北奥法律事務所

岩手・盛岡の弁護士 北奥法律事務所 債務整理、離婚、相続、交通事故、企業法務、各種法律相談など。

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弁護士費用特約

大雪に伴う交通事故の解決のために

ここ最近、盛岡及び岩手県内は大雪に見舞われ、それに伴い残念な事故も幾つか発生しているものと思われますが、私がここ数年内に扱った案件でも、大雪の影響で生じた交通事故の賠償問題は何件かありました。

例えば、大雪の影響で幅員が通常より狭くなった道路での車両同士のすれ違い時に生じたミラー接触事故で、どちらが悪い(はみ出した)のか争いになり(信号対決ならぬセンターオーバー対決事案)、当方でお引き受けして色々と調べ、先方側のはみ出しと認定される可能性が高い証拠を得たところ、先方が降参して解決した事件もありました。

既に多くの方が弁護士費用特約付きの任意保険に加入されているかと思いますが、遭遇の確率の高い小規模な事故(大雪の日には生じやすいです)ほど、費用特約に加入していなければ、費用対効果の点で事実上、被害回復を断念(いわゆる泣き寝入り)せざるを得ない事態になりやすいと思います。

未だに費用特約の対応のない任意保険(共済)も存在しているようですが、安全運転もさることながら、ご家族を含む万一の備えに、任意保険と費用特約の加入を各々ぬかりなく対応いただければと思います。

近年では、弁護士費用特約の普及もあり、事故後間もない時点でご相談・ご依頼を受けることが多くなっています。

業務実績欄などに表示のとおり、当方は長期に亘り膨大な数の交通事故事案の解決実績がありますので、万一の際は、当事務所へお問い合わせいただければ幸いです。

また、交通事故(の費用特約・慰謝料など)に限らず、法律実務に関する身近な知識で、事前に知っておけば良かったと後で後悔しやすい話は昔も今も色々とあります。

地域の何らかの会合・団体さんなどで、講師のお話などお声がけいただければ、事故のほか債務整理とか婚姻費用など、ネタを整理してみたいと思いますので、ぜひご検討下さい。

令和2年の取扱実績②債務整理・倒産、交通事故等(賠償)

前回に引き続き、令和2年の業務実績(従事ないし解決した紛争の概要)を、守秘義務の範囲内で簡単にまとめました(全3回)。依頼先の弁護士を選定する際に参考にしていただければ幸いです。

(3) 債務整理と再建支援

10年以上前(リーマンショック期)と比べて、自己破産、個人再生、任意整理とも受任件数は大幅に減り、新型コロナウイルス禍の中でも、この傾向は大きく変わっていません。

ただ、本年3月まで社会福祉協議会の相談担当をしていたせいか、「総債務額は大きな額ではない(100~200万円未満)ものの、僅かな収入しかない又は無収入のため自己破産をせざるを得ない方」からの受任は一定数ありました。他にも、「複数の銀行などに300~400万円程度の借入があり、他にも住宅ローンの返済中で、住宅を維持しつつ債務を圧縮するため、個人民事再生の手続を利用する方」の依頼があり、また、「諸事情により法的手続を希望せず、リスケジュールのため任意整理を希望する方」の依頼もあります。

近年は10年以上前に借りた債務を滞納していた方が最近になって請求を受け、消滅時効などにより解決を求める事案も幾つかあります。
 
昨年も、債務額などに照らして民事再生又は自己破産の手続をとるべき債務者の方が、インターネットで広告を展開する東京の弁護士などに安易に任意整理(リスケ)を依頼し数ヶ月ほど委任費用を支払ったものの、結局、支払継続が困難となり、後日に当事務所に相談し法的手続を依頼する(ので、当初から当職に依頼していれば負担せずに済んだ多額の委任費用を前代理人に支払うだけで数ヶ月を空費した)というケースを経験しています。

昨年、過払金の巨額横領が発覚した「東京ミネルヴァ法律事務所」問題のように、解決のための方法選択(依頼先の選定を含め)を誤ってしまうと、費用の無駄に限らず後日に様々な問題が生じますので、そうしたことも視野に入れて早期のご相談をご検討ください。
 
企業倒産(破産管財)に関しては、昨年は「企業の管財事件」の受任はなく、小規模な企業の代表者個人のみの破産申立事案の管財人を担当した程度でしたが、中には、企業の関係者に様々な問題があり、労働者健康福祉機構への未払賃金立替請求が正当な理由なく行われていると判断され、それに対する対応に苦慮するなどした案件もありました。

申立代理人としては、震災後、辛うじて経営を続けていた小売業の会社さんがウイルス禍により継続を断念し事後処理を依頼された案件があり、商品売却などの目処をつけた上で、会社及び代表者双方の申立を行っています(特殊な事情があり、最初は代表者のみの破産申立を行い、後日、裁判所の勧告により会社の破産申立も行いました)。

今後はウイルス禍の長期化により倒産増加が懸念されており、小規模飲食店の経営者の方から営業不振による事業閉鎖を前提とした相談を受けたことが複数あります。

また、昨年から「金融機関(銀行等)にのみ高額な債務を負っている企業及び代表者に関し、適切な方法で相応の弁済を行うことと引き替えに自己破産を回避し、破産のルール(99万円)を上回る資産を継続保持するための制度(経営者保証ガイドライン)」を活用して解決すべき事案の依頼を受けています。金融機関の内諾を得て昨年中に概ね順調に換価作業などを終え、現在、弁済計画を策定し、交渉の山場にさしかかっています。

新型コロナウイルス禍のため残念ながら経営継続が困難となった方の中には、この制度を利用して債務問題の解決を図っていただくのが望ましいケースが多くあります。あまり知られていない制度ですので、ご留意いただき、知人などで必要とする方がおられれば、伝えていただければ幸いです。

個人の方の破産管財でも、免責不許可事由の調査を要したケースや山林の換価が問題となった案件などを担当しています。

(4) 事故等による被害の賠償等の請求や防御に関する支援

昨年も、交通事故の被害者側での受任事件が多数あり、そのほとんどの方が、ご自身が加入する任意保険の弁護士費用特約により、本来であれば数十万円からそれ以上を要する弁護士(当職)への委任費用について、自己負担なく利用されています。

受任の内容も、過失割合(事故態様を巡る事実関係と評価)が主たる争点となる事案物損の金額が争われる事案むち打ち症(頚椎捻挫など)に基づく人身被害の賠償額算定が中心となる事案重度の後遺障害が生じて多様かつ多額の損害の算定が必要となる事案など、幅広く取り扱っています。

過失割合が争点となった物損事故では、1審(簡裁)で納得できない判決を受けたため、控訴したところ、2審(地裁)で、1審を取り消し当方の主張も踏まえた新たな過失割合の勧告を得て、了解可能な和解で終了できた案件もありました。

事故直後など、加害者側の示談案提示前の時期から受任して後遺障害の認定申請なども含めた支援を行う例も増えており、「神経障害に関する後遺障害(14級9号)」をはじめ、幾つかの後遺障害につき、認定を受けるための調査や医療機関への照会などを行いました。

ともあれ、自動車保険などでは、必ず弁護士費用特約が付された任意保険にご加入ください(相談のみの特約に加入される方もおられるようですが、必ず委任費用を対象とした保険にご加入下さい)。近年、弁護士費用特約(保険)は、企業クレーム対応や労働事件、家事事件(離婚等紛争)などにも導入されており、活用をご検討ください。

 

平成30年~令和元年の取扱実績②交通事故等(賠償)、生活上の問題(消費者・契約)

前回に引き続き、平成30年~令和元年の業務実績(従事ないし解決した紛争の概要)を、守秘義務の範囲内で簡単にまとめました(全3回)。依頼先の弁護士を選定する際に参考にしていただければ幸いです。

(4) 事故等による被害の賠償等の請求や防御に関する支援

現在も交通事故の被害者側での受任事件が多数あり、大半の方が、ご自身等が加入する任意保険の弁護士費用特約により、本来であれば数十万円からそれ以上を要する弁護士(当職)への委任費用について、自ら費用の負担をせずに利用されています。

受任の内容も、過失割合(事故態様を巡る事実関係)が主たる争点となる事案、物損の金額(全損評価額・評価損など)が争われる事案、むち打ち症(頚椎捻挫など)に基づく人身被害の賠償額算定が中心となる事案、重度の後遺障害が生じて多様かつ多額の損害の算定が必要となる事案など、幅広く取り扱っています。

事故直後など、加害者側の示談案提示前の時期から受任して後遺障害の認定申請なども含めた支援を行う例も増えており、「神経障害に関する後遺障害(14級9号)」をはじめ、幾つかの後遺障害につき、認定を受けるための調査や医療機関への照会などを行いました。

また、自賠責で等級認定が認められなかったものの、訴訟で14級相当の後遺障害の認定が認められた事案なども経験しています。

万一のときに後悔しないためにも、自動車保険などでは必ず弁護士費用特約が付された任意保険にご加入ください(某大手損保が販売している、相談のみの特約に加入される方もおられるようですが、必ず委任費用を対象とした保険にご加入下さい)。

近年、弁護士費用特約は企業クレーム対応や家事事件などにも導入されており、従業員などを被保険者として勤務先・所属先で契約する例もありますので、活用をご検討ください。

(5) 個人(消費者)が交わす契約や社会生活を巡る法的問題の解決

投資詐欺の被害に遭った者同士が責任の所在を巡って争った訴訟」(主犯格Aの知人Bが、知人CにもAを紹介し、CがAの勧誘で多額の投資をして被害に遭ったことから、CがBにも紹介者責任があるとして訴えた事案)で、B氏代理人として対応しています。

B氏は詐欺的商法に対する認識が甘く、以前から懇意にしていたAに誘われるがまま、自ら少額の投資(金銭預託)をし一定の配当を受けたことから、Aらが破綻し自身への配当も停止するまで詐欺的商法との認識を持つことなく、主観的には善意でCにも勧めてしまったという事案で、B氏に過失によるCの損害の賠償責任(紹介者責任)が認められるかが大きな争点となりました(Aの受任はしていませんが、当然ながらCの損害の全部又は大半にAの賠償請求が認められることが前提です)。

結局、尋問を含め双方の主張立証が激しく争われた末、B氏にはAらのような巨額の賠償責任が認められないことを前提とした勝訴的な和解で終了しています。

また、転職後に前の勤務先から「職場で負担した仕事で必要な資格試験の受験料などを支払え」と請求された方の依頼を受け、基本的な法律論をもとに、請求棄却(勝訴)の判決を得ています。

昨年は、Web上のやりとり(誹謗中傷的な投稿)を理由とする名誉毀損企業の従事者の方が企業情報を他社に漏らしたことを理由に賠償請求を受けたケースなど、個人が特定の不法行為を行ったことを理由とする賠償問題で相談・依頼を受けた件も複数ありました。

他にも「D社に務めるEが退職後に同業他社に就職したところ、Dから競業避止義務違反だと主張され、賠償要求などを受けたため、E氏代理人としてそれが不当だとして反論した案件」職場内での個人間の暴行事件を巡る賠償請など、様々な事件を手がけています。

また、震災無料相談制度(令和3年3月終了見込)や扶助相談制度などを通じ多数の方々にご来所いただき、各種の消費者被害や近隣トラブル、労働事件をはじめ、生活上の様々なトラブルに関するご相談や簡易な交渉対応などに応じています。

 

平成28年の取扱実績②交通事故等(賠償)、生活上の問題(消費者・契約)

前回に引き続き、平成28年の業務実績(従事ないし解決した紛争の概要)を守秘義務の範囲内で簡単にまとめました(全3回)。依頼先の弁護士を選定する際に参考にしていただければ幸いです。

(4) 事故等による被害の賠償等の請求や防御に関する支援

本年も交通事故の被害者側での受任事件が多数あり、そのほとんどの方が、ご自身が加入する任意保険の弁護士費用特約により費用負担なく利用されています。

争点としては、過失割合(事故態様を巡る事実関係)が主な争点となる事案、物損の金額が争われる事案、むち打ち症(頚椎捻挫など)に基づく人身被害の賠償額の算定が中心となる事案が多く、過去には死亡事故や重度の後遺障害が生じて多様かつ多額の損害の算定が争われる事案など、幅広い類型を取り扱っています。

事故直後など加害者側の示談案提示前の時期から受任し後遺障害の認定申請なども含めた支援を行う例も増えており、実務では非常に多い「レントゲン等による所見が確認されない神経障害に関する後遺障害(14級9号)の成否」などについて、幾つかの例を通じ知見を深めることができた1年だったと思います。

また、本年は学校で生じた生徒間の事故に伴う賠償請求訴訟(後遺障害の評価が主な争点となったもの)、若年者間のスポーツ事故に関する賠償責任や関係者間の求償(加害者側と施設管理者の責任割合など)につき検討を要した事案など、加害者(損保)側の立場での検討を含め交通事故以外の人身被害に基づく賠償事件に従事する機会もありました。

他にも、福島第一原発の事故に基づく東京電力に対する賠償請求(県内企業が受けた被害の賠償を求めるもの)を手掛けており、特殊な事情から長期化したものの、先般、原子力紛争解決センター(ADRの手続)で相当な解決案が示されて無事に終了できました。

現在のところ弁護士費用特約は保険料も低廉でご自身が被害を受けたときに弁護士への依頼の円滑さを確保する点で絶大な力を発揮しますので、必ず、この特約が付された任意保険に加入いただくよう、お願いいたします。

(5) 個人(消費者)が交わす契約や社会生活を巡る法的問題の解決

個人間の貸金に関する紛争(授受の当事者双方が死去して貸主相続人が借主相続人に返済を求めたものの、相続人は双方が貸金に関与しておらず、領収書などの直接証拠が乏しく立証に課題のあった事件)、不動産の登記(古い登記の抹消など)に関する訴訟、労働審判(労働者側)など、多くの事件を手がけています。

不動産の賃貸借の紛争では、契約終了に伴う貸主からの借主への目的物返還や賃料などの請求を貸主代理人として扱った案件が幾つかありますが、中には、「貸主の相続人が借主に明渡等を求めたところ、借主が、被相続人から目的物を(廉価で)譲り受けたと主張し、被相続人と借主との間で売買契約が締結されたかどうかが争点となった例」もありました。

「被相続人(ご両親など)と相手方との間で何らかの問題が潜在し、相続の際にそれが噴出して相続人が法的対応を余儀なくされ、被相続人の真意や生前の協議内容などを巡る事実の立証などが問題となる事案」は、昔から非常に多くあります。ご高齢のご両親などが多くの権利関係を有するのでしたら、ご親族内部に相続紛争などの問題がなくとも、対外的に問題が生じる可能性があることも踏まえて、ご両親から事情を確認していただくなど適切な対応・ご準備を考えていただければと思います。

また、多数の方々にご来所いただき、各種の消費者被害や近隣トラブル、労働事件など生活上の様々なトラブルに関するご相談に応じており、大半の方が震災無料相談制度を通じて費用負担なくご相談いただいています。

(以下、次号)

近時の交通事故事件に関する取扱や実績と営業活動の今昔

ここしばらく普段取り扱う仕事に関する投稿をしていませんでしたので、たまには触れてみたいと思います。

債務整理のご依頼がめっきり少なくなる一方で、今もコンスタントに一定のご依頼をいただいている分野の筆頭格が交通事故であり、基本的には被害者側でお引き受けするのが中心となっています(お世話になっている損保会社さんがあるため、加害者側での受任も若干はあります)。

5年以上前に比べてご依頼の件数が多くなっているのは、ネットでアクセスいただく方が年に何人かおられるということもありますが、弁護士費用特約の普及という面が大きいことは確かだと思います。

私の場合、平成12年に東京で就職した事務所が、タクシー共済(タクシーの事故の賠償問題に対応する共済)の顧問事務所だったので、独立までの4年半は概ね常時10件前後の事件に従事していたほか、岩手での開業後は主に被害者側の立場で様々な交通事故の事件を扱ってきました。

ですので、交通事故なら自分が岩手で一番などと虚偽?の吹聴をすることはできませんが、様々な事案・類型の取扱経験の質量という点では、この世代の弁護士としては有数といって良いのではと自負しているつもりです。

以前は、死亡事故や後遺症認定1~3級などの重度障害に関する事案も何度か取り扱いましたが、ここ1、2年はご縁がなく、神経症状が中心で治癒又は後遺障害が非該当のものや物損のみの事故が多く、14級や12級の事案が幾つか存するという程度です。

それでも、人身事故に関しては、加害者側の損保会社が最初に提示した額の倍以上(時に3倍くらい)で解決(示談又は訴訟上の和解)する例が珍しくありません。後遺障害が関係すると、その差は数百万円にも上ることがあり、昨年末に裁判所で和解勧告がなされた例や、先週に示談(訴訟前の交渉)で決着した事案なども、そのような形で解決しています。

どの段階で弁護士に依頼するのが賢明かは一概には言えず、損保側の提示が出た段階で十分という例も多いとは感じていますが、やはり、提示がなされた段階で、一旦は、相応に交通事故実務の知見等を有する弁護士に相談なさった方がよいと思います。

特に、介護問題が伴う重度事案などでは、損害項目が多様・複雑になりやすいので、ご自身でも今後どのような出費等(損害)が生じるかご検討の上、相談先の弁護士がそれに応えるだけの十分な知見を有するかも見極めて、依頼先を選定いただくのが賢明でないかと思います。

その意味では、最近は事故直後からご依頼を希望されるケースも増えてきてはいるのですが、損保の提示がなされた時点で、複数の弁護士に損害の見積と説明を求めた上で依頼先を決めるというのも賢明な対応ではないかと考えています。

交通事故は、重篤後遺障害の事案でなくとも、被害者にとっては「鉄の塊に激しく衝突され、あと少し違っていれば、もっと深刻な被害があり得た」という強い被害者意識(トラウマ)を持ちやすく、加害者や損保会社に対して、強い不満感を抱いたり、相手方に邪悪な加害的意図があるかのように感じてしまう例も時にみられます。

そのように「強い不信感を抱かざるを得ないので加害者側と接点を持つことが気持ちの問題として苦しい」という方が、事故後間もない段階からご依頼を希望するというケースが多いように感じています。

この点は、相手に迎合する必要はないにせよ、相手の「立場」を見極めた方が賢明な場合があります。加害者本人は「高い保険料を払って任意保険を契約しているのだから、こうしたときこそ保険会社にきちんと対応して欲しい」と思うことが多いでしょうし、加害者の損保側も「少しでも賠償金を減額させ、そのことで自社の収益もさることながら加入者全体の保険料を抑制させたい」という立場的な事情に基づいて交渉しているのでしょうから、「先方は先方なりの立場がある」と割り切った上で、感情的にならず先方の対応に誤りがあれば淡々と正すような姿勢を大事にしていただければと思っています。

一般論として、弁護士が代理人として前面に登場した時点で、相手方が身構える(一種の戦闘モードになり警戒レベルが格段に上がる)面はありますし、ご本人が強く申し入れることで、時に法律上はあり得ない有利な条件が示されることもあるように感じますので、ある程度の段階までは弁護士が相談等の形で後方支援し、「ご本人が相対しているからこそ得られる譲歩や情報」が概ね得られた時点で代理人が登場するというのも時には賢明なやり方ではないかと感じることもあります。

結局は、当事者(被害者・加害者・損保担当者)の個性や被害の状況などに応じて異なってくるはずで、一義的な正解がないことが多いでしょうから、今後も悩みながらご相談やご依頼に誠実に相対していきたいと思っています。

余談ながら、先日、あるベテランの先生とお話をしていた際、「昔、交通事故の記事が出ると、記事に表示されていた住所をもとに手紙を送って自分への依頼を働きかけていた弁護士がいた。今も登録しているが老齢のため現在もそのようなことをしているかは分からない」とのお話を伺いました。

私の認識では、事故で被害を受けた方に弁護士がダイレクトメールを送付して勧誘するのは、いわゆる「アンビュランスチェイサー」として昔から弁護士倫理(弁護士職務基本規程)で禁止されている(規程10条、日弁連解説書21頁)と考えていますが、その「年配の弁護士の方」がそうしたことを本当に行っていたのか、行っていたとして、弁護士会などは知っていたのか(黙認していたのか)等、あれこれ考えてしまうところはあります。

詰まるところ、弁護士が少なく司法サービスが県民に行き届いていなかった時代では、そうしたことも黙認されていたのかもしれませんが、現時点ではアウトとして懲戒などの対象になる可能性が高いとは思います。

「岩手日報に重大な被害記事が出た途端に、県内どころか全国の弁護士達からDMが殺到する」などという類の事態は論外というべきですが、被害者の方が適切な形で弁護士のサービスにアクセスでき合理的な選択権も行使できるような実務慣行・文化も形成されるべきことは申すまでもありません。

現在ネットで氾濫する在京弁護士や実体も明らかでない団体等の宣伝サイトの類ではなく、法教育的なことも含め、より良質な「リーガルサービスに関する情報提供のあり方」について関係者の尽力を期待したいものです。

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~完結編

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第6回です。第5回の文章が長くなりすぎたので2つに分けましたが、今回は「あとがき」のような内容です。

10 現代を生きる法律実務家、そして利用者の夢と革命

ここまで述べてきたことについて、最も難点として感じる点を申せば、一連の話は、カネを中心とした事柄なので、人々(特に、若手弁護士を中心に今後、相当数発生し固定化するであろう低所得者層)を熱狂させるような夢がないように感じます。

やはり、社会が大きく変化したり、その変化をもたらすために我が身を捨てて死力を尽くす人が次々に登場するためには、金銭的・実利的な話だけではダメで、現状に不満を持つ人のツボに訴えかけると共に、その不満を正義の旗のもとに一挙に解消してくれるかのような話(大義名分)が伴わないと、人は動かないのだと思います。

この点は、以前にも少し書きましたが、幕末(維新回天)との比較で言えば、尊皇攘夷・倒幕思想のような「夢」(体制変革を正当化する物語)が欲しいということに尽きるでしょう。
→ 司法革命の前夜?

仮に、今回の話を幕末になぞらると、弁護士費用保険の普及・進化によって損保大手が法的サービス業界で強い存在感、影響力を持つようになれば、いわば、雄藩(薩長)として、経済面で「志士」(司法サービスのあり方の変革に取り組む弁護士)を支える役割を持ちうることになります。

他方で、カネだけで体制が動くはずもなく、体制自体を揺るがす事態(異国の脅威)はもちろん、志士に魂を吹き込む吉田松陰のような人物ないし思想が登場しないと、革命(体制転覆)が生じることはありません。

この点、弁護士大増員政策により、二割司法から八割司法の社会へと転換する可能性が高まっていますが、そのような転換を前提に、弁護士業界ないし司法制度のあり方に抜本的な変革を起こす原動力となる「思想」が何であるか、言い換えれば、日弁連(既存の弁護士制度)が実現できていない・できそうにない「八割司法を支える、現代の法律実務家の夢」とは、どのようなものであるのか、私もまだ分かりません。

ただ、「需給双方が満足できる低コストで適切なリーガルサービスを全国に普及させること」を、現代の法律家が実現すべき「夢」と捉えるのであれば、保険がその有力な手段になることは間違いないはずです。

そして、そのような普及云々の仕組みができる上では、どちらかと言えば、日弁連よりも保険業界側(及びそれと提携して上記のスキームを作り上げることができる弁護士)の方に、より大きな役割・存在感を発揮しうる潜在的な可能性が高いように思われます。

さらに言えば、そのこと(多くの紛争や社会的問題が司法システムを介して法的理念に基づき解決されること、解決されるべきとの国民的認識や主体的な実践が広く生じること)を通じて、本当の意味では今も我が国に実現しているとは言い難い、「日本国憲法の基本的な価値観を体現した、人権(個人の尊厳)と民主政治(人民の社会に対する意思決定の権限と責任)が調和する社会」を創出できるのであれば、それは、多くの人を惹きつける「夢」と言えるのかもしれません。

或いは、「政治家・元榮太一郎氏」は、次のステップとして、そのような潮流を主導することに野心ないし理想を抱いているのかもしれません(少なくとも、そのような方向に野心ないし理想を向けている「名のある弁護士」を、私は他に存じません。敢えて言えば、増員派の巨頭というべき久保利英明先生らも、法科大学院の粗製濫造ではなく、弁護士費用保険の推進にこそ力を注いでいただければ良かったのではと残念に感じます)。

また、上記のような流れが出来てきた場合に、現在のような「一人事務所=零細事業主が中心の弁護士業界」が存続できるのか、私のように昔ながらのスタイル(零細事業主)で仕事をしている身にとっては、不安を感じずにはいられません。

ただ、「弁護士の自治・自由」という制度ないし文化を個々の担い手が死守しようとするのであれば、零細事業主というスタイルが一番合っているとも言えるわけで、その限りでは、企業弁護士中心の弁護士業界という流れは考えにくいと思います。その意味で、「独立性の高い自立した専門職企業人について、かつてない新たな生き方が芽生えている業界」があれば、参考になるのかもしれません。

また、弁護士費用保険の普及に先だって、医療保険制度の運用に関し、医療従事者と保険制度の運営者(国家機関など)との力関係や依存度等の実情がどのようになっているか、弁護士業界は、改めて調べるべきではないかとも思われます。

生命保険については、ここ数年、ライフネット生命(ネット生保)のように業界の革新を感じさせる話題もありましたが、損保業界では、そうした話を聞くことがあまりないように思います。保険制度を通じて弁護士業界を手中に収めてやろうなどという野心、或いは、業界内部で実現できていない「需給双方が満足できる低コストで適切なリーガルサービスを保険の力で全国に普及させたい」という高い理想をもって取り組む事業家が出現しても良いのではと、他人事ながら?思わないでもありません。

それこそ、ハードボイルド小説家弁護士こと法坂一広先生に、上記の事柄もネタにした業界近未来小説でも作っていただければ、サイボーグ・フランキーとセニョールも喜ぶことでしょう。

ともあれ、私のような、事務所の運転資金に汲々とする毎日のしがない田舎の町弁が、このような大きな話に関わることはあり得ないのでしょうから、さしあたっては、弁護士費用保険の制度維持の観点も含めて真っ当な業務に努めると共に、お世話になっている損保企業さんから取引停止される憂き目に遭わないよう、適正な仕事を誠心誠意、続けていきたいと思っています。

大変な長文になりましたが、最後までご覧いただいた方に御礼申し上げます。

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編③

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第5回です。全5回の予定でしたが、今回の文章(いわば本題部分)が長くなりすぎたので、あと1回(明日)で完結とさせていただきます。

9 損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日

ここまで、弁護士費用保険が普及すれば、顧客への品質保証などの観点から保険会社と町弁側を繋ぐ役割を担う企業が、業界内で大きな機能を果たし、影響力を増していくのではないか、それに伴って、弁護士業界も大きく変容していくのではないか、という趣旨のことを述べてきました。

自動車保険契約に関して弁護士費用特約が広く普及し、恐らく、特約を利用しない方が少数派と言ってよい状況になってきた現在、損保会社としては、単に、弁護士費用保険を事業(収支)として成り立たせるというだけでなく、この保険(を通じて弁護士が広く利用される現象が生じること)が、社会にどのような影響を及ぼしうるか、そして、そのことに、保険会社がどのような役割(アドバンテージ)を果たしうるかということを、研究しているのではないかと思います。

そもそも、弁護士費用保険が一般化することで、保険商品を開発、提供する企業(保険会社)は、契約者(依頼者)との関係では、法的サービスを供給する窓口としての役割を果たし、受任者(保険の利用に基づき保険会社から受任費用の支払を受ける弁護士)との関係では、仕事の実質的な供給者としての役割を果たすことになります。これが進化ないし深化していけば、保険会社は、法的サービスの需要と供給の双方をコントロールできる立場、いわば、サービスの上流と下流の人とカネの流れを制する立場になりうると評しても過言ではありません。

その点で、損保大手の本社担当者などは、弁護士費用保険の適用事案を大量に収集して分析したり、顧問弁護士や学者などとの共同研究を通じて、弁護士費用保険の普及により社会内に生じる影響や、そのことを見越した次の一手について、既に研究を始めているのではないかと推測せずにはいられません(私が社長であれば、そうした研究の指令を出したいところです)。

とりわけ、損保大手各社は、自動車事故の賠償問題を通じて、自社(加害者)側代理人の全国規模の広範なネットワークを有することはもちろん、相手方(被害者側代理人)についても、その気になれば十分な規模のデータを収集することができる立場にあり(恐らく、現在のプリベント社は言うに及ばず、生保各社も、そのようなインフラは持っていないと思います)、それを生かした形での弁護士費用保険の戦略的活用という発想を持つことは、至極自然なことのように思えます。

また、町弁の立場からすれば、報酬水準が抑えられている(また、各種書面の提出や審査などの使い勝手の悪さもある)法テラスより、(そのような制約が少ないとの前提で)弁護士費用保険が普及する方を期待するのではないかと思います。

もちろん、だからといって、弁護士も保険会社(損保業界)も、互いに依存、干渉の関係が深まるのを避けようとするとは思いますが、「弁護士費用保険が、町弁にとっての主要な受任ルート」という文化が形成された場合、保険会社(損保各社)と町弁(業界)の関係は、いわば「財務省と各省庁」とでも言うべき状態になりますので、顧客やカネの供給を通じて弁護士側に対し様々なコントロールを行うことができる立場になることは、確かなのだろうと思います。

そのような意味で、保険会社が町弁に対する仕事・カネなどの供給に関する基幹部分を担うことになった場合、日弁連そのものということはないせよ、それまで弁護士会が担っていた役割の一部(仕事等の供給機能、ひいては、その適正の確保のための監督機能なども?)を実質的に担うことになるとの展開は、十分にありうることと言わなければならないと思います。

また、保険業界にはそのような役割は無理又は不適切ということで、上記のように、弁護士の品質確保機能を担う別のアクターが登場したり、或いは、保険業界の上から行政が監督機能の出番を虎視眈々と、ということも、十分ありうることでしょう。

いずれにせよ、弁護士費用保険の広範な普及は、弁護士にとっての「カネ」のコントロールを保険会社(保険制度の設営者)が広く担うことになり、必然的に、個々の弁護士が、誰の顔を(どちらの方を)向いて仕事をするのかという点に大きな影響を生じさせることは、否定し難いと思います。

このような展開(可能性)を見据えると、単なる費用填補に止まらない内容(品質保証=斡旋等の機能)を備えた弁護士費用保険(保険商品)の販売を保険会社の側から大々的に行うというのは、弁護士会(業界側)から無用の不信、警戒心を招きますので、行うとすれば、一定数の規模を備えた事務所ないし弁護士グループが損保と提携するという流れをとるのかもしれません。少なくとも、そのような形を取るのであれば、日弁連等の側から阻止するのは困難と思われます(さらに言えば、ただでさえまとまり(統制力)のない業界だけに、「抜け駆け」が生じることで雪崩を打ってという展開も期待できるでしょう)。

この場合、現実的には、すでに損保各社と長年に亘り顧問等の関係を築き上げている全国各地の法律事務所(大物、中堅弁護士さん達)が提携先となるのでは(その形なら、既に相当に出来ているのでは)とも思います。

ただ、この形だと、各法律事務所間には横の繋がりはあまり(又はほとんど)ないと思いますし、それ以上に、その事務所同士が損保側の主導で経営統合などをするというのはまず考えにくいと思います(小規模な合併等ならありそうですが)。また、それらの事務所(先生方)は、業界環境の激変を好まない方のほうが圧倒的でしょうし、利用者サイドから見ても、「顧客が、地域内(時に地域外)の弁護士から自分が頼みたい人を広く選ぶことができるようにする」という弁護士費用保険(弁護士依頼保険)の理想型にはほど遠い展開になるため、面白みを欠くというか、それがゴールではないのではという感じがします。

この点に関し、いわゆる過払大手と呼ばれる事務所が、現在、交通事故業務にシフトしているものの、費用請求の適正を巡って損保会社と多くの紛争が生じているとの話を聞くことがありますが、場合によっては、このような紛争を経て、むしろ、過払大手が損保側の意向に沿う形で損保との結びつきを強めようとする展開もありうるのではと思います。

例えば、過払大手が経営難に陥ることがあれば、創業者を排除するなどして、損保会社や銀行等の主導で、損保側のコントロールが利き易い弁護士ないし法律事務所による救済・吸収合併のような措置を講じることも、あり得るかも知れません(それは、あたかも一代で巨大企業を築き上げた創業者が退場し、メインバンクが再生コンサルなどと組んで経営権を取得するような展開に似ています)。

もちろん、前回までに詳述したように、個々の法律事務所よりも、弁護士ドットコムのような、「弁護士の斡旋事業を営む(営みたい)企業」こそ、現在の弁護士費用保険に欠けている「品質保証機能」、さらには将来には価格コントロール(相場形成)機能なども含めて担う存在として、保険会社との結びつきを強めたがっているのではと感じます。

そして、損保会社としても、それなりに一世を風靡し社会的信用が認められている弁護士ドットコムであれば、提携相手として遜色ないと判断するのではないかと思いますし(経営者の方が国会議員となった場合の影響などは、私には分かりかねますが)、そうしたニーズを見越して、相当数の事業者の参入など新たな展開がありうるのではないかと思います。

(以下、次号)

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~本題編①

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第3回です。

弁護士費用保険が普及すれば、弁護士業界が大きく変容していくのではないか(弁護士側も、それを必要とせざるを得ないのではないか)という趣旨のことを述べた投稿の3回目(ここからが本題部分)です。

4 弁護士費用保険の普及と「弁護士の品質確保と選別・監督機能」

ところで、現在の弁護士費用保険(前回に述べたとおり、私はプリベント社の保険の実情を存じませんので、損保各社が展開している自動車保険の特約を前提に述べます)は、基本的には、契約者(利用者)自身が依頼する弁護士の費用を保険契約の範囲で補填するという定めをしているに止まり、弁護士の斡旋等を当然に含んでいるわけではありません。

もちろん、多くの損保社では、それぞれの地域に、顧問ないし特約店である弁護士(加害者側でその損保社の保険給付の必要が生じた場合に、損保社が加害者代理人として対応を依頼する弁護士)を抱えていますので、契約者ご本人のご希望があれば(或いは、保険商品の販売代理店から相談があれば)、その弁護士を被害者代理人として紹介するという例が多いのではないかと思います。かくいう私も、仕事でお世話になっている損保会社さんがあります。

ただ、利用者の立場で「弁護士のサービスを受ける保険」を突き詰めれば、それ(費用補填)だけで十分というのではなく様々なニースがあることは、優に想像できることです。

なんと言っても、利用者としては、弁護士の費用負担を免れれば(保険が払ってくれるのなら)それでよいというものではなく、依頼する弁護士が、利用者(依頼者)の依頼の趣旨に合致する仕事を適切に行ってくれること=そのような弁護士を斡旋すること(品質保証)も含めて、その保険商品に機能して欲しいと希望していると思います。

もちろん、10年ないし数年前までは「依頼する弁護士の質」というのが問題とされることは、町弁業界では滅多に無かったと思います。弁護士費用保険の有無などもさることながら、弁護士の絶対数や情報流通などの問題から、顕在化しなかったという面があるのではと思われます。

これに対し、現在では、町弁の絶対数の増加に伴い、供給者側の問題(研鑽の度合いなどに関する一定のばらつき)はもちろん、利用者側も弁護士を選択、選別できる権利ないし利益があるという意識が高まっていることは確かだと思います。また、レアケースとはいえ、近時は不祥事などで突然死(事業停止)する弁護士も出現していますので、そうした理由で、依頼先の弁護士(法律事務所)の健全性に対する関心も生じていると思います。

言い換えれば、現在の弁護士費用保険制度は、「弁護士を原則として無料(保険料のみ)で利用できる」という低コスト利用の要請については概ね満たしていると思われますが、品質保証(保険を利用して依頼する弁護士が、対象となる業務を、実務水準や顧客の資質・個性などに照らし適正に遂行できること、ひいては、そのような弁護士を紹介・斡旋すること)という面では、十分に機能しているとは言えないと思います。

まして、保険を利用して依頼する個々の弁護士の業務に対する監視・監督や、上記の業務停止等によるトラブルの防止策(経営状況の監視・監督)や被害補填などという点では、およそ機能していないと言ってもよいのではないでしょうか。この点は、加害者側であれば、保険会社が自ら賠償金の支払をする関係で、方針の策定段階から全面的に保険会社が主導し、誤解を恐れずに言えば、弁護士は「損保の意向を忖度して行動する手足」として仕事をするに過ぎない(その意味で、依頼者から弁護士への業務監督機能が貫徹されている)ことや、継続的な委嘱等を通じて、委嘱先の弁護士への情報収集などが行われている(のでしょう)ことと、大きく異なっていると言えます。

また、利用者サイドの事情だけでなく、供給者(弁護士)側の状況も、かつてとは大きく異なっています。端的に言えば、事務所(弁護士としての自分)の存続のため、弁護士費用保険を利用した事件の受任を必要とする弁護士が、かつてなく増えていることは確かだと思います。

その上、町弁の仕事・研鑽は大半がOJTという性格が強いことから、町弁の多くが、弁護士費用保険を通じた事件受任に依存する面が強まれば、そのことは、研鑽等の機会も保険に依存する面が強くなるということになりますし、何らかの形で損保会社から業務上ひいては経営上の監視・監督を求められることも受け入れていかざるを得なくなるのではと思います(この点は、法テラスも同様ですが)。

要するに、弁護士費用保険の課題ないし未来像として、低コスト利用機能のほか、品質保証などの機能も果たすことが期待・要請され、これを果たそうとすれば、利用者サイドのニーズに応える形で、保険会社が町弁の業務への関与・干渉を深める方向に舵を切っていくことが予測されるということです。

5 弁護士の格付けや依頼者のニーズに即した斡旋を行う企業

ただ、弁護士費用保険を販売する損保各社が、近いうちにそうした機能を果たすことができるかと言われれば、少なくとも現時点ではそのような能力も意欲もない(今のところは、最近話題の不正・過大請求を抑止し、トータルで黒字事業を営むことができれば十分と考えている)と感じます。

一般論としても、損保各社が弁護士の各種能力や経営その他に関する詳細なデータを集めて、それをもとに保険契約者に弁護士を斡旋等するというのも、現実的ではないと思われます(ただ、保険利用にあたり会社の同意を求めるという約款を用いて、各社の地域拠点ごとに存在する顧問などの弁護士に事実上、集約させていくという手法を採用する会社は生じてくるかもしれません。その社は日弁連LACには加入しないのでしょうし、それがその損保会社にとって賢明な選択と言えるのかどうかまでは分かりませんが)。

そこで、保険会社に代わって、弁護士の各種能力に関する情報を収集、集積し、利用者のニーズ(簡易案件か困難案件かなどの判断も含む)や個性などに応じて、そのニーズに適合するような弁護士を抽出して紹介・マッチングするような、一種の「弁護士の格付け・斡旋企業」が求められてくるのではないかと考えます。

また、その企業が、不正・過大請求をするような弁護士を排除して良質な業務を低コストで提供する弁護士を中心に紹介等するのであれば、利用者サイドだけでなく、保険会社側にも必要・有益な存在として歓迎されるでしょうし(約款の定め方などにも影響しそうです)、そのような斡旋等のサービスが弁護士費用保険の対象外の事案でも利用できるのであれば、その役割(町弁業界におけるプレゼンス)は、著しく向上するのだろうと思います。

もちろん、そのような「格付け・斡旋企業」なるものが、一朝一夕にできるわけもなく、現時点では夢想の域を出ないかもしれませんが(法規制の問題もありますし)、仮に、我が国で、そのようなサービスが本格的に生じうるとすれば、現在のところ、元榮太一郎氏が率いる「弁護士ドットコム」が、その最右翼と言えるのではないかと思います。

(以下、次号)

損保会社と弁護士ドットコムが「新・日弁連」になる日~前置編②

「弁護士費用保険が変える弁護士業界の近未来」に関する投稿の第2回です。今回も、前置き部分(業界の現状説明)なので、業界関係者は読み飛ばしていただいてよいと思います。

2 前置き②弁護士報酬を低額化することの困難さ

弁護士の年間供給数を巡って何年も議論が繰り返されていますが、「弁護士が増えても需要が増えない」と増員反対派の方が主張する根拠として一番強調しているのは、弁護士への委任費用が高額であり、それを負担できる方は限られているから、多少の紛争や相談ごとはあっても、弁護士に依頼しない形で処理・解決を図らざるを得ない方が多く(断念を含め)、社会(国民)の弁護士の利用頻度は、限られたものとならざるを得ない(「二割司法」は克服すべきだとしても、五割以上まで司法が社会生活上のプレゼンスを持つのは費用面で無理)という点ではないかと思います。

また、所得や資産が大きくない方は、法テラスの立替制度を利用でき、かつ、法テラスの報酬基準は弁護士会の報酬会規等よりも低いことが多いのですが、それでも少額とは言えない額ですし、毎月の返済が原則ですので、利用者自身の負担が小さいわけではありません。

他方、受任者側にとっては、多くの手間と労力を要する事案であれば、それに見合う費用なのかという問題に直面せざるを得ず、結局、法テラス案件は、低コスト経営ができている弁護士や、事務局に事務処理の多くを任せることができる事件(事案が単純で定型処理が可能なもの)、或いは低賃金で優秀な職員を擁する事務所などでない限り、他に収入源がないと、持続可能性に不安を感じる部分があることは確かです。

刑事に限らず(刑事以上に)多くの民事手続が「精密司法」(大雑把に言えば、ロクに勉強せずイージーな仕事をしていると、裁判所に色々と難癖を付けられて裁判手続を進めて貰えなかったり、相手方の争い方などにより論点が次々に増えて事務作業が嵩んでいく)という面があります。

もちろん、さほど手間を要しない仕事も無いわけではありませんが(典型は、争いのない競売手続などの特別代理人)、そうしたものは、遥か昔から低コスト(低報酬)化されています。

また、特需期の個人の債務整理のように、ある程度は定型化が可能な業務が一度に大量受注できる事態になれば、事務局を習熟させることで多くの業務を任せることができ、その結果、低コスト化を実現できます。

ただ、債務整理も「よく聞いてみると、意外な問題が潜んでいた」というケースも相応にありますので、それに適切に対応するのであれば(それが弁護士として当たり前ですが)、一人の弁護士が何人も事務員を採用し丸投げするなどということはあり得ず、価格破壊といっても限度があります(尤も、東京などではそうしたモンダイ弁護士も存在し(今も?)、仕事を丸投げして安易に高額報酬を貪っていたなどと言われています)。

ともあれ、上記の理由から、弁護士業務の多くが「短期決戦(お手軽勝利)が難しいオーダーメイド戦争(に従事する傭兵)」という性格を持たざるを得ないため、多大な手間を要する受任業務が中心となる現在の司法制度では、弁護士の受任費用を低額化させるには、かなりの困難が伴います。

3 弁護士費用保険による上記の諸問題の解決

このような事情から、現在、普及している交通事故(自動車保険の特約)に限らず、社会・家庭生活や企業活動の多くの場面・紛争で適用されるような弁護士費用保険が普及すれば、医療保険と同様、高額な費用を薄く広く負担いただくことで、利用者自身の負担軽減による受任者が了解可能な報酬額での利用促進(Win-Win)が可能になります。

これにより、激増した「零細事務所を経営(又は勤務)する町弁」達に「食える仕事」を供給できることはもちろん、利用者にとっても、費用負担からの解放はもちろん、依頼する弁護士に、赤字仕事を嫌々というのではなく、ペイする仕事をやり甲斐を持って引き受けて貰うことが可能になり、良質なリーガルサービスの享受という意味でも、メリットが生じることになります。

少なくとも、現在の交通事故実務では、少額事案(物損のみの過失割合紛争が典型)を、「(大企業向けの先生方には笑われる額かもしれませんが)町弁としてはペイする単価」のタイムチャージ形式で受任することが通例ないし普及しており、私自身を含め、多くの弁護士が、かつてのように「大赤字となる少額の報酬でため息をつきながら仕事をする」ということは、ほとんど無くなっているのではないかと思います(その一方で、高額事案の受任件数も「パイの奪い合い」的な形で減っているわけですが)。

反面、損保会社によれば、現在の弁護士費用保険を巡っては一部に不正請求の疑いがある例がある(大規模な事務所ぐるみで行う例もある?)とのことで、後述のとおり、解決策の構築が待たれると共に、業界のあり方に激変を加える要因になるのではと思っています。

ですので、現在のところあまり大きな声を聞くことがないのですが、弁護士費用保険の発展・普及を一番望んでいるのは、ベテランであれ新人であれ、こうした伝統的な町弁スタイルをとっている弁護士達ではないかと思いますし、そのことは、診療所をはじめ一般の医療機関(お医者さん達)が現在の医療保険制度を支持し、医師会の政治力?(もちろん国民の支持を含め)でこれを維持していることとパラレルではないかと思います。

なお、現在の自動車保険に関する弁護士費用特約は、非常に大雑把な作りになっており、また、利用者の自己負担がないなど、医療保険とは立て付けが大きくことなり、その弊害も様々な形で噴出しており、早晩、一定の変容を余儀なくされると思います。

この点=現在の交通事故の弁護士費用特約を巡る諸論点と改善策も、書きたいことは山ほどありますが、今回は省略します。少なくとも、事案の性質に応じ一定の自己負担が必要となる設計の保険でなければ普及しないでしょうし、その場合には、保険給付の程度(勝訴の見込みの程度など)を審査する能力を有する第三者(弁護士等)が必要になるのではと考えています。

また、数年前に、丸山議員(弁護士)が広告塔をなさっていることで有名な「交通事故以外にも広く適用される弁護士費用保険」が、プリベント社という会社さんから発売されています。

私はこの保険の契約者の方から事件受任をした経験がないので、詳細(保険商品として適切に設計されているかなど)を存じないのですが、少なくとも、交通事故以外の紛争(特に、事故被害をはじめ、自身の努力のみでは防ぎにくい被害の賠償問題など)の代理人費用を給付する保険については、同社に限らず、速やかに同種の保険を普及させていただければと思っています。

(以下、次号)

刑事弁護とタイムチャージ

近年、私選で刑事事件を受任させていただく機会が増えています。被疑者国選の導入により、そのような機会が減少するかとも思ったのですが、被疑者国選を利用できない50万円以上の預貯金のある方や、ご本人が対象となる場合でも、ご家族からご依頼いただき受任しています。

私は、数年前から、私選の刑事事件は、原則として1時間2万円(税別)を基準額とするタイムチャージを基本とする方式(準時間報酬制)で受任する取扱とさせていただいています。ちなみに、この単価は交通事故の弁護士費用保険(日弁連LACの少額事件基準)と同じ額で、一般的な町弁にとっては、「儲からないが事務所の経費くらいは賄える程度の額」です。

米国などと異なり我が国の町弁業界ではタイムチャージは普及していないため、恐らく地方では非常に珍しく、タイムチャージで刑事事件を扱う弁護士は、もしかすると岩手では唯一なのかもしれません。

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過去の経験からすれば、とりわけ、捜査段階で決着できる(起訴されずに済む)事件では、濃密な対応が必要とされる特殊事例を別とすれば、10~30万円(5~15時間の従事)の範囲で収まることがほとんどです。頻繁に接見したり関係各所への連絡など様々な対応が要求される事件を別とすれば、国選事件と大差ない金額に止まることも珍しくありません。

実際、被疑者国選も、1回の接見に対し、1~2万円程度の報酬を算定しているようです。但し、遠方の警察署への移動時間や関係者への連絡、裁判所や検察庁への申立、申入れなど接見以外の作業については原則として報酬がありませんので、その種の作業が多い事件では、赤字リスクが高くなります。

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刑事事件は、民事訴訟で賠償や金銭等の請求をするような「特定の経済的利益の実現」を目的とするものではなく、犯罪の成否(有罪か無罪か)を巡って厳しく対立するタイプの事件も滅多にありませんので、成功報酬というものに馴染みにくい面があります。

また、刑事事件では、事件ごとで必要な作業のばらつきも大きく、「働いた分だけ報酬をいただく」というのに馴染みやすい面があると思っています。

少なくとも、弁護士が大したことをしなくとも、検察庁の取扱基準の問題として公判請求を免れる場合は珍しくありません。そのような場合に、実務の実情に詳しくない依頼主に、あたかも自分の功であるかのように吹聴して高額な成功報酬なるものを請求する弁護士がいれば、それは詐欺とか消費者被害とか言うべきものだと思います。

もちろん、弁護人の努力で一定の成果が生じた場合には、成果報酬的要素が加味されてよいとは思いますし、高度な知見を必要とする特殊な弁護活動をして相応の成果を挙げたり、献身的な努力で早期釈放を実現するなどした場合には、相当の加算がなされるべきと思います。ただ、その場合でも、時間給換算で極端な高給になるのは疑問ですが。

聞くところでは、米国では、刑事弁護(私選)はタイムチャージとするのが通例であり、また、(上記のような成功報酬に馴染む事件を別とすれば)弁護人が成功報酬の名目で高額な金員を請求するのは間違っているという考えが強いのだそうです。

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幾つかの事務所(とりわけ「刑事専門」を謳うものなど)のサイトでは、1件あたり一律に数十万円の報酬を掲げるものが少なくありません。

もちろん、無罪を獲得するため膨大な弁護活動に明け暮れるような事件では、そのような金額で問題ない(やむを得ない)と思います。タイムチャージでも、まさにそのようなタイプの事件では、原則として、相当に高額な報酬をご負担いただく点は変わりありません。

しかし、「事実を争っておらず、大がかりな被害弁償等も要せず、接見やご家族等との連絡調整の頻度も高くないため、全部で10時間に満たない仕事しかしない」程度の事件でも、何十万円もの報酬を当事者に負担させているのであれば、同業者の目で見ても暴利と感じます。

上記のようなケースでも、何か問題が生じたときにきちんと動いて貰えるよう、念のため私選弁護人を選任しておきたいとの申出を受けることはあり、その場合、危惧された事態が生じず限られた従事時間で終了した場合には、それに相応しい低額の報酬に止めるべきだと思います。

タイムチャージでなく、弁護士の裁量で決めている方々も、その点はわきまえを持って対応されているのではないかと思いますが、少なくとも時間簿を作成しておけば、算定に変に頭を悩ませることもなく、依頼主にも安心して説明できる面があると思います。

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もちろん、刑事事件に限らず、「依頼主のご予算に限りがあるものの、事件の性質上、正しい解決を得るため無理をしてでも弁護士が奮起して励まなければならないケース」は多々あります。

そのような場合には、(一部の弁護士或いは事案等を別とすれば)弁護士が、上限を超えた部分の請求は差し控えるという形で、経済的には泣きを見ざるを得ないことが珍しくなく、その点は、タイムチャージ形式でも代わりありません。

だからこそ、短時間で相当な経済的成果など適正な利益を依頼主にもたらした場合には、少なくともタイムチャージ単価を控え目な額に設定しているのであれば、相応の成果加算がされるべきだと思いますし、それは、結局は、依頼主との信頼関係を前提とした弁護士の裁量判断を尊重していただかざるを得ない面があります。

結局、タイムチャージ(を基本とする準時間報酬制)という試みは、これまでドンブリ勘定で行っていた報酬算定に関する作業を、より合理的、客観的にしようとする様々な営みの一つという位置づけになるのだと思います。

少なくとも、「1回の手術と1週間の入院で済んだ人」と「半年以上の入院をして何度も難しい手術を受けた人」が、「手術を要した」というだけの理由で同一の金額を請求されるというのであれば、それは明らかに違和感があり、前者に過大な請求をして、後者の赤字を補填しようとしているのではという疑念を禁じ得ません。

弁護士業界における費用の算定は、これまでそのような傾向がなきにしもあらずで、弁護士費用を巡る価値観の違いなどの問題もあって、それを完全に克服することは困難だとは思います。

タイムチャージに限らず、費用に関する議論をもっとオープンにすることで、合理的な費用のあり方について、理解や実践が深まっていけばと思っています。