請

まず、前提として「A氏の事件」は、要するに、当時、弁護士事務所を経営していたA氏が、事務所経営に行き詰まったことなどから、数千万円にも及ぶ依頼者からの預かり金(報道によれば、遺言執行や破産申立のため預かったもの)を着服(口座から引き出して私的な用途に費消し返還もしなかった)したとして、平成24年に逮捕、起訴され有罪判決を受けた事件です。

なお、A氏は、弁護士としては20年以上の経験年数があるはずで、平成18年頃に東京から岩手に登録替えしています。

私は、当時も今も弁護士会の役職等とは無縁の「末端の万年窓際ヒラ会員」ですので、当時の弁護士会の内部的な協議等については何も存じませんが、少なくとも、岩手弁護士会では、A氏の除名処分のほか、事件発覚と同時にA氏が業務を停止したことに伴い、A氏が携わっていた事件を引き継ぐ弁護士の斡旋等を行っていることは間違いありません。

この点につき少し詳しく書くと、私の記憶もやや曖昧なのですが、被害者が弁護士会に被害相談をして間もなく、A氏が業務を停止した状態になり、弁護士会では、副会長の一人(以下「B先生」といいます。)をこの件の担当者として全体像の把握など幾つかの対応を開始しています。

そして「業務停止(受任業務の放棄)の状態に陥ったA氏が受任している他の事件(横領問題により続行不能を余儀なくされた事件を除いた他の事件)について、弁護士会が後任者を斡旋すること」が決定され、ほどなく、私も後任者の一人としてB先生から連絡(受任要請)がありました。

私が受任した事件は、親族間の紛争に関する事件(1件のみ)で、私に配点(引取要請)がなされた時点で、「調停が不調に終わり、訴訟を提起しなければならないが、訴状の作成などは一切行われていない状態」でした(なお、その件では最終的に2個の訴訟が必要となりました)。

A氏は、その事件の依頼主から着手金として相当の金額を受領しており、調停が1回?で不調になったことから、訴訟の着手金を含む金額として受け取ったものと認められる額でした。

A氏の受領額は、事案や類型に照らせば、相場の範囲の額で、事案のボリュームからはやや安いとっても良い額ですが、引継資料として交付された手控えなどから、A氏は、そのボリューム(事案が抱えている厄介な論点等)を理解していなかったのでは(そのため、その程度の額の請求に止めていたのではないか)とも推測されました。

ともあれ、A氏は事件発覚の時点で無資力とのことで、1円も引継はなく、B先生が、他の事件を含めA氏側(A氏の代理人?)から引き継いだという若干の資料が交付されたのみで、要するに「着手金ゼロ円で、訴状作成段階から(要するに一から)スタートする」という形で、引き継ぎをしたことになります(但し、実費だけは依頼主に拠出いただきました)。

まあ、訴状が変な内容であれば、それを引き継いで尻拭いに負われるより、訴状作成段階から自分で全部を手がける方が楽というべきかもしれません。

なお、B先生が送ってきたFAXの中で、当時、B先生が配点(引継要請)を行った盛岡市内の弁護士全員に送付した文書があり、それには、送信先として10名強の弁護士が表示されていました。

ですので、仮に、これが「A氏の引継先の全員」で、かつ、1人あたり1件の配点に止まっていたのであれば(この点は誰にも聞いておらず存じません)、A氏について引き継ぎがなされた事件(=A氏が業務停止した時点でA氏が受任しており、他の弁護士に引き継ぐことができる又は引き継ぐべき状態にあった事件)は、僅か10件強程度に止まっていたということになります。

当時、当事務所では、数十件(恐らくトータルで50件~100件程度)の受任事件があり、内訳は、私が作業の大半を行うプロパー案件(本格訴訟など)が概算で30件前後、それ以外に、私が大枠の方針等を依頼主と協議して事務作業の大半を事務局が担うもの(主に個人の債務整理)が数十件(事務局が一人あたり手持ち事件で常時10件以上)程度はありました(余談ながら、平成20年前後は債務整理特需のピーク期+弁護士過疎の影響で、これよりも遙かに多くの手持ち案件がありました。残念ながら、今は、高利金融問題の終焉+倒産の劇的減少+弁護士の大増員+首都圏の弁護士の宣伝攻勢などに起因して、債務整理の受任はごく僅かになりましたが)。

そのため、仮に、A氏の破綻当時の受任件数が十数件程度だったとすれば、およそ事務所経営は困難ではないかと感じたのを覚えています。

(2) 当事務所の引継事件の対応と採算

ともあれ、当事務所では、B先生から引継要請(ご紹介)のあった方について訴訟提起し、1年半以上の期間をかけ(着手金ゼロで、2つの訴訟と2回の尋問を行いました)、最終的には、裁判所の和解勧告をベースにした和解で解決(終了)しました。

当方の主張が概ね容れられた論点もあれば退けられた論点もあり、依頼主にとって全面的に満足できるものではなかったかもしれませんが、膨大な労力を投入したこともあり、私の仕事にはご満足いただけたようです。

ちなみに、「着手金ゼロ」ですが成果報酬はゼロではありませんので、事案の内容など諸般の事情を斟酌し、その種の紛争に一般的(相場的)な成果報酬を頂戴しています。もちろん「着手金部分の上乗せ」はしていませんので、その分、採算性の悪い仕事をしたことになります。

余談ついでに言えば、私は、採算性の確認のため、プロパー案件はタイムチャージ事案でなくとも時間簿を作成しているのですが、その仕事は、上記の事情や和解条項の詰めなど様々な対応を余儀なくされ、当事務所の採算ライン(私の時給2万円)を大幅に下回るものとなりました。

この点は、依頼主が希望していた難しい論点で勝利し、それに基づく高額な金員を相手方から回収できれば、労働に見合った報酬を頂戴できたかもしれませんが、その点が叶わなかったことによる面が大きいため、A氏には関係ない話ではありますが。

私としては、依頼主が「最初に頼んだ弁護士が、(別の方との関係とはいえ)横領事件を起こして逮捕等され、着手金を支払った直後に業務停止に陥った(実費も二重払させられた)」というマイナス状態からスタートしていた上、私も「着手金ゼロだから手抜き仕事をしているのでは」などとは思われたくなかったこと、事件自体に法的検討を要する論点が多数あった(その点で、熱意を喚起された面があった)ことから、上記のような経過を辿ったという次第です。

ちなみに、私の知る限り、B先生とは事件の配点と資料等の引継ぎだけの関わりで、その後、事件処理等に関して照会等を受けたことはなく、恐らく、引継ぎ後の個々の弁護士の対応までは弁護士会としては関知しない(個々の弁護士の一般の受任事件と同じ)という対応をとったものと思われます。

ですので、私以外の方が引き継いだ事件がどのような内容で、どのように処理・解決されたかということは、私は一切存じません。

ひょっとしたら、筋の悪い(敗訴必至の)事件で、かつ訴状すら作成されていないという訴訟を配点され、全面敗訴で完全タダ働きをした方もおられるかもしれませんが、事実関係を一切把握していませんので不明です。

(以下、次号)

 

「憲法週間相談」の今昔と一斉無料相談事業の賞味期限

岩手弁護士会では、毎年5月初旬に、大きな会場を借りて一斉無料相談をしています。憲法記念日(5月3日)に因んで「憲法週間相談」と称し、10年以上前から行っており、参加する弁護士数も多く、岩手の「弁護士無料相談事業」としては老舗の1つと言ってよいと思います。

地元のTV番組にも必ず取り上げられており、私も一瞬だけ登場しています(一人でパソコンの画面を仏頂面で見ている姿が映っており、その際、この文章を書いていたことは言うまでもありません)。
http://www.nhk.or.jp/lnews/morioka/6043440661.html?t=1398941550993

この事業は、裁判所も後援している(盛岡地裁に看板も立ちます)ため全国一斉の企画ではないかと思われますが、私が東京で働いていた時期(平成12~16年)には聞いたことがなく、その点はよく分かりません。

なお、参加する弁護士には日当は一切出ませんが、代わりに弁護士会から昼食代が支給されています。

私は、ほぼ毎年参加しているのですが、この事業も最近の相談事業一般に言われているのと同様、ここ数年は「参加する弁護士(供給)は増える一方だが、来場者(需要)は減る一方」という状態が続いています。

今年は、10時に来て12時過ぎまで参加しましたが、午前の部は20人近くの弁護士が参加しているところ、私が来た時点で相談者は弁護士数の半分程度しか来場していませんでした。

早く会場に来た弁護士の順に相談者を配点している(らしい)のですが、私のところまでは相談者の方が廻って来ず、内職で時間を空費して終わるかと思っていたところ、終了間際に配点があり、1人だけ会場に残ってその方に対応する羽目になりました(ゼロよりはましですが)。

ちなみに、去年(25年)の相談会も2時間で配点は1人だけ、その前年(24年)は2人程度との記憶です。

平成17~20年頃は、参加弁護士(現在の約半分)の数倍の相談者が来場し、私も「はい次!はい次!」の野戦病院状態でしたので、ここ数年の業界環境の激変を、こうした光景にも感じざるを得ないものとなっています。

この原因(特に、需要減少の原因)については、社会現象としてのクレサラ問題の終焉(+これに代わる大口需要の不存在)や弁護士激増と各種広告などによる多チャンネル化(他の相談窓口等の拡大)などが挙げられますが、既に多くの方が十分に認識されているでしょうから、殊更に書くほどの話ではありません。

ただ、「大広間での一斉無料相談事業の参加者減少」については、もう一つの要因を考えてもよいのではないかと思われます。

すなわち、「一斉相談」のため、大広間に向かい合わせの机と椅子を多数並べ、一方に弁護士、他方に相談者が座って相談する(応じる)というスタイルになっているのですが、聞き耳を立てる人がいるとは考えにくいものの、少なくとも相談者の姿は周囲に丸見えとなってしまいます。

中身は書けませんが、私が配点された案件も、すでに相手方に代理人が付いていた上に、その代理人が会場のすぐ近くに鎮座していたという案件でした(実際に会ったことはないとのことでしたが、さすがに、気づいた時点でヒソヒソ+記号会話モードにしています)。

少し前までの「おおらかな時代」ならまだしも、こうしたオープンな空間で相談を受けることを嫌がる(個室での相談を希望する)方は、確実に増えているのだろうと思いますし、弁護士会が設営する相談会が上記のようなリスクを内包すること自体、今や批判の対象になりうるのではと思わないでもありません。

ただ、事務局等に、事前に個室かどうか照会があったか、大広間の空間を見て嫌がって帰った人がいるか等について聞いたわけではありませんので、統計的なこととして説明できるわけではありませんが。

私も、ここ数年は、もう参加は止めようかと思いつつ、営業に苦戦している今どきの町弁の1人として、お役に立てるよい出会いがあればとささやかながら期待して、生き恥を晒しているというのが正直なところです。

弁護士会も、参加弁護士数を絞る(或いは予備戦力として事務所待機とする)などした上で、相談ブースを仕切るなどの工夫をしてもよいのではと思うのですが、一旦始めた(長く続いている)ことを止められない(縮小もできない)のは、役所だけの話ではないということなのかもしれません。

「ひっつみ」に関する照会とお願い

ひっつみについて、溶き卵をかけて提供している(選択制=トッピングも含め)お店がないか、ご存じの方はご教示いただければ幸いです。また、ひっつみを提供している飲食店の方(検討中を含め)がおられれば、ぜひ、上記の点をご検討いただきたいものです。

「ひっつみ」と言われてピンと来ない方のために書きますが、ひっつみとは、岩手県央部から青森県東南部(いわゆる南部地方)の郷土料理の一つで、大雑把に言えば、すいとんの豪華版とでもいうような料理です。

私の実家では、ひっつみを溶き卵でとじて食べるのですが、どういうわけか、岩手県内のどこのお店に行っても、ひっつみを卵でとじて食べる店に巡り会えません。私は、ひっつみは、絶対に卵とじをした方が、美味しいと確信します。

また、私の実家では、ひっつみは、巨大まな板で透けて見えるほど薄く延ばしてちぎって鍋に入れるのですが、どこのお店に行っても、薄く延ばさずにちぎった状態(やや団子状)で鍋に入れてしまいます。しかし、ひっつみの食感やのど越しは、可能な限り薄く延ばした方が遙かに良く、どうしてどのお店も薄く延ばさないのか、理解できません。

味付けは好みの問題かもしれませんが、この点も、お店で食べたもので実家よりも美味いと感じた記憶がありません。

というわけで、ひっつみに関しては、私の実家に優ると思えるお店をついぞ見つけることができません。ひっつみは南部地方にしかないので、結局、我が実家は「宇宙一ィィィィィのひっつみ」ということになります。

ご参考までに以前に実家で撮影した写真(見た目はイマイチでしょうけど)を添付します。これと「ひっつみ」で検索した画像群とを比べていただければ、「卵とじをしたひっつみと、そうでないもの」との見た目の違い(見た目の良さの点はさておき)が分かると思います。

このような理由から、私は母に、酒屋を閉めて蔵を改装し郷土食レストランでもやったらどうかと何年も前から勧めてきたのですが、やる気なしとのことで、やむなく、妻に私の実家の料理を覚えて貰い、北上川を臨むリバーサイドに郷土料理のレストランを開店して欲しいなどと夢想したりもします。

が、もとより無駄な期待でしょうから、母のレシピを承継する方が実家の方に早く登場して欲しいと願うばかりなのですが、こればかりは、ため息の毎日というほかありません。

2012121513220000

Kさんの訃報

先日、同い年の友人であるKさんが、就寝中の突然死と思われる急な病気で亡くなられるという知らせに接しました。

Kさんとは、私が盛岡に転居後、ほどなく入会した団体で知り合い、同い年の上に職場も近所で、皆から慕われる気さくで丁寧なKさんの人柄もあって、すぐに仲良くなり、仕事上も、ささやかながらお世話になっていました(当事務所の備品の一部をKさんの会社にお願いしていました)。

その他、述べればきりがありませんが、私にとっては同い年の大切な仲良しの一人を亡くしたもので、痛恨というほかありません。Kさんは数年前に結婚し、小さいお子さんもいますので、ご家族はもちろん、何よりご本人にとって、無念この上ないことと思います。

Kさんとは、上記の所属団体の関係で、年に数回、懇親会などでお会いする機会がありましたが、Kさんが、お父さんの経営する会社で補佐をしており(ほどなく継承予定だったと思われます)、Kさんの奥様が他社に勤務されている関係で、Kさんとしては、いずれは奥様に会社の経営を支えて欲しいと思っていること、ただ、勤務先から戦力として重宝され、奥様もやり甲斐を感じているので、辞めて欲しいというわけにもいかず、開業時から一緒に働いている私達夫婦を羨ましく感じていることを、何度も聞かされていました(その都度、私は「隣の芝生は青く見えるものですよ」と返答していましたが)。

その他、お子さんのことなども含め、色々とお話を伺っており、私にとっては、私達夫婦の双方と面識がある盛岡ではごく僅かな方の一人でもあり、いずれ家族づきあい的なこともできる機会があればと思っていただけに、本当に残念で残念でなりません。

私はお通夜と葬儀に出席しましたが、眠っているのと変わらない状態で、心なしか微笑を浮かべているようにも見え、安らかに旅立ったのだろうと感じたことが、せめてもの救いなのかもしれません。

Kさんは、久保田利伸のパフォーマンスが得意(名人芸の域)で、華やかな雰囲気がありました。それだけに、まるで桜が満開となる日を選んだようにして旅立つのは、いかにもKさんらしいと思わずにいられない反面、そんな舞台を用意する位なら老醜を晒してでも生き続けるべきだというのが、皆の正直な気持ちだと思います。

Kさんのご冥福と、ご遺族に神仏そしてKさんのご加護のあらんことを、心よりお祈り申し上げます。

1、2年前にも、司法研修所で一緒に勉強し、個人的にも親しくさせていただいた同級生・同世代の2人の弁護士の方の訃報に相次いで接しましたが、同世代の親しい友人、お世話になった方の訃報には、とりわけ心が痛みます。

どんな事情があったにせよ、長生きして欲しかったと思いますし、残された面々は、敢えて、そうした気持ちを強く持ち、それと共に何かを社会に残していかなければならないとも思っています。

不貞行為の相手方の慰謝料

前回(不貞行為を巡る問題)の続きです。

配偶者が第三者と性的な関係(不貞行為)を持った場合、原則として不貞の相手方は、他方配偶者(被害配偶者)に対し慰謝料支払義務を負うことが、実務上認められています。

例外として、①関係を持ったのが夫婦関係の破綻後である場合、②関係を持った相手(加害配偶者)が婚姻中であったことを知らず、かつ知らなかったことに過失がない場合には、慰謝料支払義務を負わないと考えられています(①は違法性ないし利益侵害がなく、②は故意過失がないので、それぞれ不法行為責任の要件を満たさないため)。

「破綻」と言えるかは、前回述べたとおり、相当長期間の別居などある程度限られた事実関係がないと裁判所は認定に慎重だと思われます。

ただ、破綻とまでは言えなくとも、過去の不貞などにより夫婦関係が相当に形骸化していた場合などは、慰謝料も抑制的になる可能性があります。

特に、加害配偶者の過去の不貞で被害配偶者が相当な慰謝料を回収した後、さらに加害配偶者が再度の不貞に及んだという場合には、再度の不貞に高額な慰謝料を認める(さらに、それが繰り返される)のは、社会通念上、相当に疑義があるところです(一種の金儲けになりかねません)。そうした特殊事情があるケースで、慰謝料を抑制した裁判例があり、私自身、それに類する例を取り扱ったことがあります。

加害配偶者と不貞相手がそれぞれ被害配偶者に負担する慰謝料等の賠償義務は、原則として連帯債務(不真正連帯債務)とするのが現在の裁判所の主流です。そのため、例えば、夫Y1の不倫を理由に妻Xが夫と不倫相手Y2に慰謝料請求する場合、「Y1は300万円、Y2は200万円の慰謝料義務。但し、200万円の範囲で両名は連帯債務」という趣旨の判決をするのが一般的と言えます(もちろん、金額の算定は事案次第)。

この場合に、Y2がXに200万円を支払った場合、Y2はY1に対し「200万円の一部は、貴方が負担すべきなのだから、私に払いなさい」と請求(求償)することが考えられます。この場合、双方の関係の内容(帰責性の程度など)により求償の金額が定められることになり、例えば、終始、対等な関係であったなら50%ずつとか、Y1の方が積極的に持ちかけてY2がやむなく応じたような場合であればY1の方が負担割合が大きいなどといった判断があり得ると思われます。

ただ、この点に関しては、上記の「現在の実務の主流派」とは別に、「不貞相手の慰謝料義務を、加害配偶者との連帯責任とはせず、金額も抑制的に算定する立場」もあります。上記の例で言えば、夫Y1はXに250万円、Y2は50万円の債務に止めるとか、Y1だけは50万円の範囲でY2と連帯責任とする(Y1に対する認容額は300万円とする)という判決がなされることがあります。

この点は、学説上の対立があり、裁判所の考え方も統一されていないようですが、私が以前に調べた範囲では、伝統的には連帯責任(冒頭のパターン)とする方が主流派で、個別責任(少額賠償)は少数派ではないかと感じます。

ただ、この点も、事案によりけりという面があり、例えば、配偶者男性が知人女性と強姦まがいのように関係を持ち、その後も男性側が支配的、抑圧的な態度で女性と関係を続け、女性はそれにあらがうことが困難だった、というようなケースであれば、主流派の立場でも、妻がその女性に請求しうる慰謝料を相当に抑制する(場合によってはゼロ又はほとんど認めない)ということになるはずです(当然、そのような裁判例があります)。

不貞行為を理由とする離婚や慰謝料については、被害側・加害側いずれの立場からも多数のご相談・ご依頼を受けてきましたが、とりわけ震災から1、2年ほどは、不思議なほどこの種の事件のご依頼が多くありました(私だけではなかったようで、ネットでも弁護士の方の同種の発言を見かけたことがあります)。

当時、「震災で家族の絆が深まった」などと美談的な報道をよく見かけたような気もするのですが、良くも悪くも、震災を機に「自分の気持ち(或いは欲望?)に正直に生きたい」という人が増えているのかと思ったりしたものです。また、震災は、いわゆる高利金融問題の収束(高金利貸付の廃止=18%化の定着期)とほぼ重なっており、高金利で苦しめられることのない社会の到来と共に、そうした出来事が新たに増えてくるのだろうかと思わないでもありませんでした。

最近は、「夫からのハラスメント(嫌がらせ的な対応)」を理由とする(主張する)案件が増えていて、不貞を理由とするものと半々といった印象があります。

男女系の紛争に携わる弁護士としては、基本となる事実関係(離婚や慰謝料の評価の核となる事実関係)については、なるべく争いのない状態にしていただき、周縁的な事情にはあまりこだわらず、法的な主張をしっかり行って、法的な判断(弁護士のアドバイス又は裁判所の勧告等)を踏まえて、大人としての賢明な対応を、関係者それぞれにとっていただければと思っています。

不貞行為と離婚及び慰謝料について

離婚に関する紛争で弁護士が関わるものとして最も多い類型(離婚原因)は、不貞行為(不倫)が絡むものではないかと思われます。

不貞の有無は、時に争われることもありますので、その点について慎重を期したい方は、交際の状況を調査して証拠化(尾行写真や報告書)することが望ましいと言えますが、ご自身で行うのは難儀でしょうし、探偵に依頼すると非常に高額な費用を要しますので、この点(立証準備)をどこまでやるかは、常に悩ましさが伴います。

探偵費用については、私が依頼者の方から伺った話では、調査期間が長期に及んで三ケタ(100万円以上)になったという例もありますが、それを相手方(配偶者や不貞相手)に請求できるかという問題がありますので、非常に高額な費用を用いることには慎重な姿勢が求められるのではないかと思われます。

ちなみに、「探偵に配偶者の不倫調査を依頼したところ、その探偵から、不倫相手に慰謝料請求を行うことまで持ちかけられ、これに応じたところ、探偵が不倫相手に不相当に高額な慰謝料を要求し、それが原因で事態が紛糾した例」に接したことがあります。

今はあまり聞かなくなりましたが、かつては、探偵が不倫相手を脅して一般相場を大きく上回る高額な慰謝料を支払わせ、自身も高額な報酬を得ようとする例が報道されたことがあり(「別れさせ屋」などと呼ばれています)、弁護士法72条違反等はもちろん、事案によっては、配偶者自身が、恐喝その他の共犯という扱いにされかねませんので、「調査」以上のことを探偵に求めることのないよう、ご注意いただきたいものです(仮に、そのようなことを提案された場合、それだけで違法行為に手を染めている業者である疑いがあると考えた方がよいと思います)。

不貞行為に関しては、発覚時などに念書を提出させる例もよく見かけます。その際には、具体的な時期、頻度、当事者の特定情報(氏名、住所等)はもちろん、交際の詳細、不貞の場所など、なるべく事実関係の詳細な記載を求める(場合により、後日に裏付け調査ができる程度に事実の特定を求める)のが賢明かもしれません。

ご夫婦が破綻状態にある場合には、その後に異性と性的関係を持っても「違法な不貞行為」とは見なされず、賠償責任の対象にならず、この点が訴訟の争点となることはしばしば見られます。

ただ、破綻というためには、長期の別居など、ある程度の客観的な事実が必要で、「仲が悪かったが同居はしていた(家庭内別居)」というのでは、裁判所は破綻性の認定には消極的です。

余談ですが、何年も前、ある相談会の担当日に「夫が、行きつけの飲み屋の女性と懇意になった」と相談されてきた同世代のご婦人がいて、配偶者のお名前を伺ったところ、少し前に、ある機会に知り合った方だったということが判明し、仰天したことがあります。

その際は、配偶者の方とまたお会いする可能性が相当にあったので、相手方の立場での受任は差し控えさせていただきましたが、とても感じのよい奥様で、ご主人も基本的には立派な方と認識していましたので、このような方を悲しませるのはけしからんということで、この種の問題に熱心に取り組むであろう何人かの先生のお名前をお伝えして、私からは終了とさせていただきました(結局、その後、ご主人ともお会いする機会がなく、ご夫婦がどうなかったのか全くわかりません)。

現在のところ、面識のある方について、この種のご相談に接したのは、後にも先にもこの一度だけですが、知り合いの方でこのようなご相談を受けると、心底滅入ってしまいますので(とりわけ男女系の紛争は、相談を受ける側も、色々な割り切りをしないと気持ちが持たない面があります)、二度となければというのが正直なところです。

次回は、不貞行為の相手方の慰謝料について、少し補足して書いてみたいと思います。