9月上旬に、私が所属している日弁連公害対策環境保全委員会・廃棄物部会の企画で、秋田県小坂町にある廃棄物最終処分場の視察や関係先への聴取を中心とする調査に参加してきました。
この事件は、秋田県小坂町で明治初期から巨大鉱山を営む同和鉱業(現・DOWAホールディングス)の関連会社(グリーンフィル小坂。以下「GF小坂」)が営む廃棄物最終処分場に、1万強Bq/kg(以下「ベクレル」)の焼却灰約40トンが千葉県松戸市から搬入され埋め立てられていたことが判明したため、その対処や再発防止などが問題となったものです。
この処分場は、鉱山の操業停止などに伴い環境関連事業に業態転換を図っている同和鉱業(DOWAグループ)が、平成17年から稼働させ、自社グループの事業で生じた焼却灰(産業廃棄物)のほか、関東圏などの自治体が運営する一般廃棄物(生活ゴミ等)の焼却場(中間処理施設)で生じた焼却灰を受け入れている最終処分場(焼却灰専門の埋立場)です。施設の設置や産廃の処理業は秋田県の許可、一廃の処理業は小坂町と鹿角市により構成される広域事務組合の許可を得て操業しています。
http://www.dowa-eco.co.jp/business/waste/finish/
そして、平成23年7月(震災から間もない時期)、環境省が震災に伴う福島第一原発の事故を踏まえて首都圏などの自治体に対し、埋立(搬出)前の一廃の焼却灰の検査を求めたところ、前記のとおり、松戸市がGF小坂に搬出していた焼却灰から1万ベクレルを超える線量が検出された上、それが松戸市から小坂町に連絡された時点で、すでに40トンの焼却灰が現地で埋め立てられており、それらの事態にどのように対処すべきか(掘り返して搬出するのか埋め立てたままにするのか、前者なら松戸に返すのか(返せるのか)、後者なら汚染拡散対策などをどのようにするのかなど)が問題になりました。
結局、発覚後、一旦は千葉県からの焼却灰の搬入が停止され、GF社や小坂町が秋田県に対応を照会し、秋田県は環境省に対応を照会するという「環境省頼み」の展開になった後、環境省が平成28年8月31日に、8000~10万ベクレルの焼却灰の処分などの方法(推奨)に関する通知を出し、そこでは、雨水浸入の防止措置を講じるのなら管理型処分場でも埋立可とし、防止措置のあり方としては、埋立箇所の上部にコンクリートを敷設するような方法でも構わないという趣旨のことが書かれていました。
https://www.env.go.jp/jishin/attach/no110831001.pdf
そこで、秋田県はGF小坂に対し、上記の方法を講じさえすれば埋立済みの焼却灰の撤去(掘り返し)等は不要と回答し、GFも当該措置を講じたことから、問題となった「高濃度焼却灰」はそのまま現地に残され、その後は、GF側と小坂町との協議で、受入焼却灰の線量上限(4000ベクレル)や線量検査、埋立後の防水措置などの方法について協定がされ、それをもとに関東圏からの搬入も再開され、「問題となった焼却灰」の上に新たな焼却灰の埋立もなされている(ので、地表=現在の処分場の地上部から数十m?の奥深くに眠った状態になっている)という状況になっています。
要するに、「環境省通知に基づく汚染拡散防止対策をした」ので、県や自治体、事業者としては問題なし(解決済み)として焼却灰の受入が再開されているというのが現状ということになります。
こうした展開を辿ったことに対し、放射性物質汚染などを危惧する地域住民の一部は、「本件焼却灰の汚染発覚は、埋立後に松戸市から搬入した焼却灰と同じ場所で焼却された灰から1万強ベクレルの線量が検出されたとの通報があったことで判明したものである。よって、埋設された焼却灰そのものについて線量検査がなされたわけではなく、実際の埋立灰には1万を大きく超える線量があるかもしれないという不安がある。それなのに、県や施設側は、現物の線量検査=ボーリング調査(掘削)をすることなく、コンクリートを敷設しただけで足りるとしてしまった(但し、浸出水の線量検査などは従前から行われており、特段の異常値は出ていない模様)。それでは納得できないので、ボーリング調査を求めたい。」などと反発しています。
そして、本年6月頃に、支援者の方を通じて住民団体から日弁連(当部会)に視察調査の要請があり、当部会も震災から数年間に亘って「放射性物質に汚染された廃棄物の処理問題」を中心テーマとして取り組んでいたことから、すぐにこれに応じるとの方針になりました。
かくして、①住民団体、②小坂町役場、③GF小坂(処理業者)、④秋田県庁から事情聴取することと、併せて処分場など現地の関連施設を視察することとし、関係先に要請して実施してきたという次第です。
といっても、私自身は、日々の仕事と生活に精一杯のためか?放射能問題が絡む廃棄物処理の処理についてさほど知見を深めているわけではありませんので、難しい話は他の先生方にお任せして、小坂町が主要な目的地なので、運転手(盛岡駅から出発し、秋田県庁で解散となりました)兼宿泊先の手配係(大湯温泉に初めて泊まりました)というお気楽な役回りとさせていただきました。
部会では、今後は、本件の「決め手」になった環境省通知の内容や本件での関係者(搬出元たる松戸市、受入主たるGF、監督権者たる鹿角組合=小坂町や秋田県)がとってきた対応の是非などについて意見交換を検討しているとのことです。
私自身は、この事件について今年6月に説明を受けるまで、一般廃棄物の焼却灰は地元の(排出=焼却を実施した)自治体ないし都道府県内で埋立がなされているものと思い込んでいましたので、一廃(焼却灰)が首都圏から北東北まで広域移動(広域処理)されているなどという話は今回はじめて知りました。
もちろん、「首都圏の膨大なゴミ(有害性の強いものを含む)が、そのままの状態で山中に大規模不法投棄された」という岩手青森県境不法投棄事件とは異なり、あくまで焼却(中間処理)を実施した上で、現行法・現行実務上は「適法」に搬出・搬入されているものですから、単純に悪者視はできないでしょうけれど、それでも、「都会のゴミが、過疎地たる北東北に持ち込まれている」ことには変わりませんので、受入圏民としては、あまり好ましいこととは思えません。
廃棄物の広域移動については、「災害廃棄物の受入(広域処理)問題」で一時は脚光を浴びましたが、その後は(その前も)全く話題になっていませんので、ネットで少し調べたところ、環境省が廃棄物(一廃・産廃)の広域移動を調査した報告書を取り纏めており、首都圏の焼却灰が東北などに大規模に搬出されていることが分かりました(後日に再度、取り上げます)。
http://www.env.go.jp/recycle/report/h27-01/index.html
そうしたことの当否や、こうした出来事への「反対派(抗議派)」はもちろん、業者側(操業サイド)で働く地元民や、同和鉱業グループという「地域の圧倒的ガリバー企業(の今後の社会での生き残り戦略)」に様々な形で依存し支援せざるを得ない小坂町や秋田県などの難しい立場なども視野に入れつつ、色々なことを考えさせられながら帰途についたという次第です。
余談ながら、解散後に一人さみしく立ち寄った「道の駅協和」でウサギ肉が売っていましたので、土産に買って帰りました。マタギ文化?の関係で販売しているようですが、鶏肉のような味でした。
次回は、本件について「住民が執り得る(執り得た)手段」について幾つか考えましたので、こうした問題に関心のある方はご覧いただければ幸いです。
また、放射性物質に汚染された廃棄物の処理のあり方や、原発敷地からの汚染水対策(最近も話題になっている凍土壁問題)、健康被害対策の問題などに関心のある方は、昨年の日弁連人権大会決議もご覧いただければと思います。