北奥法律事務所

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盛岡と2つの福岡の三角関係

先日知ったのですが、福岡市に「旧日本生命九州支店」という文化財があるそうで、その外観は、盛岡市の岩手銀行旧本店と非常によく似ています。
http://bunkazai.city.fukuoka.lg.jp/cultural_properties/detail/51
http://www.iwatebank.co.jp/restroom/legacy/nakano/index2.html

ご存知の方も多いとは思いますが、これらの建物は明治の著名建築家・辰野金吾の設計によるもので、我が国には辰野式と呼ばれる、同種のデザイン(色遣い)の建物が幾つかあります。

それはさておき、同じルーツのよく似た建物を持っている都市同士ということで、この話題を起点に、福岡市と盛岡市が何らかの交流を図ってもよいのではと思いますが、そのような話が過去にあったかは存じておらず、前例がないのでしたら、どなたか考えていただければと思わないでもありません。

とりわけ、両市は、古くは江戸時代初期に、栗山大膳という人物(「軍師官兵衛」で登場する腹心・栗山善助の子)を介して関わりがありますので(黒田官兵衛の現存する唯一の兜が、栗山大膳を経て盛岡南部家に寄贈され、現在は盛岡歴史文化館=盛岡市が所有しているそうです)、そうした話を色々と集めて、両市民の関心を高める工夫をしても良いのではと思います。

私は残念ながらまだ福岡市には行ったことがないのですが、福岡市には、北東北三県のアンテナショップがあるとのことですので、例えば、そうした店舗に、上記のような「福岡市等と共通する話題」を集めたコーナーを常設するなどしてもよいのかもしれません。

ところで、以前も書いたかもしれませんが、盛岡の実質的な創設者というべき南部信直公は、当初は青森県田子町の領主で、その後、岩手県二戸市を舞台とする南部家の跡目争い(秀吉・家康連合軍が絡んだ大戦争)に勝利し、その際、一旦は二戸を本拠とし、その地を「福岡」と名付けた後、浅野長政の勧めで移転し、移転先の地(不来方)を「盛岡」と名付けたと言われています。

福岡市の方は、黒田長政が関ヶ原の勝利で筑前を拝領した際、黒田家の実質的な発祥地である備前(岡山)東部の福岡という街(名称の成立は平安~鎌倉期とのこと。刀剣の名産地だそうです)に因んで名付けたそうですが(wiki情報)、果たして、岩手の方の「福岡・盛岡」の命名の由来に、そちらの福岡が何らかの形で関わっていなかったのだろうかと想像を膨らませてみるのも、歴史の一つの楽しみ方かもしれません(残念ながら?奥州征服軍のメンバーには、黒田父子は含まれていないようですが)。

廃れゆく第三者検証と田舎弁護士

「大雪りばぁねっと」事件では、岩手県が山田町に多額の補助金(税金)を支出した(のに回収不能となった)関係で、補助金の支出に関わった県の対応に違法不当な面がなかったか検証する趣旨の委員会が行われ、先日、報告書が出されましたが、「県の対応は一概に不適切とまでは言い難い」等の検証結果に対し、県議会では検証不十分との批判の声があがったというの報道がなされています。http://www.nhk.or.jp/lnews/morioka/6045634511.html?t=1393991536424 http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/iwate/news/20140304-OYT8T01513.htm

「第三者検証」については、平成11年頃に発覚した岩手青森県境不法投棄事件の際、当時の増田知事の指示で県の対応を検証する第三者委員会が設けられており、これは、「第三者検証」としては初期に作成されたもの(恐らく、第三者検証がその後に流行するきっかけとなったものの一つ)と思われます。

その際は地元の大ベテランの弁護士の方が委員長となり、我が国の環境系の行政法学者の第一人者の一人である北村喜宣教授が委員の一人として大鉈を振るったとも聞いており、この事件では岩手県は被害者という色合いが強いものでありながら最後の時期の県の対応には権限行使(許可処分)について違法な点があったと断言するという点で、画期的と目された検証報告書が提出されています。

その後も岩手県では、競馬場問題など幾つかの県の政策課題で第三者検証委員会が行われていますが、私の知る限り、報道で大きく取り上げられたとか県政に相当な影響を及ぼしたという話は聞いたことはありません。

私は、県境事件の検証報告書のほか、その後に公表された幾つかの報告書も見ていますが、県境事件に比べると、あまり踏み込んだ検討をしていないという印象を受けた記憶があります(釜石の鵜住居センターの報告書はまだ拝見していませんが、相当に膨大なものだと聞いており、地元の気鋭の弁護士さんも関わっているため、例外に属するのかもしれません)。

全国的に見ても「第三者検証」が期待はずれと言われることも少なくないようで、現在は「第三者検証」ブームの廃れ?に伴い、検証に関する取組も、徐々に低調になっているように思われます。

今回の「りばぁねっとへの補助金の検証」では、過半数が県職員で、外部者は県内の大学の先生お二人だけとのことですが、その布陣に止まったのも、低調な潮流の流れの一環と理解した方が賢明なのかもしれません。

ちなみに、山田町による検証報告書(こちらも地元のベテランの弁護士の方が委員をされています)もネットで概要版が公表されていますが、実務家としては、「補助金受領者の対応の検証」や「行政対応の検証」を目的とするのであれば、個人名は伏せるにせよ、受領者や関係職員等の具体的な作為・不作為を抽出し、それらに関わる法令・規則等も明らかにして、前者が後者に抵触しないかについて具体的に論及するような内容にした方がよいのではと思わないでもありませんでした(それがないと、何となく、行政の政策や執行のあり方に関する抽象的な見解に述べているに過ぎないように見えてしまいます)。http://www.town.yamada.iwate.jp/osirase/daisansha-iinkai/houkoku-gaiyou.pdf

もちろん、関係者の法的責任の有無の解明を目的とするか否かという前提の問題はありますし、私自身、検証のあるべき姿についてさほど心得があるわけでもありませんので、個々の作業に関し偉そうなことを言うつもりはありませんが(なお、通常は検証結果をもとに職員に対する懲戒等の処分をするはずなので、少なくとも、行政の担当者の作為・不作為(法適用等)が関係法令に合致したものと言えるかについて具体的な検討をする内容でなければ、やる意味がないのではと思いますが、その点の実情はどうなのでしょうか)。

ところで、弁護士会には「弁政連」という政治家の方への陳情等を目的とした別働隊のような団体があり、私も、名ばかり(昼飯穀潰し要員)ですが入っています。

岩手では「日弁連の偉い方々が掲げている憲法や人権云々の大きな話(集団的自衛権反対など)について、岩手の代議士や県議に陳情せよ」との指令?に基づき、年に1回くらい、議員さん達と懇談会をして、そうした話をしています。

ただ、そうした事柄もいいのですが、個人的には、個々の弁護士にも議員さん達一人一人にもさほどの影響力がない上記のような「大きすぎる話」ばかりでなく、陳情する側もされる側も一定以上の影響力を直ちに行使できる地元固有の事柄に、もっと力を注いだ方がよいのではないかと思わざるを得ないところがあります。

例えば、県議さんに対し、「県内で起こった、税金(県税)の使い道に関する大きな事件・問題の検証については、県職員や学者さんばかりに任せるのではなく、事実の調査や分析等に研鑽を積んだ(又は積む意欲のある)地元の若い弁護士に機会を与えて欲しい。(りばぁ事件のニュースで)県の幹部の方に、『県議自身が、検証委員は県職員で良いと選んだのだから、報告書を見て検証委員が県職員だから身内に甘くてダメだなんでいうのは間違っている』と言われるくらいなら、その方がマシではないですか」といった陳情をしてもよいのでは、と思わないでもありません。

とはいうものの、私が余計なことを口にしても皆さんに嫌な顔をされるだけなのだろうなぁと思って、会議・会合の類では毎度ながら貝になってしまうのがお恥ずかしい現実です。

個人的には、可能なら、岩手県に絡んで作成された過去数年ないし十数年の第三者検証委員会報告書を全部集めて、法律家の立場から、それらの精度を検証するような(いわば第三者検証ランキングのような)レポートを、意欲のある弁護士が作成して公表してもよいのではと思わないでもありませんし、私もそうした試みに関わってみたいという気持ちがないわけではありません(まあ、岩手弁護士会については、以前に身内で起きた大事件の検証もしていないじゃないかと言われそうな気もしますが)。

ただ、私自身、今や業界不況の真っ直中のせいか、事務所の運転資金のための労働と兼業主夫業で精一杯というお寒い現実があり、大言壮語を吐く資格が微塵もない有様で、ただただ嘆くほかありません。

少なくとも、「第三者検証なんて何の意味もないね、やっぱり警察に捕まえて貰うしかないじゃないか」という形で世論がまとまるのであれば、民主主義を標榜する社会としては寂しい限りというほかなく、関係者の奮起と国民・住民一般の後押しを期待したいところです。

追記(3/6)

この投稿をfacebookで紹介したところ、「友達の友達」である学者の先生から、預り金の信託に関する判例(最判H14.1.17及び最判H15.6.12)の紹介がありました。

私自身、十分に咀嚼できていませんが、例えば、自治体(金員交付者)がNPO法人(金員受領者)と信託契約を締結し、交付金を他の財産と区別して管理させる(特定の口座に預金させ目的外の預金払戻等もさせない)ことを徹底しておけば、仮に、法人が倒産しても、その交付金(預金)が特定され保全されていれば、破産の効果(総債権者による差押)が及ばず(信託法23条?)、取戻権のように全額を自治体が返還請求できるということもありうるかもしれません(後者の判決の補足意見参照)。ただ、信託は残念ながらご縁がなくほとんど勉強もしていませんので、まだ思いつきレベルです。

まあ、今回(りばぁ事件)は、自治体側の監視等の不行届が著しそうなので、そのような話をする前提すら欠いているということになるかもしれませんが、少なくとも、自治体が補助金を交付する例に限らず、預り金なども含め、返還の可能性を伴う高額な前払金を交付する場合には、信託的手法の活用も意識すべきことになるのかもしれません。

 

保険金請求と免責(不正請求=故意行為)の抗弁

ここ数年の判例雑誌によく取り上げられる分野の一つに、保険金の不正請求紛争があります。

これは、保険金請求に対し、保険会社が、保険金の発生事由(保険事故)が契約者・被保険者側の故意により惹き起こされたものであるとして、免責を主張し、その当否が争われた事件であり、生命保険・火災保険(建築物等の保険)・車両保険などで問題となります。

最近では、「産廃処理業者の関係者Xが、所有車両の転倒を理由に保険会社Yに750万円弱を請求したが、経営者Aの指示で運転者Bが行った故意の横転だと認定し、保険金請求を棄却した例」などがあります(神戸地裁姫路支部平成25年5月29日判決判例タイムズ1396号102頁)。

私がデータベースにまとめているものだけを見ると、車両保険に関する紛争が一番多く、保険事故の類型も、盗難・破損・水没など多岐に亘っており、火災保険に関する紛争もこれに次ぐ多さになっています。

何年も前に、交通事故で亡くなった方について、生命保険金を請求できるか(自死か過失事故か)、できるとして誰ができるか(受取人たる権利を有するのは相続放棄をした法定相続人か、それとも相続財産管理人か)が争われた事件を担当したことがあります。

ただ、私自身に関しては、それ以外に、免責事由(故意に発生させた損害かどうか)が争点となった保険金請求のご相談を受けたことはありません。

これまで収録した裁判例を見ても、大都市(東京・横浜・大阪・福岡・広島)がほとんどで、北日本を舞台とする事件を見たことがないのですが、地域性が関係しているのか否かまでは分かりません。

この種の訴訟は、原則として保険会社に立証責任があり、裏を返せば、よほど立証に自信がある場合に限って支払拒否をして判決に至ることが多いと思われ、判例雑誌に掲載されるものも、ほとんどは契約者(原告)が敗訴した例となっています。

「故意か否か」は、直接的な証拠がないことが通常であり、沢山の間接事実を総合して判断することになるため、事実認定(立証)の勉強という意味でも参考になり、この種の紛争のご相談等があれば、いずれ判例集を読み返すなどしてみたいと思っています。

 

若手弁護士の尋問風景と反省の日々

少し前にあった民事訴訟の尋問の際、相手方代理人の当方依頼者に対する反対尋問で、若干驚かされた一幕がありました。

相手方代理人が、尋問の最後に、自身の依頼者が希望する和解案を述べた上で「貴方は受け入れるか」と言い出し、当方依頼者がそれに応じられないと返答すると「どうして受け入れないのか」と糾弾し始めたのです。

尋問は、自己の主張を基礎付ける事実や、相手方の主張の信用性を疑わせる事実を当事者の言葉や態度で語って貰うための場であって、尋問を受ける者に自己(質問者)の見解への同意を求めたり、証人が述べる意見が自分の意にそぐわない場合に自分の見解を前提にして証人の意見そのものを頭ごなしに糾弾することを認めるような場ではありません。

ですので、事案解明の性質上、やむを得ない場合を除き、証人に対立意見をぶつけるだけの尋問は異議の対象となり、裁判官に制止されます。当事者の主張が事実に反するとか不当だと考える場合には、その主張を支える事実の信用性を疑わせる事実関係を質問して認めさせるべきというのが、反対尋問のあるべき姿です。

そうした理由から、私自身は、反対尋問では、敵対証人(相手方本人)を厳しい口調で糾弾するのではなく、ニコニコと紳士的な態度で質問しながら、ご自分に都合の悪い(争点に関する自己の主張の信用性を自ら否定する)事実だけははっきりと述べて(認めて)いただく(或いは、都合の悪い質問に対する見苦しい悪あがきを裁判官に見ていただく)、というのが理想的な形だと思っています(だからこそ、質問そのものの質が問われるわけですが)。

ともあれ、私は、これまでの経験から、筋の悪い尋問に対しては、代理人が異議を連発するよりも裁判官の指揮に委ねた方が賢明と考えており、あまり異議を述べる方ではないのですが、さすがに今回は酷いと思って上記の糾弾を始めた時点で異議を述べ、裁判官もそんな尋問は駄目だと相手方代理人を制止しました。

結局、その事件は和解はせず判決を受ける方向で事前に協議していたこともあり、先方の要求には応じるつもりがないことだけは依頼者の口から語っていただき、それ以上の尋問はご容赦願いました。

もちろん、このようなやりとりは、尋問としては何の意義も見出せません(相手方代理人は、自分の提案を当方依頼者が承諾しないこと自体から、裁判官の当方への心証が悪くなるとでも考えたのでしょうか?)。

もともと、異議の対象となる尋問は、それ自体が、裁判官の心証を悪くするだけの逆効果にしかならないものであることが多く、そのような面も見越して敢えて異議を出さずに様子見とすることもありますし、さほど見かけるわけでもありません。

一般的に、尋問で異議をしなければならない(用心をすべき)のは、タチの悪い相手方代理人が、誤導尋問(誤った事実等を前提に証人を混乱・勘違いさせ、証人自身にとって本意ではない言葉を言わせようする、アンフェアな尋問)をする場合で、海千山千のベテラン弁護士の中には、そのような意地悪をする人もいるため、相手方代理人がそうした方のときは、割と注意するようにはしています。

ただ、今回は私よりもかなり若い(経験年数の少ない)代理人で、これまで若い代理人が相対したときには、尋問のルールは概ね遵守する人が多かった上、尋問の内容自体がある意味、あまりにも大胆な破り方という面もあって、いささか呆気にとられ、迅速に異議を出し損ねてしまいました。

その場では、あまり相手方代理人を責めずに穏当(気弱?)な対応で済ませてしまったのですが、後で考えたら、相手方代理人が尋問に名を借りて、当方依頼者に事件の決着方法そのものについて見解を問うたり意見を求めたりするのは、私(当方依頼者の代理人たる弁護士)を介さずに当事者本人と交渉しようとするもので、弁護士職務基本規程52条違反なのではないか?と思わざるを得ません(しかも、それを代理人の面前で行おうとするのですから、呆気にとられてしまう面があります)。

ですので、「和解案に応じないのか」という質問の時点で、「貴方がやろうとしていることは、尋問として不相当なばかりか懲戒請求ものだ、そのことを分かって質問しているのか」と相手方代理人に抗議して、質問自体を止めさせるべきだったと反省せざるを得ないというのが正直なところです(まあ、今回は結論がはっきりしていたからという面が大きかったのですが)。

また、少し前に携わった別の事件でも、別の若い代理人が、支払能力が問題となっている関係当事者(私の依頼者ではない方)に対し、「貴方は支払うと言っているが、どうやって支払うのか、支払原資(送金主)や調達時期を具体的に答えよ」と執拗に尋問するのを目にしたことがありました。

その事件では、事案の性質上、そのような尋問が出てくるのもやむを得ないと思いつつも、事件の争点に関する事実を尋ねる質問ではなく、そうした質問は財産開示手続ですべきもので、私のように尋問のルールに従順でありたいと思う小心者には躊躇されるなぁと感じるところがありました(反面、その件は、その方に支払能力があれば一挙に解決するため、判決を待たずに財産開示を簡易に求める制度があれば、私も気兼ねなく上記のような追及ができるのにとは思いましたが)。

以前は、変な尋問をするのはベテランの一部という思い込みがあったのですが、司法改革云々の影響か否はさておき、若い弁護士の尋問にも、およそ予想もしていない形態の、異議の対象とすべき尋問が飛び出してくる可能性があるということで、気をつけなければと思った次第です。

私は尋問に苦手意識が強く、今も尋問のたびに反省するような日々ですが、尋問の力が伸びないと書面作成の力も伸びず、一方だけで法律家として大成することはあり得ませんので、老若関係なく、他の弁護士の尋問も教師又は反面教師にしながら、今後も地道に研鑽を続けたいと思います。

 

カーリング日本代表とヤカーリング

岩手限定のネタで恐縮ですが、本州で一番寒いとされている盛岡市(旧・玉山村)の山中にある岩洞湖では、毎年この時期に「すがフェスタ」というイベントをやっており、例えば、ヤカンを湖上(氷上)で転がす「ヤカーリング」なるものをやっているのだそうです(引用記事は去年のものです)。
http://morioka.keizai.biz/headline/1269/ 

私はまだ行ったことがなく、深夜に少しばかりカーリングの五輪中継を拝見したこともあり、今年こそはと思っていたのですが(但し、氷上ガリガリ君はJCで懲りたので遠慮します)、残念ながら、主催者側の高齢化や人手不足により(超過疎地帯です)、今年は不開催になったと、今日の岩手日報に書いてありました。

 

ちなみに、そのすぐ近くの記事には、「カーリング日本代表の苫米地選手(二戸出身)が、カーリングを始め、競技生活を続けてこれたのは、長野五輪の頃に二戸の青年会議所のメンバーが二戸でカーリングの振興を立ち上げ、支えてきたからだ」という趣旨の記載がありました。

 
旧玉山村は、盛岡と合併してから、「玉山牛」がいつの間にか「盛岡牛」になったりして、何となく地域のブランド価値やアイデンティティの維持に苦労しているような感があり(実質的に、吸収合併と見られてもやむを得ないと思います)、それだけに、JCに限らず、盛岡の中心部等の人々に、こうした営みを支えていただくべきではないかと思ったりします。

法テラス気仙と「くもじい」

先日2ヶ月ぶりに法テラス気仙の相談担当で大船渡市に行きました。今回は相談が2件しかなく、うち1件は無料相談には避けて通れない「ある種の心の病を抱えた、コミュニケーションに困難を伴う年配の方からの、不毛さを感じずにはいられない、実質的に事件性のない相談」でした。

ここであれこれ書きませんが、少し前に担当した岩手弁護士会の電話相談でもこの種の相談者に遭遇したほか、私以外の弁護士の方がその種の話に接したという話を聞くことも増えているせいか、そうした相談者の増加(社会の他の部門で対応できていないという点も含め)といった問題から司法資源や公金の運用のあり方まで、色々と考えずにはいられないものがありました。

大船渡の相談担当の際には、必ず、昼休みに末崎半島の手前で国道を降りて大船渡駅周辺などの激甚被災エリアを車窓から拝見して戻るというコースを辿っているのですが、昨年くらいから、漁業や加工関係の大小様々な建造物が建ち並ぶようになってきました。

建設中と思しき正体不明の巨大建造物も幾つか見られ、水産業界等に知見の乏しい山国育ちの身には、不思議な光景と感じるものも少なくありません。

漁業関係の会社事務所や加工場が立ち並んでいるエリアには、司法書士さんの事務所もありました。弁護士の場合、このような場所に事務所を作ることは到底考えられないこともあって、この先生はそれらの企業の人達から登記に限らず様々な書類作成業務を独占的に引き受け、それを原資に経営をしているのだろうか?と興味をそそられました。

ところで、当家ではテレビ東京系の「空から日本を見てみよう」という番組(日本の様々な地域を空撮を交えて取り上げる番組)を録画し視聴するのが習慣になっているのですが、私の知る限り、この番組で被災地を取り上げたことは、未だほとんどありません。少し前に、八戸~十和田を取り上げた際に、八戸の港が少しだけ出ていましたが、被災状況や復興等にはさほど焦点が当てられていなかったとの記憶です。

さすがに震災から間もない時期であれば、この種の番組で被災地(沿岸)を取り上げるのは不謹慎との批判を受けるのかもしれませんが、震災の風化が叫ばれる今こそ、このような番組で被災地を取り上げて、復興に向けて悪戦苦闘している被災地に新たに出現した「変なもの」に光を当てるなどして、ニュースや真面目なドキュメンタリーとは違った角度・視点から、全国の人々の関心を喚起していただければと思っています。

いっそ、県知事や地元市長さんなどがテレビ東京にトップセールスをなさってもよいのではと思うのですが、いかがでしょう。

 

同じ人物を取り上げた書籍で類似表現が使われた場合の著作権侵害の有無が問われた例

ノンフィクション文学作品に関する創作性の有無が争われた例(知財高判H22.7.14判タ1395-323)について、少し勉強しました。

X作品の著者であるXが、Y作品に対し、X作品の模倣・複製による著作権侵害を主張し、YがX作品に創作性がなく著作物でないと反論し、その当否が争われたというものです。

概要は以下のとおり。

当時、神奈川県知事であったXが「破天荒力」というノンフィクション作品(箱根富士屋ホテルの創業家などを取り上げた作品)を執筆して発表したところ、同じ人物を取り上げていた「箱根富士屋ホテル物語」という作品の著者Yが、Y作品に対する著作権侵害を主張するようになった。

そのため、XがYに差止請求権不存在確認請求訴訟を提起したところ、YがXに対し、X作品の差止や損害賠償請求の反訴を提起(本訴は取下)。

1審は、X作品のうち一箇所(「Aが結婚したのは最初から妻でなくホテルだったかもしれない」と書かれた部分)について、Y作品の複製権等に対する侵害を認め、Xに対し、Yに12万円の賠償と当該部分の削除を印刷等の条件する趣旨の判決をした。双方とも控訴。

二審判決(知財高裁)は、一審取消、Y請求を棄却(Y全部敗訴)。

判決は、問題となった上記の部分(比喩的表現)が、それ自体慣用的でありふれたものであり、元になった当事者に関する実際の事実の経過から、執筆者が上記の感想を抱くことはごく自然なもので、表現それ自体でない部分又はせいぜい表現上の創作性のない部分において同一性を有するに過ぎず、著作権法上の複製権等の侵害にあたらないとした。

ノンフィクション作品に関する著作権侵害の是非(対象作品に関する創作性=著作物性の有無)が問われた例としては、平成13年に最高裁判決(江差追分事件。ノンフィクション書籍(X作品)の記述をテレビ番組のナレーションが「翻案」したか否かが争われた例)があるとのことで、本件でも同判決の基準をもとに創作性の当否を判断しています。

解説では、言語の表現物の著作物性が問題となった事案に関する前例などを多数紹介しており、その種の紛争では参考になりそうです。

 

聴覚障害の偽装やその公表などが問題となった例

先日から「聴覚障害を乗り越えた奇跡の作曲家」として脚光を浴びた人物に関し、自分が作曲したのではないことに加え、聴覚障害すらも偽装ではないかというニュースが盛んに取り上げられています。

私自身は、この方は今回のニュースで初めて知ったのですが、時代劇と歴史マンガで育った身には、どうしても「かわちのかみ」と言いたくなると思ってネットで検索したところ、同じことを考える人が沢山いるのだと知って、安心したところです。

私の上の世代の方なら、キセル乗車をする人のことを「薩摩守」と呼ぶ俗語があるのをご存知だと思いますが、今回の件で、ゴーストライターに代作をさせて自分が名声を得ようとしたり、障害を装ったりする(本件では争いがあるようですが)人のことを、世間が「河内守(かわちのかみ)」と称する日も来るのかもしれません(「やがては忘れて貰う権利」の観点からは好ましくありませんが)。

ところで、私は「判例地方自治」という判例雑誌を購読しているのですが、ちょうど最新号で、聴覚障害を偽装した人に関して問題となった裁判例が取り上げられていました。

具体的には、北海道滝上町の町長らが「元町議Xが、聴覚障害を偽装(虚偽診断書)して障害年金を詐取した可能性がある」と公表したため、Xが町に対し、個人情報漏洩や名誉毀損等を理由に賠償請求したものの、公表事実の公益性や真実性等を理由に請求が棄却された例」です(旭川地判H24.6.12)。

ゴーストライター云々はともかく、障害を詐称し年金を詐取したという話は、数年に1回程度は全国ニュース(巨額詐欺の逮捕事件)に出てくると思われ、それなりに暗数が多い話ではないかと思われます。

私自身は、幼少時から左耳の聴力がほぼ皆無で、右耳だけで会話をしており、日常生活にさほどの支障はないものの、宴会などで左側に座った方との会話や会議等で左方向の方の発言を聞き取る際には、それなりに苦労したりご面倒をお掛けしたりしています。

弁護士としても、障害を負った方のために何らかの支援ができればと思いつつ、さしたることもできない状態が続いていますが、それはさておき、障害を偽装して利益を得るなどという人が現れると、障害を負っている人が一番迷惑をしますので、「河内守」氏がそのような事案なのであれば、再発防止のための工夫を考えていただきたいと思っています。

ところで、引用した裁判例は、町議会議員が町長等から名誉毀損等をされたとして賠償を求める訴訟ですが、東京のイソ弁時代にこれと同じような事件に接したことがあります。

具体的には、関東のある自治体で「A議員が町役場で問題行動を起こした」と役場(町長)側が公表したため、A氏が町を相手に訴訟を起こしたという事件で、私の勤務先事務所がA氏の代理人を務めており、私は兄弁の付き人程度の関与に止まりましたが、背景に談合疑惑や党派対立などもあって、なかなか噛みごたえのある事件でした。

よくよく考えると、私が名誉毀損に基づく賠償請求訴訟に従事したのはあのときだけで、岩手の報道や盛岡地裁の開廷表などを見ても、岩手で名誉毀損訴訟が行われているという話もほとんど聞いたことがありません(ちょっとした相談なら受けたことがありますが、有責事案でも裁判所は滅多に高額賠償を認めないため、費用対効果の壁が大きいという面があります)。

最近は減りましたが、4、5年前には名誉毀損関係の裁判例は、判例雑誌に非常に多く載っており、医療過誤や建築、知財などと並んで、多く掲載されている類型でした。

これまでは、マスメディア等が集中する東京に限定される傾向があったでしょうが、ネット時代等の影響で、facebookなどを含め、地方在住の方が名誉毀損等に関する紛争当事者になりやすくなったでしょうから、出番に備えて一定の研鑽は忘れないようにしておきたいと思っています。

 

平成23年の業務実績の概要(H23.12.30記事再掲)

平成23年から、顧問先に年1回、当事務所の業務実績等に関する概要(事案等は抽象化しています)をご報告しており、ブログでは、顧問先ごとにカスタマイズした部分を除いて掲載しています。

再掲にあたり、体裁等を修正しています。継続中の事件に関するコメントは、次年度(平成24年版)も参照いただければ幸いです。

1 企業・団体の業務や経営上の法的問題に関する支援

平成20年に受任した「ある団体で、金銭管理を一人で行っていた代表役員による多額の不明金問題が生じたため、団体が役員に金銭返還等を求めた事件」で判決があり、概ね請求を認容する趣旨の判決を得ました。双方とも控訴し、23年末現在も控訴審が続いています(24年に勝訴的和解)。

また、「県外から岩手に進出した著名企業が、現地子会社を設立する際、地元でスカウトした経営者に子会社を任せたものの、後日その経営者と企業との間で紛争が生じ、企業が経営者に対し巨額の損害賠償等を請求した事件」で、地元の経営者の方から受任し、全面勝訴して解決しました。

その他、以下のような事件を手掛けています。

取引先B社が顧客との関係で背信的な行為をしたため、A社がB社に損害賠償を請求した事件(B社から相当額の和解金の支払を受けて解決)

下請取引に関する売掛金請求訴訟(一次下請の倒産に伴い、二次下請会社が元請会社に対し、二次→一次の売掛金の保証をしたことを理由に保証債務の履行を請求した事件。勝訴確実とみられたが、訴訟中に元請会社が破産してしまい、残念ながら回収不能で終了)

2 債務整理と再建支援

平成23年も、高利金融業者に対する過払金請求や引直残高が生じる場合の和解交渉、多重債務の方の自己破産、個人再生などを多数手がけました。ただ、グレーゾーン金利問題の沈静化に加え、若手弁護士の激増や東京の弁護士等の宣伝活動による受任競争の影響から、22年までと比べ、この分野の受任は大幅に減少しました。

法人の自己破産等(申立代理人、管財人等)も、幾つかの事件の取扱いがあったものの、件数は前年度までと比し大きく減少しました。全国的な傾向であり、金融円滑化法(返済猶予)の影響などによるものとされています。

反面、破産手続を終えた企業で後日に残務処理の必要が生じたため、清算人として残務に従事するなど、これまで取扱いの少ない特殊な企業倒産処理に携わる機会が幾つかありました。

震災に関し、津波で生活基盤を奪われ、巨額の住宅ローンが残存したものの、共済金等の支払により多額の現預金が残存した方について、自己破産を申し立てると共に、震災の特殊性等を考慮し、裁判所の一般的な基準を大きく上回る金額を手許に残すことができた例もあります。

3 事故等による被害の賠償等の請求や防御に関する支援

平成23年から、交通事故に関する受任が非常に増えました。前年末に某損保会社さんから加害者側でのご依頼を受けるようになったのですが、被害者側でも、弁護士費用保険を活用し受任する機会が増えています。

過失割合を争う物損事案が多いですが、後遺障害の評価を巡る争い(自賠責の基準を上回る認定等級を主張するもの)に加え、自賠責への対応(被害者請求や後遺症等級認定の異議申立)、仮払仮処分などを含めた対処を必要とする事件も受任しています。

また、交通事故以外でも、スキー中の事故に関する賠償問題を受任し、過失割合等を検討した例もありました。

4 個人(消費者)が交わす契約や社会生活を巡る法的問題の解決

相談や簡易な通知のみの案件も多いですが、変わった例として、「数十年前に土地を購入したが、移転登記手続を失念したまま、売主が死去して相続人が数十名になってしまった件」で、買主の方から依頼を受け、相続人の方々に事情を説明し、それらの方々を被告とする訴訟を行って、買主への登記手続を命ずる判決(手続のため必要なもの)を受けたケースがあります。

5 家庭生活や親族関係、相続を巡る法的問題やトラブルの解決

平成23年から、離婚や男女関係に関する訴訟の依頼を受ける機会が多くなりました。男女間のトラブル(不貞行為を理由とする慰謝料請求など)の対処依頼が増えており、慰謝料を巡る判例や法理論を調査、検討することが多くなっています。

また、事情の変化(減収や当事者の再婚等)に伴う養育費の減額請求や婚外子の方に関する認知等の手続など、親子間の法律問題についても受任事件がありました。養育費については裁判所の基準表だけでは算定ができない論点を含むものがあり、適正額の算定のため様々な調査を行いました。

成年後見では、申立代理人を手がけたほか、裁判所から後見人就任の依頼があり、財産管理等のほか、選任申立の直前に生じた契約上のトラブルを巡る訴訟の対応を行いました。

相続分野では、遺留分減殺請求訴訟を1件、遺言の有効性が問題となる訴訟を1件手がけており、いずれも、当方の主張をベースとした勝訴的な和解で終了しています。

また、相続放棄をしたものの、被相続人(亡父)が行っていた事業の関係で、放置できない事情があったため、私が相続財産管理人となり事業の関係者や債権者などへの対応を行った例もあります。

6 行政との訴訟、刑事事件、その他の業務

行政が当事者となる事件では、税法上の処分の違法性を理由とする民事訴訟を納税者側で1件、国賠請求訴訟を行政側で1件、受任しています。

刑事事件については、被疑者国選制度の導入に伴い、捜査段階から否認事件を含む多数の事件に対応しています。

その他の業務としては、震災後、月1、2回の頻度で沿岸被災地の無料相談(避難所や弁護士会等が開設した相談会の担当)に従事しており、場所等は変わったものの、現在も続けています。

 

月額3000円(税別)の顧問契約に関するコンセプト

平成23年に月額3000円の顧問契約(Aコース)を設けた際に投稿した文章を微修正したものです。利用頻度に応じた顧問契約の定め方に関心のある方は、ご覧いただければ幸いです。

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平成23年から、顧問契約に関する新機軸(Aコース)を打ち出すことにしました。個人・法人を問わず、月額3000円(消費税別)で顧問契約(顧問弁護士)を導入できるというもので、弁護士会の報酬会規の法人顧問料が月額5万円(岩手・盛岡では、月額3万円が多いとも聞いています)ですので、相場より大幅に値引きした価格ということになります。

以下、このコースの設定の経緯、意図等について、ここで概略を説明いたします。なお、金額の表示はすべて税抜としています。

1 Aコース設定の経緯

私は、零細企業経営者の子弟のはしくれであると共に、真っ当なビジネスをする企業が盛んに活動することが社会を成り立たせる基本と考えていますので、弁護士として中小・零細企業の経営を支援する仕事には相応の意欲を持って取り組んでいます。

東京時代には勤務先に様々な顧問先企業がありましたので、そうした意欲を充足できる多くの仕事に巡り会いましたが、岩手に戻った後は、私が盛岡に地縁・血縁がないに等しく、依頼事件の多くは弁護士会や市町村などの相談会でお会いする方々の個人的な問題ばかりで、企業活動をサポートする仕事をご依頼いただく機会はめっきり減ってしまいました。

幸い、全くご依頼がなかったわけではありませんが、多くは他の先生(弁護士など)から紹介いただいたり、弁護士会の相談センター等で偶然お会いした方ばかりで、企業の方が直接にアクセスされてきたことは、滅多になかったと感じています。

現在、当事務所と顧問契約を結んでいただいている企業さんの数も、恐らくは私と同等の実務経験(約20年)を有する弁護士の平均値を遥かに下回る数と言わざるを得ないでしょう(人脈云々以前に、カリスマ性の欠如が最大の要因かもしれませんが)。

JC(青年会議所)などで多少とも垣間見る限りの印象ですが、盛岡・岩手でも、少なからぬ企業さんが県内又は仙台・東京の弁護士と何らかの繋がりを持っていたり、弁護士の紹介を受けることができるルート・人脈等をお持ちのようで、インターネット(Webサイトを掲げる事務所)を弁護士探しの主たるツールとして活用しようという方は、あまり多くはないようです(意思決定を司っている社長さんなどが、ご高齢という事情もあるかもしれませんが)。

そのため、企業(とりわけ、地元に広範な人脈を持ち従前から弁護士を利用してきた企業)の方々から依頼を得ることは、岩手に戻って10年以上を経た今でも、容易ならざるという印象を受けています。

また、私のように地縁・血縁のない人間が異業種の方々との人脈を作るには、例えばJCのような様々な業界の方が集まる夜の会合などに参加する必要があるかとは思いますが、極度の残業体質の上、家庭の事情で夜間に身体を空けるのが難しいという事情もありました。

もちろん、純然たる個人向けの仕事が嫌というわけでは全くなく、今後も多くの力を注いでいくことは間違いありません。ただ、弁護士の活動を通じて地域社会の全体に貢献するとの初志からは、個人向けの仕事ばかりに比重が強くなるのは望ましくなく、個人向け・企業団体向け双方の業務をバランスよく受注できる事務所であるべきだと思っています。また、一方の仕事を経験することが他方の業務にも大いに生きてくることは当然です。

というわけで、夜の会合以外の方法で人脈を作ったりご依頼をいただく機会を作ることができないか模索してきましが、名案も浮かばず、「この弁護士は色々な仕事を手がけているから、話だけでも聞いてみようか」と関心を持って頂けるような内容にしようと、事務所サイトで「取扱実績」欄を増設するなどしていました。が、それを理由にに依頼いただくこともなく、暗中模索の日々が続きました。

そんな中、平成23年当時、たまたま手にしたビジネス誌で、東京の若い弁護士さん達が経営している事務所(ベリーベスト法律事務所)が「月額3980円(消費税込み)の顧問契約を導入した」として、大きく取り上げられていたのを目にしました。

私自身、以前から「実際のご利用があまり多くはない企業から月額で数万円の顧問料をいただくのは、弁護士の不労所得に等しく合理的ではないし、そのような契約は長続きしない。ただ、来所相談をする必要は滅多になくとも簡易な相談を気軽にできる顧問弁護士は欲しいというニーズはあるはずで、それに対応するサービスを提供できないだろうか」との思いがあり、当方も導入すべきと考えました。

以上の経緯で、従前から設定していた顧問契約とは別に「月額3000円+受任時の1割引」というプランを新設した次第です。

ネットでざっと調べた限りでは、平成23年当時、ベリーベスト法律事務所の「3980円」よりも低い単価で顧問契約を謳っている事務所はなく、当時「日本で一番安い値段で顧問契約を引き受ける弁護士」だったかもしれません(その後は調べていません)。

2 新コースの目的

新コースの主たる目的は、サイトに表示したように、たまには弁護士に電話やメールで聞きたいことがあるという方が、従前よりも安価な値段(顧問料)で気軽に問い合わせ等ができるようにしたいとのニーズにお応えする点にあります。

また、簡易なやりとりであっても、法的なアドバイスを通じて、本格的な弁護士の出番を要しない形で紛争を予防したり交渉相手からのアドバンテージの獲得につなげていただいたり、中には、ご自身が気づいていない問題を指摘し、すぐに本格的な事件として動き出すべきだ、とお伝えすべきこともあると思います。

早期のご相談→合理的タイミングでの事件依頼→手遅れの防止というサイクルで考えていますので、来所相談の必要がある場合に支障なくご来所いただける方(岩手の方や盛岡へのアクセスに難がない隣県などの方)を顧客層として想定しており、基本的に「全国展開」するようなサービスではないと考えています。

また、過去の経験等から「町弁の採算に関するデッドライン(基準単価)は時給2万円」と考えており、月額3000円(年額3万6000円)という価格は「年間2時間弱(月に平均1回、1回あたり電話・メール等で10分程度)のご利用」に相当すると位置づけています。そのため、それ以上のご利用が多く生じる場合、原則として追加料金をお願いするか他の契約類型への切替をお勧めすることになると思います。

この程度のご利用なら、普段なかなか弁護士に相談することはないという中小・零細企業や個人の方でも一定の実需はあるのではないかと考えての設定です。

3 伝統的な顧問契約との異同など

伝統的な顧問契約の相場よりも遥かに低い値段ですが、従前の顧問契約の価格破壊を目的とするものではありません。むしろ、来所相談等は割引とはいえ有料とさせていただきますので、「顧問先の相談は無料」という契約類型とは、異種のものと言えます(従来型の顧問契約もタイムチャージと組み合わせる方式でお引き受けしています)。

敢えて言えば、「毎月、数万円を払って顧問契約をしているが、さして利用がなく、契約に疑問を抱いている企業」にとっては、いざというときに弁護士への迅速なアクセスを確保するため顧問契約だけはしておきたいとのニーズをリーズナブルなコストで確保しうる点で、価格破壊的要素はあるかもしれません。

ただ、それは、従前の顧問契約(弁護士)に、実働を伴わない顧問により不労所得を得ている面があったこと自体が間違っているというだけのことであり、「あるべき価格を不当にダンピングする」という意味での安値競争とは異なるものです。

もとより、顧問契約を締結している多くの弁護士が不労所得を貪っているというわけではありません。ネット上で検索いただければすぐにお分かりのとおり、伝統的に、一般的な弁護士の顧問契約が「月数万円の顧問料を支払えば相談等の時間は原則として無制限」となっているため、相当量のご利用があれば元が取れるようになっており、そうした利用をされている方も沢山おられると思います。

しかし、この仕組みだと、盛んに利用(相談等)をした方とそうでない方とで実質的に大きな不公平が生じてしまいます。さりとて、伝統的にドンブリ勘定体質を持つ弁護士業界で「利用実績のない顧問先には顧問料を返金」などといった手法が普及するとも思えません。

毎月、帳簿類の精査という明確な実働が伴う税理士さんと異なり、弁護士の顧問業務は相談等の実需がないと機能しにくい面があることは否定できません。そのため、利用の有無に関係なく頂戴する顧問料の部分はなるべく減額し、それと共に、多くのご利用のある顧問先には顧問契約をせずに利用される依頼者よりもメリットがある(割引サービス)という形で顧問契約を再構成していくのが、これからの顧問弁護士に関する望ましい姿ではないかと考えます。

「定期的に顧問先企業を訪問して相談等を行う」など、顧問税理士のように定期的な実働を伴うケースなら、低額の顧問契約を導入しなくとも、実働に応じた相当の顧問料を定めればよいと思います。しかし、法務部門が各部門のリーガルリスク等を定期的にチェックし顧問弁護士に定期的に相談する仕組みを作りやすい大企業ならともかく、現在の我が国の中小・零細企業にはそうした実需は滅多にない(掘り起こしも難しい)という印象です。

また、Aコースのような顧問契約については、学校の同級生など個人的に親しい関係の弁護士がいるという方なら「ちょっとした相談程度なら、その弁護士に電話等でサクッと聞けばいいから敢えて顧問契約なんてする必要はない」ことになるかもしれません。

ただ、そうした人脈を持たない方や、あったとしても一種のフリーライダーになりたくないという方にとっては、簡易な相談を遠慮なく受け付けること自体を目的とした低額の顧問契約は相応に利用価値があると思われます。

私自身、今は概ね(至って?)健康のため必要はないものの、いずれ病気がちになった場合は、町医者の方に低料金で自分の身体に関する些細なことについて遠慮なく電話・メールで相談できる顧問契約のようなものがあればと思わないではありません。

個人的に、仕事上お世話になっている医師の先生や遠方の病院で活躍している高校の親友もいないわけではありませんが、逆に、おいそれとは相談できず、よほどの事情がなければと腰が引けてしまう面があり、料金のやりとりをするビジネスライク?な関わりの方が、案外、料金などの範囲内で遠慮無く物事を聞きやすいような気もします。

4 料金

月額3000円の設定の根拠は、3980円(消費税込み)のベリーベスト法律事務所(の方々)に比べ、経験年数では上回るものの規模では遥かに見劣りすることから、同事務所より若干低めの値段としたものです。

また、あまりに低くするのもどうかと思いましたので「今どきの顧問弁護士=高額なランチ一食分」と考え、「高級食材を扱うが、リーズナブルな価格で提供しているレストランで、ランチを月1回利用すればディナーが1割引になる」イメージで考えてみました。

ちなみに「無料」というのは、他の顧客等へのしわ寄せを不可避とするものですので、震災のように臨時的な場面以外は多用すべきでないと思っています。そうした理由で、私は巷で流行する「債務整理等の無料相談」はしていませんが、反面、直ちにお引き受けする場合などは相談料は頂戴しない(又は、相談料分を定額料金から差し引く)などの方法でバランスをとっています。

昔、ある大物弁護士の方が「社長さんに顧問弁護士(月5万円)を勧める際は、社長さんが月1回、高級料亭かクラブで飲食するのを控えれば済む値段ですよ、それで会社が守れるのだから、安いものではありませんかと説明している」と仰っている文章を読んだことがあります。

しかし、このご時世や現在の私の身分では、高級料亭やクラブに入り浸るような社長さんと接点を持つことは到底期待できません(イソ弁時代は少々お会いする機会もありましたが、今となっては昔のことです)。

他方「頑張った自分へのご褒美で、月に1回くらいは贅沢なランチを食べたい」という方なら、幾らでも知り合う機会はありそうですし、コストパフォーマンスを真剣に考えて選んでいただく方が、実りあるお付き合いになるのではないかという期待もあります。

月3000円という価格も実需のない方には十分に高額ですので(少なくとも私のような一般人から見れば)、「顧問弁護士」という一種のブランド価値をダンピングしているということも言えないでしょう。

5 見通し

ただ、「このコースが対象として想定している潜在顧客層」が、このような金額・コンセプトでの顧問契約に対する実需(利用価値があるとの理解を含め)がなければ、実際に申込みを受けることもないでしょう。

私自身は、弁護士が希少種である時代には「顧問弁護士」は金持ち企業のステイタスのようなものだったが、その時代は終わった。タイムチャージ等と組み合わせたリーズナブルな料金での契約が新しい時代に求められる町弁の顧問契約ではないか、と考えているのですが、皆さんのご意見をお尋ねしてみたいところです。

事務所サイトで小さく表示するだけの扱いですので、導入から2年半を経過した平成26年2月現在も、実際に申込を頂戴した企業様はごく数件に留まっています(もちろん、お申し込みいただいた皆様には大変有り難く思っています)

(追記・令和2年改定時には、幸い従前よりはかなり増えています。それでも十数社ですので、他の先生方に及ぶべくもありませんが・・)。

私自身が華やかな宣伝に向いている人間ではありませんので、サイトをご覧いただく方を別とすれば、個人的に聞かれた際「ウチではこういうこともやっています」とご説明する程度のことしかできないのだろうと思います。

まだ、このような顧問契約の新しいプラン(類型)を作ったことが成功と言えるのかそうでないのか、結論が出ていませんが、こうした試みが社会に受け入れていくのか否か、しばらくは様子を見てみたいと思います。